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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
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第81話




 現実世界でこのようなことに巻き込まれたら、同じようにして彼は動くことが出来ただろうか。いや、この際はそのようなことは重要ではない。二つの世界を行き来出来る体、今彼のいる空間は仮想世界でありながら、もう一つの現実を直視しているようなものであった。

 チェーン、彼女がリペアと呼んでいたその空間を爆破すると、機械から連鎖反応で更なる爆発が発生する。すると基地内部に警報が鳴り響く。帝国にも警報によって様々な態勢が取られるのだろうが、この警報がどのような意味を持つのかは分からない。だが、いずれにせよ同じ場所で留まる訳にもいかない。基地内部に敵兵士がいたと言う情報は、すぐに知らされるだろう。そうなれば、意地でも帝国軍が襲撃してくる。共和国軍の中枢を担う、アレンを捕まえるために。爆発に紛れて逃げた先に、ボイラー室のようなものを発見したアレンは、ひとまずその中へ入る。



 「…はぁ…ぐっ」



 決して無事とは言い切れなかった。体力は当然のことながら消費する。思うように体も動かなくなるだろう。装備には限界があり、もう爆弾を使用することは出来ない。更に基地に混乱を与える方法を頭の中で考えていたが、目の前で意識を失っている女性を見ると、そちらの方が心配にもなった。彼は一呼吸置き、広い室内を見渡した。奇妙で不気味な機械音がここにも聞こえる。ドアの外は恐らく兵士たちが走っている、だろうと予想して、その室内から更に抜け出せるところはないかどうかを、彼は探した。通風口で機密情報を扱うような場所に行けるのだから、何かあるだろう、との希望を持って。

 その時だった。彼女の体が少しだけ反応する。



 「…貴方、自分で何をしているのか、分かって、いるんでしょうね…?」


 「分かっている。でなければ、こんなところにはいない」


 「意外と…強引ね。向こうの世界でも、そうなの…?」




 彼は自分を思い返した。思えば、このような自分になるキッカケは、確かにゼウ商会にあり、そしてこのゲームを始めた自分でもあった。もう一つの世界、現実では友莉がいる。先日、彼女は昔の親であったかもしれない人を見かけ、恐怖の表情を見せていた。もし、またあの人たちが今度彼女の前に現れたとしたら、と考えると、彼は友莉を何とか支えたいという気持ちがあった。

 チェーンに対しても、同じだろうか。



 「…私が今持っているシステムで呼び出せば、たとえ貴方でも一瞬で―」


 「ならすれば良い。俺は黙っている」


 「…」



 しかし、彼には今彼女がそれを出来ないでいる、と確信していた。もしここで兵士たちを呼び出せるのなら、ロンメルという男の前で彼女は自分に撃っていただろう、と。帝国軍の荒んだ事情は、この世界でしか生きることの出来ないNPCへと向けられている。そして、帝国の上層部は自分を捕まえることで、脅威を排除しようとしている。もはや、これはゲームの領域を超えていた。

 結局そのまま彼女は何もしなかった。彼は更にボイラー室の奥へ通じる大きな通路を見つける。装備としてもらった腕時計を頼りに、現在位置を確かめながらひたすら奥へ通じる道を歩く。彼女が目覚めてからは、彼は一切彼女を庇っていない。それでも自分の意思か、それとも混乱によるものか、彼女は彼の後ろを無表情でついて来ている。



 「消火作業急げ!!」

 「火災が広がってるって!?」

 「あぁこっちだ!早く!!」



 ロンメル大佐はチェーンを探すようなことはしていなかった。かといって、彼らがどこへ向かったのかは分からない。火災地区を歩きながら、無表情で地面をコツコツと鳴らして行く。すぐ横を兵士たちが消火作業のために走り抜けていく。しかしそんなことも彼は気にしていなかった。すると、大きい通路に出た時に、白衣の科学者のような眼鏡男と遭遇し、彼は動きを止めた。



 「あ、あぁ大佐…!被験者のその後は…」

 「知るか。ちゃんと脳波チェックはしていたのか?」

 「え、えぇもちろんですとも…!リペア後の彼女のリンクは完璧でした!」


 「…結果論だけ言っても仕方がない。それに、今奴はあの男に抑えられているんだ」



 そういうと、科学者のような男は驚いたような表情を隠せなかった。彼女が奪われたら、今後の軍に役立てなくなる、と言い、何とか見つけ出してほしいとロンメルにお願いした。しかしこの時既に、ロンメルの答えは決まっていた。先日の戦いで、空で二人が遭遇した時から、この計画は定められていた。彼女はその目的のために利用するのだと。



 「…専用機のコントロールレベルを最大にしろ。奴らが地上に出たら、間違いなくチェーンは反応する」


 「しかしそれでは…!!」



 「…これが実験というものだ」



 …だが、そのおかげで、先程の言葉を…完遂できる。



 ボイラー室の奥の空間は、巨大な地下通路となっていた。一体何のためにここがあるのか、それは彼には分からなかったが、空気は冷たく、地面には幾つもの水たまりが出来ている。遠い天井の上は凍っていて、時より上から降る水の雫が、地面にある水たまりの上に落ちて、波形を生み出しながら音を奏でる。その音は広い空間いっぱいに広がって行くようであった。その先、彼はようやく行き止まりに差し掛かった。相変わらず彼女は後ろにいたが、あまり体調は良く無さそうだった。



 「…扉が冷たい」



 …もしこの先が外だとしたら、脱出はそう難しくはない。二人か…しかしやるしかない…。



 扉に鍵が掛かっていることはすぐに予想できた。今にして思えば、痛風口を使ってあらゆる場所へ潜入できたことが不思議にも思えてきた。このゲームは偵察任務の実行のために、そうした欠点を露呈させているのだろうか、とも彼は思えた。しかし、それにしては話が上手く行き過ぎている。




 『お前は違う意味で、死を迎える。その時は確実に来る』




 …騙されはしない。だが…。




 「うぐっ…!!」

 「ん…?どうした、チェーン?」



 外はそう強くはなかったが、雪が降っていた。気温はとても低く、顔面に痛みを感じるほどであった。扉を開けるために、彼は手持ちのルーナセーバーを出し、人が出られるだけの穴をあけた。防寒で鉄製の扉なので厚さはかなりのものであったが、ルーナセーバーを使用すれば容易いものであった。扉を開けて見えた先には、おそらく真正面に崖のような急斜面があるだろうというものであった。すぐに辺りを見渡したが、その時急にチェーンが苦しみ呻きだしたのだ。あまりに苦しそうなその姿に、彼はすぐそばへ駆け寄った。だが、彼女はそれを突き飛ばした。



 「お、おいチェーン…」

 「駄目…離れろ…!!」



 更にその時だった。彼の頭に一瞬、強烈な痛みを伴うような刺激が走った。それは物理的なものではなく、感覚のような刺激であった。あまりに強く一瞬であったために、彼も混乱した。彼女の様子が苦しみから別のものへと変わっていく。先日空で遭遇した、あの冷徹な空気を醸し出している。あまりに突然のことであったために、彼もいったい何が起こったのか、理解に苦しんだ。冷徹な姿に写る、色褪せた黒の眼。彼女は一度遠くの方向を見て、そしてその方向へ歩き始めようとしていた。彼女の視線を彼も確認すると、恐らく視線の先には空軍が使っているのか、あるいは先日撤退してきた部隊が使っているだろう、大きな格納庫のようなものが見えた。もしかしたら、また彼女はあの機体に乗ろうとしているのかもしれない。その状況が頭の中に思い浮かび、すぐに止めにかかった。



 「ダメだチェーン!!あれに乗ったら…」

 「うるさい!!」

 「お前は利用されるだけだぞ!?あの男に…!!」



 冷徹であったはずの彼女が、突然激昂し始めた。彼の声に反応したのか、それともまだ彼女の中にリペアでも治らなかった何かがそうさせているのか。しかし、彼には冷静に考えている暇も余裕もない。脱出するためにようやく外まで来て、ここで止められなければ何の意味もない。何とか彼女を連れ出し、保護しようと動き出した、その時だった。




 もう良いんだ!人間には誰にもわかってもらえないんだから!!!



 「なっ…!?」



 彼の高まる感情が、乱れた心が行動になって表れた。すぐそばが崖のような急斜面だというのに、彼女は何も聞かず勢いのまま、彼を突き飛ばした。彼女を説得して共に脱出をしようと思っていた彼は、彼女をその視界から外されてしまう。明らかに落下する感覚を感じ取った彼は、すぐに自分がどのような状況であるのかを確認するため、瞬時に周りを見た。だが、落下する後ろの光景を確認しようとしたその時には、既に地面が近くに見え始めていた。目の前にある雪原の壁に、後ろから迫る氷の地面。彼はすぐにルーナセーバーを取り出し、斜面に向かってそれを突き刺した。落下速度が軽減され、彼は何とか衝撃を抑えて地面へ着地した。足に衝撃が走るが、恐らくセーバーの力を頼っていなければ、この高さでは即死だっただろう。周囲を見渡した。この崖を登るのはまず不可能だろうと判断し、別のルートを探そうとした。



 「…またしても、俺は…」



 ついさっきまでの、あの彼女の姿が忘れられない。冷徹であった彼女の姿から発せられた感情。自分を突き落とすという行動よりも、彼はあの姿とあの口から発せられた言葉が強く印象に残っていた。人の性格や感情をコントロールし、意のままに操るなどという機械じみた行為など、すべてがうまくいくはずがない。たとえ機械によって作られた存在であっても、彼女は一人の人間であることに変わりはないのだ。彼が彼女を救いたいという気持ちに一切変わりはない。何とか彼女を解放し、今の状態から楽にさせたい、と。



 「偵察艦から連絡。恐らく各部隊の離陸時にレーダーキャッチされたとのことです」


 「構うな。最大推力で突入する。どの航空隊が先か」

 「はっ、変わらずチャーリー部隊です。到達まであと僅か」



 アレンが潜入調査で持ち出した資料と地形の撮影によって、敵の侵入時に作動する対空防衛能力を割り出すことに成功した共和国軍。ユラの指示で攻撃命令が下され、先に到達するチャーリー部隊が対空防衛機能を優先的に破壊する。そのあとで、基地内部または外壁にも攻撃を加え、制空権を維持しながら艦隊の到着を待つ。最後はやはり陸戦部隊による内部の制圧だが、それまで戦闘艇部隊は時間を稼がなければならない。



 「攻撃ポイント指示。再度言う、近距離の戦闘になるぞ」





 …。


















 その時。この世界で生まれ、この世界に生き、この世界で輝きを保ち続けていた細やかな光が、輝きと共に色を失った。




 その時。すべてのカウントダウンが、終局への道標を完成させる。






 次回 第82話 『遠き日、還らず』





                        Space Fantasy Game

                     第81話 -止まらぬ、連鎖-




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