グロッセル視点 1
私は産まれた時から恵まれた容姿をしている。
金髪碧眼というのは目立つらしい。どこに行くのも注目の的。皆が私を見て相好を崩す。
両親もそんな私が自慢で、どこにでも連れて行った。その結果、兄二人に陰湿ないじめを受ける事となる。
今思えばそれは仕方がない事だったのかもしれない。
当時、両親や屋敷の者は私ばかりを可愛がり、兄二人には一切の関心を示さなかったのだから。
そして私はその華やかな見た目にそぐわない性格をしていた。人見知りが激しく内向的で、注目を浴びるたびに逃げたくて仕方がなかった。笑顔何てどうやって作ればいいのか分からなくなった時、父上に城に連れていかれた。
アンティーク調の家具が並んだ大きな部屋に通された私は、ソファに二人で並ぶ。心なしか父上も緊張しているようだ。
だんだん怖くなってきた私は、震える手を押さえながら俯いて必死に耐えていた。
扉の開く音がして、弾かれたように父上が顔を上げる。
「これはこれはレオドラン殿下、ご機嫌麗しゅう。本日は愚息を連れてまいりました」
え? レオドラン殿下? その名は聞き覚えがある。確か両親が話していた。〔完全無欠の王子様〕黒髪にアンバーの瞳。
金髪碧眼の正統派美形顔の私に対し、彼は落ち着いた色合いのわりに絶対王者の威厳と美しさを併せ持っているという。
私は恐る恐る顔を上げる。
そこにいたのは――何が落ち着いた色合いだ。艶やかな黒髪は存在感を増し、アンバーの瞳は何者をも引き寄せる。わずか六歳にして完璧な美貌。
こんな方が同じ人間でいるなんて……。
「……神様……」
私がポツリともらすと、そのアンバーの瞳が少し驚いたように丸くなる。
そうして殿下と共に、隣の部屋に連れていかれた私は、他に三人の同じ年の貴族の子供と会う。
皆とても整った顔をしていたが、その中の一人がとても可愛かった。
ゆるいウェーブの銀髪に翡翠の瞳。天使かと間違うばかりの愛らしさに『この子なら私の横にいても引けを取らないし、反対に私の容姿が薄れるかも……』そんな打算的な考えが頭を過り、気が付けば行動に出ていた。
「私はグロッセル・ラナ・イーグル。可愛いお嬢さん、お名前をお聞きしても」
大人の行動の見よう見まねで、その子の手を取り紳士的にありったけの勇気を総動員してとった行動は……とっても馬鹿なものだった。皆驚いて私を見る。そりゃあ、びっくりするよね。
だってその子は男だったんだもの。
服装を見ればちゃんと分かったのに、なぜかその時は気が付かなかった。
子犬のようなクリッとした大きな目をした小さな男の子が、私を揶揄ってくる。
騎士然とした正義の味方のような子が間に入って庇ってくれるが、一向に収まらない。
私はいたたまれなくなって、つい殿下の後ろに隠れてしまったんだ。私よりも数百倍美しい彼なら、私を隠せるんじゃないかと思って。
皆が帰る中、私は最後まで残った。何となく先に帰ってしまったら、私の噂話をされてしまうんじゃないかと不安で……。
父上が来るのをソファに座って待っていようと歩き出した時、殿下が私の手を握る。
ドキッとして殿下を見ると、そのまま何も言わずに引っ張っていかれた。
外に出て、森の中に入る。少しして細長い塔のような建物が見えてきた。
「こっち」
彼は私と手を繋ぎながら、中に入っていく。
その塔は誰も使っていないのか、少し埃っぽくはあったが、外の光が窓から入って幻想的な空間を作り上げていた。
上の方まで上がっていき、一つの扉の前に立つ。
「ここ一番広いから」
中に入るとそこは掃除がいきとどいた小さな部屋だった。
物置部屋なのか荷物が所狭しと並んでいる。殿下は布が敷いてある場所に私を座らせてくれた。
「……嫌な事があった時、ここに来るんだ」
「え?」
嫌な事って……この神様のように美しい殿下が……?
「誰も来ないから、大丈夫だよ」
そう言われた時、私は訳も分からず泣きたくなった。
嫌な事……嫌な事……この見た目が嫌だ。好奇心に満ち溢れた気持ち悪い目が嫌だ。私をいじめる兄達が嫌だ。私を必要以上に溺愛する両親が嫌だ……人が怖くて、挙動不審で弱くて泣き虫な自分が何より一番嫌だ!
私はただ泣き続けた。
涙は後から後から溢れてくる。
殿下は傍にあった黒い布を私の頭からすっぽりと被せ、ただ黙って隣に座った。
初めてだ。人前でこんな風に泣くなんて……。
暫くしてようやく涙が引っ込んだ時、甘い優しい香りが鼻をくすぐった。鼻水で鼻は利かないはずなのに、何故かその香りはちゃんと匂う。
私は顔を上げてその正体を確認しようとした。
「え?」
私は自分が見たものが信じられなく、瞬きを繰り返す。ここは建物の中なのに、どうして花弁が舞っているのか? 思わず隣の殿下を見ると、優しい微笑みで私を見ていた。
ドキッ!
そんな綺麗な顔で、そんな優しい顔……。
私はなぜか顔が赤くなっていくのを押さえられなかった。
「特別な魔法だよ。幸せになる為に」
幸せに……。
それから殿下は黒い布を被せたままの私の手を引き、城に戻っていく。
その頃にはすっかり涙も乾き、待っていた父上に号泣された。
それから私はあの時見せてもらった殿下の魔法が忘れられなくて、次第に魔法に没頭していった。
魔法使い然とした黒いマントを被り、日がな一日部屋に籠って怪しげなモノを作る私に、家の者は次第に距離を取り始めた。楽だった。人目をしのげるのがこんなにも楽だったとは。
私が唯一部屋を出るのは、レオンに呼ばれた時だけ。
あれからすぐにトーマスも謝ってくれて、レオンを始め三人とも仲良くなった。
皆、私が怪しい姿をしていても面白がりはするものの、非難はしない。
ただ一度だけレオンが真剣な顔で、私の両手を握り言った事がある。
「俺はセルがどんな姿をしようが気にしない。セルはセルだ、けれど中には見た目だけで侮る奴がいる。そんな奴に俺の大事なセルを馬鹿にされるのは、我慢ならない。公式の場だけでいい。マントを脱いで身なりを整えてくれ。その時はそばにいる。俺が無理ならば三人の誰かに必ずついててもらう。約束しよう。ちゃんと守るから戦う努力をしよう。俺はセルにはずっとそばにいてもらいたいから」
ドキドキドキ……。
心臓が早鐘を打ったかのように激しく鳴り響く。
私の初恋はルーだと皆誤解している。それでいい。だってこんなの誰にも言えない。
初めて会った時に強烈に叩き込まれた。完全なる美と優しさを。
成長するにつれて淡い恋心は、憧れへと変わっていく。
そうしてそんな彼にも運命の人が現れた。私が君と出会えたように。
彼女は本当に君の運命の人。二人は光と闇の魔法保持者。
昔、私を助けてくれたように、今度は運命の人の為に動く。
そんな君の手助けが出来れば、私はどんなに幸せなんだろう……。




