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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
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第82話




 …えぇ、あの時は私も見ていました。ちょうど彼からアップデートの話を聞いて、私も見てみようと思っていましたから…。



 …たぶん、彼は分かっていたんだと思います。自分が何をしなきゃいけないのかが。だから彼にとって、あれが最後にして最大のキッカケだったんだ、と…。





 その時。この世界で生まれ、この世界に生き、この世界で輝きを保ち続けていた細やかな光が、輝きと共に色を失った。

 その時。すべてのカウントダウンが、終局への道標を完成させる。





 第82話 『遠き日、還らず』







 一つ間違えれば、彼は帝国軍に捕らわれていただろう。彼がもし潜入任務を始める前に、あの装備をもらっていなければ、この窮地を脱出することは出来なかっただろう。何とか彼女、チェーンを救い出そうと必死になって行動を起こした彼。時間をかけようやく外へ出た二人であったが、その時彼女の様子が変わった。意識を朦朧とさせながら重い足取りでついてきた彼女の様子は無く、空で会った時のような、あの冷徹な姿に戻りつつあった。しかし、あの時と決定的に違う場面があった。それは、冷徹な彼女の中に、確かな感情が存在しているということだった。『リペアは完全なものではない』というのは、彼女自身の口から説明された内容だ。まさに、あの時の彼女の言葉は、それを表したかのようなものであった。明確な攻撃意思の裏に垣間見えた、自己を傷つける心。彼は、それを感じ取ることが出来た。これはあのルーナの力によるものか?あの特別な力、誰もが持っている訳ではないと言われる、あの力が導いた一つの道なのか?



 …いや、違う。彼女だって、人間だからだ。




 「上層に戻るためには…」



 とはいえ、彼女に突き落とされたのは事実。それに対し彼は怒りなどといった感情は抱いていなかった。というよりは、自分の手で彼女を救ってあげられないことに対しての、歯痒さを感じていた。仕方がない、では済まされない。自分たちを信じてここへ送り込んだこともある。急斜面から落下してルーナセーバーを使用し、何とかダメージを抑えて、彼は再び基地内部を歩き始めた。既に警報が鳴り響いている。自分の存在は既に兵士の知るところである。どれほどの人間が驚くだろうか。彼自身が自覚している、帝国にとっての脅威が単独で潜入任務をしていたのだから。

 彼がこの広い基地からチェーンを見つけ出すという、当初の目的をもう一度はじめからやり直すことになってしまった。彼にはなぜ突然彼女があのような反応を示したのかは分からなかったが、なんとなく予想があった。



 「…機体倉庫は…んっ!?」




 その時だった。一瞬鋭い痛みを伴うような感覚が彼の脳を刺激する。思わず動作を止めた彼だったが、次の瞬間にはそれが何なのか大体の予想がついていた。突如爆音じみた音が広範囲に響き渡り、鼓膜が刺激される。その音はあまりに大きく、また地鳴りのような音とセットに聞こえたために、恐らく基地が攻撃されたのだろうと、彼には予想がついた。その音と共に激しい揺れが襲い掛かり、彼は背中から壁に打ち付けられる。立ってもいられない強烈な揺れで、口の中で血の味がした。その直後、再び別の警報が鳴り響いた。更に続いて、装備品の一つ、腕時計から通知音が鳴り響く。これはゲームのシステム機能を使った通話でない、独自の無線連絡である。



 「…はい、こちらアレン…」


 「俺だ。サイクスだ。どうやら無事のようだな」


 「と、言いたいですね」



 共和国軍の攻撃だろうという時に、いつもの調子で話しかけてくるサイクスには好感が持てる。切羽詰まっている場面ではあるが、それが少し余裕を持たせてくれる要因ともなりえるからだ。予想通り、サイクスは全面攻勢に出たことを彼に伝えた。元々この作戦は彼の帰還を待つものではないことを明言されていたので、いつのタイミングで攻撃が始まるかは、中々予想はしづらかった。



 「映像を見ていた。ロンメルという人物については…こちらで調べている」

 「お願いします」

 「出られそうか?」

 「外には行けます。ただ、見通しが悪く斜面が多いので、合流は難しいかと」



 そこでサイクスは、陸戦部隊の投入と同時に、彼にそれに加わるように指示した。既に先発した戦闘艇部隊、チャーリー部隊が攻撃を開始し、対空砲火の鎮圧を行っている。そう時間を経たずして来るだろうアルファ、ブラボー部隊は対空勢力の排除と基地要所の爆撃を行い、地上部隊の掩護をする。それが完了するまでそう時間はかからないだろう、と彼に言った。



 「それで、彼女は大丈夫なのか」

 「何とかしてみます。任務の継続をお願いします!」



 そこで無線連絡が終わると、彼は基地内部へと走り始めた。体には疲労感のようなものを感じていた。ここまで再現するSFGの世界が、今日という時は憎くも思える。しかし止まっている場合ではない。時間が人を赦すのなら、人は苦労を背負い込むことを忘れるだろう。

 ルーナセーバーをあまり自由の利かない右手で持ち、走り続ける。まるで向かい風を浴びているかのように、黒のローブがなびく。基地内部の詳しいところまでは分からないが、位置を把握しながらとにかくも走り続ける。



 「い、いたぞ!奴だ!!」

 「プレイヤー同士なら怖くはない!!」


 「…!!」



 帝国軍の窮地。たとえリペアを受けたチェーンからの言葉であっても、それは信じるに値するものであった。帝国軍がそうまでして強い人材を育成しなければならないのか。それを考えた時、ついこの間までの劣勢が嘘のようにも思える。そして、NPCたちが命を懸けて教えようとしたあの主張が、よく分かる。それでもなお、戦争は続く。軍人という殻の中に、確かに存在し続ける、自分の意思を持ち続けながら、彼もまた、戦う。

 敵兵士二人がアレンを見つけると、すぐにブラスターを撃ってきた。彼らが向かってくる男をアレンだと認識するのに、3秒とかからなかっただろう。彼がゲームを始めてからそう時間が経たない頃、エルンスト・フォン・ケスラーという謎の男のもとで、ルーナセーバーを使った修業をしたことがある。それもまた、遠き日のように感じられるが、彼にはゲームの中の事実として確かに記憶もあり、存在もしていた。ブラスターを弾き返すことくらい、何でもない。そう思えるほど、彼は剣捌きは上達していた。その辺りが、帝国軍に脅威と認識させる要因の一つとも言えるだろう。遠距離武器が近距離戦闘用の武器に負けてしまうのだから。それも、武器の性能ではなく、その人のもつ力によって。そうして彼は、立ちはだかる敵という壁を幾多も排除し、チェーンを探しながら基地内部を走り続けた。



 「制空権確保!」

 「地上部隊降下開始。ただちに内部を制圧する。増援に気を付けろ」



 ユラは、地上戦においても秀でた指揮能力を如何なく発揮している。どこにいても最高司令官としての信頼が厚い彼であったが、彼の最大の武器はそれを実行する味方であるということを、後々彼は言葉にして残している。

 それからすぐのこと。あっという間に地上部隊が降下を終え、基地内部の制圧を始めた。ここからは、陸戦部隊同士の衝突。既に大陸で二つの大きな基地を失い、犠牲を出してきた帝国軍にとって、何より欠点となったのは、指揮能力でも戦闘能力でもなく、兵士たちの気力であった。戦おうという意思があっても、それがまとまった大きな脅威にはならない。



 「た、大佐!チェーンはどうしたんです!?機体に誘導はしたのでしょう…!?」


 「あぁ、した」


 「ですがレーダーには機体は映っていません!!」


 「それがどうした。すぐ目的を果たすために来る」



 顔が青ざめた科学者は、再びロンメル大佐を見つけるや、彼女の居場所を問いただした。先程、ロンメルは機体のコントロールレベルを最大にする、と宣言しそれを実行した。彼が基地内部から再度彼女を見つけ出すために探し始めた、一つの勘。彼女が向かったのは機体倉庫ではないか、という予想。それは正しいものであった。無論、彼がこれを知るのはもう少し後の話にはなるが。

 大佐が歩き続けているところに、科学者の男は前に出てロンメルの動きを止めた。青ざめた顔から見える表情とそこから溢れる感情には、NPCの現状を伝えるには十分なものが込み上がっていた。誰にも理解されぬという、焦燥感と共に。



 「お言葉ですが大佐…こうしている間にも、共和国は私たちを消そうとしているんです!NPCを利用した実験を今後も続けるというならば!!…私たちのっ…がっ…!?」



 「…ほう、自分は命じられただけで、自分たちが生き続けるためにそれが常に正しいとは思えない、か?」


 「…!?」



 彼の利き手にある黒い鉄の塊。それを見る科学者の冷え切った目。真っ白な瞳に映るかすかな黒の眼光は、利き手に持たれているものを反射させている。気付けば状況が作り出されており、そして自分に対してそれが実行されようとしている。止める術など、これも、そして彼女も、何一つないことを、男は気付かない。



 「なっ…何をするつもりだ…!!」


 「さっきも言ったはずだ。結局は結果論だ、と。過程の話はその姿が出来た後では、必要ない。少なくとも、俺にはな」


 「よ…よせっ!!私を殺せば、閣下の命令に背くことになるぞ!それに、あの目的を果たすのならば、NPCにも人材を求めなくてはならん。研究が滞れば、その分目的は遠ざかるのだぞ…っ!!」


 「既にプログラムは完成している。そのための実験体も用意し終えた。あらゆる手段を残してくれたお前には感謝しているよ。同じNPC…グラーバク閣下も、お喜びになるだろう。…だがな―」




 手掛かりは、始末しないと完璧な目的達成にはならないのでな。




 「…良い夢を見ることだ。NPCたちが待っているぞ…?」




 …。




 「制圧状況は?」

 「7割といったところです。中には降伏を申し出る人も…」

 「…そうか」



 共和国軍にとって、他の惑星まで侵攻をするとすれば、この星は大きな拠点となる。大陸に存在していた巨大な生産基地、大都市、そしてこのレーダー通信基地。この星の軍事力を維持するために必要な要素のほとんどを、共和国軍はこれで手にすることになる。様々な事態に追いやられながらも、ここまで彼らはやってみせた。これがその後「あのような」結果をもたらすことになるなど、今は誰にも分からなかった。



 「アレンに連絡。一度旗艦に戻り、すぐに偵察に出てほしい。他の戦闘艇部隊も上空で待機」


 「はっ」



 地上部隊が先導して制圧行動を行う。その中心に途中までアレンもいたが、制圧範囲が広がることで、彼の力を必要としなくともすべてを制圧することができるだろう、とサイクスは判断し、航空戦力の増援に対応する形をとった。無線を通じて彼に連絡を取ると、彼はすぐに反応して旗艦へと向かった。既に制空権を確保しているので、上空には戦艦が飛来していた。彼は一度旗艦へ戻ると、そのままデルタアースに搭乗して再出撃する。彼は基地内部で戦いながら、チェーンを再発見することが出来なかった。となれば、考えられるのは空であった。しかし、制空権を確保している今、味方に撃墜されたのではないか、という不安はあった。しかしそれも含めて、自分で確認しなければならない。彼は空に上がり、周りを見渡し、飛び続ける。



 「気配はない…逃げたのか…?」



 …いや、しかし。



 あの様子で本当に逃げるか…?そうとは思えない…どうしても。



 さらにそれから30分が経過した。早々に陸戦部隊が基地内部を制圧し、敗残兵の一部は降伏勧告を受諾した。中には、最後まで帝国のために戦い抜く兵士たちもいたようだが、彼らの心中のすべてを共和国側が受け入れることは出来なかった。結局この戦いも、共和国軍が勝利を収めた。この惑星に帝国侵攻作戦の要を作ることが出来た。レーダー基地は多数の補修が必要になるが、時期に共和国軍の戦力として機能することになるだろう。

 艦隊は分散行動をとり始める。出撃してきた各方面に戻るために。大陸ですべての基地の制圧を終えた共和国軍でも、帝国軍に付け入る隙を与えないため、地方の統制を行う必要はある。敗残兵の収容や事後処理のために残る戦艦以外は、順番に帰投を開始した。上空にいた戦闘艇部隊も、次々に母艦に向かっていく。



 「大尉は、まだ良いのですか?」

 「俺は最後で良い。先に行ってくれ」




 …その時だった。頭上から強烈な何かを感じ取ったのは。




 「レーダー探知!高熱源反応あり、艦上方向!!」

 「なに…すぐに調べろ」


 このタイミングで敵が攻撃を仕掛けてくるのか、とサイクスは疑問に思いすぐに調査を命じた。既にこの一帯の制空権は確保できているし、レーダー基地も既に奪取し終えている。となれば、態々敵が自分たちを狙ってくる、そんな危険な行為をするとは到底思えなかった。高速で接近する物体。徐々に、確実に自分たちの方へ近づいてくるのを確認し、ようやくその姿を捉えることが出来た。



 「映像に出します…最大望遠です!」

 「…!?」




 一つの光が、天から地へ降ってくる。一本の刃となって。感情を持たず、意志を持たず、ただ明確な命令によって表現されるそれは、そう時間を経ずして鉄の塊を貫く。誰にも分かることなく、理解されることもなく、ただ命令に従うだけの、それを。



 「随伴艦が被弾しました!間違いありません、あの機体からの攻撃です!!」

 「…なんで、あれが今…」

 「大佐!!」

 「げ、迎撃態勢はとれるか!?」

 「駄目です!!撤退準備が完了した今では…!!」



 あまりに突然すぎる攻撃に、旗艦と共に行動する各艦は反応が遅かった。そして、既に基地を制圧するという作戦を終え帰投段階にあった、旗艦を含めた共和国軍艦隊は、迎撃態勢を即時に取れないという欠陥点を露呈させた。更に戦闘艇部隊も帰投をほぼ終えており、直ちに反撃する態勢も整えられない。もしこれが本格的な帝国軍の攻撃であったとしたら、間違いなく共和国軍艦隊は殲滅されていただろう。



 「今上がってる迎撃機は!?」

 「アレン機です!現在最終帰投準備中!!」


 「…おい、嘘だろ…なんで、よりによって…」




 だが、それはサイクスがあれこれ命令する前に、既に事は動いていた。接近してくる物体に対して、もう一つの物体がその方角へ高速で走り抜けていく。戦闘が終わり、帰投段階にある今のSFG内では、この様子もオンラインで配信されていた。もう一人の自分を作る現実としての、世界。現状。随伴艦が被弾するところから、あの物体が接近するところ、そしてオープン回線で連絡が飛び交っているところまで、すべて。



 「やめろチェーン!!お前のことはよく分かってる!!」

 「…嘘、嘘だよ…分かるよ、私には…」

 「何っ…!」



 …分かってるんでしょう…?私をどうすれば、止められるって…。



 オープン回線で無線を必死に飛ばす彼に対し、彼女はすすり泣きの声を出しながら、彼に話していた。やさしさのカケラも、あの冷徹な姿も、当てはまらない。彼女の言葉が耳を刺激すると、彼は背中に冷や汗をかいた。戦闘艇同士、追いかけたところでどうにもならない。彼女の言う、彼女の止め方。それを液晶モニターで見るサイクスにとって、こんなに残酷な話はあって良いのか、と拳を握り締めたほどであった。更に、黒い物体から強烈な光が発せられ、次の瞬間には光の刃が一線を描き、黒い鉄の塊を熱した。



 「随伴艦の機関部被弾を確認!推力低下!!」

 「ぐっ…これじゃ…!!」



 高速で接近するその物体。遠距離からの正確な攻撃。しかし、その攻撃には間隔が存在していた。すぐに撃沈させようなどという意志は、感じられない。もっと言えば、倒そうとしているのかも分からない。明確にこちらに向かっていることは確かであったが、なぜか映像を見ていると殺意を感じられない。ただ動くだけの物体になぜそのような思いを抱くのか。だが不思議と、そう思う人はサイクスだけではなかった。

 しかし、彼にも、ケーンバークにも、ユラにも分かる。この状況をどうするか。どうしなければならないのか。




 「楽しさの裏には苦しみがある…笑顔の裏には陰がある…分かってたのに、私はこうなるんだって、分かってたのに…なのに、どうして…?」


 「お、おい…!!」


 「どうして…教えて…よ…私はどうすれば良いの…どうすれば、助かるの…逃げられるの…?」


 「チェーン!!!」



 作戦終了後の出来事。このまま彼女を見つけ出せずに、また自分は帰ってしまうのかと思っていた、矢先のこと。突然訪れた不意の非現実に、戸惑いを隠せない彼。なぜここに現れ、なぜこのタイミングなのか。しかし、そんなことを考えてはいられない。彼女がこのまま攻撃を続ければ、次に旗艦が危うくなる。まだどの戦艦も沈んではいないが、撃沈されれば当然死人が出る。目の前に味方がいるのに、その味方は対象を攻撃されなかった。多くのNPCが乗っている戦艦を見殺しにする。そのような状況、彼でなくても目を瞑りたくなるほど、信じたくはなかっただろう。それが現実の、いや言葉という形で具現化したもの。




 -誰でも良い!!止めてくれ!!!




 彼もまた、重すぎる指先を動かして、牽制の攻撃を入れる。その砲火は決して命中することなく、コックピットの横を通過していくだけであった。その光が彼女にも見えたのか、一時的に速度が遅くなり攻撃が無くなる。彼はその間に間合いをつめて、涙を流している彼女の行動を必死に止めようと、無線で話しかける。



 「チェーン…もう一度だけで良いんだ、あの時を思い出してくれ!!」


 「…?」


 「あの時を…商会で一緒に働いて楽しく毎日を送ってたあの時を…!!」


 「…そんなものっ…!!」


 「お願いだ!!チェーン!!」



 彼の必死に問いかけに反するかのように、彼女は再び攻撃を始めた。旗艦の上空から、何の抵抗も受けずに攻撃されるそれは、次々に旗艦の周辺を脅かした。短時間で10発ほどの連射が行われ、映像を見ているのに止めることが出来ないことを知っていた艦の中の人たちは、その光景と、その声に絶望した。いつものとは違う。死と隣り合わせになっている、NPCにすれば自分が死ぬかもしれないというこの時。自分の死に対してではなく、目の前で起こっているこの「現実」に目を背きたくなっていた。

 チェーンの攻撃が旗艦に直撃する。



 「後部砲塔に直撃!火災が発生した模様!!」

 「くっ…!!」



 アレンの視点からも、その様子は見ていた。旗艦や周囲の随伴艦に攻撃が命中していること。そして逆にも瞬時に考えられた。自分たちのこの行動は、味方からよく見えているのだと。そして思い出した。はじめてこの星で彼女を見たときのこと、基地に潜入して彼女と偶然再会したこと。逃げ出すために彼女を庇ったこと。あの冷徹な姿から、まるで殻を破ったかのように溢れ出た、作られた人間の感情というものを。目の前に見えている背中の姿が、段々と見づらくなっていくのが分かる。自分の手で目を拭いたい。しかしそれが出来ない。彼の右手は、既に操縦桿のボタンの手前にある。赤い一つのボタン。たとえ操縦桿を見なかったとしても、意識しなかったとしても、自分の手足が震えているのがよく分かる。その時は、機体の振動よりも強く。

 構える。落ち着くことは出来ない。捉える。諦めることはしたくなかった。定める。




 あの時、あの日常を、自らの手で還さないことを。





 そして、自分自身も、もう還らない、と…。






 「うああああぁぁぁあああぁぁあああっ!!!!!!!!」






 …。






 一つの光が、瞬いて消えた。その時、光の中に決して還ることのない、温かな笑みを、見た。








 Space Fantasy Game

 第82話 -遠き日、還らず―








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