フクロウの瞳
「ねぇ!」
「おやおや?お嬢さん、どうしたんだい?」
「ここに伝わるフクロウ伝説って一体何なの?どうしてフクロウが魔法を?」
「フクロウはねぇ、知識の神とされていてね、魔法そのものを生み出したのはフクロウであると考えられているの。ここはダヴィンレイズ王国よりも古い地域なのよ。」
「ダヴィンレイズ王国を知ってるの?皆は廃城って言ってるのに。」
「もちろん知っているとも。ここはすぐに滅んでしまったけどね。」
「滅んだ?どういう意味?」
「お嬢さん、不思議に思ったことは無いかい?」
「?」
「ここはジュンブレス王国のすぐ上。そして、竜種や危険な動物は村にやって来ない。」
やっぱり、来ないんだ。
「どうして?」
「もう村の中心地にある彫刻は見たかい?」
「見てない。」
「そうかい。その彫刻には伝説に語られる魔術師と、蒼いフクロウの子孫と思われる者が創り出したものなのよ。そのおかげで、危険な存在は寄り付かなくなった。」
「その子孫は実在するってこと?」
「わたしの代よりもずっと古いからねぇ。詳しいことはわたしでもわからんのよ。」
「そう。」
「ただ、あの彫刻はね、王国由来のものであるということだけは分かるのよ。」
「ここ、王国なの?滅んだってつまりそういうことなの?伝説にも城を建てたってあったし。」
「そうよ。でも、今は雪と氷に覆われて、面影が無くなっちゃってるけどねぇ。それに、お嬢さんも知っての通り、コンヘラシオン山はエターキールと同じくらい大きくて高い山。行こうとは思わないことだね。」
え、行ってみようか迷ってたのに……バレてる。もしかして思考が読めるの?
「あの、どうして行くって分かったの?」
「お嬢さん、なんだか好奇心旺盛みたいだからねぇ。なんとなくよ。」
「そ、そうなの。」
「まぁ、その近くにもう1つ村があるけど、あそこは今どうなっているのかしらねぇ。そこの村とは交流してないからわからないわ。」
「もう1つの村?」
「もっと奥深いところ、一番城に近いところにあるわ。」
「へぇ〜。お婆さん、ありがとう。」
「いいのよ。また知りたいことがあったらおいで。」
ひとまず、外に出た。……さっきから、視線を感じる。辺りを見回すが、フクロウが沢山いるだけで何もいなかった。が、おそらく視線の正体はここにいる全てのフクロウだろう。
「フクロウにずっと見つめられていると、調子狂うわね。」
しばらく村中を散策して夜になると、部屋に戻った。
「どこに行ってたんだ?図書室で見なかったが。」
「あぁ、ごめんごめん。外に出て色々と見て回ってたの。」
ステラ姉が疑いの目を向ける。
「ホントだって!あと、誰とも会話してないから!」
本当はアダムのお婆さんと話してたけど。
「はぁ、信じておこう。さっさと温泉に入って寝るぞ。」
「あ、ねぇ、アダムにステラ姉が女だってこと教えたから、多分一緒に入っても大丈夫よ。」
「何勝手に教えてるんだ。」
「えぇ?だって…」
「一緒に入りたい。だろ。」
「そう!行きましょ!」
「やれやれ。」
そうしてしばらくし、温泉から出てベッドに寝転んだ。
「サイコーだったぁ!」
「私はもう眠いから寝るぞ。」
「えぇー?もう少しお話しましょうよ。」
「断わる。」
そう言うと、布団を被ってしまった。
「あ!これ読める!?」
ステラ姉が顔を向けた。うちは急いで鞄からアダムから貰った本を取り出した。
「なんだ?」
ノロノロと体を起こすと、うちはテキトーな箇所を開き、ステラ姉に見せる。
「旧式言語?なんでこんなものが。」
「読める?」
「さすがに無理だな。旧式言語は500年前まで使われていた言語だ。」
「あれ?意外と最近。」
「レイサーなら読めるかもな。」
「レイサー?誰?」
「青龍部隊でありながら、医療担当だ。彼のドラゴンは行方不明だったがな。ダレスを除いたら、あいつが1番ドラゴン騎士団の中で年上だ。500歳か、600歳くらいだったはずだ。」
「ふーん。読めないんじゃ意味無いね……何かドラゴンライダーについて分かるかと思ったのに。」
ステラ姉はパラパラと軽く本に目を通していた。
「挿絵があるな。」
「え、ほんと!?見せて。」
挿絵には、ドラゴンにまたがったライダーが描かれていた。その周りに、光を表現するかのような斜線がぐるりとライダーを囲うように連続して描かれ、そのライダーの下には、炎に覆われた別のドラゴンライダーが描かれていた。さらにその下には文字が書き連ねられていた。
「色がないからよくわからんな。」
「これ、何を表してるんだろう?戦ってるのかな。」
「ライダー同士が?そんなことあるか?いや……。」
ステラ姉が誰を想像したのか、なんとなくわかった。それはうちも思い浮かんだ。ダレスだ。おそらく、いつか対峙することになるであろう邪悪なドラゴンライダー。
「ダレスを表してるの?」
「……可能性はあるが、あいつがわざわざ総帥という地位に立つために、他のライダーと戦うのか?総帥決戦を挑んだのは私が初めてだし。」
「え、そうなの?」
「あぁ。あいつの言っていたことが正しければな。」
「総帥を目指していたの?」
「いや、単純に恐怖と力で支配するダレスのやり方が気に入らなくて、私が総帥になるって言ったんだ。そうしたら、奴は俺を打ち負かしてみろってな。結局負けて、5分も持たなかった。死ななかっただけマシだな。」
「死ななかっただけマシって……一体どんな戦いをしたのよ……。」
「頭以外の骨を全部砕かれた。奴は怪物で、化け物だった。あの巨体からは想像もつかないくらい素早い攻撃をしてくるし、オマケに怪力だ。かすっただけで骨にヒビが入る。敗北が確定した時、奴はこう言った。『まさか本当に挑みに来るとは、貴様が初めてだ。愚か者め。だが、その度胸は認めてやる。次挑んできたら、骨だけで済むと思うな。』ってな。それ以降奴は私を深夜の任務も務めるよう命じた。」
深夜の任務……グランツの卵を見つけた時に見た総帥のメモに、ステラ姉を深夜の任務にも行かせて疲れさせるって書いてあった。このまま成長させれば確実に俺よりも強くなるって……邪魔だから早いうちに消すって。
「多分、それわざとよ。」
そう言ってステラ姉の方を見ると、座ったまま眠ってしまっていた。
「あ、ステラ姉……。」
指で軽く小突くと、うっすら目を開けた。
「あ、あぁ……すまん、寝てた。」
「いや、引き止めてごめんなさい。寝ましょ。」
「悪いな。」
そう言うと、そのままゴロンと寝転がって、すぐに眠りについた。うちはまだ眠れなかった。
ねぇグランツ。話し相手になってよ。
ん〜?今ちょっと無理かも。
え?何かあったの?
うーん、フクロウさんがたくさん集まってきてて困ってるんだ。あったかいからいいんだけど。グレイヴなんか、フクロウさんに乗られすぎて身体中真っ白になっちゃってるよ。
おまえも白くなってるぞ。
え?ほんと?えへへ。このままこうしてたら、ぼくもフクロウになるかな?もふもふしてて、白くて、あったかくて……あと、耳がいいんだよね?地中にいるネズミの心臓の音を聞き分けられるんだって!あと、フクロウさんには、未来が見えるんだって!
静かにしろ。うるさい。
え〜?
あなた達はなんだか楽しそうね。
もしかしたらフクロウさんたち、寒いのかな〜。炎を出してあげた方がいいかな?あ、ぼく炎まだ吹けないんだった。グレイヴ〜。
断わる。こんなところで炎を出してみろ、あっという間に森が火事になるぞ。
そっかぁ。ごめんねフクロウさん。
うちもうとうとし始めていた。完全に寝る頃も、まだグランツが喋っていた。意思の疎通をしてない間もずっと喋っていたのだろうか。
夜、喉が渇いて目が覚めた。
「お水……。」
目を擦りながら歩き出す。コップに水を注ぎ、一気に飲み干した。ステラ姉はまだぐっすりと眠って……いや、うなされてる?悪い夢でも見ているのかな。
さすがに起こした方が良いと思い、体を揺すって声をかけた。
「……ステラ姉?おーい、ステラ姉。大丈夫?」
起きないか。
「待って……イーサン。」
イーサン?イーサンって、ステラ姉の一番の親友よね。目の前で殺されたって……会ってみたかったな。
少しのんびりしていると、静かになった。どうやらもう悪夢は見ていないようだ。少し安心した。何となく窓の前に立ち、外を眺めた。真っ暗だ。降ってくる雪と積もった雪しか見えない。
眠くなるまでぼーっと眺めていると、赤い光が2つ見えた。
「……何あれ。」
じっと目を懲らす。どうやらフクロウがそこにいるようだ。やっぱりこの村、ていうかこの地域変……だってフクロウって、夜行性じゃないの?なんで、昼間もいるの?うちが知らないだけで、昼間も活動するフクロウもいるのかな。
「あのフクロウ……。」
そこにいるフクロウは確かに白いフクロウなのだが、なんだかおかしい。ここに来てから赤い目のフクロウは一度も見かけなかった。アルビノという個体だろうか。お兄ちゃんが言ってた。
じっと見ていると、その赤い目に吸い込まれそうだった。
「なんか……気になる。」
ステラ姉の方をちらりと見、少し考えて部屋を出た。旅館も出ると、ぐるりと建物を回って窓から見えていた森に来た。




