マルロス視点 1
俺は三歳から剣を握っている。
近衛騎士団団長という父の影響だ。俺自身も騎士を目指している。
「将来、お前が忠義を尽くし、お守りするお方だ」
そう言って父に紹介されたのが、第一王子の〔完全無欠の王子様〕。
その通り名は知っていたけれど、まさかこんなに美しい方だとは思っていなかった。ただ、余りにも完璧な美貌の前には、何故か作り物めいた感じが否めなかった。
その空気を壊したのがセル。
揶揄うトーマスを騎士の正義感で必死に宥めた俺は「フフフ……ハハハハハ」と大口あけて笑うレオンを見た。
ああ、大丈夫だ。この方にならついて行ける。素のレオンを見た俺は、素直にそう思う事が出来た。
それから暫くしてレオンは何かに怯えるような態度をとるようになった。
普段の態度からは誰も気付かない。素を知っている俺達だから……お守りするお方だと思って、ずっと見ている俺だから気付いたんだと思う。
「レオン、俺に何かできる事はない?」
一度思い切って聞いた事がある。レオンは本当に完全無欠の王子様で何でも一人でこなしてしまう。悔しいが剣だって俺は敵わない。
ただ、レオンは本気で相手をしてくれる。一度だって手を抜いた事がない。それが俺にはとてつもなく嬉しい事だった。
楽しい事は皆でいっぱいした。子供だから許される馬鹿な事も……けれど、レオンを助けた事は一度だってないんだ。
真剣な俺に一度はキョトンとしていたレオンが苦笑をもらす。
『あ、この顔……』
「大丈夫だよ。ありがとう、マルロス」
何故か俺は自分の不甲斐なさが無性に腹立たしかった。
何かあったかなんて知らない。何かがあった確証もない。それでも俺はレオンの力になりたかった。あんな表情をさせたかった訳じゃないんだ。
そんなレオンが恋をした。
これまた驚くほどの美少女。婚約者のいる俺でも、つい声を掛けたくなってしまう程の可憐な少女だ。
レオンと並ぶと一枚の絵画のような、完璧なる美を作り上げてしまう。
信じられない。あのレオンがあんな甘い顔をするなんて、それだけでも賛成に値する人物だったが、彼女はルーの妹。元より身内じゃないか。
俺は手放しで喜んだ。
ああ、レオン。良かったな。俺は君のそんな顔が見たかったんだ。
彼女の誕生日会。レオンが〔花の妖精〕と例えたけれど、本物の妖精がそこにいた。会場中が溜息や感嘆の声をあげて、彼女を見ている。
彼女が父であるユーリック公爵と挨拶周りをしている中、誰もが皆頬を染めて彼女を見る。
「チッ!」
「え?」
レオンから冷気が漂ってきた。
「レ・レオン。氷の魔法使ってないよな?」
「……使ってない」
「何でそんなに機嫌が悪いんだ? 愛しのリリの誕生日だろう。めちゃくちゃ可愛いじゃないか」
「リリは可愛い。それはいい。素直で純粋で素朴で無防備だ。あ、あいつ、リリの胸見た。よし、殺す。確か奴はホップ子爵の嫡男だったか……」
「待て、待て、待て、待て」
本気で殺しそうな勢いのレオンを必死で止める。
「どうしたんだ、レオン? リリは本日の主役だしあれだけ可愛いんだ。多少見るのは当たり前だろう」
「見るな! 触るな! リリが減る!」
「減るわけないだろう。おいおい、本当にどうしちゃったんだよ、レオン」
レオンの余りの言い草に俺が止めるとと、不貞腐れた表情を取り繕いもせずレオンが言う。
「本当はお披露目なんて嫌だったんだよ。リリはユーリック公爵家でずっと守られていた。悪意を知らない。無防備なんだよ。あれだけ可愛くて無防備なリリの存在を知られて、しかもユーリック公爵の家柄だぞ。悪意の塊で近づく奴が一気に増えるのは確実だ。せめて俺の婚約者になってからなら堂々と守ってやれたんだけど、今の状況じゃ難しい。まあ、王家から派遣した護衛を今日から倍にしているし影もつけた。暫くは大丈夫だとは思うが、やはり確かな安心が欲しいな。後でリリは俺のものだって印象はしっかりつけておかないとな。協力してくれよ、マルロス」
「……あ、王家の護衛、倍って……影って、リリはまだ婚約者じゃないよな」
「ああ、だからそれだけしかつけられなかった。婚約者なら三倍は確実につけられたのに。それにリリのあの可愛さなら護衛すら安心じゃないかもしれない。やはり俺の魔法で……ブツブツブツ」
後半は何を言っているのか分からなくなった。
レオン、やばいよ。やばい人になってるよ。
どこかの国の言葉で、恋は盲目とは言うけれど、完全無欠の王子様のあのレオンが……誰にでも公平で……いや、誰にも興味のなかったレオンがこんな風になるなんて……ククッと俺はつい声に出して笑ってしまった。
レオンがジト目でこちらを見る。
「何だ、マルロス? 何がおかしい?」
「いやいや、何でも。俺に何かできる事はあるか?」
八年前に言った言葉を繰り返す。
レオンは一瞬、キョトンとした顔をしたが、すぐにニヤリとした顔が返ってきた。
「ああ、俺にはお前が必要だ。これからも働いてもらうぞ、マルロス」
「了解、我が主」
……八年前には返ってこなかった答えが返ってきた。




