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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第五章 色を失くした眼
76/150

第67話





 「…貴方、また戦場へ…?」


 「あぁ。得体の知れない奴らが迫っている」


 「またそんな…」




 …それは、この男の過去に起こった出来事。この世界が始まる前の、生み込まれた記憶と事実。決して消し去ることも拭うことも出来ない、悲痛なる記憶とそれを胸に秘める思い。どんなに足掻こうとも抗おうとも、もうあの頃の日常は帰って来ない。それでもなお、目的のためにその男は立ち続ける。



 「大丈夫だ。今度の戦いはそう長くはならない」

 「…本当かしら…」



 「信じていろ。…そうだな、無事に帰ってきたら、一緒に料理でもしよう。皆で一緒に飯を食べるんだ。あの子も、一緒に」




 …。





 「…閣下。出撃準備が整いました」



 脳裏に焼き付くあの頃の思い出。奪われてしまった日常に悲しむ余裕など、その男には無かった。今はただ、定められた任務を全うするために、最前線に立って指揮を執る。それが、この男のすべきことであった。



 「…全艦、発進せよ!」



 あの惑星から出るときも、私は似たようなことを考えていたかもしれない。そう頭の中で言葉を走らせながら、自分の身体が体感的に浮き上がるのを感じた。都市一つが巨大な基地となっているこの場所から、100隻以上の戦艦が同時にエンジンをフル回転させ、推力を得る。そうすると周りに響く音はその隣の国民が住む都市にも当然響き渡る。さらには、ボロボロな体でも力強く飛ぶその姿を見ようと、ビルから覗く人も大勢いた。

 ゾレル艦隊。共和国軍に対し決定的な打撃を与え、再び太陽系侵攻作戦を実行するために、今出撃する。



 「全艦離脱完了。90秒後にワープ実行」


 「そういえば閣下、『ロンメルの手土産』というのは、もう積んであるんですか?」


 「いや、今回は外されたそうだ。ロンメルの奴、何を考えているのか…レムラ参謀長。ワープが無事に完了したら、ベテルギウスからの情報を再分析したい。手伝ってくれるか?」


 「了解!もちろんです」




 『ロンメルの手土産』というのが、大佐が作り出したリペア済みのNPCであった。その噂をゾレル艦隊の一部高官は知っているのだが、詳しいところはロンメルもまだ話さなかったうえに、今回の作戦にも同行させなかったので、知るところではなかった。ゾレルの考えとしては、既に老朽艦という差し入れをもらっているうえに、更に手土産まで頂くのは荷が重いだろうということで、避けたのだろうと判断していた。恐らく、その手土産が今後受け渡されるとしたら、ロンメル大佐も同行するだろう、と。



 「…ふん、元々は天王星の奪取を目的としていたが、冥王星から敵を引き付けるところから始めるとはな。内戦の代償は我々にも影響があるというものか…」




 すべての日程を20日間ほどで済ませる予定であったゾレル艦隊の、当初の目標は内戦と共に葬り去られた。しかし、情勢の変化により、今度は帝国領への侵攻を食い止めるために、わざわざ敵を星系回廊におびき出さなければならない状況となってしまった。成功すれば敵に大打撃を与えることが出来るだろうが、これに失敗すれば今度は帝国領に共和国軍が侵攻することになる。何としてでも主要惑星を占領される前に食い止めなければならなかった。



 「回廊の波はどうだ」

 「良好です。障害なし」

 「よし…」



 …これより作戦行動に移る…!!





 「そういえば、俺のやってるゲームが今度、生放送されることになったよ」

 「生放送?」

 「あぁ。これで、もう一つの世界を誰でも見られる…」



 一方、こちらは現実世界。最近定着化しつつあるが、今日も零治と友莉は一緒に帰り道を歩いていた。ここ最近では彼らが付き合っているという噂が流れ始めているが、それは事実ではない。仲が良いのは確かなことではあるが。その日、既にSFGでのアップデート情報で配信機能が追加されることを知っていた零治は、友莉にその話をした。実は零治、この話を随分前に友莉に話したことがある。自分たちのゲームの世界を見てもらいたい、とその時は思っていたが、まさかそれが現実のものになるとは考えてもいなかった。友莉は、ゲームに興味がある訳ではないが、零治やテツが抜け出せなくなるほどの世界観は、一体どういうものなのかと、気になってはいた。



 「もしよかったら、友莉も見てみると良いよ」

 「そうだね、見てみようかな。零治も映るの?」

 「たぶん、ね」



 零治にも、自覚はあった。今の共和国軍主力艦隊で、自分がその中心人物となっていることを。だけど、そのことを友莉には話さなかった。軍人である、とも教えなかった。彼には、生放送機能で友莉に見てもらえる分、別の心配事があった。先日、彼らは内戦を鎮めるために大勢のNPC兵士と戦った。彼も、多くのNPCを殺害した。この世界ではNPCは一つの命しか持っておらず、復活しないこと。そしてそれを殺害しなければならない立場にいる、ともし友莉が知ったらどう思うのだろうか、という心配事であった。容易な事態とは言えない、単純なゲームとは思われない。故に、言うのを躊躇った。


 彼にさえ、気付いていない部分もある。あの戦いで蝕まれた、あるもの。



 「探してみるのも、面白いかもな」

 「でも沢山人いるんだよね?大変そうだなぁ…」

 「まぁ顔見れば割とすぐ分かると思うよ」



 彼はそのまま、彼女の家の前まで送った。先日の件もあり、彼女は大人に対してやや敏感に反応を示すようになっていた。あの時見かけたあの二人が、本当に彼女を育てていた一時の親であったとしたら、彼女としては思い出したくもない日常であっただろう。それを彼に打ち明けたことさえ、彼としては驚きであった。どれほど辛い思いをしてきたのか、それを経験していない彼としては、中々分かり辛い点もある。しかし、もし他の人がこの話を聞いたのなら、この二人は似たような境遇を持った人だ、と思われるだろう。



 「今日もありがと」

 「いやいや気にしないで。それじゃ、また」



 その時。彼は玄関前で彼女の頭にポン、と手を触れ、そして後ろを振り返って帰路に向かった。一瞬の鼓動の高鳴りを、彼女はすぐに理解した。思わず、目の下が熱くなる。



 なぜ?

 でも、それとこれとは話が違う。そんな勇気は…ない。





 家に戻った零治は、家事を済ませた後少しゆっくりして、夜ご飯を済ませた後今度はアレンとしてSFGにログインする。共和国軍内部では、既に再統合計画が発表されており、第二艦隊までの組織が決定していた。冥王星基地の借りた自室でログインすると、どうにも様子がおかしい。



 「警報…?」



 間違いなく警報であった。冥王星基地で聞く初めての警報。何かを意味しているのだろうが、その詳細は分からない。とにかくも彼は、自室から基地司令部のほうまで向かった。その途中、既に急いでどこかへと向かっていく兵士を何名も見た。



 「あ、大尉!」

 「…フラナガン少尉、だったかな」

 「そうです!大尉、司令部がお呼びです。至急!」



 フラナガン少尉に案内され、すぐに彼は司令部へ入って行く。司令部の大きな扉を開けると、目の前には大きなスクリーンが広がる。そこに映るのは、左側に警戒情報、真ん中に宙域映像、そして右側にレーダー映像であった。



 「おぉ、フラナガンか。ご苦労だった」

 「はっ」



 サイクスが出迎えると、すぐにアレンは奥の方まで行く。司令部の中も慌ただしい様子であった。恐らく、攻撃を受けたのだろう。アレンはすぐそう判断した。が、話を聞くと予想外の答えが返ってきた。



 「命中していない…?」

 「あぁ。だが間違いなく、爆発は確認している」



 …なるほど、それであのモニターが周辺宙域をずっと回している訳か…。



 話によると、冥王星基地に警報が鳴ったのは、俺がログインするわずか10分ほど前。既に事態に対する調査は始まっているが、分かったのは…基地に被害はない、ということと、正体不明の攻撃位置が特定できていない、ということか。



 「レーダーに映らない攻撃、ですか…」


 「それだけ長距離であったのか、あるいは攻撃元の周辺がジャミングされているか、だろう。アレン、すぐに偵察に出てほしい。何機か連れていけ」


 「了解です」



 そう言ってアレンが司令部から出る前、もう一度スクリーンを見た。周辺宙域に映る綺麗な星々。その宇宙に響き渡る、新たなる戦いの音色。再び、自分たちは戦火の中へ突入することになる。軍人、というもう一人の自分がいる限り、ずっと。





 「…」


 あの、ギニアスとかいう男の仕組んだことだろうか。それとも、単純に敵の誘いだろうか。どちらにしても、帝国であるかそれとも、まだ見ぬ敵なのか…関係ない。

 戦闘は起こる。それに対応するのが役目…いつまでもな。



 アレンは3機引き連れ、4機編隊で冥王星基地を高速で離脱していく。レーダーに映ることもなく、目視も不可能とあれば、長距離を想定して偵察任務を行うほか手段は無かった。確実に冥王星のコースを取っていながら、基地や惑星を攻撃する訳ではなく、その至近の宙域で爆発させた。何か狙いがあってのことではないか、とアレンはこの時既に疑っていた。

 今までとは違った意思疎通だとすれば、そこへ踏み込むべきか、踏み止まるべきか。判断しづらいところではある。




 「…またか」




 Space Fantasy Game

 第67話 ―黒い空の、波―




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