ココリス視点 3
豪華絢爛な王城のダンスホールでは、第一王子であるレオドラン・ブルーナル・リ・リーファルの十七歳にして成人の誕生日会が、盛大に行われていた。
これをもって第一王子は、王太子の座を確定する。
そして国の宝ともいわれるほどの美貌の王子の横には、一男爵令嬢に過ぎない私ココリス・マーガレットが腰を抱かれて立っていた。
目の前にはレオドラン殿下の婚約者リリアナ・フェル・ユーリックが一人でいる。
皆距離をあけ、私達を見守るように事の成り行きに息をひそめる。
レオドラン殿下の婚約者に選ばれるだけあって確かに美しい容姿をしているが、所詮は十一歳の子供。華やかさもなければ知性も乏しそうな、ただの幼い子供だ。
「リリアナ・フェル・ユーリック、本日この時をもって貴方との婚約は破棄する。貴方には落ち度はないが、私はこのココリス・マーガレットを心から愛してしまったのだ」
凛として話すレオドラン殿下の頼もしい姿。
私はレオドラン殿下に寄り添い、潤んだ瞳で訴える。
「リリアナ様、どうかお許し下さい。私と殿下は真実の愛を見つけてしまったのです。これからは私が殿下を支えます」
「ココリス」
私と殿下はそっと見つめ合い、抱き合う。
会場中がわっと喝采に変わる。
「おめでとうございます、殿下。やっと愛する人を見つける事が出来たのですね」
「何て可愛らしいお嬢様かしら。殿下と並んでいるとまるで一枚の絵のようだわ」
「素晴らしい。若き二人に拍手を」
大きな拍手がもたらされ、私達は祝福に包まれた。
「殿下、おめでとうございます。私には貴方様をそのような笑顔にさせてあげる事は出来ません。潔く身を引きます。どうかお幸せに」
そう言ってリリアナは会場を後にする。
私と殿下はもう一度見つめ合う。そして…………はっと目が覚めた。
ここは……?
ボーっと辺りを見回す。薄汚れた壁に埃だらけの家具。破れたカーテンにひびの入った食器。嫌というほど見慣れた風景。そうここは平民時代に住んでいたあばら家だ。
私はリリアナの殺害に失敗し、ここに逃げ込んできた。
あれから一か月。状況はどうなったのだろう。
今のところ男爵家にも何も変化はないようだから、私が関っていた事はばれていないのだろう。そう、証拠は何も残していないのだから。
一度学園の方に偵察に行ってみようか。
後一か月もすればレオン様の誕生日会。先程の夢のような本来のストーリー通りにはいかないにしても、少しは物語補正が出来ているはず。
だって私が〔ヒロイン〕なのだから。
キョロキョロ・キョロキョロ。
学園は相も変わらず、変わった気配は何もない。いつも通りに廊下を歩いてみる。
モブがたまにチラチラと見るけれど、あれはいつもの事。いつも一心不乱に私を見つめてくる男子生徒と目が合った。情報収集にちょうどいい。
私は男子生徒に近づいた。
「こんにちは、ヘラン先輩」
無邪気な笑顔で近づけば、先輩の顔に朱がさした。
「こ・こんにちは、マーガレット嬢。私の事を知っていたのかい?」
「もちろんです。いつも落ち着いていて素敵な方だなあって思っていたんですよ」
ニコリと笑えば挙動不審に目をキョロキョロ、体をソワソワし始めた。
落ち着けよ、おい。
「そ・そんな……はは、そうかな。と・ところでマーガレット嬢はここ最近姿を見なかったけれど、休んでいたのかい?」
「ええ、文化祭の時、頑張り過ぎて足を捻ってしまったんです。やっと普通に歩けるようになったので登校してみたのですが、その時って何かあったのですか? 色々な噂を聞くのですが、はっきりした事が分からなくて、しっかり者の先輩なら詳しい事をご存知かと」
上目遣いで媚びるように顔を斜めで見上げ、両手を合わせて口元に持っていく。
大抵の男はこの仕草でおちる。案の定、この男も顔を真っ赤にして喋りまくる。
「ああ、実は二日目の時にレオドラン殿下の婚約者が、命を狙われる事件がおきたらしいんだ。けど、犯人はすぐにその場で捕まったから問題なかったんだけれど、事故処理と一応安全の為、文化祭は中止になったんだ」
「まあ怖い。犯人すぐに捕まって良かったですね。その後は何も変わった事はなかったんですか?」
「うん、国王様がすぐに終止符を打ったからね。この事件はそれで終わったんじゃないかな」
「そうですか。あ、私用事があったんだ。ありがとう先輩」
聞きたい事は聞けた。私はサッサとその場を後にする。
後ろで先輩が何か言っているが、あんなのに構っている暇はない。
やっぱり私の事はバレていなかった。安堵して顔を上げると、前から二人の男子生徒がやって来た。
「あれ、ココリスじゃないか?」
ノバット様とガリオン様。以前、中庭で怒らせてしまってから距離を置かれていたのに、それを忘れたかのような笑顔。
「最近見かけなかったけれど、私達はココリスに避けられていたのかな?」
ノバット様が苦笑しながら話しかける。私は慌てて否定する。
「いいえ、まさかそんな。私文化祭の時、頑張り過ぎて足を捻ってしまったんです。それで暫く休んでいたので」
先程、先輩に使った言い訳を繰り返す。
「けど、私の姿が見えないとお二人は心配してくれていたんですね。嬉しいです」
私がはにかんだ表情で言うと、ノバット様が「当り前だろう」と私の手を握って見つめてくる。
「文化祭の時に色々あったからな。ココリスは可愛いから、君も変な女に逆恨みされてないか心配になったよ」
あの事件で二人の関心が私に戻ったのね。
やっぱり〔乙女ゲーム〕が本来のストーリーに戻るように〔強制力〕が働いたんだわ。
二人は「今ちょっと時間がないから、また後日ゆっくり話そう」と言って去って行った。
久しぶりにイケメンにチヤホヤされて、頬が緩んでしまう。
私がニヤニヤしていると、背後から声を掛けられた。
「やあ、ココリスさん」
今度はアーノック先生。
「一か月もお休みされて心配していたのですよ。大丈夫でしたか?」
リリアナを貶したと一番怒っていたはずのアーノック先生まで、何もなかったかのように、ううん、以前よりもにこやかに話しかけてくれる。
「はい、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。足を怪我してしまったんですが、もう大丈夫です」
本当に嬉しくなってにこやかに答える。
「そうですか。無事に治って良かったです。元気なココリスさんに会えて安心しました。でも無理はなさらないで下さいね。頑張り過ぎは要注意ですよ」
アーノック先生は私を甘やかすように頭を撫でてくれた。
「今は時間がないので失礼しますが、またお話ししましょう。休んでいた間のお勉強も教えてあげないといけないでしょうし」
はにかんだ様子で話す先生が可愛くて私は「はい」と元気に答える。
そうして去っていくアーノック先生の後姿を見ながら、私は確信した。
〔強制力〕は本当に働いていると。
この様子だともしかして生徒会の攻略対象者達も、態度が変わっているのでは?
私はすぐに皆を探す。けれどその日は残念ながら会う事は出来なかった。けどこのまま強制力が続けばストーリー通りの未来になるのでは?
今日は男爵家に戻ろう。そしてパーティーの準備をしなければ、後一か月しかないし衣装は間に合うかしら?
私はウキウキして帰路に就く。
待ってて、私の王子様。一か月後には貴方の隣に立っててあげるからね。




