二人の視点(ココリス&レオドラン)
「キャアアアアアァァ!」
自分の姿を鏡で見て、悲鳴を上げる。
これは誰?
レオン様と対峙していたと思っていたのに、目が覚めると寝台の上に寝かされていた。
ここはどこだろう?
ひっそりとしたその部屋には、私が寝ていた粗末な寝台と小さな机と椅子が二脚。こじんまりとした棚の上には、洗面具と水が置かれていた。
喉の渇きを感じた私は、その水を飲もうと棚に近づくと、目の前に備え付けの鏡があった。
何気なく見たそこに映っていたのは、白髪のお婆さん。見ようによってはもう少し若くもあるが、目はくぼみ皺だらけのその顔は、お世辞にも可愛らしいとは言い難い、底意地の悪そうな顔の女がそこにいた。
私は慌てて後ろを向く。
誰もいない? ならばここに映っているのは……。
顔を触る。ペタペタペタ。
現実に打ち震える。この老婆が……私?
「キャアアアアアァァ!」
私は気が狂うほど叫び、そこらの物を投げ倒し、力任せに大暴れした。
――そうして我に返る。
ここはどこ? 誰が私に何をしたの?
静かになったのを見計らったかのように、騎士が二人ノックと共に訪れた。
その二人の姿を見て安堵する。私を助けに来てくれた騎士様ね。私は満面の笑顔で二人に近づく。
「私を助けに来てくれたのね。嬉しいわ。体が少し痛いけれど歩けます。すぐに連れて行って下さいな」
私はエスコートされる為に右手を差し出す、騎士はチラリとその手を見るだけで、微動だにしない。
「貴方への処罰はまだ決定していません。我々は貴方の話を聞きに来ました。罪を認めて洗いざらい話して下さい」
「?」
何を言っているのかしら、この騎士は? 私は首を傾げる。
「座って話を……と思ったのですが、貴方が壊したのですね。仕方がない。このままで進めましょう」
「貴方達はレオン様の使いでしょ。レオン様が私を求めているのでしょう。私はレオン様になら、この体を捧げてもいいのよ。早く連れて行きなさい」
「……何を言っているのですか?」
騎士は目を大きく見開いて、次に蔑むような顔をした。
「何ってあの方は私を愛しているのよ。私の体が欲しいのです。だから抱かせてあげるって言っているんです。早くレオン様の寝室に連れて行きなさい。あの方は喜んで私の足元に跪くでしょう」
アハハハと大声で笑う。
騎士は嫌悪を隠さずに「無礼者!」と怒鳴りつける。
「殿下を侮辱するつもりか。かの方には美しい婚約者がいらっしゃる。誰がお前のような者を欲するか。ふざけた事をほざくなら、即刻首を刎ねるぞ!」
「待て。落ち着け!」
一人の騎士が剣を抜くのを、もう一人の騎士が止める。
ああ、彼も私を気にいったのね。
「レオン様はあの醜い悪役令嬢に騙されているのよ。可哀そうに。早く私をレオン様の元に連れて行きなさい。そうすればレオン様も真実の愛に目を覚ますはず。そして貴方も私の事を愛してしまったのね。いいわよ、相手してあげる。レオン様の次にね」
フフフと笑う私を、騎士の二人はおぞましい者を見るように身を引いた。
私を気にいった騎士のそばに近づくと、ツツツッと頬をなでる。
弾かれたように騎士は私を突き飛ばす。
「き・気持ち悪い。貴様、年を考えろ!」
「年? 私はまだ十五歳よ。ああ、この姿ね。あの悪役令嬢が私の美貌と若さを奪ったのよ。早く返すように貴方達からも言ってちょうだい」
「――話が通じない……」
そう言って騎士二人は、部屋から出て行った。
「待ちなさいよ!」
すぐに扉に駆け寄ったが、鍵を掛けられてしまった。
まさか私を監禁しているの?
いくら私を気にいったからといって、これは少し酷いわね。
私はちゃんと相手してあげるから監禁などしないで開けるように訴えたが、扉が開かれる事はなかった。
ドサドサドサッ。
生徒会室の机には、ありとあらゆる書類が山のように積み重なっている。
何より多いのは、まだ記憶に新しい文化祭の事件とそれにまつわる誕生日会の大惨事。
改めて行われる婚約式の準備、本来の学園の行事も重なり、俺達は頭を悩ませていた。
そんな時に緊急報告が入り、俺達が密かにぶちキレしたのは仕方がないと思う。
ココリス・マーガレットが脱走した。
「まだやるか、あの女」
最初に切れたのはトーマス。
「どうやって逃げたんだ?」
マルロスは報告に来た騎士に詰め寄っている。
少しびくつきながらも、騎士は脱走時の様子を話し始めた。
曰く、今迄は仮処分だった為、城の奥深くの一室、監視がしやすい場所に閉じ込めていたのだが、度重なる暴言、暴挙に刑が早められ、監獄に収容される事になった。
移動の際に突然、彼女が倒れたらしく医師を呼ぼうとした隙に逃げられたらしい。
「何をやっているんだ。それでも騎士か!」
マルロスが恫喝した。
マーガレットは精神干渉系の魔法を使っていた。魔力が枯渇したとはいえ、要注意人物として兵士ではなくわざわざ騎士に監視させていた。護送に向かったのも騎士が五人と、魔力のない少女には破格の扱いだ。それなのにみすみす逃がすとは、力のない女だと侮っていたのか? これはかなりの失態だ。
「申し訳ございません」
報告に来た騎士が謝っても、仕方がない。
それよりも今は一刻も早く奴を見つける事が先決だ。
――ふと気になった。
奴は俺に執着していた。
命は助けてやったが、自慢の美貌は見る影もなく、老婆のような姿になった。
自分は今もヒロインだと信じて疑わない。
「……リリ……」
ポツリと出た言葉に、ルーが反応する。
「……レオン、待って、まさか……」
「どうしたの、二人共?」
セルが俺達の異変に気付く。
「奴はいまだに自分がヒロインだと思っているんだろう。じゃあ、そのヒロインの場所にいるリリを……本物のヒロインの姉になり替わったように、今度は今のヒロインのリリになり替わろうと目論んだりしないか?」
「!」
皆、俺の意見に驚愕の表情になる。
「けれど」とトーマスが前に出る。
「あいつは一度死にかけて魔力がなくなったんだろう。どうやってそんな事出来るの?」
「同じ闇の魔法の持ち主として何かしらの共鳴がなされると思っているのかもしれない。それに現実的になり替わらなくても、リリを害せば自分がその立場に入れると妄想していたら……」
皆がハッとする。
「奴はいまだにレオンが自分の事を愛してると、本気で叫んでいた」
「リリが危ない!」
俺は瞬時に風の魔法でリリのいるユーリック公爵邸に向かった。




