12.「お客さん」の隣で
――お父さんは、今日は仕事なんですか?
――はい。出張で。
店を出て、『宿』(隠語みたいなもの)に向かいながら、僕たちの口調は、また最初の時のように戻っていた。こうして駅からペデストリアンデッキ(変だけど好きな言葉)、アーケード、大きな横断歩道、またアーケードと歩いている間は、あえて親子だと装う必要もないわけだ。
――いつもそんなに忙しいんですか?
――仕事のことはよく分かりませんけど……でも、ここ二年ぐらいはずっとそうですね。
――普段からそうなら……『ふすま』さんは大変でしょうね。妹さんの面倒まで見て。
我ながら馬鹿みたいな作り物の名前が不意に口にされて、僕は吹き出してしまった。そして彼女も笑う。初めてか、久しぶりに見るような表情だった。
――いや、僕なんか全然。妹は利口ですし。父とか、『かすみ』さんの方がよっぽど大変なんじゃないですか。仕事で、遅くまで会社にいる……ことも、あるでしょうから。
――私は別に……好きな仕事なので。でも、お父さんがそうやって忙しくて家にいないから、こうやって外に出ても、気にしないんですね。
――できるだけ、会うのは早い時間にしてもらってますよ。早く帰って、心配かけないように。
――そういう問題かな?
非難の感情がうっすらと浮かんだ目で、僕を、あるいは僕の向こうの父を見ながら、彼女が言った。声の調子は深刻な感じで、どう答えたものか、ひどく深刻な気持ちで考えていると、ちょうど信号が赤から青に変わるところだった。僕は前を振り向き、歩き出した。




