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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第四章 NPCたちの戦い
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第50話




 土星宙域の解放は、すぐに地球にも報告が入った。8月15日からの出兵であったが、最終的にこの報告が地球へ届いたのは、8月18日になってからであった。地球に住む民衆も、火星や木星で様々な生活を送る民衆も、共和国軍の健闘に大きな拍手を送った。土星の衛星に住む民衆たちは歓喜の嵐を巻き起こし、それを共和国海軍は受けた。彼らにとって占領されることは苦痛であり、それからの解放は生活の何よりも嬉しいものであった。現実に戦争が発生したとして、このように占領地の解放が行われれば、同じようにして皆喜ぶのだろうか、とアレンは心の中で思いながら、旗艦ダビーレの広いタラップを降り大地に足をつけた。報道関係者が幾人も押し寄せて来たが、付近の警備員に制止され、その場で大きな声を出している。アレンは待機していた地上車両に乗り込み、軍の情報部の運転する車で、軍港を後にした。



 「大した出迎えだ…先に降りた人たちは、ここに集まるよう呼び掛けでもしたのだろうか」


 「いえいえ。勘の良い人は気付くんですよ」

 「それがこの人の量か…大佐は既に到着しているようだな」



 とても勘だけでこれだけの人数は集まらないだろうと思いながらも、態々人を集めるために情報を与えることもしないだろう、と彼は思いながら、視線を外に向けた。戦艦の大きさが見ただけでよく分かる。

 旗艦ダビーレに配属されている参謀のサイクス大佐は、帝国軍が宙域から完全撤退した後、僅かな陸戦部隊を引き連れ、軍事施設の様子を見に先に降りている。彼らがこうして問題を調べ、異常が無いことを知らせてくれたおかげで、安心して艦隊が降りて来られたのである。

 統合作戦本部を置く軍の施設にアレンは到着し、ビルの8階までエレベーターで上がる。作戦司令室も、今日は明るい。



 「外はどうだったか?」

 「そりゃぁ、凄いですよ」

 「ふん、だろうな」



 この時アレンは、帝国軍が完全撤退した後の確認の他、こうした状態を回避するためにサイクスが先に降りたのではないか、と疑わざるを得なかった。そこに悪意は一片も見られなかったのだが。

 土星宙域にて勝利を収めた共和国軍であったが、上層部にあたるアレンたちは、他の兵士たちとは違って喜びを表に出すことはあまりしなかった。民衆や政治家にとって、一回の勝利は次なる勝利のための期待に変わっていく。彼らは「勝て」と言い送り出せば良いが、軍人は勝つための算段を立てなくてはならず、期待に応え続けるために、戦い続けなくてはならない。その状況を理解しているからこそ、素直に歓声に対して手を振ることが出来ないのだ。本物の軍人も、こうなのだろうか?

 アレンが到着してから15分後。第三艦隊に所属する艦長や司令官、フューリー等が到着して、会議は始まる。液晶モニタには、地球で政権を維持する国家政治家たちが映っている。



 「今回はご苦労だった。大した死人も出ていないし、上出来だろう」



 まず国の政治を担う者たちから一言かけられた。が、この時点で既に内心では不信感を募らせる人が続出した。戦ってもいない者が人の犠牲をとやかく言う権利などどこにもない。だが、この体制では指導者に対して公然と文句を言いだすことが出来ない。当然、民主主義による開かれた社会、とは言うことが出来ない。


 「ダイス国務情報長官、いかがですか」


 「勝てたのは良い。だが戦いにはまだ続きがある。太陽系の惑星すべてを解放するには、まだ時間が必要だろう。私たちは今以上に君たちが奮闘してくれることを期待している。そうすることで、今まで死んでいったNPCたちが無駄死にでなかったことが証明されるだろう」


 「…!!」



 アレンは思わず声をあげようとした。だが、傍にいたフューリーに、静かに止められた。前々から共和国軍の政治家たちが腐敗しているという噂は、ネットを通じて広まっていたが、ここまで酷いと彼は思っていなかった。軍人は国家のために捨てられる存在である。それはもはや人間としてカウントされてはいない。国力の中に、ただ人間という一単位が存在しているだけなのであった。兵器や物資と、何ら変わらない現状。使えなくなれば切り捨て、死んだ者たちなど眼中にもない。そう思わざるを得なかった。

 反論をあげたいところだが、皆は黙っていた。特にNPCたちにとっては、辛辣な言葉以外何ものにも捉えることなど出来なかった。



 「とにかく進軍は続けるべし」

 「賛成ですな。取られた分を取り返し、更に奥深く侵攻することで、更なる痛手を敵に強いる」


 「完璧じゃないか。あとは君たちが、どれほど頑張ってくれるか、なのだよ?」



 軍人と、政治家との、話し合い…というようにしてこの会議は始まったが、液晶モニターを通じて話したのはわずかに5分で、とにかく政治家たちは今後も出兵を続けなさい、と軍人に命令するだけであった。具体的な作戦などは、すべて現場に任せるということである。

 映像が、一方的に途絶えた。



 「…と、仰せだ。どうする?」



 それから30分後、会議は終了した。とにかくも政府の命令には従わなければならない軍人たちは、次なる星、天王星へ向けての行軍予定を立てた。今回の戦いで政治家たちが言うように、ではないが、さほど大きな犠牲が出なかったのは、確かにそうであったかもしれない。しかし、NPCの犠牲者はいつもながら多くなる。兵員の補充も行っているが、彼ら一人ひとりの補充など回るはずもない。

 会議が終わり、仮宿舎として定められた近くのホテルへ移動する時、アレンは後ろから声をかけられた。焦燥と。それはあの場の会議に出席していた尉官であった。



 「大尉!あれを見過ごすんですか!?」

 「俺たちは奴らの犬じゃありません!!」



 ―分かってる!!!



 「あっ…」

 「…っ」



 「…俺だって、人一人守れないこの非力さを、呪いたくなる!!」




 彼らにとって、自分たちの司令官が感情をむき出しにしたのは、初めて見た光景であったかもしれない。長い間の戦闘で疲れもある、とその尉官たちは判断したが、アレンは直属の上司であり、出過ぎた真似をしたとすぐに反省した。アレンはその言葉を言って、彼らの前から姿を消した。戦ってもなお、満足も出来ず、さらに喜ぶことさえ出来ない状況は、こういった板挟みの状態が積み重なっているから、と言うことも出来るだろう。

 十数分後、アレンは部屋のセーブポイントで記録を残し、そのままログアウトした。



 「…分かってるさ…分かってるんだよ…!!」




 だから人って奴は…!!




 彼の飛び出した拳に、机が音という悲鳴をあげる。この先どのような展開が待ち受けているか、彼にも分かるはずがない。しかし、戦えばその分NPCの犠牲は避けられない。ゲームだというのに、ここまで感情を募らせるのも、中々無いだろうと彼は思わざるを得なかった。

 もうすぐ、夏休みが終わる。




 帝国領奥深く。膨大な星系をその手中に収める帝国にも、共和国軍の活躍ぶりは手に取るようにして分かった。ゲーム内の情報が正確なものであるかどうかは別として、そのような事実があることを彼らは告げていた。当然、帝国国民としては考え深い。かつて圧勝ムードが漂っていただけに、ここ最近の連敗は疲労によるものか、あるいは共和国軍の本当の姿か、と思うほどであった。

 帝国領アルファ星系最外縁部、惑星ラーミア。8月20日の夕方にかけて、一部の戦艦がこの宙域にワープアウトした。アルファ星系には幾つかの恒星が存在し、ラーミアもその恩恵を受ける惑星の一つであった。しかし、ここには水も無ければ植物もない。干上がった、寒暖差の激しい広がる大地がただあるだけである。地球からも太陽系からも、遠く離れた場所に位置する惑星ラーミア。SFGをプレイする人たちの中で、この宙域を知っている者がどれほどいるだろうか、と疑問に思うくらいの場所であった。



 「グラーバク閣下が直々に?…このラーミアに、でありますか?」

 「あぁ。どうやら予定外の公務のようだ」



 白みがかった空を背景に映る、幾つかの黒い塊。それを司令部から見続ける、二人の男。上官とその参謀役であった。姿が見えたところで、彼ら二人は動きだし、司令部から降りてすぐ傍にある軍港に向かった。彼が辿り着いた時、ちょうど戦艦も着陸を終えたところであった。



 「よくぞいらっしゃいました。グラーバク閣下」

 「ご苦労。外縁部の防衛任務は順調か?ゾレル少将」

 「はっ。抜かりなく」



 ゾレル少将。帝国海軍に所属するNPC軍人の一人である。NPCとしては帝国、共和国関わらずかなりの高階級にある、数少ない例だ。ギニアスやグラーバクから「現場からの叩き上げ」と言われるのには、理由がある。

 このゲームが運営を始める前から、NPCたちには既に仕事も与えられていたし、共和国との戦闘も考慮されていた。だが、惑星ラーミアと地球圏とは相当な距離が離れているため、共和国軍がこの宙域に近づくことは、まずない。それでも、ゾレルが階級を上げ続けていたのには、当然戦果が伴う。となれば、もはや理由は明白であろう。

 帝国領の中で、惑星ラーミアは国民からも「辺境」と言われる場所に位置している。現実世界で言うところの田舎のようなものだが、ここでSFGプレイヤーのログインをした者も当然いる。偶然なのか当たり前なのか、この惑星での生活から離れ主要惑星に流入するプレイヤーもいた。現実の田舎暮らしのように。

 ゾレルはとにかく、一度グラーバクを司令部まで案内し、そこで話を聞くことにした。ギニアス大佐の姿はまだ見えない。



 「…なるほど、共和国が、ですか」

 「思った以上に苦戦を強いられる、というのが、プレイヤーたちの見解だ」



 ここでゾレル少将は、グラーバクから現在の太陽系の状況について聞かされた。SFGの戦闘が太陽系に限定されている訳でもなく、帝国領のあるアルファ星系でも戦闘は起こり得るはずであった。ゾレルの立場がそこにあるので。だが、帝国にとって今重要な戦略の一部に、地球圏が組み込まれていることを、ゾレルも知っている。だからこそ、グラーバクから現状を聞いた時、既に自分のやることは考え付いていた。



 「プレイヤーも、意外と脆いものですな…」

 「…言うな。所詮はプレイヤーだ。そこで…」

 「?」


 「…もう、分かっているだろう?」





 自分が死ぬことは一向に構わない。だが、出来るだけ周りの犠牲を減らしたい。それはゾレル少将のみならず、NPCの高級士官たちが似て思うことの一つであった。そういう意味では、外縁部での戦闘は小規模なものばかりで、艦艇数もわずかに15隻ほどと、大したものではなく、それゆえに毎回の被害も少ない程度でしかなかった。

 太陽系銀河方面司令長官。グラーバクの要請であった。



 「自分は、閣下と帝国に忠誠を尽くす軍人です。…ご命令とあらば」

 「…頼んだ」


 「ですが閣下、一つ提案があります。この外縁部と言えど、帝国を守る防衛ラインの一つ。一度奴らに楔を放っておきたいのです」



 「…良いだろう」




 着実に、駒が揃いつつある。本質の渦中に眠る、劇的な展開を実現させるために。



 Space Fantasy Game

 第50話 ―空虚な期待と、捨て駒―





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