二人の視点(レオドラン&ココリス)
何だ、今の無礼な一年は?
余りの腹立たしさに、つい乱暴に生徒会室の扉を開けてしまった。勢いのまま自分の椅子に座る。
正直、身分差についてどうこう言う気はない。下位の者でも優秀な人間は沢山いるし、上位の者でも役立たずな豚はもっといる。ある意味、貴族なんてものは阿呆の集まりで出来てるんじゃないかと思ってた時期もある。
だから彼女が元平民で男爵位という事はどうでもいい。
ただ貴族の一員となった以上は、貴族の責任を果たす事はしてほしい。
それなのに彼女は二年もの間何も学ばず、俺に教えろと言ってきた。さも当然のように。
ふざけるな!
健康な体と学べる機会があったのに、努力もせずに他人に甘えるなんて意味が分からない。リリなんて色々なハンデを乗り越えながら、あれだけのものを手に入れたんだ。もっともっとと努力する姿のなんて美しい事か……リリ……。他の女を知れば知るほど、君の素晴らしさが身に染みる。
そういえばあの女、先程俺の事を勝手に愛称で呼んでいたな。学園内じゃなかったら、不敬罪で捕まえてやったのに。でも、リリが呼んでくれたなら……。
あの鈴が転がるような甘く可憐な声で「レオン様」と呼んでくれたなら、俺はどれ程幸福な気持ちになるだろうか。
『レオン様』
「……良いかもしれない」
「何が?」
ガタッ!
想像にふけっているとルーが目の前にいた。
……何だよ、そのジト目……。
「どれほどご立腹かと心配して追いかけてきたのに、レオン様は楽しい妄想の最中だったんだね。失礼しました」
「妄想って何だ。想像だ」
「何となく分かっちゃうのが悲しいな〔レオン様〕」
俺はゆっくりと横を向く。やっぱりルーは俺の事をよく理解している。
「レオン、さっきの子どうする?」
いつの間にか戻ったトーマスが、俺の机に座って聞いてくる。丁度机が片付いていたからいいものを、書類の上に座ったら流石に怒るぞ。
「どうするも……どうもできないだろう。あれは俺が許してはいけない状況だ。あれを許したとなると、こぞって同じ事をして来る奴らが出てくるだろう」
「そうだよねえ、あ~あ、顔はすっごく可愛かったのに。もったいないな」
「しかし、あの残念な頭の中は、顔の可愛さを差し引いてもきついな」
「ああ、マルロスも顔は可愛いと思うんだ」
「単純に可愛いだろう。リリには劣るけど」
「リリは別格です!」
「そうだね、セル。リリの可愛さは比べようもないよね」
「……君達全員、婚約者の存在忘れないで」
三人の会話に疲れたように肩を落とすルー。
こいつら(特にセル)本気でリリを狙ってるわけじゃないよな。後で一人ずつ話をしてみようか、腹割ってじっくりとな。
……おかしい……。
どうして皆優しくしてくれないの?
食堂に一人取り残された私は、パンをもしゃもしゃ食べながら考えていた。
イベント通りこなしているはずなのに……。
私が前世の記憶を取り戻したのは、十歳の時。
ここは前世で私が遊んでいた乙女ゲーム〔聖悪〕の世界。タイトルが異常に長いので、ファンの間ではそう呼ばれていた。そして私はそのゲームの中のヒロイン、ココリス・マーガレット男爵令嬢。
元々は平民として暮らしていたんだけれど、十三歳の時、母が亡くなり父である男爵に引き取られた。
母は男爵の侍女をしていたらしい。
男爵の奥方は痩せていて、優しいけれどとても貧相だった。二人には私より十も年上の嫡男がいて、領地で妻と子供と暮らしているらしい。私を見た奥方はとても可愛い子だと喜んだくれた。
当然よね。私はこの世界のヒロインなんだから。
不細工な血筋に私のような可愛い子が家族になってあげたのよ。もっと感謝すればいいわ。
それにいずれは王子様に見初められて、私は王太子妃、後に王妃となるのよ。
こんな貧相な男爵家が、王族と繋がりを持てるのよ。こんな喜ばしい事はないでしょ。
それなのにあの不細工な奥方、私にマナーを覚えろとうるさく言ってくる。
そんな事しなくても攻略対象者は、私のこの貴族らしくない行動に愛情を感じるのよ。貴族らしくなったら攻略できなくなるかもしれないじゃない。本当に不細工なうえに馬鹿なんだから。
父である男爵は、私の事をとっても可愛がってくれて何でも買ってくれる。
それが当たり前なのよ。
そうじゃなきゃ何の為に、母親を殺したのか分からないじゃない。
そう、私は父親である男爵に引き取られる為に、私を手放さない母親に〔力〕を使って馬車の前に飛び出させたのよ。即死だったわ。
平民では攻略対象者に会う事すら出来ない。何としても貴族の父親に会わなくてはいけない。
攻略対象者に会う為に私はこんなにも努力しているわ。
その私が好かれないはずがない。それなのに……。
靴占いの一件は、五人の攻略対象者と一度に会うイベント。
確かに全員の好感を一気に上げるのは難しいけれど、それでもルーゼット・フェル・ユーリックには効いたはずよ。
ルーゼットは中性的な見た目に少しコンプレックスを抱いている。おっとりとした性格の為、自分とは違う破天荒なヒロインを眩しく思うはず。
『おみ足に触れても?』
そう言って優しく靴を履かせてくれる。
『失礼しました。貴方の足が寒そうで……いや、違うな。私の方がその小さな可愛らしい足を、いつまでも他の人間に見せたくなかったのです』
頬をうっすらと染めながら言うそのスチルに身もだえした。
次に今の食堂での一件。
これは私の一押し、レオドラン・ブルーナル・リ・リーファルのイベント。
王子と言う重責に辛い思いをしているレオン様が、素直で屈託のないヒロインに好感を抱くシーン。
『フフ、そんなに何度も謝らなくていいのに。それよりもこちらにおいで。一緒に食べよう』
『平民であった事を隠しもせず、素直に教えを乞うなんて、君は純粋な人なんだね。私で良ければ何時でも相談に乗るよ』
『レオンと呼んでくれると嬉しいな』
優しく微笑む王子様のスチルに身もだえしたのは言うまでもない。
そうして五人の対象者をまとめて攻略するつもりだったのに……何だが、王子に至ってはマジ切れしていたような気がする。
なんで? どうして??
とにかくイベントはまだまだあるんだし、このゲームではライバルの〔悪役令嬢〕も邪魔しないから、ゆっくり確実にこなしていけば大丈夫よね。
私には力もある事だし……。私は少しずつ力を開放する。
これで大丈夫。全て上手くいくわ。




