第70話
「主砲、斉射!!」
アルファ星系回廊内での、激しい戦いの幕開けであった。まるで誘い出されるようにして現れた共和国軍主力艦隊に対し、まず帝国軍ゾレル少将指揮下の艦隊は先手を取るために、回廊内の衝撃波面ギリギリに展開し、共和国軍艦隊の上空から爆撃を行った。先日、冥王星宙域の至近で炸裂したものと同じものを使用して、今度は確実に共和国軍艦隊を撃滅しにかかった。攻撃を受けた共和国軍は、照明弾を天頂方向へ撃ち放ち、全速力で前進した。既に周りに包囲されている、と予測していたユラは、天頂方向からの爆撃が治まった時点で全艦隊を急速回頭させ、二個艦隊を3つの攻撃集団に分けて一点集中砲火による攻撃を行った。
莫大なエネルギーが集中して、まるで一本の主砲を撃ち放ったかのような光景が生み出される。ゾレル主力艦隊は直ちに分散を指示した。それでも、帝国軍への大きな痛手となった。続いて第二射、第三射と行われる。一番心配されていたのが、この莫大なエネルギーを回廊内へ放出することによって、回廊を流れるエネルギー流に引火する危険性がある、ということであった。ユラははじめからこの作戦を計算に入れ、ケーンバーク少佐にエネルギー流のポイント割り出しを指示していた。自分たちがその影響を受けない地点で、相手に攻撃を与えることが出来る場所を特定し、そこに攻撃を加える。まさに、今後方から近づきつつある艦隊に対して、攻撃とけん制を加えられるポイントであった。
「味方艦2割弱消滅!!」
「…ふん、さすがだな。幾度となく危機を乗り越えてきただけのことはある…」
…だが、この程度の攻撃、何のことはない…!
「レムラ参謀長、もうレーダージャミングはいい。どうせこの回廊内では対して役には立たない」
「はっ」
もし、ゾレル艦隊に落ち度があるとすれば、共和国軍が放ったソナーを発見できなかった点にあるだろう。だが、ゾレルの作戦は徐々に共和国軍の肉体に噛みつきにかかる。
「ソナーに新たな反応!帝国領方面より接近する物体あり!」
「やっぱり、来たか」
ゾレル艦隊の作戦のうち、一つは回廊の衝撃波面に共和国軍を追い込むことにあった。天頂方向からの無数の爆撃に対し、それを撃滅しようとするならば、既に右翼および後方に配置していた艦隊を振り向け、退路も進路も遮断する。だが、これはユラの指揮により阻止された。だが、ゾレル艦隊にはもう一つの作戦があった。こちらはよくある戦法の一つではあるが、共和国軍艦隊を挟み撃ちにするというものであった。共和国領側の回廊に配置したものとは別に、帝国領側には都市惑星からもらった老朽艦が配置してある。はじめのプランが成功しなかった場合には、挟撃作戦をとる。この二段構えにより、共和国軍の主力艦隊は完全に行き場を無くした。
「チッ…奴らめ、やるな」
「俺たち航空戦力で役に立てないんだろうか」
出撃命令が下りず、ただ戦況を見続けることしかできない戦闘艇のパイロットたちは、焦りを覚えた。二個艦隊に被害が拡大し、このまま船の中で死を迎えてしまうのではないか、という。だが、航空戦力を前面に出したところで回廊の衝撃波面は把握し切れていない。ケーンバークが前からエネルギー流の吹き方に注目して解析し続けてはいるが、それには限界がある。まして、回廊内はもともと狭い宙域設定だ。狭い空間でそれも近い距離からの攻撃を行っているため、戦闘艇の投入はさらに困難を生む原因になると考えられ、出撃許可が下りなかった。
「…ケン、エネルギー流はどうか」
「今は小康状態です。30分後、帝国両側に発生する可能性があります」
「なるほど。それしかないな」
敵艦隊に囲まれ、狭い宙域の中満足に戦えない状況が続いている共和国軍。司令官のユラは新たな作戦を打ち立てた。再び訪れるエネルギーの波に引火させ、一気に帝国領方面へ突破しようという物であった。内容そのものは簡単であるが、幾つも問題点がある。次、そのエネルギー流は帝国領側に流れるとはいっても、自分たちの艦隊もそのエネルギー流と至近距離にあり、巻き込まれる可能性があるということ。そして現在すべての艦隊の方向は、共和国領側で布陣しているゾレル主力艦隊へ向いているため、180度回頭する間に一方的に攻撃を受ける可能性があるということであった。
「エネルギー流の流れる量、方向から衝撃波面の所在を特定した。すべての戦艦が展開できるほどの空間は、この先に一ヶ所しかない。そこまで進みながら攻撃を続け、その地点に達した時点で急速反転する。反転行動をとる前に戦闘艇を出撃させ、前方の艦隊をけん制する。そうしている間に、我々は再び一点集中砲火を行う」
「なるほど!」
「…確かにそれが一番、かもしれないですね」
戦いの中で行われた旗艦での会議で、アレンとフューリーはその話を聞いていた。そして半ば納得したが、アレンとしてはあまりに危険が伴う作戦であった。だが、これ以外に方法はないと彼も思っていたので、否定をするわけではなかった。ただ、航空戦力がどれだけ戦力として行動するかによって、共和国軍主力艦隊の被害度は変化する。再び重大な役目を与えられた。
「突破が成功した後、そのまま回廊出口まで進行し、そこでワープを行う」
「ワープを…?」
「目標は、アルファ星系内のドーミアと呼ばれる惑星だ。地球に似た惑星であると確認している。回廊を出ても追撃を振り切れないのでは意味がない。帝国の主要惑星からは離れているが、拠点確保にはもってこいの場所だ。…では、各位準備を」
すぐに作戦が行動に移された。アレン、フューリー率いる戦闘艇部隊に出撃命令が下され、すぐさま整備兵たちが機体のエンジンを始動させる。回収を行ったデルタアースももちろん出撃する。プレイヤー、NPC混ざった部隊である。
「…」
キッカケは…アレン大尉、貴方でした。
行きましょう、か…僕が選んだ、いるべきところへ…
アレンの脳裏に蘇る、苦い思い出。コックピットに座って準備をしているだけなのに、あの晩のことが思い出された。蘇る記憶。目を背けたくなるような、もう一人の自分の現実。二人で二つの世界があったとしても、結局動かすのは一人の自分自身であった。
何度も戦艦を大きな揺れが襲う。戦火がすぐそばで発生していることを考えれば、無理もない。戦艦が撃沈されれば、自分たちも一瞬にしてシステムから死亡報告が届く。今度はそうなりたくはない、と考えていても、死ぬときは一瞬であった。プレイヤーも、NPCも。
…誰でも、と言えるか?
「目標ポイントに到達!」
「全艦、急速反転」
「反転180度!!」
司令官の手の動き。右手を高々と上にあげ、次に反時計回りに、9時方向を指す。ついに、作戦が実行される。ユラのいう、賭け要素の作戦。すべての艦隊が同じ宙域に同時攻撃可能な配置を行うために、180度回頭する。そしてそのタイミングで、二個艦隊の戦闘艇部隊がただちに出撃する。ある意味制宙権を取りに掛かるこの作戦は、彼らの成功なしでは絶対にうまくいかないものであった。
「…デルタ1、出るぞ!!」
よく慣れた、機体が射出されるときにかかる力。シートに押し付けられる力を受け、その次ふわっと浮き上がる感覚を得た彼は、右手でレバーを前に押し出し、急加速を始める。続々と各艦から戦闘艇部隊が出撃し、その数は小さな星々の光を映し出すようにしていた。当然この光は敵からも目視できる。それが戦闘艇であるのか、あるいはミサイルなどの攻撃であるのか。判断は一瞬であった。
「敵艦隊、左舷回頭を開始!!」
「…!!」
…常識外れの艦隊運用。だがそこに活路を見出したという訳か…。
「さらに接近する複数の熱源を探知!」
「主砲、弾幕に切り替え迎撃用意!」
ゾレルには、この段階ですでにユラの策が読めていた。180度回頭を行い、帝国両側の敵を攻撃する。もしそれが成功すれば、共和国軍主力艦隊は一気に帝国領になだれ込むことが出来る。しかし、それほどの大規模な作戦をこの場で思いつき、完璧な統制をもって成功するかどうかなど、可能性で考えれば薄いものである、と万人なら考えるであろう。ゾレルも勝算があるとは思えない、と一時は思ったが、自らの艦隊の弱点を正確に突こうとしているその艦隊運用に、驚きもした。だがひとつ、彼には疑問があった。帝国領方面へ流れるのを第一としても、共和国領方面で展開するゾレル主力艦隊を抑えるために向かった航空勢力を、見殺しにするようなものであった。そのような作戦を実行できるほどの余裕があるとは思えない。よほど近距離戦闘に自信があるのか、あるいは捨て身の策なのか。そこがゾレルには理解し難い点であった。
彼もまた、NPCの一人である。その気質が判断を鈍らせた。
「火力を前面に集中するよう、味方艦に伝えろ。こちらの艦隊は迎撃に専念する!」
「はっ!」
数分という時間をかけて、180度回頭を行う共和国軍の主力艦隊。ようやく90度回頭を終えた頃には、格好の標的と成り果てていた。満足に反撃をすることも出来ず、味方艦に被害は広まる。その最中、戦闘艇部隊が強襲行動に移る。
「いくぜアレン!」
「フューリー…了解した!」
宙域の間隔を光で埋め尽くしてしまうほど、綺麗で狂気な光の線が貫く。さらにそこへ光をまとった数百ミリ口径弾が無慈悲にも無数通過していく。アレンとフューリーは隣り合わせで近い距離を飛行しながら、弾幕を回避し続けていた。ほかの隊員が次々と撃墜されていく。まさに砲火の中へ突入する強襲部隊であった。
「大尉!!うわああぁぁっ!!!」
「デルタ5被弾した!…戦れ…離…る…!!」
「…くっ…!」
戦闘艇のコールサインでデルタの名前を持つチームの味方が、立て続けに2機も撃墜される。しかもそれがNPCであっただけに、アレンはその声を聞く度に激しい苦痛のようなものを感じた。まるで戦死する仲間たちの死に際が、映像として頭の中で再生されるように。アレンは弾幕を回避しながら、改修したブラスター砲の出力を最大にして、一発放つ。
「117艦撃沈!」
「馬鹿な、あの機体ただの戦闘艇のはずだろう…たった一発だと…!?」
ゾレルは、その者が操る戦闘艇の姿をサブモニターに投影した。大きな胴体に取り付けられた、合計4つの翼。荒れ狂う波に含まれるエネルギー波をかき分けながら、弾幕を回避して攻撃を加えるその行動。
「…噂のあの男か…!」
帝国軍ゾレル艦隊は、全員がNPCで構成される辺境育ちの艦隊である。だが、そんな彼らに弱いという言葉は何一つ感じられず、しかも現状では共和国軍主力艦隊を追い詰めている。圧倒的な力の差があるわけでもなく、司令官の指揮と兵士たちの力量が相まって、おびただしい戦力を発揮しつつある。そして何より、この戦闘に対する熱情が何よりも強かった。
「敵機接近!例のエースです!!」
「弾幕緩めるな!落とせ!落とせ!!!」
内戦があった頃、相手がプレイヤーだとわかっても、決して屈することのなかったNPCが何十万人もいた。その彼らと同じようにして、帝国軍のNPC兵士たちもこの戦闘に全力で立ち向かっていた。司令官の目指す作戦を完遂させるために。そこは、もうゲームで描かれる世界とは違い、一人の人間としてその世界観に挑戦する勇者のようなものであった。
知らない間に、アレン、いや零治もその一人となっていた。だが、それがキッカケで…。
Space Fantasy Game
第70話 ―力と、知能と―




