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悪役令嬢は病弱令嬢 王子様は悪役令嬢を囲いたい  作者: 白まゆら


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レオドラン視点 5

 はっきりとした殺意を感じる。

 いつもと違う学園内。貴族学園とはいえ、貴族に付き従える侍女や生徒に商品を提供して、生徒の店として関わっている商人も顔を出しているので、この三日間は多数の人間が出入りしている。

 無論、出入りの者は前もって名簿を作成し、入場証明書を一人ずつ発行。それがなければ出入りは不可としているし、門では生徒からの招待状がなければ入場できない仕組みになっている。その招待状の裏には入場する者に必ず事前に署名してもらっている。

 警備も城から生徒や招待客の邪魔にならないように、兵士を五十名ほど城から派遣している。

 リリとセルと作った魔道具もあれから三十程作ってもらい、設置した。

 警備は万全。のはずなのに、一向に減らない殺意。やはり学園内の生徒によるものなのか……一緒に行動しているマルロスも気付いているようだ。

「レオン、充分注意を」

「分かっている」

「あら、どうしたのかしら?」

 マルロスと周囲を気にしていると、リリが階段横で蹲っている女性を発見した。

「レオン様、ちょっと行ってきます」

「駄目だ」

 不用意に近づこうとするリリの手を掴む。

「え?」

 リリは不思議そうに俺を見るが、用心に越した事はない。

「私が行ってまいります」

 リリの侍女が、主人の代わりに様子を見に行く。

「レオン様?」

「リリ、不用意に知らない人間に近づいてはいけないよ。俺達の今の立場は話したよね。今ここには様々な人間がいる。リリが蹲っている人を心配する気持ちは分かる。だから放っておく事はしないが、今のようにリリが行動するのではなく、周りの人間に頼るように。そうしてくれないと俺は心配で気が気じゃないよ」

 リリの目をじっと見つめてそう言うと、しゅんとして「申し訳ありません」と素直に謝った。

「怒っているんじゃないよ、俺がリリを好きすぎるだけ」

 顔を真っ赤にしたリリは「二度としません」と約束してくれた。

 もっと自由にさせてあげたいけれど、今の状況では仕方がない。

 そうしていると侍女が戻って来た。

「突然目眩がして立てないそうです。ここの女生徒のようですが、いかがいたしましょうか?」

「マルロス、救護班に連絡して来てもらってくれ。ここの生徒なら保健室で寝かせていれば、家の者が迎えに来るだろう」

 マルロスに通信魔道具で連絡を頼む。

「救護班の方が到着するまで、一緒にいてあげてもいいですか? その、体調を壊すと不安でしょうから」

 リリは自分が苦しんでいた分、体調不良の者を放っておけないようだ。気持ちが分かるからなんだろうけど、優しんだよな。

 俺はこれ以上、否定する事が出来なくて充分注意するよう言い含め、リリと一緒に全員で女生徒に近づく事にした。もちろん、リリと手を繋いだまま。

 そばによると、リリが俺より一歩前に出る。

「大丈夫ですか?」

 その瞬間、女生徒がリリの手を引き、階段の方に押し出した。

「死ねえ!」

 明白な殺意。

 俺とリリは手を繋いだまま、俺の方に引くのは簡単だが、遠心力で階段の方に体重が行っている以上、リリの華奢な腕が無事にすむはずがない。

 俺は咄嗟にリリを抱きしめ、一緒に階段の方に落ちる。が、同時に風魔法を展開させて、自分達を宙に上げる。

 周りにいた全員が息を飲む。そうして唖然としている皆の前で、元の位置に戻る。

 蹲っていた女生徒はテレノア・ガレット。

 成程、以前俺が皆の前で怒りを露わにして以来、俺からの罰はなかったものの立場は弱まり、丁度父親のガレット侯爵の悪い噂も流れ始め、居場所がなくなった。

 その逆恨みか、安易な事を……これで彼女は侯爵家もろとも没落する。そう考えた時……。

 ドンッ!

 どこからか現れた男がガレットを階段から突き落とした。

 現状を理解する前に俺はもう一度、風魔法を使う。

 ひゅん!

 続いて矢が射かけられる。元の位置に戻ったガレットに向かって……。

 何だ、これは?

 俺はガレットに使っていた風魔法を矢に向ける。

 間に合わない。

 パシンッ!!

 それは一瞬の事。

 ガレットに向かった矢は、リリがかざした闇魔法〔防御〕によって跳ね返された。

 …………………………。

 皆が沈黙する中、俺はリリを抱きしめる。

「リリ、よくやった」

「……レオン様」

「ボーっとするな! この男を確保。矢が放たれたのは、そこの階段窓からだ。西棟の屋根を探せ。まだ犯人がいるかもしれない。各自騎士、兵士、警備班に連絡を。それ以外の者は命令があるまで動くな」

「はっ!」

 全ての者が慌ただしく動く中、俺は腕の中で震えるリリの背を撫でる。

 怖かっただろうに……。

 俺でさえ理解するのに時間がかかった事態に、命を狙われた後の咄嗟の判断。なんて……なんて……凄い子なんだろう。

「……どうして?」

 護衛に押さえつけられて床に座っているガレットが、畏怖の表情でリリを見上げる。

「わ・私は貴方を……こ・殺そうとしたのに。ど・どうして……何故……私を助けたの?」

 リリが彼女を見る。俺はリリを抱きしめる腕に力を込める。

「リリ、相手にしなくても……」

「どうしてよ! どうして貴方が私を助けるの? 誰も助けてくれなかった。誰も私に寄り添ってくれなかった。なのになんで、私を貶めた貴方が私を助けるのよ!」

「え? 私が貶めた?」

「リリ、聞かないでいい。こいつは逆恨みをしているだけだ」

 目が血走り、明らかに異常をきたして怒鳴り散らすガレットからリリを遠ざける為、俺はその場を後にしようとする。

「何でよ。待ちなさいよ。私は貴方の妻に、王太子妃になってあげようとしただけじゃない。私ほど王太子妃に相応しい女はいなかったのよ。それを貴方が汚い手を使って奪った。まだガキのくせに。彼を満足させる事も出来ないくせに。私は彼を……」

「いい加減に……」

「貴方はレオン様を愛していないの?」

 俺が黙らせようとすると同時に、リリが不思議そうな顔でガレットを見る。

「な……によ、何よ、愛って。ちゃんと愛してあげているわよ。殿下の地位も容姿も。私に見合うものを持っている彼を、ちゃんんと愛してあげているじゃない。貴方こそ……」

「私の愛とは違いますが、貴方もちゃんとレオン様を愛していたのですね。良かったです。少し冷たい言い方に聞こえたので安心しました。私もレオン様を愛しているので同じですね」

 パンっと手を叩いて笑顔で言うリリ。

「…………」

 ガレットを押さえつけている護衛も、息をひそめて見ていた周囲の奴らも、皆別の意味で沈黙する。

「私、八歳の時に天蓋越しで誰かも分からないレオン様に恋したんです。最近その方がレオン様だって分かって、私に王族なんて無理だしどうしようかと悩んだのですが、どうしたってレオン様のそばにいたいから、頑張る事に決めたんです。貴方が仰るように私はまだ子供です。それによってレオン様に迷惑もかけるし、我慢もさせてしまうでしょう。けれど少しでもレオン様に私をそばにおいて良かったと思っていただけるように、精一杯頑張ります。レオン様は素敵な方だから、思い焦がれている方も沢山いるでしょう。そんな皆様の分もレオン様のお力になれるようになりますので、今は無理でもいずれ認めて下さると嬉しいです」

 ニッコリと笑うリリは、やはり天使だ。

 俺は赤くなる頬を必死で抑えて、リリの頭を撫でる。

「あ~、リリ。ありがとう。けれどそんなに頑張らなくても大丈夫。俺は今現在、君がそばにいてくれるだけで大満足だ。そのままのリリが大好きだよ」

 いつの間にか震えが収まった体で、リリが抱きつく。

 そんな俺達を唖然とした表情で見ていたガレットが、何かを呟く。

「――殿下の地位でも……容姿でもなく、好きになったというの?」

 凄く小さな問いかけだったにも関わらず、リリはしっかりとガレットを見据える。

「はい。だって皆様もご存知のようにレオン様は外見も素敵だけど、中身はもっと素晴らしい方ですもの。それは王子として育ってこられた環境も素敵なご尊顔も合わせてのものだとは思いますので、全く関係がないかと問われれば違うかもしれませんが、それでも最初に会ったレオン様の顔も地位も知らなかったのは、本当です」

 …………………………。

 ガレットは大きく目を見開き、穴が開くほどリリを見続けていたかと思うと、突然下を向いた。

 そして力なく「罪を償います」と言って立ち上がった。

「最後に教えて。もう一度聞くけれど、どうして貴方は自分を殺そうとした私を助けたの?」

「だって、誰だって痛いのは嫌じゃないですか」

「は?」

 …………………………。

 リリ、長年痛みに苦しんできた君がそう言うのは分かるけれど、今の状況は……。

「フフ……アハハハハハ」

 ガレットが突然、大声で笑う。

 とうとう壊れたか? そう思ったが違う。

「そうよね。誰だって嫌よね……私はそんな事も分からなかった」

 目に涙を溜めながら、真っすぐにリリを見つめる。

「自分さえよければよかったの。誰が傷つこうと苦しもうと……誰かの為に頑張ろうなんて事考えた事もなかったわ……それを、分からせてくれて……ありがとう」

 その表情はつきものが落ちたかのように晴れ晴れとしている。

 兵士に引き渡されて歩いて行くガレットの後姿を見送り、俺はガレットを突き落とそうとした男を見た。奴は確かロッドニッド・バロット。この学園の生徒で男爵家の嫡男だ。

 目が合った俺にロッドニッドは兵士に押さえつけられながらも、足元に縋り付いてきた。

「殿下、殿下、助けて下さい。俺はただお二人を害そうとした女が許せなくて、それでついあんな行動を……忠誠心からなんです。誰かに頼まれたわけでも、ましてや女を間違えた訳でもなくて……」

 女を間違えた? 誰と?

 俺は男の襟首を掴もうとしたが、俺の中にいるリリが怯えたように俺の服を掴んだ。

 リリも気付いたか?

 女を間違えたと言った。それはリリと間違えたのだと……。

 俺はこれ以上、リリを怯えさせない為に男を連行させた。後でしっかりと聞いてやる。誰に頼まれたのかも……。

 それから生徒会のメンバーがやって来た。女性陣にリリを託し、マルロスには先程騎士団の指示に回ってもらったから、ルーとトーマスに学生達や学園祭に来ている来客者の収拾を任せ、セルと二人で教師陣と連帯し、全体の指揮を取る為、動き出す。

 その前にリリを抱きしめるルーの肩を叩く。

「リリを危険な目に合わせてすまなかった」

「……守ってくれて、ありがとう」

 話したいことは山ほどあるが、とにかく動かない事には終わらない。

 俺達は各自の仕事に取り掛かった。

 そうして生徒会室で指揮を取っている俺の耳に、西棟の裏にある林の茂みに男の死体が見つかったという報告が届いた。

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