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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第六章 追憶の人間たち
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第86話




 友莉が頭の中で記憶を再生させている、過去の出来事。それを心配するテツと重倉の両名。二人には友莉の過去の細かなところまでは知らない。友莉自身がほかの人に明かしていない、ということもある。なので、友莉がどのような悩みで沈み込んでいるのか、分からない部分も二人にはあった。何とかしてあげられないだろうか、と思えるほど、友莉の様子はいつもとは違った。何も起こらない平穏な日常の中に、彼女は一人まるで別世界にいるかのように、取り残されているようであった。そんな様子を見た重倉でさえ、胸を痛めるほどの心境を持った。だが、テツは言う。重々しく考えすぎたら、今度はこっちも参ってしまうと。テツの言うところは彼女も理解しているつもりであった。この時は、テツのそうした前向きな姿勢が羨ましく思えた。

 その晩。テツはSFGの中には入らず、ただSFGに関わる記事や情報などを自宅で見続けていた。大型アップデートによって実装されたマッチングシステム、コロシアム大会の順位や累計ポイントなどが、公式ホームページなどで盛大に宣伝されている。上位に入れば『ゲーム権利』が増えるだけでなく、それに見合った報酬を受け取ることも出来る。テツも参加しようか、と考えていたのだが、元々このゲームに入ってから戦闘を大して経験していない自分に、そのようなことが出来るのだろうかと疑問を持ち、躊躇わせていた。



 「共和国軍、帝国都市惑星エルミアへの侵攻を始める、か…」



 そういえば、向こうの世界で言うアレンは今ログインしているのだろうか、とテツは気になったが確認はしなかった。学校では、零治の様子も時折妙におかしいと思える。今に始まったことではないが、最近またそうした傾向が見え始めていた。零治という男が冷静なキャラクターであるという印象は、恐らく多くの生徒が思っていることだろう。しかし、よくそばにいるテツが思うのはそういう冷静さではなく、あるいは友莉と同じように、どこか沈んでいるようであった。いつも元気でいるというのは、ほぼ不可能な話である。が、いつもいつも沈んでいる人を見るのは、心許ない。そんな日常があるべき姿、とは考えたくはなかった。

 共和国軍は、惑星の基地を制圧してそこを最前線基地とし、帝国侵攻への拠点として準備を進めた。アレンが偵察によって得た情報では、この先都市惑星エルミアへ向かう最中、回廊での戦いで遭遇したゾレル少将艦隊が待ち構えている、とのことであった。NPCで構成される勇敢なゾレル艦隊、激しい戦闘が予想されていた。アップデート機能によって生放送が可能となったが、恐らく戦闘が始まれば多くのプレイヤーはこの行く末に釘付けになるだろう。少し前の情勢を考えれば、共和国軍が帝国領にいること自体、ありえない話であったのだから。

 テツは、かつて放送されたアーカイブを見ていた。惑星ドーミアでの戦闘。レーダー基地を奪取するために乗り込んできた、共和国軍の空戦、陸戦部隊。激しくブラスター砲が行き交い、そして大きな光と共に爆発が発生する。プレイヤー、NPC問わずこの爆発が発生した後には、死亡判定が出ていることだろう。



 「…?まだ続くのか?」



 その映像の中では、既に共和国軍が撤退準備を始めていた。ほぼ勝敗は喫し、これ以上何の動向も無いだろう、と誰もが予測することだろう。だが、映像は今も流れ続けている。幾つもの戦艦が離陸し、高度を取って離脱し始めている。共和国軍の戦闘艇部隊も、随時帰還し始めている。だが、映像は止まらない。そうして映像に映った最後の一機が、アレンの操るデルタアースであった。そして、この映像がいまだに残り続けている、その理由を知った時…。




 「…!?」




 テツの全身に、寒気が稲妻のごとく走り抜けた。鳥肌が一気に立った。映像が切り替わり、航行する戦艦の天頂方向から一本の光が到達した。共和国軍の随伴艦が高熱源反応を示し、そしてブラスター砲による攻撃で被弾した。ブラスター砲を撃ち放った、機体。テツはそれを見た瞬間、思わずその場から立ち上がった。だが映像を見ることは止めない。彼には覚えがあった。

 つい先日のことだ。ドーミア星の3つある主要施設、基地のうち一つを襲撃し奪取しようとしていた時のこと。アレンがチェーンと呼ばれる、ゼウ商会時代からの友人と接敵したことがある。チェーンがどうして帝国軍にいるのかは、テツもリペアの事実を知り把握していた。あの状況を知った時でも、こんなことがあって良いのかと驚愕したが、今回はそれ以上であった。チェーンが操る戦闘艇と、今自分が目の前で見ている戦闘艇。全く同じものとしか思えなかった。



 「…ということは、まさか…!?」



 その時、映像の中で大きな光が瞬いて消えた。残光が迸る空域の中に残った、デルタアースの姿。それを見たテツは汗が止まらなくなった。それも冷や汗であった。この状況を理解する人は、そう多くはない。なぜなら、この場で戦っている二人の敵が、元々ゼウ商会で共に働いていた友人同士であることを知る人は、少ないのだから。リペアの事実、チェーンの正体までも気付いていたテツにとって、これは驚異的な映像であった。普通の人が見れば、特攻してきた帝国軍の戦闘艇をアレンが撃墜した、と思うことだろう。しかし、それは本当の真実を知らない状態で見た、ただの感想に過ぎない。



 本当の真実。それは、かつての友人を、彼は自分の手で葬ったことにある。



 テツは気付いてしまった。彼女だけでない、彼もまた、本質の渦中に取り残された一人である、ということを。




 「…あの男、何を考えているのか、私には見当つかない部分があります」


 「元々、ロンメルはそういう男だ。自分の研究や実験のためには、他者の目など気にするところではない」



 ゲーム内、帝国領都市惑星エルミア。恐ろしく高い高層ビルの立ち並ぶ区域の中にある、帝国軍司令所。都市区画の中にあるため、外部から見れば普通のビルにしか思われなさそうなこの場所も、最近になって整備が改められた立派な軍事施設である。攻撃手段などは持たないが、あらゆる情報や司令はこのビルから発せられる。そうでない時は、基地が直接管轄を行う。広い空間の中に大きな机が一つあり、窓ガラスで夜の都市エルミアを背にして話す、最高司令官グラーバク。そしてその前で立ちながら話を聞いていたのは、グラーバクお膝元、ギニアス大佐であった。



 「しかし閣下…」


 「ロンメルの計画も無事に進んでいるようではないか。共和国連中の障害を排除するのは、今の我が方にも重要な戦略の一つだ」


 「…戦いに勝って今まで死んでいった者たちに手向けたい、出来れば私はその道を歩みたく思います」


 「その決意は買うぞ、もちろんのことだ」



 『ロンメルの手土産』の正体が、ギニアスでさえもハッキリとしていない現状、彼はそれを先導するロンメルの存在をやや危険視していた。確かにグラーバクの言うように、ロンメルは一度自分で決めたことをそのまま押し続ける、あるいは固持するような傾向がある。そういう人だと理解すればそれまでだろうが、どうもギニアスにはそれだけでは納得がいかなかった。同じプレイヤーであるはずのロンメルが、何か怪しく見える。同胞として気にしたくはなかったのだが。



 「…まずは、ゾレル艦隊ですね」


 「そうだ。奴らを止める手段の一つ…自らの忠義に従う、その時だ」



 「…赤色星団、ですか…」




 帝国領、惑星ドーミアと都市惑星エルミアの間に存在する、赤色星団と呼ばれる広大な空間。その由来は、見た目が赤色をベースとした雲海が数多くあることから、そう呼ばれている。星団の内部にある幾つもの雲海は、戦艦が航行するには悪条件が重なる。強風状態や不安定なエネルギー流の発生など、ある意味で通過するのは困難とも考えられていた。既にNPCで構成されたゾレル艦隊は、この赤色星団で共和国軍と対峙するべく待ち構えていた。もちろん、共和国軍にはこの星団を迂回する方法がある。しかし、そうすれば星団外縁に位置する多くの惑星を通過しなくてはならず、その間集中的な戦闘を幾度となく迎えることは明白であった。であるなら、星団を突破して一気にエルミアまで侵攻し、エルミアを陥落させ膨大な軍事力を拡張したほうが対抗できる。グラーバクも、ギニアスも、そしてゾレルもそう考えていた。それを阻止するという目的ともう一つ、『最後の決断を下す』目的のために、ゾレルは戦わなくてはならなかった。



 「閣下、副官のユング大佐から通信です」


 「映像に出せ」



 その、赤色星団内部。周りよりも穏やかな宙域で待機しているゾレル艦隊の主力。各艦隊は既に配置についており、いつでも状況を開始できるように態勢を整えていた。レムラ参謀長からの連絡で、別の攻撃艦隊に所属するユング大佐からの通信が入り、それを映像に出すようゾレル少将は指示した。スクリーン上に投影されるユング大佐の姿であったが、ノイズが多く声も途切れ途切れであった。この宙域の特徴でもあるが、前に共和国軍と対峙したあの回廊のように、通信が万全とも言えないのがこの宙域の難所と言われる理由でもあった。



 「ベテルギウスより、共和国軍艦隊がこちらに向かっていると連絡が届きました」


 「了解した。貴様の率いる艦隊は、そのまま雲海内に待機。機動艦隊を先行させ、先生を加える」


 「はっ」



 映像が切れると、ゾレルが言う前に既にレムラ参謀長が、今の通信内容を機動艦隊に伝えていた。それを見てゾレルはにやりと笑う。しかし、その目線は真剣そのものであった。通信画面から宙域を映し出したスクリーンに切り替わり、それをじっと見つめていた。そして思う。あえてこの宙域を挑むあたり、敵の司令官は強敵だろう、と。安全策を取るならば、間違いなく星団外縁を進むだろう。しかし、前述の通り連戦を続けるほど共和国軍に余裕があるとは思えない。それに、惑星ドーミアを制圧した彼らは、ある程度の情報をそこで得てから進軍をしているだろう、ゾレルはそう予測し、現にそれは的確であった。

 首都星よりも前に到達する、都市惑星エルミア。その前に立ちはだかる大きな壁、赤色星団。



 来るべき時は、確実に近づいている…。




 Space Fantasy Game

 第86話 ―次なる、目標―




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