祈祷
ぶつかった。
鎖で繋がれている船は、一つの獣のようになっている。正面からぶつかると、ひとたまりもなかった。
「くっ。なんとか側面から回り込め!」
孫権軍は小型の船を生かして、側面に回り込んで対処している。しかし、敵の勢いは凄まじいものだった。
鎖で繋がれている船は、直線しか動くことができない。側面からつこうとするのが最善手だが、それでもかなりの数が巻き込まれる上、こちらの船が沈没するだけなこともあった。
「この戦、こっちの勝ちだな!」
「左慈様。まだ油断してはなりません」
「向こうの将軍である、黄蓋の投降。そして、龐統という稀代の軍師。異世界の人間、これでおしまいだ!」
外で聞いていた夏侯淵は、龐統のところへ急いだ。
「龐統!大丈夫なのか!」
「まだです…まだ…」
「龐統!」
龐統の肩を揺らす。
「それでも!信じるしかありません!これだけの大軍に勝つためには、最後はどうしても運が必要になります!それを待つしか…ないのです!」
「ぐっ…」
「やれることは全部やりました。後は、風が吹いてくれるのを待つだけ…」
「勝利…」
夏侯淵は、空を見上げた。空は、どこまでも広がっていた。
「勝利!まだか!」
孫権が、話しかけてくる。孔明は祭壇で、必死に祈祷をしていた。
「もうすぐだ。必ず、もうすぐ…」
戦の報告が次々と入ってくる。どれも芳しくないものばかりだった。
「くそ、もう風向きがこのままでも、火をかけるしかないんじゃないか!?」
「まだだ!味方を信じろ!君主は君主らしく、ドシッと構えとけ!悩んだり、迷ったりするのは、軍師の仕事だ!」
「…っ!分かったわよ」
話している間も、報告は止まない。
勝利は、孔明に、絶対に成功する雨乞いのやり方を教えただけだった。それは、雨が降るまで雨乞いをする、というものだ。
だから、孔明は倒れそうになろうとも、そして、死ぬまで、祈祷をやめないだろう。
「孔明…!!」
孔明が、手を上にあげる。その時、ハッキリと風向きは変わった。




