第68話
長距離攻撃…至近距離での爆発…だが被害はない。何が目的だ…?ただの牽制にしては事が大きすぎる。少なくとも、最前線基地に喧嘩を仕掛けるというなら、それなりの準備はしてきているはず。だが…相手はレーダーにさえ現れない。ジャミングで隠れた位置からの攻撃か?だとすれば、奴らに接近すれば…。
チッ…まずは周辺宙域の安全を確かめるのが先か…。
「大尉、確かレーダーではジャミングの効果範囲を確かめられないんですよね?」
「あぁ。近づかない限りはな。だから、基地のレーダーでは何も映らないんだ」
彼がSFGにログインした時には、既に事態は発生していた。正体不明の攻撃を受け、基地内は騒然としていた。だが、その攻撃によって冥王星基地が被害を受けた訳でもなく、ただ至近の宙域で爆発が発生しただけであった。アレンにはどうしてもその行動が不可解であった。なぜ、そのようなことをする必要があるのか。何かを目的としているのなら、それを確かめなければならない。
「お…大尉、ジャミングでしょうか。レーダー装置がやや不審です」
「そうだな。可能性はある」
SFGの世界では、ジャミングに対してレーダー反応はテレビ画面の砂嵐のようなものを示すようになっている。高速移動中の彼らのレーダーは徐々に映像が乱れ始めている。それが濃くなればなるほど、ジャミングの強い方角へ向かっていることは確かと言えるだろう。
「どうしますか。このまま進みますか?」
「…それは危険な気もするな。有視界では何もできないというのが歯痒い」
「えぇ…確かに」
依然としてレーダーにも反応はないし、目視してもそれらしいものは見えてこない…やはり敵か。しかし…
「…この先は、帝国領だ」
アレン大尉の指示により、全機帰投することが決められた。この先は太陽系とα星系を結ぶ回廊であり、近づくことさえ危険と考えられている。そのため、濃いジャミングを放つその方角へ向かうことを、単独で命令するわけにはいかなかった。ひとまず、周辺宙域の安全とジャミング反応発生時の写真、そして回廊方向への映像を撮影し、それを司令部まで持ち帰った。
「…なるほどな。回廊、か」
…アルファ星系回廊。その名前だけ聞いたら、まるで太陽系を差別しているようにも思えるが…。あの回廊は、冥王星宙域からとても近いところにある、不安定な宙域だ。ジャミングがあったから尚の事そう思うんだろうが…あの周辺はエネルギー潮流が存在する、と聞いている。つまり、俺たち戦闘艇乗りのような小型機では、接近しては操縦桿を取られる可能性がある。さらに、回廊には潮流による衝撃波面と呼ばれるものが存在していて、それに触れてしまえば機体は粉々、戦艦でさえ致命的なダメージを負う、とも言われている。
…このゲームが始まってから、俺たち共和国人は、一度もその回廊へ突入したことがない。だが帝国軍は、太陽系侵攻時にも、撤退時にも…通過している。その辺りの宙域情報には詳しいはずだ。情報だけを信じて行くには危険が伴う…。
まさかな…それを利用してのことか。
「司令官は、まだログインしてないんですね」
「みたいだ。忙しいんだろう。あの人柄には似合わないイメージだがな」
「…確かに」
結局、偵察任務に出たアレンたちではあったが、これといって有力な情報を得ることは出来なかった。ただ、確証として兵士たちの間に知れ渡ったのは、回廊からの攻撃であったということもあって、また帝国と共和国との戦闘が再開されるだろう、ということであった。ゲームの本質に関わっているということで、戦闘が数多く繰り返されることは、当然兵士たちも覚悟している。無論、アレンも。
その日の行動は、それだけに終わった。情報の解析がNPCたちの手により進められ、攻撃が今までとは違うだろうという疑惑が、ほぼ確定的なものとなった。
「映像を見ても…ビーム兵器のように見えるな」
「ブラスター砲…?しかし今まで炸裂するようなブラスター攻撃は無かったはずですが…」
「それだ。ミサイルとも言えないこの攻撃…そしてブラスター砲としては信じられないほどのロングレンジ攻撃だ。もし、本当に星系回廊からの攻撃だとしたらな…」
9月8日。ある程度の情報解析を終えたデータを受け取った上層部は、それをもとに攻撃手段の特定に入った。が、今まで見たことが無かったものに対して、データを求めたところで確証を得ることは出来ない。ただそれが、戦闘艇が積んでいるようなブラスター砲でもなく、かといって戦艦が使うようなブラスター砲とも違っているという、共通の認識は得ることが出来た。
「エネルギー波接近!本基地に近づきます!」
「発射元を直ちに特定しろ」
「…駄目です。レーダーには捉えられていません!」
その日、謎の攻撃が短い間隔で二回続いた。いずれも前回同様、冥王星基地の至近で炸裂、爆発し消えた。今回も基地やそのほかのものに対して、被害は出ていない。ますます疑問は深まる。これが帝国からの攻撃であるとするならば、一体何を狙ってのことなのか。
「…警戒解除。通常配置に戻してくれ」
…どういうことだ…。明らかな攻撃手段であるにも関わらず、敵は基地を襲撃するでもなく、ただ無駄弾を使っている。前回と同じく、ただ炸裂させるだけ…。
…いや、待て。もしこれが、このロングレンジ攻撃が、敵によって調整されあえてこの至近で炸裂させているものだとすれば…?
翌日、9月9日。その日の夕方から夜遅くにかけて、全く同じ攻撃が3度も続いた。すべて映像で確認をし、情報解析も行っているが、レーダーによる特定も出来なければ、基地からではジャミングさえ確認することが出来なかった。発射元が回廊方面であることは確定している。その時点で、これが帝国による何らかの意思表示であるだろうと言うことは、既に軍内部で噂になっていた。
しかし、ある意味それ以上に厄介な問題もある。一度攻撃を観測すると、すぐにそれに備えて戦闘配備を司令する。それが敵の攻撃を受けないことによって、短時間で解除になる。それを繰り返すことによって、敵の意図が読めず、戦う兵士たちに焦燥感を与える要因を作り出してしまっていた。
「なんなんだよ一体!!来るなら来いってんだ!!!」
「おいおい落ち着け。被害が無いんだから良いじゃないか」
「黙ってられっか!一体何度出撃準備を進めれば良いんだよ!?」
「…ま、確かに不気味ではあるがな。相手の出方が…」
特に戦闘艇部隊の兵士たちに、焦燥感は募った。出撃する準備は整えても、結局準備だけに終わる。それをひたすら繰り返すのは、プレイヤーでもNPCでも関係なく、緊張感が続くことでストレスを発生させ、同時に疲労感をも生み出す。アレンとしても、この状態があまり長く続くことを好まなかった。それはアレンに限ったことではなかった。司令官はいったいどうするつもりか、という声が飛び交う中、今回の件に関してはユラも中々動けずにいた。敵の情報が少なすぎる。恐らく帝国軍だろうが、これは間違いなく何か意図があっての行動である、と彼は思って勇敢に立ち振る舞うことなど出来なくなっていた。
だが、そこへまたしても、政府の介入が入った。
「こちらにも情報は届いているぞ。とっとと始末した方が身のためではないか」
「…」
「長官、この敵の行動は間違いなく何らかの意思表示です。迂闊に近づけば、奴らの術中にはまる恐れも…」
「おうおう、これはこれはアレン大尉ではないか。先日は随分苦労したようだね…?」
一瞬にして空気が変わるのを、誰もが肌身で感じ取った。凍てつく空気、というより、冷気を遥かに超えた冷徹さのこもったものであった。他のどのプレイヤーもそれ以上には気付かなかったが、アレンだけは別のもう一つの感覚を手に入れている。あの力の作用によって。
「しかしこのまま待ち続けていては、兵士たちの体力が持つまい。それに、君たちが主張してきたNPCへの配慮も怠ることになる。何故なら、彼らはこの世界でしか生きられないのだろう?我々プレイヤーは、何度でも生き返る。何度でも休める。だが、NPCたちはそうはいくまい。だったら、早く事態を解決する方がNPCたちのためだろう。そうは、思わないかね…?」
「…」
「…君には期待しているのだ。色々な。その期待に応えてもらわなければ、困るのは君だけではないのだ。…ということだ、ユラ司令官。頼んだぞ」
…どうせ、言っても変わらん。
政府の介入があり、再統合計画を終えた共和国軍主力艦隊全軍を持って、謎の攻撃元に対しての調査、つまり帝国領への侵攻が決定された。ここでもアレンは慎重論を唱えたが、ダイス長官は聞く耳を持たなかった。同じプレイヤーであっても同調することが出来ないとする、ダイス長官。しかし、彼はその一方で軍人としての本分を忘れてはおらず、命令には従わなければならないことを十分に知っていた。何度言わずとも。
攻撃元を特定、反撃は9月11日に実行される。
9月11日
「全艦、発進。目標…アルファ星系回廊」
冥王星基地から、再編された共和国軍二個艦隊が出撃していく。この時、既にこの行動に不審を抱き警戒をする男がいた。この後起こる事態に対して、やはり身長に行くべきであったと、過去形で捉えなおす、あの男だ。
「閣下。奴ら、かかりました。こちらへ接近してきます」
「ふん…ではお手並み拝見と行こうか」
全艦、砲雷撃戦用意…!!
Space Fantasy Game
第68話 ―罠への、方角―




