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悪役令嬢は病弱令嬢 王子様は悪役令嬢を囲いたい  作者: 白まゆら


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ココリス視点 5

 あの人はいつも笑っていた。

 幼い私を一人置いて仕事に行く事は難しく、お針子の仕事をもらいどうにか生計を立てていたが、生活は苦しかった。

 私がお腹がすいたと泣くと、自分の分を差し出してくれた。自分はすいていないから、大丈夫。と言いながら。それでもお腹はすく毎日。

 私でさえそうなのにあの人はいつ食事をし、眠りについていたのか? 子供心に不思議だったが、深く考えた事はなかった。


 だってあの人は、私を抱きしめてはくれなかったから。

 産まれた時、姉の命を奪ったところを見ていた彼女は、母親の勘で全てが分かったのだろう。今でも思い出す。あの恐怖に満ちた顔を……。

 母乳が出にくい体というのも関係していたのかもしれない。ミルクさえ与えれば抱く必要はないから。

 赤ん坊という身動きの取れない体において、移動する時でさえ抱きかかえる事はするが、抱きしめるという様な行為はなかった。私と手を繋ぐのも躊躇っていたほどだ。

 それなのにいつも笑顔ではいてくれた。

 闇の魔法とは本当に厄介なものだ。記憶力に優れているとはいえ、産まれる直前直後の記憶までしっかりとある私は、自分の犯した罪も母親の恐怖も嫌悪もちゃんと感じていた。

 私が怖いくせに何故あの人は私を養い、笑ってくれるのか分からなかった。

 怒られたのは一度だけ。男爵が私を養女という名の妾にしたいと言った時だけ。

 だから私は分かったの。ああ、この人は私を憎んでいて、私から幸せを奪いたいのだと。

 男の人に抱かれるのは気持ちが悪かったけど、同時に温かくもあった。

 人肌の温かさを感じ取れたから。


 ――私は前世においても抱きしめられた記憶などなかった。

 前世の私の両親は共働きで、とても忙しい人達だった。二人共会社では役職を持っていたらしく、いわゆるエリート。だから私にも完璧を求めた。外で友達と遊ぶのを禁じられ、勉強だけをしていれば、お金は湯水のごとく与えられた。外で遊べない以上、中学生の私がお金を使って出来る事といったら、ゲームぐらいしかなかった。ありとあらゆるゲームをした後、辿り着いたのが〔乙女ゲーム〕。現実を忘れてイケメン達が私をチヤホヤしてくれるあの快感。私はどっぷりはまった。

 あの日も私は留守番をし〔聖悪〕をしていたの。

 強盗が入り殺されるまでは……。


 今世の母にも抱きしめられず、怖がられているのなら、憎まれているのなら一緒にいる必要はない。

 それに私は父親の方に引き取られ。貴族にならなければいけない。私の人生はあの人がいないところから始まるのだから……。

 母親と呼ばれるあの人の後ろを歩きながら、力を使って馬車に向かわせた。ふらりと歩くあの人と何故か目が合った。ふるりと体が震える。

 怖くなった私は知らぬ間に力を強め……。

 あの人は馬車に引かれた後、私の方に向かって手を伸ばしてきた。

 私は周りにさも可哀そうに映るように「お母さん」と言って駆け寄り手を握ろうとしたが、届く前にその手は力なく地面に落ちた。その時は私が犯人だろうと、糾弾したかったのかと思っていたが、今思えばもしかして抱きしめようとしてくれたのか……。

 分からない。本当のところはどうだったのか。だってあの人はもうこの世にはいないから。私がそう仕向けたのだから。


 レオン様は容赦がない。

 もうどうしようもない私は、せめてあの人の手で裁かれたかったのに、それすらも許してくれなかった。。自分は一切関係ないのだと。私がモブだから。いえ、違う。初めから違う存在だったから。

 私は〔乙女ゲーム・聖悪〕に転生した。けれど私は私の世界で生きていけばよかったのだ。


 ――ルナン・クールド。彼は私にくっついていて急に動いた私にバランスを崩され、屋根から足を滑らせ、落ちて亡くなったと思っていた。

 けれど今思えば、彼はいきなり私が矢を射かける魔道具を使った事に驚いて、私から取り上げるつもりで動いたのではないだろうか? 私に人を害させなないよう、私を止めようとしたのではないだろうか?

彼は本当に私の事を思っていてくれたのかもしれない。

 だって、何度も何度も父親に反対されている私に会いに来てくれた。私が呼べばどこにだって来てくれた。何を言っても、何を強請っても嫌な顔一つせずに「ココリスの我儘を全部きけるのは、僕だけじゃないかな?」と笑ってくれた。

 あの日も突然呼びつけたのにも関わらず、私が指定する魔道具を持って来てくれた。

 そんな彼を私は、力のお蔭で私にメロメロなんだって馬鹿にしていた。

 けれど、もしかして……。

 高望みなどせず、目の前のものに向き合っていれば、そうすれば私は私の世界で〔ヒロイン〕になれていたのかもしれない。

 私は自らの手で私の現実を壊していたのかもしれない。

 いえ、もう何を言ってもどうしようもない。

 この十五歳に見えない体と共に生きるか、潔く死ねるのか、それさえも今は分からないのだから……。

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