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悪役令嬢は病弱令嬢 王子様は悪役令嬢を囲いたい  作者: 白まゆら


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二人の視点(レオドラン&リリアナ 3)

「ココリスさん」

 リリが女に駆け寄ろうとする。俺は咄嗟にリリの体を抱きしめる。

「駄目だ、リリ」

「でも、あの人……様子がおかしい」

「力を使い過ぎたんだ。多分……死んでいる」

「!」

 リリは大きな目を益々広げる。こんな事言いたくなかった。だけど、ピクリとも動かない体と現状を考えれば……彼女は、やり過ぎた。己の器を顧みなかったんだ。

「とにかく俺が見てくる。リリはここで……」

「どんな人であろうと、死んでいい人なんかいません!」

 リリは俺をまっすぐに見つめて懇願する。

「お願いします。レオン様……誰一人……死なせたくな……」

「レオドラン様、ルーを、ルーを……」

 悲痛なミリアル嬢の叫び声に俺達はハッとする。

 とにかくルーが先だ。

「……お兄様……」

 真っ青な顔でガクガク震えるリリの背中を、ポンポンと優しく叩く。

「全て俺に任せて。リリの願いは俺が叶える」

 そうしてマルロスの婚約者、ヴァイオレット嬢にリリを任せて、俺はルーのそばに行く。

 頭を切ったのか思った以上に出血がひどい。

 俺は光の魔法〔治癒〕の力を使う。

 周りで息をひそめていた者達が、唖然としている。けれどそれに構っている暇はない。

 徐々に傷口がふさがり、頬に赤みがさすルー。

「もう大丈夫だ」

「あ、あ、ルー。レ・レオドラン様。あ・ありが……」

 俺はミリアル嬢の頭をポンポンと叩く。

「ルーは任せたよ」

 ミリアル嬢は何度も何度も頭を下げた。

 そうしてセルとトーマスにも力を使う。各婚約者も俺の姿に驚いてはいるものの、二人が無事で安心したようだ。

 セルのお蔭で王族や主要人物は逃げおおせている。けれど余りにも多い負傷者の数。

「レオン」

 マルロスがそばによる。俺はマルロスに微笑んで〔治癒〕の力を会場中に降り注いだ。

 キラキラキラキラ。

 治癒の力ってこんなに綺麗なものだったんだな。自分で使っておいて何ともなしに考える。

 皆呆然としてその場から動けずにいた。

 まあ、怪我は治ったんだから大丈夫だろう。

 俺はマルロスの肩を叩く。

「一緒に来てくれ」

 ピンク頭のそばに行く俺を、不思議な顔をしながらもついて来てくれるマルロス。

「レオン?」

「今からこいつに膨大な〔治癒〕を使う。俺は無防備になるから、何かあったら頼むよ」

「! 何言ってるんだ。こんな奴なんかに……」

「こんな奴だからこそ、このまま死なせるわけにはいかない」

 マルロスが目を見開く。

「こいつには生きて自分の罪に向き合ってもらう。ちゃんと罪を認めないと死んだ奴がうかばれない」

 真っすぐにマルロスの目を見ると、観念したかのように肩をすくめる。

「分かったよ。我が主。仰せのままに。後は任せろ」

「頼んだ」

 俺は頼もしい友に背を向けて、力を使う。

 死んだ奴を生き返らせるのだ。それはもう神の領域。少しでも生命力が残っていれば勝算はある。

 どれぐらいかの時間は経ったのか、それとも少しも進んではいないのか、時間の経過が分からないまま集中する……………………奴の手がピクリと動いた。


 俺の勝ちだな。


 そうしてゆっくりと意識を手放す。

 遠くでリリが俺の名を呼んでいるのを最後に、深い深い眠りに落ちていった。



 私は酷い人間だ。

 自分では何も出来ないくせに、優しいレオン様に「誰一人死なせたくない」なんて勝手な望みを言う。その所為でレオン様は全ての者を癒し、騒ぎを起こしたココリスさんにまで力を使わせた。

 そうしてレオン様は倒れた。

 何をやっているのよ、私は……。

 何よりも、誰よりも守らないといけないレオン様を、こんな目に合わせて自己満足も甚だしいわ。

 医師団の方達は、魔法の使い過ぎによる極度の疲労だという事で、時期に目を覚ます。と診断された。

 レオン様は本当に人並外れた魔力をお持ちで、他の人間ならば死んでいてもおかしくない状況だったらしい。

 けれどそれはレオン様が特別だったから。私の我儘が許されたわけじゃない。

 泣くのはずるい。そう思ってずっと我慢してきた。それなのにあれからもう三日は経っている。

 一向に目を覚まさないレオン様の手を握りながら、私は流れる涙を止める事が出来なかった。

 ポンポンッ。

 私が下を向いてしゃっくり上げていると、大きな手が頭を撫でる。

「レオン様!」

「おはよう、リリ。心配かけたね」

 優しく笑うレオン様に私は「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も謝った。

 レオン様は苦笑しながらも、私が落ち着くのを待ってくれた。

「ねえ、リリ。君はルーの話を聞いて、同じ闇の魔法を持っていた彼女に同情してしまったんじゃない?」

「!」

「望んでもいないのに、生まれ持っていた力の所為で死にかけた。君には俺がいて、彼女には姉がいた。一歩間違えれば自分も同じような事をしていたかもしれない。何て事、考えたりしなかった?」

「レ・レオン様」

 図星だ。

 そう、私はお兄様が話す内容を聞いていて、すごく怖くなった。

 だって私も産まれた時の記憶に、確かにあったもの。小さな光に必死で手を伸ばした記憶が……。

 それはたまたまレオン様の力を、お兄様が持っていたに過ぎなかった。レオン様が私より年上でいらっしゃったから、並々ならぬ魔力を持っていてくださったから、私はレオン様から奪うような真似はしなくてすんだ。もしもレオン様が私と変わらない年端も行かない幼子だったら……。魔力も人並よりも少なかったら……。

 そうしたら私は彼女のように無理矢理奪って、レオン様を死に追いやっていたかもしれない。そう思うといてもたってもいられなくなって、考えるよりも先に体が動いた。

 そして彼女の前に出た。

 目の前で彼女が倒れていく様を見て、悲鳴をあげそうになった。

 あれは私? もう一人の私? 助けて!

 心のままにレオン様にすがってしまった。

 誰も死なせないで……私を死なせないで……と。

 震える体は止まらない。

「――私……」

 ギュッ。

 レオン様が寝台の上で体を起こし、私を抱きしめた。

「リリと彼女は違うよ」

 耳に優しい、透き通るような慈愛のこもった声。私の好きになった声だ。

「もしもリリが彼女のような性格だったら、俺はユーリック家に行った時に無理矢理力を奪われていたかもしれない。けれどリリは、俺が与える以外は自分から欲したりはしなかった」

「そ・それは知らなかったから……」

「そう? だって二人共産まれた時には必死で手を伸ばしたんでしょ。だったら無意識に感知していたはずだよ。俺の力は自分を助ける力だって、欲している力なんだって」

 私は愕然とした。そうなのだろうか? 私は無意識にレオン様の存在を認識していたのだろうか?

「リリは一度も俺に何かを強請った事がなかったよね」

「レオン様?」

「俺はね、力を含めてリリにあげられるもの、色々あると思うんだ。けれどリリは分かっていても、それを求めたりはしない。反対に俺が渡せば、倍にして返そうと必死になる。俺はそんなリリを愛しく思うんだ」

「そ・そんな事ないです。私はレオン様にいただいてばかりで何も返せていない。今回だってレオン様をこんな目に合わせて……私、何も出来ない自分が情けなくて……」

「そういう姿が愛おしいって言ってるんだよ」

 レオン様は私の背を撫で、苦笑した。

「俺はね、昔から沢山のものをもっていたんだ。皆が喉から手が出るほど欲しいものを当たり前のようにね。だから狙われる事が多かった。あのマーガレットのように皆、俺から少しでも何かを奪おうと必死だった。ルー達以外は、周りは全てそんな奴らばっかりだったと言ってもおかしくなかったよ。特に女性は酷かったな。そんな中でリリだけなんだよ。俺に何かを与えようとしてくれたのは」

 私は黙って聞いていた。レオン様が私を求めてくた理由。

 だけどそれは、私がレオン様を意識し始めてからの事で、最初は何もしてないはず。そう言おうとしてレオン様の腕から顔を出す。

「うん、そうだね。最初は違うね」

 レオン様は私の言わんとする事を、理解してくれている。

「最初は君の柔らかな雰囲気が気に入った。穏やかな空気が心地よかった。そして俺に関心を示さない、その姿に興味を惹かれた。それで十分だと思ったけれど、それからも君は俺の予想を遥かに超えた態度を取った。俺のプロポーズをあっさり断って、王妃の前でも物怖じすることなく、自分の意見をしっかり言い、凛として前を向く。俺の視線から絶対に目を反らさないのも最初からだったね。その反面、自分を厄介者だと勘違いしていたり、俺を意識して赤くなったりしているのが、とてつもなく可愛かったんだ。俺の外見よりも中身が好きだと言ってくれた時は、本当に嬉しかったなあ」

 そ・そういえば一回プロポーズ断っていたんだっけ? やっぱり勝手だな、私。

 レオン様は、少し離れた私をもう一度ギュッと抱きしめる。

「君は初めての感情を、俺に沢山与えてくれた。そんな君が彼女と一緒のはずがないだろう。俺のリリはどんな状態であろうと、あんな事は決してしない。大丈夫だよ」

 乾ききってない涙がまた溢れる。

 この人は、どうしてこんなにも私を甘やかしてくれるのだろう。

 私の所為で三日も倒れる羽目になったのに、、責めるどころかこんなにも幸せな言葉を掛けてくれる。

 貴方が望むような人間になりたい。

 貴方を助けられる人間になりたい。

「……レオン様を、幸せにしたいです」

 私の口から出たのは、とても傲慢な言葉。

 何も持たない六歳も下の子供が吐いた言葉に、この世界で最も尊い方は美しい笑顔で返してくれたのだ。

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