第71話
「デルタ3被弾した!!」
「ぐっ…今すぐ離脱しろ!」
「駄目だ操縦不能だっ…!!」
猛攻を続ける共和国軍ではあったが、その前に立ちはだかる帝国軍の火力は、それを凌駕する勢いであった。180度回頭を続ける共和国軍主力艦隊に襲い掛かる攻撃は、確実に艦隊の被害を拡大させていった。思うように反撃を行えずにいる共和国軍主力艦隊。魔の数分間を耐えなければ活路を見出すことが出来ない。それはプレイヤーやNPCでさえ既に分かり切っていることであった。いつも危機的状況でありながら、ユラ司令官の作戦や司令は最善を極めていた。今回もそうに違いない。そのような気持ち、思いが行動へ繋がる。何としてでも突破口を開くため、何としてでも阻止するため、両軍の力量が莫大なエネルギーと共にぶつかり合う。
「司令官!!」
「焦る気持ちはよく分かる。だがもう少し…このまま展開を続けろ」
アレンやフューリーたちの戦闘艇部隊が帝国軍主力艦隊を押さえているうちは、まだ作戦は続行できる。そして攻撃を行うまで何とか踏みとどまってくれるだろうとユラは信じ、爆発や強烈な光に耐えながら反撃を続けた。
一方の戦闘艇部隊も、多数の損害を出しながらもその力強さを見せつけていた。
「大尉…後は任せました!!」
デルタチームの3番機は、小さな機体に二ヶ所の弾丸を受け、操縦不能となった。そのまま制御を失って機体全体を回転させながら、弾幕の中に消えるかに思われた。だが、弾幕は不規則な動きをするその機体に命中させることが出来ず、帝国軍の戦艦の後部に体当たり、直撃して激しく爆発する。
「直撃受けました!!艦後方推進装置の熱量が上がっています!!」
「艦列を乱すな!弾幕続けろ!!」
「デルタ3が敵艦に衝突した!」
「…これ以上…!!」
…まだか、まだ回頭は終わらないか…!?
アレンもフューリーも、共和国軍の中ではよく知られたエースパイロットである。特に若年層のNPC兵士たちからは絶対的な信頼を得ている二人。技量もそれ相応であり、その姿はゾレル主力艦隊にとって脅威であった。アレンが再びブラスター砲を最大出力で砲撃すると、続いて高速でフューリーが3発、艦橋があると思われる戦艦前面にすべて命中させた。その直後、白い煙と共に一瞬にして爆発が広がる。
「まだ終わらんぞ!」
「…あぁ…!」
ゾレルの旗艦は、全体の指揮をしやすいように他の戦艦よりやや前に出ている。彼の指揮が隅々まで行きわたり、兵士たちの士気も向上する。大体司令官というものは、戦場に置いて絶対に必要な存在であり、それを失わせないために後方に配置するというのが普通である。だが、ゾレルはそれを嫌い前線に出ることを好んだ。彼の戦いへの姿勢が勇敢であるその気質がそうさせている。
「敵航空戦力、前衛艦隊を突破!…接近します!」
「なるほどな…面白い」
「閣下!」
「すべての砲門を開け。総攻撃だ!」
アレンやフューリー率いる主力艦隊の戦闘艇部隊は、ゾレル艦隊の前衛を突破する。無論すべての前衛にいる戦艦を排除した訳ではなく、出来るだけ回頭を邪魔させないよう混乱を目的としながら、攻撃を続けていた。その戦果が苛烈なものとなり、ゾレル艦隊の被害を拡大させていたのは誰の目にも明らかである。
「まだ行くのかアレン!?」
「もう少し…!」
一方、回頭を続ける共和国軍主力艦隊にも、戦闘艇部隊の攻撃の様子は確認できていた。上層部でさえ驚くほどの粘りであったが、その攻撃が徐々に弱まり始めていることも、よく見えていた。既に140度回頭を終えている。そこでユラは、全艦隊に主砲斉射の用意を指示した。最も大きいブラスター砲の出力を集中させ、一気に艦隊を突破する。まだゾレルにはこの作戦が見えていなかった。考える暇もなく攻め続ける共和国軍に対応するためであった。
「…アレンもフューリーも、その他の人たちもよくやっている…」
その時。旗艦のすぐ隣に布陣していた大きな味方戦艦が、爆発四散する。その余波が旗艦全体を揺らし、艦内で転倒する人が続出した。既に砲火は艦隊の全域を飲み込もうとしている。回頭時間は本来そこまで長いものではないはずだが、この時はたった数分のことが1時間あるようにも思えた。それほど、彼らにとっては地獄とも呼ぶべき状況であっただろう。
デルタチームが、新たな敵影の中に気になるものを発見する。
「大尉!前方に大型戦艦!」
「あれは…」
…間違いない、あれが旗艦だ。
「敵航空戦力、さらに接近!」
「閣下、このままでは!!」
…間違いない、奴だ。…あの男だ。
顔も姿も、声も何も知らないその二人が、まるで戦場という共通のゾーンで再会したかのような心境。目の前に立ちはだかる壁が、お互いにとって大いなる脅威であり、そして同時に他の人には感じることの出来ない、いや感じることのない強いプレッシャーを放っている。もう一人の彼は目を細め、その姿を凝視する。この世界の彼は接近する物体を見て、右の口元を上げさせた。
アレン機はそれを発見した時点で、急加速を行う。その行動に反応できなかったフューリーを含めた味方機は、一気にアレンと差を引き離されてしまう。無数の弾幕が飛び交う中、アレンは他の戦艦からの攻撃を避けながら、その大きな標的へと向かっていく。他の戦艦が明らかにアレンの標的が旗艦であると悟った時に、攻撃はアレン機へ集中した。それでも彼は前進を止めなかった。一発も命中しない弾丸がたとえコックピットのガラスのそばを通ろうと、決して怯むことは無かった。逆にそちらに気を取られた各艦が、別の接近する戦闘艇部隊に砲撃を受けるといった事態が発生した。
アレンは、操縦桿のブラスター砲のボタンを一回押す。弾幕の影響で、照準は合わせられなかった。だが、確実に直撃コースを光の線が走り抜ける。
「何…!?」
だが、今まで最大出力のブラスター砲で撃沈させてきた戦艦たちに対して、旗艦はその攻撃を全く受け付けなかった。旗艦と思われる戦艦の前頭部に命中したが、装甲が剥がれる訳でもなく、ただ黒い焦げのような印を押しただけであった。思わずアレンは驚愕の表情を浮かべる。そして、その旗艦と思われる戦艦の主砲口が、光り始めていることに気付く。その射程は完全に自分を捉えており、そして主砲は確実にアレンの向きに合わせている。その瞬間、アレンはすべての推進装置を右方向に瞬間噴射させた。自分の機体の左すぐを、戦艦クラスの主砲が通過していく。衝撃がコックピット内にも伝わる。
…そして、お互いの姿がモニターでなく、ガラスからハッキリと見えた。アレンも、ゾレルも、通過するお互いの姿を目で追った。
「全機上昇!!」
その時。アレンは共和国主力艦隊の方を見た。長い地獄の数分間が、終わりを告げた。
「全艦、主砲斉射!」
「撃て!!!」
地獄の数分間攻撃を受け続けるだけに等しかった彼らの艦隊は、それらの圧力から解放され、今までの分を倍返しするかのように全艦が一斉に射撃を行った。射線は総攻撃を行うために集結しながら攻撃行動を続けていた、帝国領側に布陣する艦隊に一直線に向かっていった。初めは無数の線に見えても、わずか2秒足らずでそれが一つの大きな太線に変わり、高速で艦隊を捉える。突然目の前が真っ白になり、何が起こったのか分からない間に、多数の戦艦が消滅する。無論、戦艦に乗務するNPCたちも。その眩い光景は、ゾレルにもハッキリと見えていた。はじめ、共和国軍が組織的な抵抗を行った時と同じ攻撃方法。捨て身のような作戦、敵前回頭して攻撃の対象を変更させ、自分たちの足を動かすために進路にいる敵を排除するための行動。
「敵艦隊、移動を開始!」
「味方艦との通信途絶!復旧作業急げ!!」
「…ぐっ!」
ゾレルはやや笑みを浮かべながらも、自身の右手拳を強く握りしめた。回頭を狙って集中砲火をし敵を殲滅する。この作戦に間違いはなかった。前後から敵を挟撃するという作戦も上手くいった。なのにもかかわらず、目の前にいる敵の力量が状況を利用したことにより、一歩上手に出てしまった。もしこの一点集中攻撃をゾレルが予測し、あらかじめ陣形を分散させておけば、状況は帝国軍に傾いたであろう。まして、帝国軍は回廊の衝撃波面の限界宙域を特定できている。それを最大限に利用した作戦を展開していれば、間違いなく共和国軍はその前に倒れていたであろうから。
「ユラ司令官、戦闘艇部隊、回収完了です」
「よし、回廊をそのまま離脱する」
「しかし…大丈夫でしょうか。我々が突破したことによって、敵が今度冥王星に近づくのでは…」
確かに、ユラもその可能性を捨てきれずにいた。だが、ここまで作戦を忠実に実行し主力艦隊を翻弄しておいて、急に進路を変更するとも思えない。帝国軍にどれほどの戦力が残っているかは知れないが、領内に侵入する敵軍を見逃すことはしないのではないだろうか、とユラは考え、そのままの進路を維持した。
帝国と共和国にまたがる、複雑な宙域アルファ星系回廊。ワープしては飛び越えられないため、どちらかの領域に行くには必ずこの回廊を通過しなければならない。そこで起こった初めての戦闘は、ようやく終結を迎える。結果的には、共和国軍の被弾率のほうが圧倒的に高く、帝国軍の戦艦喪失の数は共和国軍のそれを上回った。数度にわたる一転集中砲火作戦の、結果である。
「問題ない。…ただちにワープ準備へ」
こうして、有史以来はじめて共和国軍は、帝国領への侵入を果たす。それは、この先に迎える劇的な展開、そして最後の攻撃に向けた、新たなカウントダウンのはじまりであった…。
Space Fantasy Game
第71話 ―新たな、道標―




