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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第六章 追憶の人間たち
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第89話




 「何故です!?戦争と私の家族は何の関係も無いでしょう!?」


 「そうも言っていられん。戦いにあふれた日常の中で、それを行うに邪魔となり得るものは避けておかなくてはならない」


 「…だからといって、家族の自由を奪って良いものではあるまい…!!」


 「安心しろゾレル大佐。家族の自由は今日から君に代わり、我々が保障する。それと、君は准将へ昇進だ。警備司令官としての功績が認められれば、更なる昇進も可能だろう。無論、子供や妻の安全も…」





 …。




 帝国軍太陽系銀河方面防衛艦隊、総旗艦インペリアル。元々彼らの艦隊は、アルファ星系の外縁部に位置する小さな、田舎のような惑星を守るためのものであった。しかし、帝国最高司令官の地位にあるグラーバクの命により、彼らは太陽系方面の防衛を務めることになっていた。アルファ星系回廊。はじめて共和国軍が帝国領に踏み入れた時、その回廊内では名前も知らない、ただ帝国と共和国という名前を掲げた戦士たちが激闘を繰り広げた。多くの艦艇や兵士を失いながらも、お互いは戦い続け、遂には共和国軍の勢いが帝国領侵攻を実現のものとした。本来であれば、その宙域周辺を警備するのが彼らの艦隊の役目ではあるが、現在はこれもグラーバクの指示により、共和国軍主力艦隊を撃滅するための自主行動を取っている。

 太陽系銀河方面防衛作戦司令長官、ゾレル少将。帝国軍の諸将でも指折りの逸材として知られる。常に最前線で指揮を執ることを第一とし、NPCという境遇を考えずに戦いには真剣であった。常に相手よりも先手を取るために、入念に作戦を練る。それに対応してくる敵に対しては、持ち前の判断力と勢いを持って打ち砕く。ゾレルの士気はプレイヤーのそれを凌駕し、NPC兵士たちの間で最も人気があると言っても過言ではなかった。それ故に、上層部からは敬遠されることもあった。



 彼の過去に関わることも、そのうちの一つである。



 「少将、入りますぞ」



 ドアをノックされた。その音にすぐ気付いたゾレルは、手元にあった写真立てを机の上にすぐ倒し、表面を隠した。コツン、と机の鳴る音は、扉を開けて入ってくる参謀長、レムラにも聞こえていた。少しの笑顔で入室してきたレムラは、片手で持っていた紙の束をゾレルに手渡した。その資料の中を少しだけ漁ると、ゾレルはアルファ星系全体の地図を取り出した。



 「エルミア、オーリア、コーネリア…そして、首都星アーリア。いくらでもターゲットには出来そうだな」


 「まぁ、首都星アーリアってのも名ばかりですがな」

 「ふん、確かにな」



 星系地図。帝国領全体を見渡すことが出来るもの。地図、と言えば誰でも分かるものだろうが、この地図では星系内の詳しい座標や位置、航路や所要時間などが詳しく記載されている。シークレットにするような情報でもないが、共和国軍が次にどこへ侵攻してくるのか、という予測は既に立てられていた。このゲームが侵攻をどこまで許容範囲とするのかは不明だが、必ず面白い仕組みがあるとプレイヤーたちは読んでいた。ゾレルは地図上を指でなぞり、そして自分たちが配置についている赤色星団の上で、なぞる指は停止した。



 「回廊ほど、複雑な航路ではない。だが、エネルギー流の規模は回廊の何十倍というところだ」


 「雲海も相当なものですからな。レーダーはまず役に立たんでしょう。でも、そのために機動艦隊に先行させたのでしょう?」


 「そうだ。奴らがここに来るのは間違いない。有視界戦闘になれば、情報艦で集めたエネルギー潮流の位置や雲海を知る我々に分がある」



 共和国軍も、有視界戦闘は既に経験済みであった。しかし赤色星団のそれは、通常よりも濃く厚い。そしてレーダーも使えないうえにエネルギー潮流が吹き荒れ、火力が集中すればたちまち戦艦程度など巻き込んでしまうだろう。ある意味危険な宙域であった。自爆する恐れも十分に考えられている。帝国サイドにいるゾレル艦隊にとって、相手よりも優位に立てる最大の武器というものは、地形や宙域の特徴といった、地理的な部分である。しかし、この優位さは他のものとは比べ物にならないほど大きなものである。

 その昔、ヨーロッパの偉大な戦士が、東に向けて侵略をしていたことがある。ヨーロッパ中を統治するのも時間の問題か、と言われていた名将であったが、彼らにとって見知らぬ土地と極寒の原野という環境は苦痛でしかなかった。敵対する勢力は補給物資を自ら放棄し、名将率いる軍隊が供給できないようにすると共に、その疲弊を待った。勢いだけでは戦争を勝ち抜くことが出来ない。その地形や補給線を確認しておく必要がある。結局、その名将は出征をあきらめ撤退したと言われている。今の共和国の状態がその昔の名将のまま、という訳でも無かったが、何となくそれを彷彿とさせる。



 「ですが、閣下はもうお決めになられたのでしょう?」


 「…?」




 一瞬、その場の空気が止まったかのように、お互いの間に沈黙が生まれた。




 「…覚悟を見せる、と」


 「…はははっ、これは一本取られたな。まさか貴様からそのように話してくるとはな」


 「いやいや、どのぐらい一緒にいると思っているんですか、閣下」



 しかし、その言葉に嘘偽りが一切無いものだと、ゾレルは自分の中でハッキリとさせていた。それはゾレルに限らず、今目の前にいるレムラ参謀長も同様であった。地図から目線を離すと、今度はレムラの目線を見た。レムラは、先程ゾレルが表面を隠した写真立てのほうを向いていた。無言のままで。ゾレルは、自らの手でその写真立てを起こした。その写真に写る、背の高く髪の長い女性と、小さな子供。女性は小さな子供の手を掴んで、美しく微笑んでいる。小さな子供は、無邪気な笑顔をカメラに見せていた。



 「あれからもう、暫くですか」


 「…」






 …。




 「…そうだな、無事に帰ってきたら、一緒に料理でもしよう。皆で一緒に飯を食べるんだ。あの子も、一緒に」


 「…そうですね。あの子も、きっと喜びます…だから…」



 …無事に、帰って来て下さいね…?必ず…絶対に…。




 義のために、戦う。忠実な軍人の一人として、最後の一瞬までその身を削ってでも戦い抜く。何の例外もなく、偽りも無く嘘も無く、ただひたすらに自分のすべきこと、自分そのものを貫き通す。そうすることで、いつかは元あった姿にまた会えるのだろう、そう思っていた。他の誰でもない自分にしかできないことをし続け、正しくもまっとうな道を求め続け、それを成就しようとしていた。かつての自分を取り戻すために、家族と居続けるために。



 「…閣下」


 「私は、紛れもなく帝国に仕える軍人の一人。今は、目前に迫る強敵との戦いに身を躍らせているだけだ。私が陣頭で指揮を執れば、兵たちも心揺さぶられる何かを見つけられるだろう」


 「…そうですな。流石は閣下です」




 しかし、レムラには分かっていた。自分がNPCであるという自覚を忘れたこの男こそ、本当の強き戦士なのかもしれない。だが、それだけではない。あの悲惨な結末を迎えた家族を思い出す男の眼は、確かに『父親』の眼であったのだと。遠い昔のように、遠くを見つめるようにして思い出す過去の出来事は、今となっては色を失った眼のよう。しかしその記憶は色褪せることなく、永遠と残り続けている。その身が業火のもとに斃れる、その時までは。





 Space Fantasy Game

 第89話 ―記憶の、再生―






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