二人の視点(レオドラン&リリアナ 2)
―― 美しい ――
目の前には花の妖精がいた。明るい琥珀色のドレスは、襟ぐりが少し広いがレースで幾重にも重ね、露出の少ない上品な仕上がりになっている。細い腰には小ぶりなリボンが付いていて、腰より下のスカート部分にはパールと色とりどりの生花が散りばめられている。
ハーフアップした銀の髪にも、スカート同様パールと生花が散りばめられ、小ぶりのパールのネックレスとイヤリングを身に着けた可憐さが、会場中の注目を一心に集めている。
主催者であるユーリック公爵が挨拶した後、妖精が完璧な淑女の礼をする。
一通り挨拶が終わったのを待ち構えて、俺は本日の主役、俺の天使に声をかける。
「お誕生日、おめでとう。リリ」
「あ・ありがとうございます。殿……レオン様」
「とてもよく似合っている。花の妖精が舞い降りたのかと思ったよ。リリの品の良さや、内面の美しさ、可憐さが良く表れていて、会場中君に釘付けだ。こんなに大勢の前に出たのは初めてだったんだろう。お疲れ様。よく頑張ったね。堂々としていて立派だったよ」
余りの美しさに少し興奮していたのかもしれない。捲し立てる俺に、リリは真っ赤な顔をする。
「あ・あの、ドレスとアクセサリーありがとうございます。ちゃんとしたドレスを着るのも初めてだったのですが、それがこんなにも可愛いドレスで……花飾りも本物だなんて……朝一番でお針子さんが王室から持ち込まれて驚きましたが、まさかこんなに素敵なドレスになるなんて……」
「リリの初めてのドレスが贈れたなんて、私は国一番の幸せ者だな。気に入ってくれて嬉しいよ。ドレスのイメージは、君と初めて会った日が庭園で、その時花々に囲まれた君が天使に見えたから。でも、こうして生花を飾ると花の妖精になるね。ああ、本当に可憐だよ」
「あ・あ・ありがとうございます。あの、あの、私ちゃんと皆様にご挨拶出来ていたでしょうか? 本当は凄くドキドキしていて、実は今もまだ落ち着かないんです」
「そうなの? 凄いなあ、リリは。全然そんな風に見えなかったよ。あれだけ出来れば何も問題はない。もうどこに出しても恥ずかしくない立派な淑女だ。ああ、でもそんなに緊張しているなら少し休んだ方が良いかもしれないね。二人でテラスにでも行こうか?」
さり気なくリリの腰に手を回す。
ガシッ!
「ボ・ク・タ・チ・モ・イ・ル・ン・ダ・ヨ」
青筋立てた笑顔のルーに邪魔された。チッ、応援してくれるんじゃなかったのか?
「応援するにしたって、いきなり僕達の存在無視して、二人きりでテラスに行くのは違うでしょ」
ルーが俺の心の声を読んだ。恐るべし……。
「お兄様、申し訳ありません。私が殿……レオン様に甘えて落ち着かないなんて言ってしまったから、優しいレオン様が気を使って下さったのです」
「……ああ、リリは本当に穢れなき天使だよ。レオン、お願いだから結婚まではリリを天使でいさせて」
「早く俺だけの天使にしたいんだけどな」
俺の発言にサァーっと青い顔したルーの横で、ミリアル嬢が頬に手を添えて溜息を零す。
「ルーを通して少しは親交を持っていただいていたつもりでしたが、レオドラン殿下はこのような方でしたのね。リクル様の誕生日会より以降、少し驚いております」
「あ・あの、私達もその……何と言うか殿下のそのような甘いお顔、初めて拝見いたしましたわ」
ねえ、とばかりにマルロスの婚約者ヴァイオレット・ヌーブル伯爵令嬢が、セルの婚約者シーラ・バレット子爵令嬢とトーマスの婚約者ファン・ルミーナ・エリオル伯爵令嬢に話をふると二人共凄い勢いで首を縦に振る。
「お見苦しいですか?」
わざと王族スマイルでそう言うと「いえ、いえ」と今度は首を横にふる。
「確かに驚きはしておりますが、嬉しい気持ちの方が勝っております。そのようなお顔が出来るお相手と殿下がお会いされた事は、一臣下である私達にとっても大変喜ばしい事ですから」
ニコォ~と四人の幼馴染の婚約者から生暖かい笑みがくる。
親友の婚約者達は、本人同士も仲が良く他の女達とは少し違うと思っていたが、本当に違っていたようだ。今の言葉は心からの言葉なのだろう。
少し照れ臭く感じながら王族スマイルは崩さずにお礼を述べる。リリ以外の女性に素顔を晒す気はないからな。
「改めて誕生日おめでとう、リリ」
トーマスが陽気にグラスを傾ける。
俺がリリに果実水を渡すのを確認してから、皆が改めて乾杯した。
「おめでとう」
リリは少し驚いた様子だったが、次に花が綻ぶような笑顔になる。
「ありがとうございます」
ぶわあぁぁぁ~!
その場にいる殆どの人間が崩れた。やっぱり俺のリリは天使だ。
「ミリアル様は、リリアナ様とは以前から親交がおありでしたの?」
ファン嬢がミリアル嬢とリリに話しかける。
「初めてお会いしたのはリリアナ様が五歳の時でしたかしら。会えても余り長い時間はお話出来なかったので余り深くは……けれど最近はとても元気になられて、お話も沢山出来るようになったので、仲良くなったのはここ最近ですわよね」
ミリアル嬢がパチッとリリにウィンクする。リリはうっすらと頬を染めてコクンと頷く。
各婚約者達は、それぞれの相手からリリの事をそれとなく聞いているようだ。内情を知っている同性がいる事は心強いだろう。
しかし、一々リリの反応は可愛らしい。白い肌がピンクに染まる姿は、何とも煽情的で人目を引く。
「「「キャー♡」」」
俺が邪な気持ちでいると、女性達の叫び声が聞こえた。
マルロス、セル、トーマス、耳を押さえているが、お前達の婚約者だからな。
「ああ、リリアナ様はトーマスから聞いていた以上にお可愛らしいわ」
「私ともお友達になって下さいませんか?」
「あら、それなら私も」
「え?」
三人にずずずいっと近寄られて驚くリリ。怯えてないよな? 助けに行った方がいいか?
しかし、上目使いで三人をチラリと見ながらも口元は弧を描く。
「……お友達……ほしいです。屋敷の者以外と殆ど話した事がなくて、失礼なことをしてしまうかもしれませんが……なって下さいますか?」
「も・もちろんです。もちろんですわ」
「ああ、お人形さんみたい。何て可愛いの」
「よろしくお願いします。リリ様とお呼びしてもよろしいですか?」
キャッキャウフフと女性五人が盛り上がる。
せっかくのリリの誕生日に忘れられてる感じが癪で、ついリリの腰をひく。
「良かったね、リリ。お友達が沢山できて」
耳元で囁いてみると、くすぐったそうにはにかみながらも「はい」と答える。
あああ、こんな可愛い表情が見られただけでも、今日は参加して良かった。
「……ルー、意外とレオドラン殿下って心が狭いのね」
「意外じゃなくて本当に心が狭いんだよ。リリが絡むとね」
ミリアル嬢もルーのアドバイスのお蔭で、着実に俺という王子を理解し始めている。
将来リリの姉になる身としては良い事だ。
今日は夢のような一日だったわ。
お兄様が一週間前にいきなり、レオン様からのプレゼントだと言ってドレスを渡してきた時は驚いた。お父様が用意して下さっていたから断ろうかと思ったのだけれど「取り合えず開けてみて」と言われたので開けると、光沢のある奇麗な琥珀色のドレスが入っていたの。
すぐにレオン様の瞳の色だと思ったわ。
それにパールが散りばめられていて、シンプルだけどとてもいい生地が使われているのは、一目で分かった。それにパールも小ぶりながらも大きさは均一で、最高の物を使っている。
どうしようかと考えていたら、お兄様がお父様の了承を取ってくれたと言うので、有難く受け取ることにしたわ。
すると次の日に、王室のお針子さんが三人来て、細かいサイズを直してくれたの。
その時は「一度持って帰って、当日お届けします」との事だったので、不思議に思っていたのだけれど、それを見た時には息が止まるかと思ったわ。それほど素敵だったの。
だって朝一番に摘んだ花をドレスに挿してくれていたのよ。しかも沢山。
誕生日会に来て下さったレオン様にドレスの話をすると、初めてあった時をイメージして作られたドレスだと仰ったわ。
私そんな風にレオン様に思われていたのね。
凄くビックリしたけれど、凄く嬉しかったわ。
どうしてかしら? レオン様と会うと私、凄く嬉しくって、恥ずかしくて、ドキドキするの。
気持ちが高揚しているから体の調子もずっと良くて、今日のパーティーだって皆いつ私が倒れるか気が気じゃなかったみたいだけれど、最後まで何の変調もなく無事に終われたわ。
お兄様のお友達の婚約者の方々ともお友達になっていただいて……お友達なんて初めて出来たわ。
レオン様が良かったねって言ってくれた。レオン様は本当に私の事をよく見て下さっている。
会えば常に傍にいてくれて、頑張っている事もすぐに分かってくれて、私の喜怒哀楽にすぐに反応してくれる。そして欲しい言葉をサラッと言って下さるの。
本当に本当に素敵な方。
私はまだ十一歳で、レオン様から見るとまだまだ子供かもしれないけれど、次に婚約を申し込まれたら……。
もっともっと元気になって健康になったら、レオン様の横に立っても許されるかなあ?




