第3回
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…もし、この時二人が、同じような時期、似たようなことで悩んでいたことを知っていたら。
その後の展開は、色々と変わったかもしれない。
何と集合時間は朝の7時。どうしてまたそんなに早いのか、と合流して彼が聞き出せば、もう一人の彼は「楽しむには時間も使わんとなー!」と、言ったのだ。おかげでその場に集まった半分の人は、睡眠不足の気持ち良くない朝を迎え、あまりに元気すぎる一人の男と、いつも通りのような雰囲気を出すもう一人の彼女と会うのだった。
「ハルは眠そうなのは分かるけど、どうして相坂君も?」
「いやまぁ…休み中だから、な」
「どーせ昼まで寝てたんだろう?んで、SFGに入るって感じな生活!」
「んー…」
テツ…お前には分かってるはずだ。今俺たち共和国軍がどういう立場にあるのかを。学生たちの夏休み期間は、SFGにとっては天下のイベントみたいなものだ。アクティブオンラインは絶対多いだろうし、俺もその…でも、ここで言っても仕方ないか。特に、この二人の女性には分からない話なんだ。
俺も、ずっとSFGばかりしていた訳じゃない。だからといって、離れたいとは思ってない。
「あ、来たよ乗換電車っ」
「さーてここからっと!」
待ち合わせの小さな町から都心部に伸びている在来線に乗り換え、彼らは更に南へ向かって行く。途中幾つかのトンネルを通過すると、その先に広がっていた光景は自分たちがいつも目にしているよりも、ずっと大きく広い住宅街。更にその先に見えるのは、ビル群であった。都会の光景を全く知らない子供たち、という訳ではない。ただ、田舎の景色に慣れれば、それはそれでこの光景に新鮮さを覚えるものなのであろう。
道中、とにかく長い道のりを彼らは話し続けた。天候にも恵まれ、嫌というほど暑い炎天下だ。車内では、本当の他愛のない話をし続けた。そんなことで、2時間も使えるほど、彼らの仲は良いと言うものだろうか。
「着いた着いたーっ!!」
「よっしゃー!ひっさびさの海だあぁぁっ!!」
我先に、と走り出す重倉を追うように、テツがすぐ走り出す。電車を降り、駅舎で切符を通し、玄関を抜けた先に広がる、大海原と砂浜。眩しいくらいの太陽の光が水面を化粧させ、幾つもの輝きを放っている。まぶしいが綺麗な光景に、残った二人は思わず見惚れた。
「それにしても、元気だ、あの二人は」
「そうだね、ちょっと羨ましいかもっ」
思わず疑問符を浮かべて彼女のほうを向いた彼だったが、その時の彼女は反射する輝きに負けないくらいの笑顔を作っていた。その姿を見て、何だか少し晴れやかな気持ちになる、彼。「さぁいこっ」という声と共に、永倉も小走りで彼らを追い始めた。追いつくはずないが。
山の中にある小さな町とは一変して、ここは世界が広かった。自分たちの地域にないものが、ここには当然のようにして存在する。逆に言えば、ここに無いものが、あの場所にはあるのだろう。緩やかなカーブを作りながら広く存在する砂浜は、既に多くの観光客や海水浴を楽しみたいという人たちで賑わっている。今日の天気がとても良く、海で泳ぎたいと思う人が多かったのだろう。
まず彼らは、海の家に向かった。大きな家で、中には見晴らしの良いレストランがある。少し豪勢なリゾート気分を味わうことができる。各々水着に着替え、玄関付近で待ち合わせることにした。
「いやー楽しみだなぁなぁ零治よっ!」
「あぁ、そうだね。中々こんな機会は無いだろうからな」
「そそそ!楽しんだもん勝ちだぜーい!!」
…つくづく、この男の単純さが羨ましくなる。いやこれでいいんだよ。こういう人が近くにいると、いい影響もらえるだろうからね。もっとも、これがテツのデフォルトだろうが。
当然、と言って良いかは分からないが、男性陣のほうが着替えは早く済む。零治の上半身や下半身が明らかになると、テツは思わずその筋肉質な体に驚愕した。彼はやや長い黒の海水パンツを履いていた。
「いや、すげーなお前さん!!」
「テツも、中々じゃないかな」
「流石元運動部は違うなあ…」
そうだな。あの時はとにかく必死に筋トレしたもんだ。野球でレギュラー取るには、上半身もそうだがやっぱり下半身はよく鍛えたからな。おかげでまぁ、あれだけの成績が残せた訳だけど。
二人はラウンジに戻ってきた。テツは右手にビーチボールを抱えている。この日のために近くのスーパーで購入した、という話だ。確かに、純粋に海水浴を楽しむほか、こうした遊びがあって全然いいだろうな、と彼は思った。そうやって会話を続けていくと、奥にある女性用の更衣室から、彼女たちが出てきた。
「お待たせーっ!」
「待った?」
「おーお似合ってるぜお二人さん!!若いっていいなあ!!」
「何言ってるのーテツだって若いでしょ!」
重倉に突っ込みを入れられるテツだったが、その場は一気に笑い、笑顔に包まれた。重倉は黒を基調としたものに、小さな白い水玉を浮かべたような水着を着ていた。
「相坂君、どうかな。似合う?」
胸元近くに手を置いて、そう零治に話した永倉。この時の彼は思わず言葉を失っていた状態で、その理由は、二人の格好があまりに似合いすぎて、つい見惚れてしまっていたからだった。永倉は全体を白で統一した水着に、小さくおしゃれなアクセサリーをつけている。一息飲んで、彼は言葉を発す。この間5秒であった。
「あぁ、いいね。似合ってる」
と、言った瞬間に満面の笑みでテツが彼の右脇腹に肘を入れた。思わず反応して驚く零治だったが、とにかくテツは笑っていた。いったい何がしたかったのか、と思った彼だったが、特に気にはしない。
「さーて、行きましょう!」
「だねっ!」
沢山の人で賑わうビーチ。多彩な色に囲まれたこの場所は、各々に輝かしい、明るい表情を生み出している。そんな空間の中に、彼らも飛び込んでいく。穏やかに砂浜を打ち付ける波に近づけば、女性たち二人は楽しそうに笑いながら、波から後退する。一方で、テツは波など全く関係なしに、そのまま海に体を入れた。それに続いて、零治も中へ入っていく。
真上から降り注ぐ紫外線の嵐と猛烈な暑さに、真下から上ってくる冷たい感覚と独特な海の香りが混ざり合い、調和して気持ち良くさせる。その日はまたとない海水浴日和であった。
「つ、冷たっちょっとテツー!!」
「ははははっ!!」
時にテツが女性たち二人にちょっかいとして、思いっきり水をかける。頭から水の攻撃を受けた二人もテツに向かって反撃する。いつの間にか四人全員を巻き込んだ水掛け合いになっていて、こんな些細な、それも大昔に遊んだようなことでも、彼らは今を楽しむことができていた。
「相坂君ーボール行ったよーっ!!」
「え?えっ!?」
「零治上だよ上!真上ー!」
さらに、テツが持ってきたビーチボールを使って彼らは遊び始める。はじめは海面に水をつけないように遊び、彼はボールの位置を見失って頭に直撃を受けた。彼を含めたその場が笑いに包まれる。しばらくはそんな遊びが続いていたが、そのあとで海面上の戦いが勃発した。ビーチボールを相手にぶつけるという激しい遊びに変化していて、永倉が零治に投げたビーチボールを、彼は潜水することで回避し、すぐ浮上してボールを奪う。
「えー何それーっ!!」
「こういう方法もあるってこと!」
「あの野郎頭いいなー!」
30分ほど遊び、四人は一度砂浜に上がる。時間は昼時を迎えていて、今が一番気温の高い時間帯であった。レストランでご飯を食べに行こうか、という話をしていたところ、海の家からアナウンスが響き渡った。何の話だろう、と彼らが耳を傾ければ―
『これより、団体様によるビーチボール大会を行います!参加希望者は、今すぐ海の家の前にある白いテントまで!!』
「何何!!イベントかな!?」
「そうっぽいな!やろうぜ皆!!」
「やるの!?」
「バレーかあ久々だなぁっ」
すぐその話に食いつき、参加することになった。通常ビーチボールは1チーム二人で点数を競うのだが、団体で来ている人たちにも参加してもらおうと、主催者側は最低二人から募集を行った。彼らは4人いるので、交代しながら戦おうという方針を固めた。
『さあ当ビーチ恒例の突発イベント!今日は定番中の定番、ビーチボール大会だー!!」
「よっしゃー勝つぜい!!」
「やろうねっ!」
『突発イベントにも関わらず今回は8チームがエントリー!優勝景品もどーんと用意してあるから、頑張っちゃってくれー!!』
総勢30名ほどが短時間でエントリーしたことになる。このビーチを利用する全体人数としては少ないほうだが、この突発イベントの特徴は、とにかくギャラリーが多くそれも熱いということだった。8チームで戦うので、優勝するには3回勝つ必要がある。
「よーしじゃあまずは、俺と重倉さんとで行くか!」
「おっけい!!」
ルールは至って簡単なものであった。優勝決定戦までは、各1セットのみでゲームを行う。相手のフィールド内にボールを入れ、11ポイント先取したチームが勝利となる。もし優勝決定戦まで進むことができれば、2セット先取にかわる。
初戦。相手も自分たちと同じくらいの年齢か、おそらく大学生の集団であった。零治と永倉はコート外で、二人のプレーを見ていた。相手がどうやら程度の経験者だったらしく、はじめポイントを次々と取られたが、コツを掴んだ二人はそこから巻き返し、最後痛烈なアタックを決めるなどして、いきなりの接戦を制した。11-9である。
「いやー危なかったぜ」
「さて、次は二人の番だよ!」
次の試合が始まるまでに10分ほどかかったが、すぐに出番は回ってきた。零治は、笑顔で永倉に行こうと言い、二人はコートの中へ入っていく。この時既にギャラリーの数はエントリー者数の何倍にも膨れ上がっていて、若い者たちの力がビーチいっぱいに包んでいた。
試合が始まる。相手は先ほどと似ていて、おそらく学生くらいの年齢だった。相手も男女ペアでの登場で、それも更に周りを盛り上がらせる要因となった。
「相坂君お願いっ!!」
「任せろ!」
零治がコート枠内ぎりぎりで、飛び込んでボールを上げると、それに反応した永倉が思いっきりジャンプしてボールを叩き付ける。フォームといいタイミングといい、二人の息はピッタリ合っていて、その姿は本当のバレーボールの選手かと思われるほどであった。零治の顔面に強烈なアタックが飛んでくると、零治はすぐに反応して顔の前に手を添え、ボールを浮き上がらせた。そこへ再び永倉が決める。二試合目も、最終的な11-5と快勝し、経験の浅い彼らがどうしてか、決勝戦まで進むことができた。
「永倉さん凄いね。プレーしやすかった!」
「私も!零治君合わせやすかったよ!!…あっ」
その時、思わず彼女は赤面させる。とても楽しげに笑う彼女は、彼を下の名前で呼んだことに、言葉を言い終わったのちに気付き、恥ずかしそうにした。どうやらそれに彼も気付いたらしく―
「ありがとう。それでいいよ!」
と、笑顔で返したのだ。
「いいコンビだね、あの二人さ!」
「そうだなーホントに。すっごい楽しそうだ!」
「いいねーいいねこういうの!若さって感じで!!」
はたして重倉の言葉の裏にどのような企みか思いがあったのかは、テツも分からなかったが、それも重倉の人となりから生まれる言葉であろうと思い、笑って返した。
結局、決勝まで進んだ彼らの試合だったが、お互いのチームが善戦し、最終セットで彼ら四人のチームが勝利した。その場は大盛り上がりだった。若い男二人に、かわいいとも美人とも取れる女性が二人。突発イベント主催者から写真撮影を求められ、それに応じた彼らの笑顔は、その後写真となって彼らに渡り、そしてしばらく海の家で飾られることになった。
…彼らの遊びは、まだ続く。
Space Fantasy Game
番外章 「真実」 第3回




