レオドラン視点 6
「レオ~ン!」
寝台の上に腰掛け、リリと話をしていた俺の上にガバリと圧し掛かってきたのは、トーマスだった。
心配してくれていたのは分かるが、好きな女性の前で押し倒されるのは複雑な気分だ。間髪入れずにセルが左腕に抱きついてくる。
「レオン、レオン、レオン」
ハハハっとから笑いしそうになったところを、ルーに右手を握りしめられた。自分の額に持っていき、震えている。
よっぽど心配かけたんだなあ。と思っていると、マルロスに頭をわしゃわしゃと掻き回された。
大人しく皆にされるがままになっていると「そこまでです!」とリリが大きな声を上げた。
え? 大きな声? あのリリが?
「レオン様はまだ完全ではないのです。心配だったのは分かりますが、ほどほどにして下さい。特にトーマス様、レオン様から早く降りて」
リリが顔を真っ赤にして叫んでいる。可愛い。
「あ、ごめん」
「悪かったな、レオン」
皆がそれぞれ謝りながら離れていく。
くしゃくしゃになったシーツを整えながら、俺が座りやすいようにしてくれているリリにありがとうと感謝を述べると、リリはまた真っ赤な顔をした。くすくす笑っていると、ルーが畏まる。
「レオン、話しできる?」
「ああ、聞こう」
ココリス・マーガレット男爵令嬢。彼女が犯人だと確信した俺達は、とにかく彼女の事を徹底的に調べる事にした。彼女が平民だったと言っていた事から過去を探る。
まず年齢から逆算し、マーガレット男爵家から平民になった女はいないか探し出す。そして出生履歴を調べる。
いくら平民でもこの国の生活水準は高く、そんな国に憧れを抱いてくる他国の者は大勢いる。
そういった者の為にも、人の出入りや出生に関する事はしっかり押さえてきた。
一般人が入り込まないような裏の場所にも、まとめ役という者はいるものだ。その者と手を組み俺直接の協力者として、トーマスを仲介に蔭で取り締まっている。だがこの方法も軌道に乗ったのは、ほんの五年ほど前だ。それ以前を確実に抑えるのは、難しい。
そこを言い当てたのはルーだ。
この大国リーファル国でマーガレットを取り上げた医師の場所や住んでいた場所を確実に言い放った。明らかに裏の場所を。
トーマスに動いてもらいながらも「どうして分かった?」と聞くと「今は僕を信じて」とだけ返ってきた。落ち着いたら話してくれるのだろうと、俺も聞かずに動く事にした。
そうして探れば探るほど、ココリス・マーガレットという女の闇が浮き彫りになってくる。
幼い頃から男を手玉に取り、のし上がっていく様はおぞましいの一言に尽きる。
その時代にクールドとの接点を見つける事が出来た。
いつも会っていた逢引き小屋に二人でいるのを何度も目撃されている。親に反対されているクールドは、隠れていたつもりだろうが、裏の世界は狭い。いつかクールドカンパニーを脅せると誰かが情報を集めていた事を、彼らは知らない。
パロットとの接点も見つける事が出来た。
こちらは余り隠していなかったのか、目撃者及びパロットの従者からも確認は取れた。
ただパロット自身がマーガレットの事を忘れている。何一つ思い出しはしないのだ。
そこでセルが徹底的に調べたら、やはり精神干渉系の魔法の痕跡が見つかった。
パロットは全て忘れさせられていたのだ。
証拠を見つけていくと、俺達は同時にマーガレットが今まさに平民時に住んでいた場所に、身を潜めている事を知った。
そのままそこに留まってくれるのならば……そんな淡い期待もしたのだが、彼女はそんな性格ではないだろう。そんな殊勝な気持ちが少しでもあれば、こんな大事にはなっていない。
俺達はマーガレットがまた必ず事を起こすと踏んで、まず彼女から直接名の上がったアーノック・フリーバー先生やノバット・レイソン伯爵子息、ガリオン・マグノット子爵子息に協力を求めた。
彼女に気があるフリをしてくれと。そしてどうにか彼女の触った物を手に入れてくれるように頼んだ。
これもルーの提案なのだが〔指紋〕なるものが人の指にはあって、クールドの横に落ちていた魔道具からそれが取れ、マーガレットのものと一致すれば犯人だという証拠になるとの事。
マーガレットはそれを否定しながらも、認めてしまうだろうと。
ルーの説明で俺達は指紋を取る作業に向かった。
まず、魔道具を持つ場所に細かい小麦粉を綿で優しくはたき付け軽く落とし、セルに作ってもらった粘着力のある透明の紙を、指紋であろう跡にくっつける。それを黒い紙の上に置いて見比べてみる。ピッタリ一致した指紋は、それが犯人である事の証明になるのだそうだ。
「以前に触った事がある。とか言ってしらを切られたら?」と言うマルロスに「その可能性もあるけれど、多分大丈夫じゃないかな」と答えるルー。
「クールドは魔道具の収集家らしく、それは大事に扱っていた。常に磨き倒してピカピカだったらしい。それに触る時は手袋を忘れない。指紋は拭けばとれるし、手に取るだけなら手袋を付ける。使用する時は流石に邪魔になるだろうから素手て触るだろう。毎日磨いていたクールドが持ってきたならば、その日に触った者が犯人で、ココリスのしか残ってないなら犯人はココリスしかいない」
確かにその理論でいけば証拠になると思うが、それを指紋の知識がないマーガレットが納得するのか?
それともマーガレットも〔指紋〕の知識を知っているのか?
それからルーはマルロスやセル、トーマスにもマーガレットに普通に接するように頼む。
どうしてか聞くと、自分の筋書き通りに事が進んでいると思わせたいと言う。
自分は演技が出来ずにボロを出してしまいそうだし、俺はこういう状況下の中、下手に構うとマーガレットが予期せぬ時に事を起こそうとするかもしれないから、出来るだけ会わないようにしてほしいと頼まれた。
「何か企んでいるのか?」
「こうする事で多分彼女は自分がレオンに選ばれると思って、レオンの誕生日に婚約者面して現れると思うんだ」
「は? どうして?」
「そういうシナリオだと思い込んでいるから」
「シナリオ?」
俺達はルーが何を言わんとしているのか分からず、困惑した。
「とにかく今から僕の作戦に乗ってほしいんだ。あの子を止めるにはもうそれしかない。全部終わったら全て話すと約束するから、頼むよ」
ルーがここまで必死で何かを求めたのは始めてじゃないか。
俺達は訳も分からないまま、承諾した。だって俺達はルーを信じているから。
全部終わった時には話してくれるのなら、今はそれでいい。
そうして全てを話す覚悟を決めたルーが目の前にいる。




