第69話
9月上旬。突如襲った冥王星基地周辺での爆発行動。レーダーに映らない遠い位置からの攻撃であったが、それは基地を襲撃する目的ではなく、ただ単に基地の至近宙域で爆発するだけという、不可解なものであった。それが数日間で立て続けに何度も発生し、その度に戦闘配備を行う兵士たちには、疲れというよりも焦燥感が生まれていた。一体いつになったら敵は来るのか、と。先日NPCとの戦いがあったばかりで、まだ体制が万全とは言えない共和国軍主力艦隊。統合計画も完了させ、再び新規の艦隊で冥王星基地を最前線としていたが、ここで政府の介入もあり、その攻撃元を特定して逆に殲滅することが決定された。
それが行われたのが、9月11日であった。
…全艦、砲雷撃戦用意…!!
この先に敵がいるだろうことは、アレンもサイクスも、ユラも予測していた。α星系回廊宙域付近に辿り着いた主力艦隊は、既にレーダーが使えない状態に陥っている。敵がジャミングを施しているのもあるのだろうが、この回廊はエネルギー波の流れる要所でもあり、不安定な宙域とも言える。戦艦ほどの質量を持つものであれば何ともないが、戦闘艇などが回廊の情報を持たずに侵入すれば、エネルギーの潮流に引っ張られる可能性もある。このような不安定なところに敵はいるのだろうか、という兵士たちの疑問は消えなかった。
アレンは、艦橋の端で目の前に見える宇宙を見続けている。いつの間にか、光が届いていたはずの遠くの星々の光が、薄れているようにも思える。だが、そんなことより彼には気になることがあった。この回廊に突入する直前から、感じていたもの。
「…」
…なんだ、この突き刺さるような感覚は。もしかして、あの力が作用しているのか…?他の人には分からないんだろうか。
…強敵、かもしれないな。
回廊を侵入中の彼らは、全艦に戦闘配備命令を出している。いつでも敵からの攻撃に対応できるようにするためである。回廊自体があまりに長いことは無く、一晩もあれば突破できるほどのものであるが、何せワープがこの宙域では使用することが出来ない。不安定な空間を超えるにはリスクが高すぎるのである。
「サイクス。宇宙用のソナーを投下するよう指示してくれ」
「はっ。…しかし、そんな装備でどうするのですか?」
「恐らく、敵は既に我々が回廊へ入ったことを知っている。まるで誘われるようにこちらから顔を出したんだからね。しかも我々は、まだこの宙域に一度も足を踏み入れたことが無い。その点空間を把握している帝国軍のほうが有利となる。そこで、宇宙空間用のソナーを使って敵の位置、距離、布陣する空間を把握しようってことさ」
過去、SFGの中でソナーが使われた例は少ない。この世界で用意されているソナーは、基本レーダーなどの機能ですべてを確認できてしまうので、使う必要性が極端に薄れている。電波障害を受けた際の対応として、このソナーは存在しているが、大体の宙域では空間サーモグラフィーや有視界による敵の視認を行う、または戦闘艇による偵察行動によって位置を特定するので、なお使われないのである。強いて言うのなら、ソナーはSFG内の至る所にある暗礁宙域と呼ばれる場所で、使うべきなのだろうと考えられていた。まるで古びた貨物扱いをされるのだが、兵士たちはそれをエネルギー潮流のある回廊内へ投下した。
「しかし…よく思いつきましたね」
「私の大好きな映画の中に、これに似たシーンがあってね。ある国で叛乱が発生して叛乱軍はICBM、つまり核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイルを発射できる基地を奪取した。自分たちの要求が受け入れられないのなら攻撃する、と脅してきた奴らに対して、主人公たちの国は核ミサイルを水中から射出できる原子力潜水艦を出撃させた。基地に対して攻撃するか、それとも司令を待つかというところで、味方の意見は割れる。だけど、その間に何度も敵の潜水艦と遭遇するんだ。あのシーンに似ていてね」
「…なるほど。潜水艦ものの映画ですか」
「題材は古いし、話はとても重たいんだけどね」
ソナーを投下してから、10分後。ケーンバーク少佐のもとに、新たな情報がもたらされる。
「ソナーに反応在り。すぐに解析します」
「了解。頼む」
…解析を始めた、その直後だった。
「ね、熱源を感知!!艦上方面より急速接近!!」
「…!?」
その時。突如熱源探知機に反応した真っ赤な模様は、その範囲を画面いっぱいにまで広げる。中央部が真っ赤に染め上げられ、それが外枠の円に向かっていくごとに黄色い色へと変化していくその光景。徐々に中央部の真っ赤な部分が拡大していき、そして熱源探知機が警報を鳴らした5秒後。突如激しい音と共に艦内に壮絶な揺れが襲う。とても立っていることなど不可能だろう揺れの大きさで、アレンもその揺れに乗せられ激しく壁に背中をぶつけて転倒した。その直後、自分たちの視界が突如真っ白になっていく。この感覚、この光景を彼らは一度だけ経験している。だが、それとは違う別のものであった。視覚が急に刺激され、思わず目を閉じた。揺れが収まるまで30秒以上もかかった。
「ぐっ…どうした、状況報告!」
「分かりません!天頂方向からの攻撃を受けました!!」
「…この攻撃…」
…先日の爆発と同じか!
アレンは、すぐに先日から何度も発生している爆発であることを理解した。ビーム兵器のようにも見える録画映像だが、最終的には爆発をもたらしている。それなのにもかかわらず、基地には被害が出ていない。その時に使われた攻撃手段が、今この場で使われたのだ、とすぐにアレンは読んだ。
「被害状況の確認急げ。それから艦長、直ちに照明弾を天頂方向へ」
「はっ!」
数隻の戦艦から、攻撃を受けた天頂方向に向けて照明弾が射出される。大きく高い音を鳴らしながら、照明弾は炸裂する。すると周囲に強烈な眩い光が広がり、その光の中から幾つもの戦艦のシルエットが浮かび上がってきた。レーダーが大して役に立たない状況下で、有視界での戦闘。敵艦の数は殆どいなかった。
ユラは、すぐに全艦に最大船速を指示し、前進するように伝えた。恐らく次は側面か後背か、どちらかからの攻撃が来るだろう。そう予測していた。
「しかし閣下、この回廊には衝撃波面が…!!」
「安心しろ。上から攻撃が来る間は、どんなに進んでも問題ない」
「…?」
この時点で既に敵の意図するところをほぼ理解している、というのがユラの強みであり、そして共和国軍主力艦隊の強みともなっていた。アルファ星系回廊は全長が短くてもワープを行って通過することは出来ない。その宙域の不安定な状況がそれを阻んでいる。さらに、この回廊の衝撃波面に突っ込めば恐らく漂流を覚悟しなくてはならない。もし、この天頂方向からの攻撃がさらに先に進んでも続くのであれば、敵は自分たちの行動に合わせるように上空に布陣している。それが途切れた時が、複雑な回廊の姿を見るときだ、とユラは考えたのである。
それでも、攻撃を受けて混乱した戦艦が航路から外れ、外縁の衝撃波面に突っ込んでしまうケースも見られた。攻撃を受けながら反撃することも出来ず、被害は徐々に無視できないものとなりつつある。
「ケン少佐、エネルギー流の観測を至急に頼む」
「大丈夫です。既に計測しています」
「流石。…これから先の作戦は、ある意味賭けだ」
これまで、ユラの作戦は相手の陣形を読み取ってそれに向けた対策を打つ、といったことが多かった。敵が先手を取るパターンも十分にあったが、最終的に勝利は共和国軍の方に来ることも多かった。そのユラが、賭けという言葉を使うだけで、周囲の人たちからはこの事態が容易な物でないことを悟らせるには十分であった。
「天頂方向からの攻撃が止んだところで、全艦隊を急速反転させる。この狭い回廊ではすべての戦艦を一度に展開出来ないから、攻撃を3回に分けて行う」
「3回…閣下それはどういう…」
「敵は恐らく天頂方向からの攻撃を行いながら、レーダーの利かない別働隊に我々の位置を送り続けているだろうと思う。それを抜け、敵が後方に殺到してきたところで、一点集中攻撃を行う」
既に第一、第二艦隊の被害は無視できないレベルに達している。いまだに謎めいた炸裂攻撃ではあるが、恐らくユラはこれは実弾を用いた攻撃である、と判断していた。そうなると、冥王星基地の録画映像にあったブラスターのような軌跡はどうなるのか、とも考えたが、もしあの炸裂弾がミサイルのようなものであったとしたら、この周囲の回廊から長距離用に射出され、エネルギー流を貫きながら冥王星に接近したために、あのような線を描いたのだろうと考えていた。
とすれば、エネルギー流は戦艦類の攻撃に反応して有視界にも表れる。恐らくは荒れ狂う波のように。
「…エネルギー流に引火させるのですか…!?」
「あまりに危険すぎるのでは…」
「ブラスターの出力を最大にして、各艦が同時に攻撃を行う。そうすることで、一定のブラスターが束になって、高エネルギー反応を起こす。確かに危険は伴う。だが、3方向からの攻撃に対応できるほどこの回廊は広くない、それに追い込まれれば逆に我々が衝撃波面に激突してしまう可能性もある」
「…なるほど…」
天頂方向からの攻撃が無くなったその周囲の宙域が、衝撃波面の警戒エリアであるとユラは断定した。大規模な展開を少数でしか展開できない数の不利を、ユラは一転集中砲火によって補うことにした。その司令を全艦に伝え、数分後には天頂方向からの攻撃が徐々におさまってきた。
「ゾレル閣下、これ以上は撃ち下ろしが出来ません」
「分かっている」
ゾレルは共和国軍艦隊が急速回頭をしている姿を、自分の持つ望遠双眼鏡で確認していた。ユラとしてはこれ以外最善の方法はない、と考えての行動であった、この講堂は既にゾレルも予測出来ていた。
そして、一つ呼吸を置き、頬を上げる。
「主砲、斉射!!」
Space Fantasy Game
第69話 ―波は、回廊へ―




