再び
確かここにいたはずなんだけど……もうどこかに行っちゃったのかな。
「……怖いけど、奥に行ってみよう。」
道が整備されてない森の奥へと入っていく。ライダーだからか、ある程度見える。それでも白い雪しか見えないが。耳をすませば、ホホーホホーと色んなフクロウの声が聞こえてくる。
開けた場所に来た。
「……いた。」
あの赤い目のフクロウがうちを待っていたかのようにじっとこちらを見ていた。不思議なのは、雪が降っているのに何故かそのフクロウが止まっている場所だけ月明かりが差し込んでいることだった。部屋で見た赤い目のフクロウは暗くて分からなかったが、青い羽が羽角や翼の先に入っていた。カイヤナイトのような淡い綺麗な青色だった。気づくと、周りにも沢山のフクロウが止まっていた。ここはフクロウの集会所のような場所なのだろうか?
うちは吸い込まれるようにして、恐る恐る赤い目のフクロウに近づいた。もう目の前まで来た時だった。
「おい。」
その声にビクッとして、サッと後ろを振り向く。
「……アダム!?あんた、なんでこんなところに。」
「それはこっちのセリフだ。残りの仕事をしていた時に、もう寝ているはずの客が外に飛び出してたら気になりもするだろ。」
「それは、悪かったわね。」
「それに、夜の森は迷いやすい。行方不明になられるとこっちが困るんだ。」
「別に来た道を戻ればいいでしょ。」
「これだから素人は……雪の世界舐めんな。」
こっちこそライダーの視力舐めんなっつーの。
「それに、ここじゃ雪だけでなく、フクロウも危険だ。」
「……どういうこと?フクロウが?」
アダムは言おうか迷うかのように目を泳がせると、一息ついて言った。
「赤い目のフクロウを見た人は、神隠しにあう。」
「はぁ?ただの迷子じゃないの?」
「ここじゃ昔から行方不明が相次いで起こっている。行方不明者は皆、いなくなる前に赤い目のフクロウを見たって。」
「……そんなこと、有り得るわけ……」
ハッとして赤い目のフクロウの方へ顔を向けた。そこには何もいなかった。集まっていたフクロウもいなかった。
「あんたは見たの?」
「いや?」
「え、でもうちに声をかける前に……いたでしょ?」
「何言ってんだ?お前一人しかいなかったぞ?」
……赤い目のフクロウを見ると神隠しにあう。いや、そんな非現実的なことある?何か魔法か何かがこの地域全体にかけられてるんじゃないの?
そう思いながら辺りを観察した。
「……なにこれ。」
黒い炭のようなものが木に付いている。軽く手に触れると、本当に炭みたいに手に付いた。これ……黒魔術?
「ねぇアダム、厭世部隊ってここには来ないのよね?」
「おん。ばあちゃんの言ってることが正しければな〜。」
もしかしてさっき集まってたフクロウって黒魔術で作られてる?もしそうなら行方不明者が出ても辻褄が合う。奴らがいるなら、攫えるもの。
「この黒いの、全部黒魔術よ。」
「いやんなことないだろ。あいつらってこんな堂々と証拠残すか?」
「わざと……の可能性もあるわ。」
もう少し辺りを散策して見る。すると、森の奥からキラッと光った。
「アダム!」
アダムの裾を引っ張って引き寄せた。アダムが立っていたところの後ろの木に武器が突き刺さった。刃の部分にはあのフクロウの羽と同じ、カイヤナイトのような淡い青色の武器だ。その武器に見覚えがある。前はちゃんと鉄だったけど。
「ほう?反応できるようになったか。」
聞き覚えのある声。真っ暗闇からあのフクロウの面をつけたテルスが現れた。刺さった武器がテルスの元へと戻っていく。うちは後ろに手をやり、弓を構える。
「アダム、あんた絶対にうちから離れないでよ。」
「に、逃げた方が……。」
「バカ?他に仲間がいたらあんたなんにもできないでしょ?」
「それはお前もだろ!それに、弓なんか接近されたら終わりだぞ!」
「あんたちょっと黙って!」
テルスはため息をつき、武器を構えた。
「話は終わりか?」
「テルス……よね。」
「いかにも。」
「ずっとあなたを探していたの。ジュンブレス王国に入る方法を教えて。」
「なぜ?」
「お兄ちゃんを助けたい。」
「くだらん。」
そう言うと突っ込んできた。咄嗟にアダムを突き飛ばして体を伏せた。頭上を刃が通り過ぎる。
あの時よりも遅い。目で追えるようになったのか、それともテルスは陸上だと遅いのか。それに、あの時と同じ殺意は一切感じない。
「ねぇ、なんで殺さないの?あんたにはうちなんか殺せるでしょ?」
「お、おい、何変なこと言ってんだよ。」
「あんたは黙って。」
「弱いやつに圧倒しても面白くない。もっと強くなれ。」
「甘く見てると痛い目見るよ!」
うちは即座に三本矢を上に放ち、テルスの攻撃を回避しながら近距離で矢を打ち続けたが、テルスもうちと同じくらいの速さで矢を回避する。最初に上に打った矢も当たらなかった。というか、戦いにくい。アダムに流れ弾が飛ばないように立ち回るの、かなりめんどい……気にしなくていいかな。いや、ダメダメ。何邪道なこと考えてんのようち。そもそもなんでこいつ殺す気が無いの?ちょくちょく手を抜いてきてる。うちが回避しきれない時は、一瞬だけ速度が遅くなってる。それにあの時だってそうよ。うちに死んだフリをさせて、村を襲おうとした部下を引き止めた。あと、アダムを一切狙おうとしないのも分からない。アダムは奴らの求める一定の年齢に達した男なはずよ。殺すまではいかなくとも、普通攫おうとするはずでしょ?何か目的があるの?
「王国の入り方を教えてよ!大事なお兄ちゃんなの!」
「ただの兄がか?ライダーでも無いのに?」
ライダーでも無い……ライダーなら助けるの?なら本当はライダーだって思わせれば動揺を誘えるか?なんとなく、テルスは勝てば教えてくれそうな雰囲気がある。
なにかライダーっぽいこと、ライダーっぽいこと……いや生物オタクなのと歴史オタクなことしか分からない!あと好きな食べ物は卵料理とか。
「うちのお兄ちゃん、すごいんだから!生き物のこととか歴史のことを話し出すと止まらないし……とっても、家族思いなの。」
「……それで?」
だと思った!でも、見定めるかのような感情の変化は気になる。もしかしてお兄ちゃんになにかあるの?
「お、お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……緑龍のライダーなんだから!」
テキトーにそう言うと、突然テルスの攻撃が一瞬だけ止まった……なんで?
うちはすぐにテルスの後ろに周り、すばやく矢を射た。テルスはすぐ反応して避けようとした。しかし、矢が顔にかすめて仮面の紐を切ると、そのまま矢が仮面に当たって落ちた。テルスは顔だけこちらに向けた。
「え……あんたって……。」
青みがかった白い髪に、紅い目。間違いなくこの地域出身だ。それに、アダムよりも白い髪と、血のように暗い赤い目をしていた。
「どういうことだよ?自分のふるさとを襲ってるのか?」
テルスは仮面を拾い、こちらに体を向けた。
「あんた、なんでさっき動きを止めたの?」
テルスは考え込むようにしてしばらく目を閉じると、深くため息をついて目を開けた。
「山奥。」
「え?」
「コンヘラシオン山城跡に教会がある。そこが入口だ。」
「えちょっとどういうこと?何で急に……」
言い終わらないうちにテルスは黒魔術と共に消えてしまった。
「なんなのよ。」
……ひとまず、これに関してはステラ姉に相談しよう。
「お前、いったいなんなんだ?」
「え?何が?」
「さっきからライダーって……それに、さっきの戦い、人では出せる動きじゃなかった。」
「うちって元からこんなでしょ?だってワイバーンを1人で仕留めたのよ?」
「……それ以上だった。」
本当にいつも通りの動きをしていただけなんだけどな。そんなに違った?いや、もしかしてライダー基準の動きになってるってこと?
「そ、そりゃお兄ちゃんを助けるために日々特訓を……」
「人の特訓で出せるもんか。それもたった数ヶ月で。アデラ、お前、何もんだ?あいつらの分身か何かなのか?それとも本当に、ライダーなのか?」
「急に信じるんだ、ライダーこと。あんなにバカにしてたのに。」
「そりゃあオレだって……小さい頃に本を読んだ時、憧れたし。」
「ふーん。」
今ライダーであることをバレるとまずい。もし残党がいれば最悪、この村に被害が及ぶ可能性がある。
「……うちは、うちよ。ちょっと弓が扱えるだけの、人よ。」
アダムは不信感を向けながら、スタスタと来た道を歩いていった。
「ちょっと、聞いといてなんなのよ!」
無視して行ってしまった。まじであいつのことがよく分からない。何をしたいのかも、何を考えてるのかも。でも、アダムの反応で分かったような気がする。ライダーは、厭世部隊にバレないように正体を明かさないだけでなく、一般人を怖がらせないためにも隠していたのでは?
お互い一言も発さずに旅館に戻ってきた。
「なぁ。」
「なに?」
「えっと、さっきは助けてくれてありがとうな。」
「え?あ、そう。別に、死なれるとめんどうってだけよ。それに、当たり前のことをしただけ。」
ったく、なんなのよ。
旅館に戻り、アダムと別れると、自室へ帰ってきた。ステラ姉はまだ寝ていた。うちも眠りについた。




