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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第四章 NPCたちの戦い
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第59話




 共和国政府は、突如発生した叛乱行為に対し、武力を持って徹底抗戦する構えを表明した。誰がこのような事態を予想出来ていたか、誰がこのような展開を望んでいたか。それでも、時は加速を繰り返す。事実上の内戦突入に、太陽系内は震撼した。多くのNPCやプレイヤーが政府に対しての不満を持っていたのは、知りやすい情報ではあった。しかし、まさかこの世界で生まれたNPCの軍人が、それも実力行使をするとは考え付かなかった人も多かったのだ。これにより、軍内部の荒んだ状態が世間に知れ渡るところとなった。現実のネット世界でも、「SFGはここまでプログラムしていたのだろうか」といった声があがった。共和国民として活動をしているプレイヤーとしても、予想外の事態であった。

 ユラやサイクスたちも、その危険を無視していた訳ではない。しかし、軽視していただろうという認識が、事の起こった直後に生まれた。このままいけば太陽系はすべて解放される。しばらくは軍事行動が起きないかもしれない。その希望は恐らく生まれない。今の政府が存続し続ける限りは。その思いは、NPCもプレイヤーも共通ではなかっただろうか。改めて、ネット上では共和国政府の実情が露呈した。



 「大尉!今回の叛乱どうお考えですか!?」

 「政府はNPC軍に対し徹底抗戦の構えを示しましたが、大尉のお考えは!」

 「今回も実戦指揮をなさるのですか!?」



 地球。モニターで映されるその光景は、リアルタイムで海王星から送られている、ゲーム内の報道であった。このSFGにもそのような報道機関が存在することは、既に大半の人が知っている。そこに映っていたのは、軍の基地から正面玄関に止めてある車に乗り込む、アレンの姿であった。報道官には一切答えず、人混みをかき分けながら車へ乗車し、そのまますぐに移動した。



 「…アレン、か。あんなところに」




 都市から遠く離れた、森や川に囲まれた土地に邸宅を持つ、その男。室内で長いローブを身にまとい、長い椅子に腰かけて、壁に掛けられたテレビモニターを見続けている。その眼光は強かった。ただひたすら見続ける先には、アレンの目線があった。



 「あの顔は、間違いない。やはり…」




 かつて自分が教えた弟子。あらゆる視点からこのゲームに触れることの重要性を強調し、それを彼に埋め込んだ張本人。光に導かれた者がどのような道を照らし歩むのか…彼が修行を終えてから、彼はずっと彼の動きを探り続けていた。自分が故意に落としたあの本をキッカケに、もし彼の「もう一人の自分」が変わってしまったのだとしたら、そのすべての根源は自分に帰するものであるだろうか。しかし、もはやその男に手段を選ぶことなど、出来るはずもなかった。



 「アレンも中々苦労しているようだな」

 「そういやエコーズ、お前さんは戦場に行かんのか?軍艦とか戦闘機とか好きなんだろう?」



 コロッセオの中心部から、やや外れた位置にある、テツの小さな家。小さい割に多額のコロンを支払って手に入れた。自由度の高いゲームでは、家やアパートを購入することも可能だ。秘密基地のように、訳の分からない場所に小さな空間を自分で作ることも可能だ。随分前から、その家で調査活動をしているエコーズとエナ、そしてテツもテレビでそのニュースを見ていた。



 「見るのは好きだが、実際に行こうとは思わないな」

 「ほー、んまぁ一応このゲームは戦争を中心に回ってるんだけどな!」



 と、テツは笑顔で返事をしたが、エコーズの表情はやや堅いものであった。その原因は、テレビモニターに映る、彼の表情にあった。



 「あぁ…さて、どうだエナ」

 「大丈夫。帝国側のデータベースのアクセスIDは手に入れた」



 彼らは現実世界で言うところの、ハッキング行為に近いことをしていた。なんでもありと言えば否定し辛いSFGの世界では、一部こういったやり方で情報を仕入れることも可能だ。同国内だとリスクは高いが、今彼らは帝国が所有する膨大なネットワークデータベースにアクセスしていた。さほど危険性はない。しかし、時に侵入している最中に弾かれることもある。

 エナはシステムとパソコンを使いながら、引き続き情報を集めていく。ようやくとある都市惑星の軍事情報データへのアクセスが出来た時…。



 「…NPCの運用方法?」

 「なんだ?それ」



 あらゆる情報は幾つものフォルダーに分類されていることが多い。エナが引き出した情報では、各惑星ごとにデータが構築されていることが分かった。軍の情報へアクセスし、NPCに関わるものを読み漁った時に、彼は発見する。



 「まるでゲーム管理者のような題名だな。どれ、開けてみれや」

 「うん。えっと…」





 プログラムの改編は現状では不可。しかしながら、作られた機械に生み込まれた精神的な官能波を強制することは可能である。それによるメリットは…




 「…ば、馬鹿な…こんなことが…!!」




 一方。海王星に臨時本部を設置した共和国海軍は、政府の命令が発令された後、すぐに叛乱鎮圧のための討伐部隊を組織することになった。かつて味方だった者たちを敵に回すという、ある意味苦行のような行為を、これからプレイヤーたちは行わなくてはならない。しかし、問題なのはすべてのNPCが叛乱軍に与した訳ではない、ということであった。特に海王星にいまだ残り続けているNPC兵たちは、困惑した。



 「あちこちで兵士が離脱してるってよ…!」

 「マジかよ…どうするよ俺たちは。冥王星に行くってのか?」

 「同じ思いを持ってるやつがいるんだ!俺たちも含めて」



 「…だけど、よく考えてみろよ。もしそうなれば、俺たちがこれから戦うのは、あのアレン大尉だぞ?」



 叛乱軍による声明が発表されてから、各地で確かにNPC兵士たちの離脱は相次いだ。それによって暴動が発生する事案も既に報告されている。加速を繰り返し、昏迷の星系が広がりを見せていく。が、プレイヤーたちは離脱するNPCを止める術など持っていなかった。中には、少尉以上のNPC兵士が下級兵士を先導して離脱するという事態も発生していた。プレイヤーはプレイヤー、NPCはNPCだ、という境界線がハッキリと見え始めている。だが、確かにNPC兵士たちの言うように、当面戦うことになる「敵」は、味方にいても敵にしてもあまりに強いと思われた、アレンを含む共和国軍主力艦隊であった。

 彼らだけが死に、プレイヤーは生き残る。この戦いに、どのような意味を積み重ねようとするのか。



 「そうか…補給生産は間に合わないか」

 「なんとか、現状戦力でやり繰りするしかありません。旗艦のほうも、決めなければなりませんが…」



 確かに、先日の襲撃事件の影響で、共和国の主力艦隊の多くが撃沈されてしまったが、突然の攻撃にも耐え抜き離脱した戦艦も、幾つもある。ユラにとって、旗艦選びは大した重要性を持たせていなかった。新造戦艦にしようという気持ちもなく、だからといって老朽艦を選ぼうとも考えてはいなかった。自分たちにとって愛着のあるものを選定しようと考えていた。他人の考えから言うと、旗艦が他の戦艦よりも劣るものであれば、旗艦としての意味がない、と考える人もいたようだが、結局は自分なりに選定することにした。

 ユラは、旧第七艦隊時代から生存し続けている、戦艦アルゲートを新たな旗艦にすることにした。旗艦ダビーレで働いていたNPCは既にこの世界にはいないので、今度は戦艦アルゲートに所属するNPCやプレイヤーたちが、旗艦直属の任務に就くことになった。





 …。




 現実世界では、8月の下旬。29日。その日の、夜。海王星は暗く寒く、ただ綺麗な星空の海がそこには広まっていた。



 「旗艦アルゲート、推力準備完了。艦載機の搬入、まもなく終了します」

 「了解。各艦にも連絡を」

 「はっ」



 この共和国においては、軍人は政府の命令に従うことが、義務付けられている…といっても、過言ではないだろう。この作戦が決定された時、プレイヤーの中では反対する者も多かった。アレンも、そのうちの一人であった。自ら政府の人に訴えかけたが、結局彼らNPCを押さえる手段として最も有効なのは、排除してしまうという判断が下された。排除される対象はNPC、そして排除するのはかつて仲間であった、プレイヤーたちであった。



 「…大尉、今いいですか?」



 戦艦アルゲートに設置されている、展望ルーム。当然外に繋がっている訳ではなく、室内から星の海を見ることが出来る、比較的広い空間であった。ここを利用する人は少ない、と既に聞いていたが、アレンは発進時を艦橋では過ごさず、ここにいることにした。そこへ、一人の男がかしこまってやってきた。



 「君は…」

 「はい、NPCのフラナガン少尉です。すみません、急に」

 「いや気にしなくて良いんだ」



 そもそも、発進時にアレンが艦橋にいない、というのも考えようがあるが、サイクスやユラは別の意味で気にしてはいなかった。無論、そのようなことアレンが知るはずも無かったが。フラナガン少尉が彼の横に来て、外に見える星空を見ながら話し始めた。



 「自分の仲間も、大勢向こうへ行きました」

 「…俺たちプレイヤーは、止めなかったからな」


 「NPC軍に行く者、暴動を起こす者、退役する者…大勢、本当に大勢現れました。ですが、この戦いを止めることは出来なかった」



 「…そうだな」



 この戦いがもし起こらずに済んだとしたら、一体どれだけの人数のNPCが生き残り、この世界での生を全うしたであろうか。しかし、戦うと決めた以上、どちらかに犠牲が出るのは当然のことであった。戦争は人を道具にして、大義名分を実行する。それがこのゲームにおいては本質となり、その渦中に自分たちの身を投げ出した以上、そういったもう一人の自分を演じる他、ないのだ。



 「大尉は、大尉に出来ることを、精一杯して下さい」

 「…」





 星の海に、幾つもの輝きが混ざる。一つひとつは小さくても、集団としてみれば大きな光となるその群れは、冥王星の方向へ向かい始める。



 


 Space Fantasy Game

 第59話 ―宇宙の、意志―




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