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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
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第73話




 帝国領土内にある、地球型惑星と呼ばれている、ドーミア星。ゾレル艦隊からの追撃を逃げ切った共和国軍主力艦隊は、現在その付近の暗礁宙域にて身を潜めている。共和国軍所属の情報偵察艦が入手した静止画では、ドーミア星に存在する広大な大陸の中に、おそらくは高性能レーダー基地であろう物体を捉えることが出来ていた。この索敵範囲に引っ掛かれば、たちまち帝国軍の艦隊が接近してくることであろう。そういう意味では、暗礁宙域にワープアウト出来た彼らは幸運であったということが出来るだろう。

 現在、その星にはアレンが単独で偵察任務を行っている。武装を持たない小型艇で軍港に入港した彼は、帝国軍の目をごまかすために用意した搬送用の荷物をそのまま持ちながら、軍港の内部を歩き始めた。このあたりの光景を見ていると、まるでコロッセオにはじめてログインした時のようであった。もしかしたら、今このタイミングで初ログインをした人もいるのかもしれない。やや懐かしく思いながらも、ここが敵地であるという認識を決して忘れていない彼は、真剣な表情でとにかくも歩く。大きな黒いローブを身にまとい、フードを目線の高さまで深々とかぶりながら。

 ここの軍港と民間宇宙港を管理しているのは、帝国軍第三艦隊であることを彼は着陸前に知った。まずは、第三艦隊の情報を集めようと資料室かそれに類するものを軍港の中で探した。ここで見つかれば良いものだが、そう上手くはいかない。軍港全体はやたら広いものであるから、歩くのだって疲れる。


 プレイヤーのログアウト時間のピークに達している。現実世界でいう、夜中の2時頃であった。



 「…これか」



 大きな自動ドアの横に表札のようなものがあり、そこには『史料室』と書かれていた。名前の通り自分にとって必要な資料がそこにあれば、まずはそれを味方の報告材料に出来る。さっそく彼は中へ入り、必要な手続きを済ませてから資料を漁り始めた。最も欲しいところは、第三艦隊や帝国軍首脳部の情報。軍事機密に触れる部分もあるだろうから、そう集まるとも思えなかったが、やらないよりはやった方がましだろう。その考えが、現実世界で4時まで調べる結果に至った。



 …帝国軍第三艦隊。司令官はフェデラル大将。戦艦約50隻、巡洋艦約80隻、その他ミサイル艦艇を多数保有。第三艦隊は帝国領太陽系方面の防衛任務を務めている…か。じゃぁ、あの時回廊で戦った相手も第三艦隊か?いやしかし…数時間前俺がここに降りた時、軍港が開いているような様子は無かった。あのシャッター街の中に戦艦がたくさん格納されているのだとすれば…。


 …あの敵は、一体誰だ?



 それからも彼は他の部隊の情報を、史料室にあるパソコンを使いながら調査を続けた。知りたい情報が数多く手に入り、そこを離れても良かったのだが、同じゲームをプレイする人として、現実のネット上では知られていない細部まで確認することが出来るので、調査を続けた。既に司令部の人員の多くはログアウトしているだろう。報告は今日の夕方になるだろうと考えていた、アレン。



 「…はぁ」



 まさかな。太陽系を攻めてきた艦隊が帝国全体の6分の1程度とは…あくまでこれは予想上の数値だが、そう考えていいだろう。多くを撃退してきたとしても、帝国の中で他の艦隊が占める割合も結構多い。共和国がどれほど生産に手を伸ばせるか気になるところだが、これはこの星を拠点に収めるだけでは敵の中枢を叩けるとは思えないな。それも報告しておこうか…。


 彼が調査した内容の中に、すべての艦隊の司令官リストがあった。だが、あの男の名前はなかった。オープン回線で一度音声を聞いた、あの男。圧倒的な力を持ち宙域を支配しようとしていた、あの戦闘艇乗りを。そして、そのリストの中にゾレルの名前があった。だが、彼はこの時点ではまだその存在には気付かない。

 彼はログアウトするために、セーブポイントを探し始めた。



 「…あれ?」



 しまった。俺はどっちから来たんだ?



 何分不慣れな土地にいるため、自分がどの方面からこの部屋に入ったのかを忘れてしまった。とりあえず彼は道なりを進んでいくが、やがてその道が狭くなり、外の景色を映す窓ガラスも無くなり様子がおかしいことに気付く。完全に迷った、と彼は自分の頭を少しかきながら、道を修正しようと曲がり角を曲がった。



 ―その時だった。



 「えっ、あぁ…すみませ…」





 …何…!?





 「おう、ちゃんと前を見て。青年」

 「ん?…君は民間人か?ここは立ち入り禁止だ。道を間違えたのか?」






 …お、おい…お前…!!





 「どうした?気分でも悪いのか」





 アレンは、しばらく一言も話せなかった。自分がシステムを見ながら歩いていた時、曲がり角で二人の男女と出会った。女性の胸元に気付かずぶつかってしまった彼が、謝りながら目線を上にあげた先に見えた、その女性。思わず、自然的に動作が遅くなる。そして目の前にあるその姿に驚愕の表情を隠せない。無意識に顔色が変わる。目の色も、大きさも変わるように。

 十数秒経とうかという時、ようやくアレンが冷静さを取り戻す。



 「え、あぁそうだったん、ですか。すみません迷ってしまったようで…」


 「そうか。後ろに見えるカーブを進んだ先、二つ目の角を右に行くんだ。そうして真っ直ぐ進めば広間に出る。あとは案内板を見ろよ」


 「あ、あぁはいっ…ありがとう、ございます」



 そう言い短く頭を下げると、アレンは小走りに言われたカーブの方向へ進んでいく。その姿を二人の男女が見えなくなるまで立ち止まって見ていた。姿を消すと、二人は本来の道へ戻る。



 「おかしな青年だな。我々は到着したばかりだというのに」

 「どうせシステムでも見ながら歩いていたのだろう。…しかし」

 「ん?」




 …あの青年、私はどこかで…見たことがあるような…。




 「いや、なんでもない。『大佐』」



 大佐と呼ばれる男性の後に続くように、その女性は再び歩き始めた。その時思っていたことは、彼女は口に出すことはしなかった。なんでもない、と良いその会話を途切れさせた。だが、彼女の瞬時に思ったことは、決して消えることがなかった。どこかで見たことがあるような、そんな既視感。その時、その顔を見たあの瞬間から―




 ―彼女の歯車が動き出す。





 「…はぁ、はぁ…くっ」



 アレンは広間に出た後、すぐにお手洗いの中に入った。大きな鏡の前で息遣いを荒くしながら、そして胸のあたりを右手で強く押さえつけながら、必死に呼吸を整えようとしていた。とにかく動揺が激しく落ち着かせないと、という気持ちが逆に彼に冷静さを失わせていた。あの二人の軍人の前で妙な姿を見せられない、悟られてはならないという気持ちが強く小走りでその場を去ったが、怪しまれたかもしれない。だが、そんなことよりあの時みたあの女性の姿が、彼には絶対に忘れられない。



 …何かの冗談だろう…?

 間違えだ。間違えであってくれ…



 鏡に指をこする、その音が彼の悲しい心情を鮮明に表していた。





 …。



 それから予定通り、彼は三日間あらゆる施設やお店に行き、帝国の一般人たちと話を進めながら情報を集めていた。彼は慎重に調査を進め、毎回の報告は共和国軍主力艦隊が攻撃へ転ずるための材料として十分なものとなった。地形的な部分から、目で見た都市武装の各種。艦隊の規模。反撃の可能性。占領するために必要な主要な施設。それらすべてを確保し、そして帝国の市民たちを抑えることが出来れば、ここを拠点とすることは出来るだろう。レジスタンスの発生する可能性も十分にある。だが、そのような行為は避けては通れぬものであると、この作戦が始まった時から誰もが分かっていた。

 アレンは再び荷物を搬出するという目的で軍の管制下を抜け、そして暗礁宙域へと向かっていく。既に幾度かの報告で対策は考えられている。どのみち攻撃すれば帝国中が大騒ぎになる。それからが重要であった。



 「なるほどな。やはり生産基地は西部に集まっていたか」

 「えぇ。…予想通りに」



 ユラもその報告を何度も聞き、そして自分でも分析を進めていた。相手を消耗戦に追い込み、補給を断ってじわじわと攻める策も十分に効果的だと考えていた。しかし帝国がどれほどの艦隊を保有しているのかは、アレンの持ち帰った情報の中に既に明記されている。それらをこれから相手するためには、やはり早急に生産拠点を奪取するのが先決である、と考えた。そして、相手に反撃の隙を与えないためにも、大規模な基地がある東部に関しては実力を十分に発揮して占領する必要があるだろう、と。

 彼としても、あまり人殺しは望まない。特にNPC兵士に対しては、しかし、今更この結果をやめようにも、政府の介入があってはどうすることもできないのだ。進む以外には。



 「今回は二個艦隊を分割して作戦を行う。前の木星防衛時のような気がして進まない気持ちもあるだろうが、皆には十二分に働いてもらいたい」




 作戦内容はこうであった。まずアレンの偵察と偵察情報艦からもたらされた写真を基に、対空防御を展開できると思われる各武装砲塔などを、上空から長距離砲により破壊する。第一撃目が終わった直後に分散行動をとり、第一艦隊が基地の制圧、第二艦隊が生産基地の奪取を目指す。特に第二艦隊の生産基地側の作戦には、多くの戦闘艇部隊を出撃させる。第一艦隊側の作戦には3分の2の陸戦部隊を投入するものであった。それぞれ占領に必要な各所を制圧したうえで、最後にレーダー基地を奪取する。恐らくこの広い基地には艦隊は配置されていないだろうという予想で、ユラは作戦を立てた。一気に両脇の主軸が折れれば、恐らく孤立して助けを求めるか、自力で脱出するだろう。ユラとしては後者に追い込む作戦で進めたかった。せっかくの基地を自爆などで防がれてはどうしようもない。



 「あまり長居はしたくない。明日にでも決行する」

 「はっ!」




 アレンには、この時から既に嫌な予感がしていた。ただただ、それが現実のものにならなければいい、と願っていた。




 Space Fantasy Game

 第73話 ―無慈悲な、姿―




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