白銀の世界
さっそく東へ向かって移動をした。ダヴィンレイズ王国からコンヘラシオン山があるコンヘラ地域はかなり近く、ドラゴンの飛行スピードも合わせると三十分もかからずに着いた。さすが雪原の地域。山に近づいていないのにもう寒い。山の麓にある村の近くに降り立つと、さっそく散策した。
「ここは旅館と温泉が有名だな。」
「ステラ姉は泊まったことある?」
「無いな。ドラゴン騎士団の暮らしはほとんど自由が無い。娯楽が楽しめるのは城下町だけだ。」
「つまんないの。」
しばらくライダーの情報や厭世部隊幹部の情報がないか聞き込みをした。ここ、やけに白いフクロウが多いな。どのフクロウも、青みがかった羽が生えている。お兄ちゃんに聞けばこの種類のフクロウがなんなのか分かるかな。
「はぁ。何も手がかりがない……ってあれ?」
村の中心に向かう通りに、荷物を運んでいる見覚えのある青年が見えた。
「どうした?」
「……あいつってもしかして……アダム!?」
アダムらしき人は、うちの声に体を一瞬強ばらせると、うちの方を見た。間違いない、あいつだ。
「アデラ!?なんでんなとこにいんだよ?もしかして、オレに会いに来たのか?」
「絶対にない!ってそっちこそなんでここにいるの!?ピク村は!?」
「知り合いか?」
「あんなやつの知り合いになんてなりたくないけど、まぁ一応同じ村出身。」
「オレを産んだ本当の両親が引取りに来たんだ。」
「なんでそんなまた急に……。」
「人手不足だってさ〜。ある程度成長してるから、使えるだってよ。」
使えるって……なんだか、彼の家庭の事情は複雑そうに思えた。
「で、そいつ誰だ?」
しかめっ面をしながらステラ姉に詰め寄った。アダムはステラ姉よりも少し背が低かった。
「ちぇ、男なんか作ったのかよ。」
わお、気づいてない。こいつがバカなのか、ステラ姉がすごいのか……いや、どっちもね。
「ここに帰ってきて気づいたが、オレの家系は代々旅館を運営してるらしくてな。ちょうどいいや、床入りしたらどうだ?」
茶化すようにそう言いながら、片方の手で輪っかを作り、もう片方の手で人差し指を出し入れしてニヤニヤ笑った。思わずぶん殴った。
「あんたほんっっっっと、最低!!」
「ひぃー、相変わらず乱暴すぎ。ま、どうせ旅館は1つしか無いんだぜ?ここの風呂はコンヘラシオン山から湧き出た泉なんだ。」
ぐぬぬ、正直温泉は魅力的だ。ステラ姉を見ると、先程のやり取りなんかとくに気にしていない様子でじっとうちらの会話を見ていた。
「あ、ねぇ、ライダーを見なかった?」
「ライダー?……ぷっ、お前あんなん信じてんのか?」
相変わらず煽るようなアダムにムッとした。
「あんたこそ、ロボット物好きじゃない。」
「好きだが、さすがに現実にいるとは思っちゃいねぇよ。」
「ライダーはいるって!100年前にいたってお兄ちゃんが言ってたんだから!」
「知らん。」
「青年、少しいいか?」
「んだよ。」
「厭世部隊幹部の情報は無いか?フクロウの面を被り、特に禍々しい邪龍を操った奴だ。」
「フクロウ?そいつはしらんが、フクロウと言えば、この地域じゃ神聖な生き物だな。」
「そうなの?」
「あぁ。フクロウ伝説って言って、旅館の図書室で読める。」
「教えてくれないのね。はぁ、分かった泊まるわ。」
「まいど。2人で銅貨70枚。チェックインは館内でしてくれ。」
さっそく旅館に来ると、ダークオークの建物が白銀世界とマッチしていた。館内はとても落ち着いた雰囲気があり、入ってすぐ右には大きな暖炉とソファ、いくつか小さな机が置かれていた。そこで暖をとっている他のお客さんがいた。
「ここだけ別世界みたいね。そういえばステラ姉は泊まったことないって言ってたけど、そもそもこの村に来たことはあるの?」
「あるにはあるが、せいぜい王国直通の商人を護衛するくらいで、深入りはしてないな。」
「厭世部隊が来ること無かったの?」
「もしかしたら来ていたのかもしれんが、そんな話は一度も聞いたことがない。なぜか野生の危険生物も寄り付かないしな。」
「ふーん。」
とりあえずチェックインを済ませて自分達の部屋に入ってゆっくりした。ステラ姉は手の包帯を外し始めた。
「温泉楽しみ〜!ステラ姉ももちろん一緒に入るよね?」
「いや、君の知り合いが私を男だと思ってるらしいから1人用のに入るよ。あるか分からんが。」
「え〜。」
指の傷は両方とももう完全に塞がっているようで、手を開いたり閉じたりを繰り返したり、ブラブラと軽く手を振り、床や壁を軽く叩いた。
「もう大丈夫そうだな。やっと手が使える。」
さすがライダー。治りが早い。
「でも、使いにくくないの?」
「まぁ慣れるまで時間が必要だな。さてと、図書館に行ってアダムが言っていたそのフクロウ伝説とやらを読んでみるか。」
「そ、そうね。」
図書館に着き、さっそく伝説や神話等がまとめられた本を読んでみた。
『フクロウ伝説
コンヘラ地域がまだできる前 沢山の白いフクロウ達がそこに住み着いていた。
しばらく経ち 人人がそこに移住した。
それに怒ったフクロウ達は 魔法を使い 氷柱を差し向けた。人人も武器を手に取り 戦った。
そんな戦のさなか フクロウの中でも一段と大きく、蒼彩が入り交じったフクロウと魔術師がやってきた。魔術師と蒼フクロウは友となり 2人は戦を止めるために蒼フクロウは山のように巨大な氷柱を創り出し、魔術師はその上に巨大な城を建てた。2人にならい、フクロウと人人は互いに同盟を結び、平和な日々を過ごした。』
「なんだか変わった伝説ね。フクロウが主体なんて。」
「伝説なんてそんなものだろう。」
今まで旅をしてきて、気づいたことがある。どこもかしこも蒼という言葉。ダヴィンレイズ王国の城の真上には蒼い一番星が昼間でも関係なしに常にある。蒼にはなにか秘密があるのだろうか。
「この伝説って本当の事なのかな。白いフクロウが沢山いるし。」
「さすがにそれは無いだろう。フクロウが魔法を使うなど聞いたことがない。それに、単なる比喩表現の可能性もある。」
「それも…そうね。」
少し他の本も読んで見ると、どれもフクロウのことばかり書かれていた。他にも色々探し回っていると、館内の手伝いをしているアダムを見かけた。
「アダム。」
「おん?」
「えっと、そのさ。うちと一緒にいる人…」
「あんな男の話はいい。」
「男じゃないの。」
「……え、は?」
「だから、一緒に温泉入ってもいいかな?」
アダムはポリポリと頭を搔く。そうする度に白髪の髪が光に反射してキラキラときらめく。
「ま、まぁ……構わんけど?」
「ほんと!?ありがとう!」
「……あ、あぁ。」
「あと、フクロウ伝説、読んだんだけど、あれって本当の話?」
「オレに聞くな。ばあちゃんが知ってるんじゃないか?今はカウンターを担当しているはずだぜ?」
「ふーん後で聞いてみる。あ、ねぇ、ここの本に、ドラゴンとか王国の話とか書いてある本って無い?」
「あ〜それなら……」
アダムは手に持っていた、積み重ねられたたくさんの本を一旦机に置くと、上から一つ一つ隣に重ねた。
「お、あったあった。これ全部、だいぶ古い本だから処分する予定なんだ。」
「え?もったいない。」
「文字が結構擦れちまって、ところどころ読めないものもあるんだよ。だから処分するしかない。それに、中にはもう誰も読めない旧式言語もあるから、あっても場所を取るだけだしな。ちょうどその本が旧式言語が使われてる。」
旧式言語……ステラ姉なら読めるかな。いや、100年前ならさすがに無理かな。
「ありがとう。借りてくね。」
「母さんが処分しとけってうるさいからやるよ。読んでくれるやつに渡った方がいいだろうし。」
「じゃあ遠慮なく。」
読む前にアダムのお婆さんに聞かないと。そうして1歩前へ足を出すと、アダムに肩を掴まれた。
「何?」
「なぁ、アデラはなんで故郷を離れてんだ?お前には父親と母親がいたはずだろ?」
「……旅をするのが夢だったから。これでいい?」
「本当に旅だけなのか?顔の傷、それが出来てからお前、どうもおかしかった。」
「あんたには関係ないでしょ。」
「そうだけどさ、気になんだよ。」
まったく、故郷に戻っても大して変わんないのねこいつは。
「うっさいわね。あんたの頭、矢で射抜いてもいいんだからね。」
「……すまん。」
そう言うと、手伝いの続きをしに行った。アダムにしてはやけにすんなりと引き下がるな。まぁ、いいか。
とりあえず、カウンターまで歩いていった。




