第2回
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「…うん、大丈夫。元気してるよ?」
「…うん、うん。そうだね、静かで良いかな、こっちは」
周りは真っ暗な空間。虫の鳴き声が心地よく届く。その理由は、部屋の窓が網戸越しに開いているからだ。いくら夜とはいっても、寝苦しい夜になりそうなことに、変わりはない。この夏の季節は、早く苦行のような毎日から逃れたい、そう思う人が続出するのだ。たとえ田舎であっても、暑いことに変わりはない。それでも、眠らない街、都会よりは全然マシなのだろう。ショートジーンズに白く短い靴下、白っぽいピンク色のワンピースを着て、窓から外を眺める彼女。自分の利き手である右手には携帯が握られており、その小さな端末から遠く離れた、親友の言葉を聞いているのだ。
「充実してる?友莉」
「…うん、良い感じ。そっちは?」
「都会は騒がしいね。でも、なんとかやってるよ。それにしても…良かった、友莉が無事で」
「…そんなに心配しなくてもいいよっ」
「いやいや、友莉顔に似合わずよく考える子だからね。私よーく知ってる」
お淑やかに、いや静かに微笑みながら会話を続ける、彼女永倉友莉。一人暮らし生活にも慣れ、学校生活にも慣れ、新しい友達にも出会い、面白く楽しいことも続き、彼女にとってはプラスになる面が多かった。そう思っていいはずであった。電話の相手の彼女には、そう思えた。
「絢音こそ、困ったらいつでも連絡してね?話…聞くくらいは、できるから」
「ありがと。でもそうならないように、したいね」
「そうだね、考えてばかりじゃ…ね、疲れるもんね。…それじゃ、そろそろ切るね?また話そっ」
「うん、分かったよ。おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
お互いの会話が無くなってから、5秒以上経って彼女は通話を切った。静かに、そっとボタンを押し、携帯を耳元から遠ざける。ふうっと一息、呼吸を落ち着けた。気持ちも和らいだ。電話越しに聞こえる親友、絢音の声を聞いて、彼女は少し嬉しくもなった。中学時代からの友人で、もう付き合いは長くなる。たまにこうして連絡を取り合い、お互いの近況を報告するのだ。
しかし、電話が無くなってからは、彼女はすることが無くなった。そんな8月8日の夜。
「ちょっと、散歩しようかな」
この町は決して明るい町とは言えない。町内の人口は年々減り続け、それに伴い廃業する人もいる。活気が無くても、生活自体は出来る。高校のあるこの町は、その点を利点にすることも可能だった。若い人たちが通う町。しかし、現実はそう上手くはいかない。
電灯が少ない道を、彼女は歩く。この辺りは目立った明かりも少ないため、夜には星空がよく見える。もし、北の大地で同じように星を見たら、どれほど綺麗なものだろうか。
彼女は家の周辺から少し離れて散歩した。時間が十分にあり、そして家の中の用事は既に済ませている。何もすることがなかった。
すると彼女は、公園に辿り着いた。公園の電灯も寂しく三つだけついたまま、全体を明るくするにはあまりに不十分な光が広がっている。ブランコに腰かけると、少しだけ揺られた。公園の周囲は住宅地があるが、閑静なものであった。
彼女には、静かすぎた。
足元に一つだけあった小さな石ころを、弱く蹴って転がせば、砂利の音と混ざりながら、いつも以上に物音だけが耳に届いてくる。何も気にしない普段の音が、今日はハッキリとしていた、そんな気がしていた。周りが静かだから、余計に目立っているんだろうか。少々の体重移動でそのまま動き続けるブランコ。自分の力を使わなくとも、揺れるだけしてくれる。そんな時、彼女は空を見上げた。暗かった。雨でも降ってくるんじゃないか、と言う厚い雲が張り出していた。まるで顔を覗き込んだ星々を隠す、カーテンかのように。
「…絢音…」
キュウっと、胸が締め付けられるような感覚は、彼女にとっては慣れていることであった。だがその状態でいるとき、自分でも気づくほど彼女は気分が沈んでいる。分かっているならその逆をすればいい、そう言い聞かせても、体も心もそんな気持ちにはついていかないのだ。彼女が操るはずの精神が、逆に操られているかのように。
精神という一面から見れば、永倉など操り人形のように扱いやすいのかもしれない。もしそうであったのなら、彼女はきっと転んでしまうだろう。色々な意味で。
「帰ろうか」と一言、誰がいる訳でもないのにそう呟いた永倉。ブランコから立ち上がると、少しきしむ音を聞いた気がした。たった一人、その自然公園にいても何も無かった。
しかし、考えることは沢山あった。
《知ってるわよー?アンタのこと》
《ねえ何人目なの?教えてよー友莉ーっ?》
「…うるさい」
箱から飛び出してきた幾つもの言葉を、彼女は小さすぎる体で無理やり押さえつけた。
8月9日。昨夜の雲は案の定雨雲となり、無駄と思うくらい雨が降り続いていた。暑さと湿気が彼女を、彼女の部屋を襲う。寝間着姿で目覚めた時、時刻は7時を回ったところであった。両手で首元にある毛布を掴んだまま、その場で目覚めた彼女。休みだから、とは言うものの、彼女の生活は比較的規則正しい。家事もやるべきタイミングを見つけては、すぐに取り組んで終わらせてしまう。一人で十分に生活している。
しかし、今日という日はいつもと違う。
「…私が、知ってる―」
その時だった。突然携帯がぶるぶると音を鳴らしながら、固い机の上で小刻みに震えだした。一瞬頭痛を感じたが、すぐに彼女は起き上がり、机の上にある携帯電話を手に取った。
「…もしもし」
「よっ、おはようさん!」
「あ、原田君…おはようっ」
もしかして、起きたばかりなのだろうか。テツは一瞬そう思ったが、別に聞くほどのことだとは思っていなかった。テツが本当に聞きたい、いや確認したいことは他にある。すぐに本題に入った。
「明日なんだけどさ、大丈夫か!?」
「うん。ハルと、確認できた?」
「バッチリバッチリ!!」
それは、かつて夏休みが始まる頃の話だった。せっかくの高1の夏休み、楽しいことをしたいという思いは、テツ以外の人たちだって同じようにして思っていた。それぞれ形は違えど、気持ちには似たようなものがある。永倉にしてもそうだった。楽しめるのなら、嬉しいのなら、自分自身の気持ちは自然とその方角を見る。
「分かった。何時に、集合かな?」
「7時だぜ7時!ちと早いが、頼むなっ」
「うん。ありがとっ」
電話越しにそう笑って見せた、彼女。声に落ち着きがあり、だがそこに笑みも感じられる。テツは要件を言い終わり、すぐに電話を切ってしまった。通話が切れ、プツっと音が鳴る。ソの音を繰り返し流しながら、もう相手に声は届いていないことを伝える合図が聞こえる。
「…海」
…それでも、私には、大切な人がいた。
それでも…
「どうして…なんで?」
彼女の表情から、話していた時に生まれていた笑みが死滅する。唇に力が入り顔に明暗がくっきりと表れる。外から来る明かりなど頼りない暗いものでしかなく、まるで彼女の心情を表したかのようなものであった。
「…んー、なんか違ったなぁ二人とも」
テツには、彼らほど深刻に考えるような事情などどこにも無かった。が、電話の中では示さなくても、彼にも何か違和感のようなものは感じ、分かっていた。その正体は、彼にも分からない。本人たちにも、ハッキリとしたことは分からないのだから。
しかし、テツはまず楽しむことを考えていた。全員で。もしかしたら、この妙な感じはそういった過ごし方で、少し和らぐのかもしれない。テツはアレンこと零治が調子を悪くしていることは、既に予測できていた。なんでゲームなのにそうなるんだ、と思いたくなるくらいに。
「重すぎだよなーったく、インダストリアルヘブンさんは…」
それでも、テツはSFGに入る。やることは、決まっていたから。
Space Fantasy Game
番外章 「真実」 第二回




