第61話
NPC軍の攻勢は非常に激しいものであった。彼らは始めから長期戦を避けるため、持久策を捨て一気に攻撃に出た。彼らには、背後に冥王星基地があり、必要であればそこから補給を回すことが出来る。だが、アレンたち共和国海軍はこの場合では、叛乱軍の占領地に侵攻することになるので、補給艦なども同行させながら戦う必要がある。補給艦は物資を運搬することに特化しているため、武装は積んであるが搭載することが出来ない。そのため、混戦となり消耗戦に持ち込むことが出来れば、NPC軍は優勢に戦場を掌握することが出来る。NPC軍は、短期決戦で攻め続け、共和国海軍は後退し続けた。包囲しつつ攻撃をし続けるユラの指揮は、戦術的には何ら間違ってはいなかった。しかし、彼の予想を上回る攻撃力と統制とが重なり、ユラほどの者の戦術を凌駕する艦隊運用を見せた。それでもユラは、殺到するNPC軍の艦列を崩すポイントを見つけ出し、更に敢えて陣形を開いて突破させ、すかさず包囲網を敷いた。その結果、戦術と艦隊運用が効率的に実行され、一気に突き崩すことが出来た。
「これが最期とは言わせん。必ず…!」
ユラは、艦隊を突き崩しにかかった頃、戦闘艇による近距離戦闘を仕掛けた。アレンを筆頭に何十機もの戦闘艇を出撃させ、戦艦に対して攻撃する。短時間で、デルタアースを操るアレンは二隻撃沈させた。NPC軍の空戦隊長を務めるエルガーは直ちに空戦隊の指揮を執り、残存する戦闘艇をすべて発進させた。
「エルガーから全機。アレンを見つけたら直ちに連絡しろ!」
「ラジャー!!」
既にNPC軍は劣勢に変わりつつあるが、空戦隊の士気は高かった。出撃してすぐに共和国海軍の戦闘艇部隊と遭遇し、交戦状態に入る。エルガーを先頭に3機編隊が宇宙に高速で走り抜ける。
NPC軍にとっては、正規の共和国軍は既に敵対視していた。無理もない。自分たちを殺しにかかっているのだから。彼らにとって、今は敵のNPCを気にするほどの余裕も気もない。自分たちが撃墜した戦闘艇が、NPCの操縦する機体である可能性もある。彼らは、NPC兵士の全員が自分たちに加担した訳ではなく、正規軍に引き続き居続けているNPC兵士がいることを、知っていたからである。
「来たか」
アレンは、前方上方向からこちらに向かってくる、複数の編隊を確認した。既に近距離戦闘は開始しており、アレンの飛んでいる宙域から若干離れた位置では、激しい攻防が繰り広げられている。彼もまた、数機を連れて行動していたが、戦闘艇の推進装置から発する光と、移動する方向に尾を引く光の線を見て、すぐに自分たちの3倍の数、戦闘艇が向かって来ていることが分かった。アレンは、ブラスター砲のロックオン補助機能を解除し、照準をすべて手動に切り替えた。更に、威力の高い単発式から、連射式に切り替える。威力減衰が大きな欠点となるが、通常よりも弾数が多くなる。
相手の戦闘艇部隊が明らかに数の利点で勝負を仕掛けて来たので、アレンたち3機は最大推力で散開した戦闘艇部隊の中央を突っ切った。散開する方向を読み、その行動が始まったところで、相手の速度から進む距離をすぐに予測し、その先へ偏差射撃を行う。味方でさえ信じられないと思われるその攻撃は、全弾命中する。散開した全体の3機にそれぞれ一発ずつ命中し、行動を鈍らせる。連射式だと、威力減衰のため一発では致命傷とならない。
「おいおいマジかよ…」
「あんなのを敵に回した帝国の連中の気持ちが、少しは分かるぜ」
と、驚きを超えて呆れさえ生み出すほどのものであった。アレンたちを取り囲みつつあった空戦隊は、その数を合計12機に増やして攻撃を始めた。しかし、まだエルガーの機影は確認出来ていない。
アレンは続けて被弾した機体へ連続して直撃弾を撃ち込み、一瞬で撃墜させる。編隊機も単発で一機を撃墜させると、周りを見渡して敵だらけなのを確認し、その位置から一番近いターゲットに向かって行く。
「何…奴か!どこだ!?」
「味方艦隊の左翼付近と思われます!現在包囲網を形成中です!」
「無茶だ、奴に小細工は通じん!!」
わずか3機を当初は12機ほどで集中攻撃するはずだったのが、高速でしかも上下左右に動き回るアレンの機体に、誰も一撃を入れることが出来ていない状態となっていた。周囲の宙域は目まぐるしく状況が変化し、あっという間にアレンたちのペースに入る。こうなると、これだけの性能と力量を持つアレンを、誰も止めることが出来ないということは、多くの兵士が知っている。
「次4つ目…!!」
大きく息を吐き、すぐにまた吸い込んだアレンは、後方からロックオンされた警告音を聞いて、後ろも振り向かず機体の各所に付いている推進装置を、上昇させるために瞬間起動する。ロックオンされてから3秒後、ブラスター砲による火線が機体の底部を通過していく。そこで後ろの相手に対応する訳ではなく、上昇して視界に入った相手を瞬時に攻撃しつ撃墜する。爆発したすぐ側を通過し、次に左方向から攻撃しながら進んで来た機体に対し、実弾機銃で対応する。はじめ機体の左右主翼を攻撃し、傷が露呈してその機能を失うと、今度はコックピットの強化ガラスに向けて弾丸が集中する。実弾の大きさから、人に命中すれば体が分離するほどの威力を持っていた。
「7つ…」
呼吸が荒くなり、額に汗が流れる。過度な機体の運動は、パイロットにかかる力も強くなる。強烈な圧迫感を感じながらも、油断せず一つずつ対応していく。8機目を撃墜した時、既に取り囲んでいたはずの機体はほぼ姿を消していた。そこでようやく彼は意識をする。戦場を移動しながら、大量のNPC機を死へ葬り去ったことを実感した。9機目が接近する。周りに味方が居ないその機体は、全速力でアレン機の方へ向かって行く。その動きは、何にも頼ることが出来ず、自らの運命を投げ捨てたようなものであった。アレンはブラスター砲を単発式に戻し、一発のみ攻撃した。相手の機体底部から上部にかけて貫通し、その動きが止まり無重力の海に暫く流された後、爆散した。
「…これで、9つ目…ぐっ」
はじむ包囲されていたアレンと編隊機は、数の差を力量で補った。NPC軍としては、地獄さながらの光景であっただろう。数において圧倒的に有利であったはずだが、たった3分でしかも一度も彼らに被弾させることなく、全滅させられてしまったのだ。SFGでの宇宙戦は数が物を言う、というのは、NPC、プレイヤー関係無くゲームをプレイする者たちの共通認識として定着していた。しかし、アレンはその固定概念を覆すだけの力量を示してしまった。アレンはあまり気付いてはいなかったが、この戦闘では常にルーナの力が働いていた。
「ばっ…馬鹿な…12機もいたのに全滅だと…!?3分も経たずにか…!!」
その昔、ドロワはこの光景をテレビ画面で見たことがある。現実に起こったことではなく、創作された物語であったが、その力の差に驚きを隠せなかったことを、今も覚えている。それが今、まさに彼の目の前で、仮想世界で現実のものとなった瞬間であった。常人離れした力量が生み出した猛烈な戦果が、NPC軍を窮地に陥れる。
その間、NPC軍の艦隊陣形は戦場で再編を続けた。包囲攻撃をされ続けては、一方的に倒されてしまうので、敵へ攻撃をしつつ陣形を整えることにした。ドロワは艦隊の運用面に関しては、大した専門的な知識を持つ兵士ではない。参謀と協力したうえで、短時間で整えることができたのは、彼の手腕といっても良いだろう。すでに劣勢で制宙権も取られてしまったので、長居するとさらに被害が拡大する恐れがあった。それでも、ドロワは敵艦隊に攻撃を命じ続けた。一瞬の好機に反応するも、すぐ対策される。その繰り返しであった。
「あいつか…!!」
「ん…」
遠距離からの攻撃。一発の重いブラスター砲がコックピットの直上を通過していく。エネルギーの破壊力が機内に振動として伝わる。右上方向からの直線攻撃は、何度もアレンの直撃コースとなったが、ブラスター砲が発射される前に、アレンは回避行動を取った。
「チッ、よけやがった!!」
間違いなく、3機編隊で向かってくる戦闘艇部隊のうち、一機はエルガーであった。自分の部下でもあった男。有能で今後は彼が戦闘艇部隊の指揮を執るだろう、とアレンが考えていた人物であった。するとその時、相手のほうからオープン回線で音声が飛んでくる。
「アレンか、聞こえているだろ!?」
砲撃しながら一直線に進んでくる、エルガー。NPC軍の戦闘艇部隊の隊長であり、今まで戦闘が始まってからずっとアレンを探し続けていた。途中何機も撃墜したが、彼にとっての目標はただ一つであった。エルガーが撃ち続けながら接近を続けると、その砲撃がアレンの編隊の一機、後部尾翼に直撃し、航行能力低下に追い込ませる。だがエルガーは被弾させた相手には、弾を撃っていない。すべて、ロックオンはアレン機であった。
「返事をしろ!まだ戦いは終わってねえんだ、まだ俺たちの戦いはな…!!」
上下左右、一瞬で4発のブラスター砲を射出したエルガーの腕は、やはり相当なものである、とアレンは評価した。もし普通のパイロットであれば、ロックオンされ弾を回避するのであれば、上下左右いずれかの方角へ回避行動を取る。アレンはとっさの判断でそのまま中央を飛び続け、その攻撃を簡単にかわした。既にその辺りから一般兵士との違いがよく分かる。
「お前らプレイヤーがどう過ごしてきたのか、俺はよく見ていたぞ。利用してやればいいんだよ、機械なんてなぁ…そう思うやつの何と多かったことか!!」
アレンは、分かっていた。この兵士の怒りがどの方角を向いていたのかを。そして、それを自分も理解していることを、十分に分かっていた。それでも彼は、正規軍としてこの本質の渦中にいる。であれば、それを守る他ない。NPCたちが言わんとするところなど、かなり前からアレンは知っていたのだ。そして、このような声に対し自分が無力であることも、十分に分かっていた。何もすることができなかった、何とかしてやりたい、そう思いつつ、最悪の事態を招いてしまった。
「お前たちだけがすべてじゃないんだぞ!?」
「…それでも何もできなかったのは、確かに俺たちのせいだ」
「何っ…」
…俺たちプレイヤーは、この世界にもう一人の自分を作り出すことに成功した。仮想世界と現実世界、二つを行き来することによって、もう一人の自分を演じることができるようになった。このゲームの本質に関わるようになってから、二つの世界を行き来する重みが…NPCと接することによって、ゲームの本質から伝わってくる訴えが、よく分かった。それでも、何もしてやれなかったのは、政治家のせいじゃない。俺たち、プレイヤー全員のせいだ。
「…この行動が悪いものだとは思っていない。俺からいうべきことは、何もないのかもしれない。ただ一つ…エルガー、お前が自分の手足でストレートに訴えようとするのなら…軍人として、一人のプレイヤーとして、その行動に全力をもって答えるまでだ」
…そうだな。もしこの先、新しいVRMMOゲームが出た時には、もっと殺伐としない快適なゲームライフを、送りたいものだな。私怨が集団で襲い掛からない、優しい世界で生まれたいものだ。
失ってもたった一つ、希望だけが残されたとしたら、俺は、これで…。
…。
二本の光が、お互いの意思をエネルギーに変え、そして宙域を波打つ。同時に、一つの大きな光が、この宇宙から瞬いて、消えた。
…まだ、光が、見える。
Space Fantasy Game
第61話 ―宇宙の、片隅で―




