二人の視点(ココリス&ルーゼット)
ハアハアハア。
どうにか逃げ切れた。大丈夫。私がいた証拠は何もない。
やはり怒りに任せて計画を早めたのがいけなかったのか……。
ハアハアハア。
息が整わない、目の前が真っ暗だ。手足の感覚がなくなっている。
分かっているわ。力の使い過ぎだ。
ロッドニッドにレオン様の後を付けさせて、私は学園裏の門で待たせていた男に会った。
商家のドラ息子で、平民として暮らしていた頃に手を付けた男だった。
男は魔道具の収集家で、変わった魔道具を沢山持っていた。その中で私が欲したのは、遠くまで覗ける望遠鏡と思った場所に矢を射かけられる魔道具。
男と二人、西棟の屋根に上がり体を密着させてくる男を無視して、レオン様達を望遠鏡を使って覗き見た。
突然、見知らぬ女が悪役令嬢を階段から落とそうとした。
流石に驚きはしたが、私はチャンスを逃さない為、ロッドニッドに指示を出す。
『いけ! 突き落とせ!』
案の定、悪役令嬢はレオン様の手により助けられた。
その場に突っ込んだロッドニッドは、あろうことか女を間違えた。
私は咄嗟の判断で、もう一つの魔道具を発動させた。
矢を悪役令嬢に向けて放ったのだ。
なのに矢はレオン様の手によって助けられた女が、元の位置に戻った為、悪役令嬢の前にいる女の方に当たる事になる。
私はもう一本の矢を射かけようとした。が、それはまさかの悪役令嬢の手によって封じられた。
まさか悪役令嬢が他の女を庇うとは……。
私は一瞬、呆然としてしまったがレオン様がすぐに指示を出している事から、この場所も直ぐに見つけられると判断して逃げようと立ち上がった。
すると私にくっついていた商家の息子が足を滑らす。
あっと思った時には、男は地面に落下していた。
私は咄嗟に魔道具を、男の元に放り投げた。
そうして今、私は平民の時に暮らしていた家に身を寄せている。
ここは私が男爵家に引き取られた後、お母様との思い出を残しておいて欲しいとお願いして置いておいてもらった場所だ。
暫くはここに身を潜め、様子を見るしかない。
ギリッ。
噛み締めた唇から血が流れる。ヒロインの私がどうしてこんな目に……。
全てあの女……悪役令嬢の所為。
あの女が来られるはずのない学園に潜り込んで、わざわざ皆の前でレオン様にくっつくからヒロインである私が可愛いヤキモチを焼いてしまったのよ。
そう、全てはあの悪役令嬢が招いた事なんだわ。
私にこんな事させて、こんなみずぼらしい場所に追いやって……。
だけど今日の件がバレる事はない。
だってロッドニッドには、階段に向かわせる前に私の記憶を消して、自分の意志で動いたと思わせている。人を惹きつける力は、私がこうしてほしいと願った通りにその人を動かせるものだから。
商家の息子はあの位置から落ちたのだ。もし助かったとしても、私の事を話すのは無理だろう。
そして平民時に付き合っていた時も、商家の父親が煩いとの事で、私の存在は一切誰にも話していないと言っていた。私との繋がりはどこにも出てこない。
ほとぼりが冷めたら、もう一度学園に戻ってやり直してやる。
そしてレオン様を手に入れた暁には、復讐してやるわ。この屈辱の何倍もね。
私を……〔ヒロイン〕をここまでコケにした〔悪役令嬢〕に……。
結局、文化祭は中止になった。
当たり前だよね、王子の婚約者が狙われ、死者まで出たのだから。
こんな内容〔聖悪〕で聞いたことはない。いや、もうこの世界は〔乙女ゲーム〕じゃない事は、僕が嫌ってほど分かってたつもりだったのに。
リリが殺されそうになったと聞いた時、僕の目の前は真っ暗になった。
僕の最愛の妹が、せっかく病気を克服してこれからやっと幸せになれる妹が、許さない。
僕は初めて自分の中にあるドス黒いものを感じた。
騒動があった階段の踊り場に一番近い教室で、レオンに抱きしめられている姿を見た時は、安堵の余り倒れるかと思った。
レオンはマルロスの婚約者、ヴァイオレット嬢にリリを託しながら現場の指揮を取っていた。
ミリアルと共にそばに行き、リリの無事を確かめる。
僕もレオンと共に働かなければ、そう思った時レオンがそばに来て、わざわざ僕に謝ってくれた。
レオンが謝る必要なんてどこにもないのに。僕はそんなレオンにお礼を言うのが精一杯だった。
流石にリリも今日は寝台の中だ。
一日あけた今日は、文化祭は無くなってしまったが、生徒会の僕達は現状把握の為、生徒会室に集まっていた。
今も尚、学園内は兵士達が右往左往しているが、国王様が一応の終止符をつけた。
「俺は黒幕がいると思っているけれどね」
そう言い放つのは、眉間に皺を寄せたレオン。
一睡もしていないだろうに、その美貌は衰える事はない。美形って本当に凄い。
「第一の犯行はテレノア・ガレットによるもの。リリに殺意を持って階段から突き落とした。動機は嫉妬。本人も認めている。第二の犯行はロッドニッド・バロットによるもの。ガレットを階段から突き落とそうとした。殺意はなく、あくまでレオンとリリが目の前で害されそうになった為、忠誠心からくる咄嗟の行動と本人は言っている。第三の犯行は西棟裏の林で死んでいた男。クールドカンパニーの息子、ルナン・クールドと判明。ガレットを矢でい殺そうとした疑い。西棟の屋根に足跡が残っていた処から犯人である確率が高い。そして死因は逃げようとして屋根から滑り落ちたものだと考えられる。尚、ガレットを狙った動機は不明。そんなところかな……」
レオンにもらった資料から僕がまとめて言うと、トーマスが頷く。
「国王が一応の終止符を出したのには、納得がいくね。全ての犯人が捕まっているのに、これ以上長引かせるのは得策じゃない」
「だけどクールドの動機がさっぱり分からない」
「それを言うならバロットだって怪しいよ。あいつがそんなにレオンに忠誠心があったなんて思えない」
マルロスとセルが問題要素を取り上げる。
「俺もバロットが本当の事を言っているとは思えないが、取り調べをしている騎士からは、嘘を吐いたり隠し事をしているようには見えないとの報告を受けている」
う~ん、と皆が首を捻る。
犯人は捕まっているが、結局のところガレット以外の犯行の原因は謎のままなんだ。
ガレットが狙われたのは十中八九、リリと間違われたからだとは思うのだが……。
正直もやもやする。リリが命を狙われたというのに、これで終わりなのか?
「――バロットの記憶が消された」
……レオン?
腕を組んで考えこんでいたレオンが皆を見る。
「バロットの記憶が書き換えられた。そうすれば嘘も隠し事もなくなる」
「それって……精神系の魔法……ピンク頭?」
「ガレットはリリと間違えられた。奴ならリリを狙う理由がある。そして平民育ちの奴ならば平民のクールドと繋がりがある可能性は十分にある。と思わないか?」
まさか〔ヒロイン〕がそこまでするのか?
「人の人格も命も何とも思っていない人間がいるんだよ、ルー」
「………………」
僕の知らないレオン。踏み込めない領域。だけどレオンがこんな所で引き下がるはずがない事は知っている。
「……何から調べればいい?」
「国王が終止符を出してしまっているから、後は事務処理だけだろう?」
「僕はレオンに聞いているんだよ」
「………………」
ガバッ!
トーマスがレオンに抱きつく。
「僕達はレオンの手足だからね」
「個人的に調べるだけだから、国王様を蔑ろにしているわけじゃないし」
「自由に使えよ。その為の俺達だろ」
セルとマルロスが続く中、レオンが皆の顔を見つめる。
「……その為のお前達ではないけれど、そうだな。あんなに下準備して頑張った最後の文化祭。駄目にしてくれた仕返しは生徒会全員でしたいよな」
ニィッ。いつもの僕達の悪巧みの笑顔。
僕達は幼馴染。やんちゃな事はいつも五人でやっていた。だから納得するまで五人で動こう。
ここは現実の世界なのだから。




