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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
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第72話




 …また、大勢の人が死んだ。



 無事とは言い切れない。だが、共和国軍は回廊の戦いにおいて、帝国軍を事実上打ち破り、回廊出口付近からワープを実行した。共和国軍が目指したのは地球型惑星として設定されているドーミアと呼ばれる星で、そこを共和国軍の主力基地として帝国侵攻に備えようと考えていた。かつて帝国が太陽系を同じようにして占領したように、自分たちもそのつもりで挑むつもりであった。望まぬ者が多かったのは事実であったが。主力艦隊がワープを終えてドーミア星系に近づいたのは、現実の時間にして夜中であった。それまでに大半のプレイヤーはログアウトしてしまった。この時間、基本的に行動はNPCの人たちが主導となる。



 「なあ、最近大尉大丈夫だろうか?」

 「どういう意味?」



 ドーミア星へ近づいているとはいえ、すぐに攻撃が出来るような位置にいる訳ではない。そして司令官がいない間では無理をすることも、勝手な行動もしなかった。それが最善の方法であることを、NPCたちは自覚していたからだ。人が少ない艦橋の一部、主に通信を扱うその場所でNPCたちによる会話が行われていた。



 「アレン大尉だよ。また、難しい顔してただろう…?」

 「それはまぁ…たぶん、戦いに疲れたんだよ。あれだけ激しい戦いだったんだ」


 「でもな、俺思うんだよ。あの人のあの顔は、それだけが理由じゃない気がするんだ。何と言うかな…何かこう、妙な胸騒ぎがするんだ」



 一部のNPC兵士たちの間では、少々の噂になっていた。アレンという存在は兵士たちからすれば絶対的な存在であり、この上ない信頼を持つ存在でもある。優しくも力強い。そんな戦い方は戦闘艇部隊をはじめ、多くの人たちが知っている。司令部やプレイヤーからも驚かれるほどだ。それが故に現実のネット世界では有名になりつつあるのだが。

 だが、NPCの兵士たちは思う。あんなに強いアレン大尉があのように難しい顔をしていると、何か良からぬことが起こるのではないか、と。不安させる一つの材料となっていたのである。



 「…少しだけ、聞いたことあるぜ。あの方…そう大尉は自ら進んで軍人になった訳じゃないって…」


 「でも、だとしても凄いよね。尊敬する。あんなに強いなんて」


 「まぁ俺もそれは同意だ。けど…嫌な感じだぜ、この妙な胸騒ぎ。何も無いと良いんだがな…」



 彼らの不安材料が現実にならなければいい、優しくも強い上官に対して願うことはその点が強かった。このまま何事も無く、自分たちを引っ張って欲しい。その期待が兵士たちには強かった。

 一方。『ロンメルの手土産』は9月12日の夜中に、内部テストのために移動を命じられる。



 「ドーミア?…あぁ、あの水の惑星か」

 「太陽系で言う、地球のことだ。そう、お前が元々いた地球だ」

 「地球か。何もかも皆、懐かしいものだな」


 「ほう…覚えているのか?」



 ロンメル大佐とその手土産、「女性」は小型移動戦闘艇に乗って、もうすぐドーミア星へ移動を開始しようとしていた。この都市惑星でテストをすれば良いと考える人も多いのだが、この惑星は個人所有や商業目的、あるいは運搬目的で使われる艦船の通過が激しく、いくら軍とはいっても宙域を自由に扱うことは難題とされている。有事の際は強制できるが、それ以外では制限を設けている。これはプレイヤーたちが初ログインを迎えてから、そう時間を経てずに決定されたことである。圧倒的な開発力と都市運営を兼ね備えたこの惑星。はじめから便利すぎるものが集まっていた。



 「どれだけリペアされようと…完璧に忘れることはない。ただ、その記憶があるだけだ」


 「確かお前は元々商会に入っていたな」


 「あぁ。それは小さな商会だった。だが、今はもうない」



 「…あの頃に戻りたい、とは思わないのか?」




 ロンメル大佐が鋭い目つきで、まるで睨むようにして横眼で彼女を見た。彼女の答えに本当に若干の間が生まれる。だが、口調も表情も変えずに、ただ正面を見ながら彼女は言う。




 「…私の目的は、貴方に従うこと。そして、貴方の敵を倒すことだ」




 その言葉を聞いて、ロンメル大佐は何も言葉を返さなかった。ただ、その場で無音の笑いを表情で見せた。すぐに表情は真剣そのものになり、その直後艦内がふわっと浮き上がる。大佐の言う「リペア」は既に完了している。その人自身を完全に変えてしまうことは、現状不可能である。だが、自分たちの意のままに操ることは出来る。それがリペアの最大の目的でもあった。


 その点では、大佐の計画は順調に進んでいた。



 「それでいい。お前専用の機体も用意してある」

 「頼もしいな」



 それから時間は経過し、翌日の夕方。学校から帰ってきた零治は、いつも通り家事夕食を済ませた後、ゲームにログインする。既にドーミア星宙域に突入しているが、あまり長くこの宙域に停滞出来ないのが現状である。当然敵の哨戒部隊に発見されれば増援がやってくる。ワープをしたおかげで、ゾレル主力艦隊の行方を完全に見失ってしまった。アレンとしても、他の兵士たちとしても、あの艦隊の強さは尋常なものではなく、それだけに覚悟して戦わなければならないと思っていた。



 「来たかアレン。仕事だ」

 「はい。何でしょうか」



 アレンの、新たな仕事。それは、回廊の戦いが始まる前に既に言われていた、偵察任務の件についてであった。相手の惑星を武力を持って占領するのは一向に構わない。だが、全く知らない場所であるために情報量も少ない。情報偵察艦を頼るのも十分ありだが、目に見える情報が一番有力であることを、サイクスもユラも確かなものとして認識していた。そこで、今回早速アレンを惑星に送ろうというのだ。

 サイクスは、スクリーンに惑星の外から撮影した全体像を表示した。今回彼らが拠点として構える予定のポイントは、3ヶ所存在する。地球型惑星のドーミアに存在する、海に囲まれた大きな大陸。それぞれ大陸の東部、中央部、西部と位置付け、東部には惑星最大の帝国軍基地、中央部には雪原エリアの高性能レーダー基地、そして西部に莫大な資源を採掘可能な地域を占領する。そこまでの情報が写真撮影により把握することが出来た。今回真っ先に攻撃するのは、組織的な攻撃が予想される惑星最大の帝国軍基地であった。



 「では、攻撃を開始するまで相手に悟られなければいい、ということですね」


 「その通りだ。どうせ長居は出来ないからな。2,3日様子を見る。ありったけの情報を毎日ログアウトする前に、システムからこちらのサーバーに転送してほしい」


 「分かりました」



 そういうと、アレンは早々に艦橋から離れて作戦の準備にかかる。彼の顔、姿そのものにいつものような優しさが見られないことを、サイクスは真っ先に感じた。現実の時間にして、20時を過ぎた頃。アレンはすべての支度を終え、戦闘艇デッキに入る。彼が乗るのはデルタアースではなく、帝国軍の型番が付けられた一人用の移動艇であった。もちろん武装は一切していない。だが相手に警戒されないように工夫を施してある。共和国軍兵士の偵察任務であると気付かれないためにも、雑務も用意してあった。



 まるで、ゼウ商会にいた時のような。



 「アレン。常に連絡は出来るようにしてくれ」

 「…了解」



 エアロックを封鎖後、すぐに機体は射出される。いつものふわっと浮き上がる感覚はそれにはなく、ただ重たい操縦桿を操作するだけであった。デルタアースの時のように体に負荷はかからないが、なぜか操縦している気にはなれなかった。小型艇の巡航速度で惑星まで近づくと、2時間ほどはかかる。



 …明日が休みで良かったな。



 もしドーミア星系宙域付近に、暗礁宙域が存在しなければ、恐らくレーダー基地から自分たちの姿を捉えられていたであろう。ワープアウトに決めた宙域がそのような設定になっていて、ある意味彼らは幸運であったかもしれない。暗礁宙域から抜け出した頃には、もうレーダーには捉えられているだろう。しかし、帝国軍の型番と製造番号を身にまとった民間の移動艇であるから、そう不審に思われることは無い。アレンはそう信じていた。



 「接近中の機体に告ぐ。こちらは帝国軍第三艦隊所属第303航空師団管制事務所である」


 「あーどうもエルミアから来ました。商会の物資移送です」


 「了解した。行先は都市ユリースで良いのか?」


 「はいそうです」



 …意外と簡単に行くものだな。都市の名前は調べていたから既に知っていたが、向こうから話してくれるとは。…303航空師団か。一体帝国にはどれだけの艦隊がいるんだろうか。この惑星は帝国領全体としては、太陽系側にあるといっても簡単に渡すことが出来ない要所のはず。民間人だからこういった対応だろうが、もし敵がすぐ近くに現れれば血相を変えるか、あるいは…。



 「第35ゲートを開けさせておいた。誘導灯に従って降下せよ。お勤めご苦労!」

 「どうも」




 そうして彼は、管制官に指示された通り、帝国軍第三艦隊が管理する軍港第35ゲートへ入港した。惑星の中でも大きな都市のすぐそばにある軍港。この位置からでは戦艦などは見えなかった。恐らく目に付かないところに停泊してあるのだろう。機体と用意された荷物をおろし、堅い地面に足を踏み入れたその時だった。



 『初めて相手領国の地に辿り着きました!―報酬:帝国記念バッジ』



 それはシステムからの通知だった。こんなところにもゲーム権利の数値に関係する報酬が用意されているのか、と思うと少し感心もする。だがアレンはもはやそのようなものをあまり気にしなくなっていた。だからこそ、またセーブポイントを見つける楽しみに時間を使ってもいいのかもしれない、とも考えた。だが、ここは帝国領である。そのような余裕は無いだろうし、自分には任務がある。それをこなさなければ、自分たちの軍勢が不利になることもある。



 「軍事基地と直結の民間港か…手掛かりはありそうだな」



 そうして彼は、荷物をリュックに入れ、とにかく広い港の中を歩き始める。



 Space Fantasy Game

 第72話 ―偵察任務の、はじまり―




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