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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第四章 NPCたちの戦い
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第62話




 勝敗は喫した。多様な意味合いを持って。



 「…はぁ」



 その溜息は、宇宙に一つの光が瞬き、そして消えて無くなった直後に発せられた。戦闘中であるにも関わらず、彼はヘルメットをその場で取り、首元を締め付けるスペーススーツを緩めて、息を整えた。もはや、その表情には瞬いた光のような明るさは、無かった。



 「…各隊、状況報告」



 それでも彼は、軍人としての任務を全うした。戦闘艇による近距離戦闘によって、艦隊戦は縮小された。包囲網は崩れ、お互いに生まれた間隔の中で、戦闘艇による激しい攻撃戦が繰り広げられた。だが、それも既に収束しつつある。正規軍は残存する戦闘艇な排除と、相手戦艦の攻撃を行い続けた。既に勝敗は明らかであった。最期まで、抵抗をやめなかった戦艦がほとんどだった。士気の高さとその練度は、正規軍でさえ驚くものばかりであった。このようなNPC兵士が沢山いたからこそ、今まで圧倒的に帝国軍に負けていた状況を覆すことが出来たのだと、プレイヤーたちも、そして今回正規軍のままこの戦闘を迎えたNPC兵士たちも思った。

 確かに、NPCを導くべきなのは、このゲームの中心であるプレイヤーであろう。しかし今回、このような形でNPCが行動を起こしたことは、共和国中に大きな影響を与えることとなった。そして多くのプレイヤーが、NPCはそこまで出来るのか、と驚きを隠せなかった。



 「戦闘艇による攻撃は収まりました。戦艦も射程外です」

 「了解。…全機帰投する」



 先ほどまで双方の牙が折れ砕けるほどの、激しい戦闘が交えられていた。しかし、その状況が収束に向かいつつあった。すべての戦艦・戦闘艇が破壊された訳ではなく、母艦に撤退する者も多くいた。戦場では、ブラスター砲による光はもう飛び交っておらず、宇宙の海に浮かぶ多くの星々を隅々まで見渡すことが出来る状態となっていた。

 アレンが帰投し、艦橋へ戻ると、サイクスたちが集まって来た。アレンは短く敬礼し、艦橋を見渡した。静かであった。まるで何も無かったかのように。射程外に外れたNPC軍の戦艦は、残り4隻。対する正規軍は、48隻。はじめは確かに、正規軍のほうが被害は大きかった。艦隊面で優位に立った頃から、正規軍がNPC軍を圧倒する艦隊戦を展開することに成功した。もし最後まで正規軍が状況をひっくり返すことができなかったとしたら、彼らは補給線の長さを考えても、撤退しなければならなかっただろう。この結果が正規軍にとって良いものであるかどうかは、このゲームの歴史家や、プレイヤーたちの総評に任されるところでもある。



 「残存艦艇…どうするおつもりですか」



 アレンが低い声で、感情のこもっていない無機質な声でユラとサイクスに伝えると、彼らは反応に困った。二人にしても、NPC軍を敵だとは考えていない。一度も敵であるという認識を持ってもいないし、共有もしていない。ゆえに、その後の対処が判断の難しいところであった。

 その時だった。突如識別信号を捉えた。直後、旗艦の巨大なモニターに映像が映し出される。そこには、一つ大きな人間が、背後に3名並んだ形で映し出されていた。



 「ドロワ…」



 「共和国軍に告ぐ…貴官らはよく働き、そして素晴らしい戦果を挙げた。自らに置かれた状況に屈することなく、自己の利益と目的のために、任務を遂行した。それは本来賞賛されるべきことであるだろう。私も貴官らの勇戦に心から敬意を表す」



 微動だにしないドロワの言葉は、プレイヤーたちに何か重荷のようにのしかかってくる。何故だかそんな気がしていた。プレイヤーたちの置かれた状況と理解。この件において、NPCの命が再生しないこと、永遠でないことは誰の目にも明らかとなった。それが原因であるのにも関わらず、プレイヤーたちはひたすらNPCを利用し続けた。無論、自分たちの意志でこのゲームの住人として働いた者も大勢いる。しかし、本来生き甲斐であるはずのこの世界で、軍人が叛旗を翻すという、あってはならないことが起きてしまった。その要因は、このゲームの本質の渦中に眠る、真実が悪用されたことによる。



 「我々は負けた。だが、この戦いによってどれだけの影響を他者へ与えることが出来たか…それは、後に証明されるだろう。NPCは弱者でありながら、自己の利益を棄て争うことを選んだ。その数は何十万人にもなった。我々に直接的に関わらなかったNPCも数多くいるが、今回立ち上がった者たちの大半は、同じ志を叛旗に掲げた者たちだ。たとえどのような結果を生み出したとしても、我々の行いが正当化出来ないものと理解していながら…我々は戦った。願わくば、この行動が後の政府に伝わることを、そして我々の行動が無駄でなかったことを…」



 その時だった。ドロワの体がようやくモニターから動き出し、二歩ほど後ろへ下がった。彼の腰から上が見える。周りにはドロワの直属の士官もいる。彼は右手を右足にかけていたホルスターにやり、そこから黒光る鉄の塊を取り出した。艦橋にいた者全員が、一瞬でその物の正体を把握した。そして同時に彼が何をしようとしているのかを理解した。その場でユラは思わず勢い良く立ち上がった。いつもの優しくも頼れる顔が消え、険しい顔へと変化した。アレンもすぐに体を動かしてモニターの近くへと向かった。その様子と光の薄れた瞳孔は、ドロワからもハッキリと見えていた。



 「民主政治に…万歳」





 …。




 誰もが目を背けたくなるような光景であった。鉄の塊に備わった小さなサークルは、中から光り輝く一本の線を外界に放出した。傷一つ付く瞬間さえ見えず、その場に黒く赤い液体が飛び散った。モニターの半分を液体が覆い被さり、その直後目の前にいたはずの男が姿を消していた。右半分に映る鮮明な映像の中で、静かに斃れる様子を見た者が大勢いた。

 最期の言葉には、どれだけの割合で皮肉が込められていただろうか。自分たちが信じていた民主政治とプレイヤーたちに受けてきたことが、本来気にもしない思いもしないその言葉に、どれほどの意味合いを持たせていたであろうか。その光景を見て、アレンはすぐにそう考えた。映像が砂嵐状態となり、何も見えなくなる。無惨な音だけが残り、他はすべて沈黙を保った。

叛乱は、事実上ここに終局を迎える。壮絶な戦いであった。叛乱軍がはじめに奇襲した時のものを合わせれば、補いようのない大打撃を共和国軍は受けたことになる。その意味とは主に精神的なものと、そして数的なものが含まれていた。自分たちの失敗を戦争に変えてしまったことの自覚は、何よりも痛々しいものとして残り続けるだろう。

 その後、残存艦艇4隻すべての調査をユラは依頼した。アレンも同行することにした。4隻は既に動力を停止し、それは宇宙を漂流していると表現しても、何ら不思議なことではなかった。アレンたちは旗艦を訪れた。念の為武装をしたが、これ以上の流血は誰も望むところではなかった。もとは、ここにいる全員が仲間であったのだから。デルタアースから降りてデッキに辿り着いた時には、整備兵含めて多数のNPCが斃れているのが分かった。全員の意識は無く、体も冷たかった。途中アレンはフューリーと合流し、艦内を回った。動力と同時に人を含むすべての機能が停止し、艦内は恐ろしく静かになっていた。本来この静かさが良いのかもしれない。これがゲームではなく、現実であったとしたら。艦橋も同様で、士官から二等兵まで、全員が斃れていた。暗い空間に機械の微々たる明るさが残るだけであった。


 最後、二人は展望デッキを訪れる。




 「…」


 「…?」



 「…タイミングが良いですね…お二方」



 そこにいたのは、NPC兵士として幾度の戦いに参加した、ジムであった。アレンとの面識があり、フューリーの話を知っている彼。ダウンライトだけが照らされた空間にただ一人、彼だけが残っていた。



 「見て回ったんですね…」


 「…」


 「…これが、僕たちの現実でした」



 若いその男は悲しみに溢れた静かな声で、彼らに語りかけた。傷もなく傷を付けることもなく、帰ってきた彼であったが、その様子は満身創痍であった。二人はただ黙って聞き続ける。



 「僕たちの目的…それは、ただ利用され失うだけのNPCを救済すること…ですが、現状の政府には私たちの声は届きません。僕たちが、NPCだったから。どうすれば、政府は僕たちの声を聞いてくれるか、その手段を模索していたんです…はじめは。ですが僕たちは、プレイヤーである貴方たちでさえ、政府に悩まされていることを知りました…」



 キッカケは…アレン大尉、貴方でした。






 「…!?」





 《…俺だって、人一人守れない非力さを、呪いたくなる!!》





 政府高官を混ぜた会議のあと、不満を零したNPC士官に対して、アレン大尉がそう言った現場を、エルガー隊長は目撃していました。あのアレン大尉が悩みを抱えている…話の内容が分からなくても、その原因が政府であることを、NPCたちはすぐに理解出来ました。そのような状況に追い込まれ、どうしようもなく軍人としての責務を全うしなくてはならない。それを知った僕たちは、交渉することを諦め棄てました。プレイヤーで伝わらないものを、NPCが伝えようとするのは、不可能があります。この世界はプレイヤー第一に構成されているので…。僕自身も後から知りましたが、これをエルガー隊長はドロワ司令官とのやり取りで、打ち明けていました。その結果…実行が決定されました…。



 「僕たちが何とかしなければ、今後同じようにして多くのNPCが苦しむだろうと…だから、僕たちは代弁者になることにしました…実力を持って。でも、貴方たちにとっては、ただの小細工であったかもしれません。本当に強かった…僕はひたすら逃げるだけ。死にたくない死にたくない、こんなとこじゃまだ死ねない。そう思うばかり、味方を何人も見殺しにしました…味方は皆NPCだったのに、僕は…助けませんでした。引き金を引けなかったんです…」



 …仕方ないじゃないですか…僕たちだって好きでやっている訳じゃなかった…!目的だけじゃ、行動には移せないんです……!!




 「…」




 「僕にはもっと別な選択肢があったのかもしれない。ですが、中途半端に路線を変えることなんて、僕にはできなかった…その結果が、これです。どうしようもない、ですよね…こんな結末…仲間たちにはたくさん、酷いことをしました。迷惑もかけました。先ほどのドロワ司令官の話にもありましたが…僕も、この件に加担した者の一人として…この戦いで死んだ人たちが、無駄死にでなかったことを期待します…」



 「…ジム、もういい。俺たちと、一緒に行こう。これから、ジムにできることを探していけばいい。焦る必要なんてどこにもないんだ。だから…行こう。外に俺たちの旗艦がある。そこまで…」


 「アレンの言う通りだ。気に病む必要はない…」





 「…そうですね…行きましょう、か…僕が選んだ、いるべきところへ…」




 アレンとフューリーは、悲哀に包まれた彼を旗艦へ連れて行こうと、二人揃って後ろを振り返って、展望デッキの自動ドアの方向へ向かっていった。この戦いで生き残った兵士に対し、アレンは全員を自由な処置にするようお願いする予定だった。まだ誰にも打ち明けたことではないが、そうすることが一番であると、彼の中では考えていた。この時の彼の考えは、ユラもサイクスも同様に思っていた。上層部が働きかければ、実現するかもしれない。このような事態があったからこそ、政府に現場の声を届かせる必要がある。その働きかけをするのは、プレイヤー以外の何者でもない。彼らが率先し、それを理解させ実行する。そうしなければならない、と彼は思っていた。



 …その時だった。




 「…!?」


 「…っ…!!」






 …一つ、大きな音と共に、床に何かが倒れる音がした。一つは、ゴソゴソと言い表しづらい音。まるで衣服が風になびく音のような。もう一つは、無機質な何かであった。その音に聞き覚えのある二人は、すぐに後ろを振り返った。信じられない、いや信じたくない。その光景は、しかし現実のものであった。先ほどまで話し続けていて、そして今これから旗艦へ同行させようとした、矢先のことであった。彼の右手にはあの鉄の塊が、意志を持たない塊が人の意志によって作動し、それを遂行してしまった。





 背景に映る、美しい星々。そのガラス越しに見える景色が、血の涙に流される。





 Space Fantasy Game

 第62話 ―永遠(とわ)の、希望―









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