失われた都
ぼんやりと目を覚ます。窓からは光が差し込み、もう朝のようだった。
「いつも遅いが、今日は一段と遅かったな。」
「おはようステラ姉」
「おはよう。早く着替えろ。そろそろ朝食の時間が終わるぞ。」
「え、うそ!そんなに寝てたの!?」
そういいながら時計を見る。朝どころかもうそろそろお昼になりそうだった。
「先に行ってるぞ。」
「え、ちょ、待ってよ!」
大急ぎで着替え、走って途中の廊下で合流した。
「お、お待たせ。」
「……何かあったのか?」
「昨夜、テルスに会ったの。」
「なんだって?」
「それで、その……」
「待て、話は後でじっくりと聞かせてもらう。あいつがここに来たということは、他にも奴らがいて、聞いている可能性がある。」
「分かった。」
朝食は、魚の煮物やパイ等が出た。さすが雪国、スープ類が多い。どれも美味しくいただき、部屋に戻ってきた。
「美味しかった〜!今度またお兄ちゃん連れて来よっと。」
「そうか。それで?」
「あ、昨夜の事ね。えっと、目が覚めちゃって外を眺めていたら赤い目のフクロウがいたの。」
うちはその時のことを話した。ついでに、カウンターを担当していたおばあさんの話のことも話した。
「……なるほど。ってお前また他人と会話を……。」
「ご、ごめん。ここが元々王国だったってこと、ステラ姉は知ってた?」
「いや。知らない。そもそもほとんど行かない地域だったしな。」
「今すぐ行く?」
「正直悩ましいところではある。嘘で、待ち伏せされている可能性があるからな。それに、グランツはブレスも吐けないし。」
「うっ……。でも、この後どうするの?」
「いちいち恐れていても仕方ない、考えもあるしな。」
「え?なになに?」
「前に潜入した後どうするか、を話したのを覚えてるか?」
「えっと、変装の話しをした時の?」
「あぁ。その時に、グレイヴの魔法能力を一時的に君たちも使えるようにするというものだ。」
「あぁ!……それってどういうこと?」
「騎士団はプライドの高い者が多かったから、あまり流行らなかったんだが、自身の力を圧縮させて結晶化させることができるんだ。それを使えば、全くの他人でもその力を使えるようになる。使い切ると消滅する。」
「それで、力の持ち主は使えるの?」
「使える。ライダーの騎龍晶も似たような仕組みだろう。あまり解明はされてないが。」
「そうなのね。」
「グレイヴの魔法能力は姿を消せる。グランツに乗っていれば一緒に消えれる。回数は確か5回まで。時間は30分までだから……潜入に1回、捜索で2回、脱出で1回。万が一に備えて1回分は残しておけ。」
「もう1回作れたりはできないの?」
「できるにはできるが、バタバタしている時に作る暇などない。」
「分かったわ。さっそく行きましょ!」
「……あぁ。行こう。」
うちらは荷物を整え、旅館のスタッフさんにお礼を告げた。視線の端でアダムが見えたが、気にしないようにして旅館を出ると、ドラゴンが待っている場所に向かった。
「挨拶しなくてよかったのか?」
「え、あいつに?えー、他のスタッフさんと一緒にいなかったし。というか昨日のこと詮索されそうだから嫌だ。」
本音を言うと、単純に嫌いだから関わりたくないってだけだけど。
「理由は分からんが、ただ嫌いなだけなんじゃないか?」
バレてるし。
「だってあいつ、しょっちゅう突っかかってきて、煽ってくるんだもん。それに女たらしのクズ男よ。」
「……本音ではそんなこと思ってないだろ。あんたも私と同じ、心を読めるなら、彼がどんな人なのか分かるはずだ。分からないのなら、読もうとせず、ただ知ろうとしていないだけ。」
「いや……そんなこと……」
……たしかに、一度もアダムの心を読んだことがない気がする。いや、初めて会った時に1度だけ。それ以降は……多分、無いかも。
ステラ姉が突然立ち止まって振り返った。じっと背後を見ている。
「確認したらどうだ?ちょうどつけてきているみたいだし。」
「え、うそ。」
うちも後ろを振り返った。よく見たら木の後ろに僅かだが、人影が見えた。
「青年、私たちになにか用か?」
木から、アダムがしかめっ面をしながら顔だけを出した。
普通の人なら絶対に気づけたのに。無意識にアダムの気配は感じ取っていなかったのか。心だけでなく、ライダーなら分かるはずの微かな音や匂いも。そういえば昨日の夜中も後をつけられていたのに気づかなかった。
アダムは気まずそうに近寄ってきた。
「な、なによ、アダム。」
無言で、なにかオシャレな袋を渡してきた。
「なにこれ。」
「……昨日の、礼。ちゃんと、してなかったし。」
小声でブツブツと言っていたが、ライダーの耳には筒抜けだった。心は読めないけど、音とかは認識したら分かるのか。アダムだけそうなるの、なんか変なの。それともうちが変?嫌いすぎてるから?
「中身は?」
「ま、まんじゅう。」
「あぁ!旅館名物の!食べてみたいとは思ってたけど、なんだかんだ買う暇無かったわね……ありがとう。」
なんだ、前も思ったけど、意外と良い奴じゃん……試しに、読んでみる?なんか嫌な予感がするけど。
うちは、出会ったぶりにまっすぐ目を見て、感情を読んだ。
「じゃあ、またな。」
「……あー、えっと……。」
言い終わらないうちに、アダムは旅館に帰って行った。完全にいなくなると、呆気に取られた。
「……ねぇステラ姉、あいつの心、知ってた?」
「あぁ。お前、全然気にしてないみたいだったから、もしかしたら気づいてないんじゃないかと思ってな、だからあの話をした。」
別の意味で嫌な予感が的中した。あいつ、クソ重い恋愛感情持ってる……しかも、うちに。まじで?本気で?うちを?なんで?あんなに嫌いであることを表に出してたのに?
「なんか……すごく、寒気がしてきた……早く行こうステラ姉。」
「あ、あぁ。」
良いような……悪いような……悪い気はしないけど、次会った時あいつにどういう感情を向ければいいの?知らない方が良かった気がする。え、じゃあなんで村にいた時あんな態度だったの?いつからそんな感情持ったの?……なんか、アダムのことがますます分からなくなった。
「って、なにしてんの?」
ドラゴンたちと合流すると、グランツが白いフクロウに埋もれていた。
もふもふ……幸せ。
そろそろ出発するよ。
あともう少しだけ……。
すると、グレイヴが吼え声をあげた。フクロウたちが驚いて一斉に飛び立った。
あぁ!……行っちゃった。
「全部終わったら、また来ましょ。」
うん。
グランツに乗ると、山の方へと飛び立った。
山奥へ近づけば近づくほど吹雪が酷く、見えなくなってきた。本当に進んでいるのか分からない。
しばらく飛び続けると、巨大な黒い影が見えてきた。
「なにあれ。建物?」
「城……いや、都だ。」
「本当にあったのね。」
氷山の王国は完全に廃墟となっていた。建物は全て崩れ、もの寂しい雰囲気がただよう。
「なんだここは……ダヴィンレイズ王国よりも広いのか?」
「ねぇ、この崩れ方……ダヴィンレイズ王国と一緒じゃ……。」
「だろうな……黒魔術の痕跡がいくつもある。」
一旦陸に降り、城下町を散策した。ダヴィンレイズ王国のレンガや石造りのような建築様式ではなく、繊維のような不思議な模様がある鉄で組まれ、蒼い宝石が埋め込まれていた。
「こんなに綺麗で美しいのに、滅んだなんてもったいないね。」
「……。」
「ステラ姉?どうかしたの?」
ステラ姉がペンダントを取り出して眺めていた。そういえばステラ姉のペンダント、この建物とほとんど同じ模様が刻まれていた気がする。確か、鉄隕石……メテオライトだったかな?
「なんでもない。はぁ……慎重に行くぞ。」
「えぇ。」
きっと父親を思い出していたのだろう。
さっそく探索した。全ての建築物が鉄隕石製だった。こんな素材で寒さを凌げるのかな。雪国は木材ってイメージがあるんだけど。そもそも錆びてない……錆びないよう何かコーティングしているのか、それとも魔法がかけられているのか。
少し開けたところに出た。真ん中に美しい噴水があった。おそらく街の中心地。
「すごい、噴水から吹き出た水が凍ってる。」
しばらく歩くと、羊皮紙が落ちていた。読んでみると、知らない言語で書かれている。
「ステラ姉、これ読める?」
「ラフザ語だな。うーむ、かなり古いな……少し翻訳するから待ってろ。」
「わかった。」
待っている間、ステラ姉が見える範囲内で探索した。鉄隕石だけでなく、普通の鉄でできたものもあり、それには煙と共に現れる巨大なドラゴンに対峙する、たくさんのドラゴンに乗ったライダー達の絵が錆で描かれていた。
「アデラ。」
「ステラ姉、わかった?」
「掠れていて読めない部分もあるが、何か説明のようだ。」
「説明?なんて書いてあるの?」
「空に浮かぶ希望の星。あれを天龍…と呼ぶことにする。ダヴィンレイズ王国始まりの時代、…は、世界を……かけた。…は仲間と………を封印……あとは読めそうにない。」
「とりあえず、今考えても分かりそうも無いわね。」
「あぁ。ところで、もう本拠地に着くわけだが、教えた魔法はできるようになっているんだろうな?」
「え?あ、えっと……えへへ。」
ライダーの基礎魔法であるタンニズアイと他の属性魔法を教わっていたが、タンニズアイと炎魔法以外中々できるようにならず、半ば諦めていた。
「アデラ。今から残り全ての属性魔法を教える。」
「ほんと!?やったぁ!」
「以前話した通り、最初は呪文を唱えなければならない。炎はブレイジュラス、風はウィレイザー、岩はローグゴーン、電はブリランバルク。水、炎、風、岩の4属性は水晶を通してでも比較的割と出来る。だが、電は少し難しい。」
「そうなの?」
「あぁ。本来属性魔法は4つしか存在しない。電は作られた属性で、炎と風の複合属性なんだ。炎と風を同時に出すのを意識するんだ。それでも、多少性質が違うから難しい上に、使えたとしても、当てるのが難しいんだ。」
「やれやれ。練習はもう今のうちだぞ。」
「分かってるわ。」
練習を重ねながら、さらに奥地を進んだ。そしてついに、城の敷地内に入った。城下町以上に豪華な装飾や彫刻が顔を見せた。どの絵にも全て、星とドラゴンが描かれていた。結局できるようになった魔法は無かった。




