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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第四章 NPCたちの戦い
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第58話




 「ゆ、ユラ中将!ここでしたか!大変です、リアルモニターを!!」



 大事な話をしている最中であっても、緊急時でなら仕方ないと思えるだろう。だが、慌てた様子でやってきた情報士官の顔は青ざめたようなもので、その緊急性を認識するには十分であった。その場にはケーンバーク、ユラ、サイクス、そしてアレンがいたが、すぐにその士官の存在に気付き、そして言われた通りリアルモニターに映像を流した。ここでのリアル映像は、SFG内で運営されている情報伝達番組などを意味する。現実世界で言うニュースのようなものであった。



 「…繰り返す、全国民…いや、共和国中の全NPCに告げる。私は共和国海軍第二艦隊空戦隊長、ドロワ中尉だ」


 「ドロワだと…?」



 「先刻既に各方面に情報を流したが、我々共和国海軍は、現政府の一方的な圧政に対しての、宣戦布告をする。戦場で物のように扱う人命を、これ以上見過ごすことは出来ない」



 共和国中に、衝撃が走った。それは、旗艦が爆散してからわずかに2時間後の出来事であった。アレンたちは、海王星の基地にある図書館、その奥の部屋で先刻の事件の様子を映像で確認していた。旗艦ダビーレのエンジンに故障が発生した時、艦から離脱するものの物体を数多く確認している。さらに、旗艦が爆発したあと、急にブラスター砲の飛び交う戦場と変わり果てた。その航路は共和国海軍しか通っておらず、周りにいるのは当然味方だけであった。なのにもかかわらず、近距離でしかもわずかな時間で、各艦が撃沈されていった。



 「政府は先の戦いでも、そして現在でも、帝国軍によって支配された占領地を解放するべく、軍人へと命令する。だが政府が実行に移すのは我々に指示を出すのみで、安全エリアの中で一歩も動こうとしない。まして、現場の状況知らずで無鉄砲に軍人に死にに行け、と言葉を発するだけだ。これは単純明快な叛逆行為であると、我々も自負している。真の姿勢を問いただすには、実力を行使して証明するのみである」



 サイクスは思わずその場で拳を叩きつけた。自分たちが今まで散々政府に対して思ってきた不満を爆発させず、ずっとこらえながら生き続けていたというのに、なぜこのタイミングで彼らは蜂起してしまったのか、と。そして、自分たちの目的を果たす為に、一体何人の人を犠牲にしたのか、と怒りを露わにした。



 「ドロワめ…!!」

 「…彼、全NPCと言いましたね…」

 「ん…?」



 「重ねて通告する。これは単なる脅しではない。現に、我々は太陽系内を侵攻する味方艦隊を統合し、それに抵抗するであろう者を排除した。我々には、政府に対し、あるいはかつての同胞に対し、抵抗の意志あるとするならば、直接攻撃をする用意がある。これは、政府やプレイヤーに対しての、NPCたちの戦いである」




 この放送は、すぐに電波発信場所が冥王星かその周辺であることが特定された。彼らの艦隊が分離してから明らかとなったが、この宣戦布告によって分散された艦隊のうち、実に3分の2がNPCたちで構成される艦隊であった。旗艦ダビーレの爆散をキッカケに、この計画を支持するNPCたちが一斉に艦内で武装蜂起し、プレイヤーの多い乗艦に対しては撃沈を、そうでない戦艦などはNPCの兵士たちが各所でプレイヤーを殺害した。そうして出来上がった、NPCたちによる軍であった。



 「アレン、それはつまり…」

 「…そうですね。あらかじめ準備されていたのかもしれません」



 政治に不満を持つ者など幾らでもいる。今では僅か10歳の子供が政治を勉強する時代にもなり、あらゆる政策には賛否両論が付き物であった。だが、ここでの問題は現役の軍人が不満を武力によって正そうとしていることであった。そして、アレンにとって、あるいはプレイヤーたちにとって、味方であるNPCと戦う事態は、容易に受け入れることはできない。味方意識というよりも、彼らは一度死ねば二度と帰って来ない。その状況を幾度も打開してきたが、事実上の内戦突入で、それも避けられない事態に陥ってしまった。しかし、その他にも問題は幾つもある。



 「そして、生き残ったNPC軍人はどうするのか…」

 「確かにそうだ。アレンの言うように、この事態が各星にいるNPCたちを奮起させる可能性もあるね」



 この事態は、ユラとしても不測のものではなかった。全艦隊の司令官として、様々な階級に属する者たちの様子を確認し続けたが、兵士たちの疲労や不安といったものが高まりつつあるのは明らかであった。それでもなお先日までの状態を維持出来たのは、戦いに勝利し続けていたからなのかもしれない。いずれにせよ、起こってしまったものはどうしようもない。拡大を防ぐ必要があった。



 「…連絡を取りましょう。政府の人たちと」



 そうして、彼らは全員で基地内部の情報室に集まり、直ちに政府関係者と連絡を取った。政治家も当然この放送を見ていて、事の重大さには気付いていたつもりであった。しかし、遠い守るべき星に居続ける政治家にとって、現場がどれほど緊迫した状態であるかどうかなど、分かるはずも無かった。まずは、ユラが事の経緯についてその全てを打ち明けた。太陽系を解放するために出撃するたびに、その重圧が兵士にのしかかっていたことも。

 続いて今後の対策を考える時間が来たが、その時にアレンが一歩前に出た。



 「ダイス国務長官。私から、一つお願いがあります」

 「ん?お前は…ああ、そうか。アレン君か」



 思わずサイクスの右手が彼の体の前に出そうになったが、その時サイクスは自らの意志でそれを制止した。そのまま、アレンが何を話すのかを見始めた。アレンとしては、これから話すことを何としてでも政府に約束させなければならなかった。そうしなければ、軍の崩壊を招く、それが彼の考えであった。



 「事を急ぐ必要はありません。これ以上の侵攻は中止して頂きたいのです」


 「侵攻?何を言っているんだ君は?元々共和国領であった太陽系全ての惑星を元通りにすることが、今回の出兵の大目的だ」


 「本当に、それだけでしょうか?」



 その瞬間、その場の空気が凍りつくのを、誰もが感じた。特にテレビモニター越しに見る政治家たちの顔が、全員唖然としていたのを、ユラもサイクスもケーンバークも、ハッキリと見ている。アレンのたった一言が、一瞬で流れを変えてしまった。



 「私たちが周辺宙域の情報を解析したところ、先程の放送の発信源は冥王星宙域とその周辺です。であれば、既に太陽系内は共和国領として復活しているでしょう」


 「中々面白いことを言うな。というと、君は政府、いや国に対して明らかな反抗意思を示したNPCたちを、野放しにしろと言うのか?」


 「彼らNPCは、私たちプレイヤーと違って二度目はありません。生か死か、それを戦争で分けることに、彼らは反対したのです」


 「だが、先程の放送で言っていたように、NPCたちは交戦の意志があるように思えるな。『直接攻撃をする用意』などとは、まさに意志そのものではないのかね?」



 「彼らの意志を左右するのは、私たちプレイヤーです。機械ではなく、人間です」



 ダイス国務長官の言葉が止まった。ダイスはアレンの眼を見た。真っ直ぐな眼をして、こちらに訴えかけている。周りの政治家たちはその話を聞くだけで、何も言おうとはしない。同じように、モニター越しに映る周りの軍人たちも、同じであった。相変わらず凍てつく空気が流れ込むが、それでも少しだけ和らいでいった。



 「…軍人は、政府の命令に従う。共和国であったとしても、それは変わらない。だが良いだろう。太陽系外への対処に関しては、少し考え直そう。だが、これだけは絶対に譲る訳にはいかない。アレン君…それからそこにいる人たちもそうだ。この叛乱行為を鎮めよ。手段は、分かっているな?」


 「…」




 …今回の、責任を全うしてくれることを、期待しているよ。



 そう言って、通信は無情にも切れ、モニターには砂嵐が現れた。操作盤のすぐそばにいたアレンは、自分の手でモニターの電源を落とした。無言の空間が形成される。アレンの伝えようとしていたことは、他の人たちにも共通の希望として確かに存在していた。だが、結局政治家の人たちを宥めることは出来なかった。この叛乱の大本が自分たちであるということを、理解させることが出来なかった。

 アレンは、無言でその場を去る。相手に呆れるというより、自分が無力であったことを痛感させられたのだ。




 「…他人に何が分かる…」




 かつて…そう、今の自分が出来上がる前に、変化を迎えた時の、言葉であった。




 その日中に、共和国政府首脳部は叛乱部隊に対し、徹底抗戦をする意思を放送で伝えた。これにより、形式上は共和国が内戦へ突入したことになる。当然この知らせは太陽系内を直ちに駆け抜け、知れ渡った。


 NPC対プレイヤー。戦争の本質がもたらした新たな情景は、無常なものであった。





 Space Fantasy Game

 第58話 ―儚い、望み―






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