第43話
最悪の殺戮行為。もしこれが現実であれば、人類史に最も悪名を刻むことになるだろう。しかし、ここはゲームであり、自分たちの実力やゲーム権利を駆使すれば、あらゆることが仮想世界という現実の中で、実現させることが出来る。ギニアス大佐の小惑星落下作戦も、その一つであった。もし、人が本当にワープなどという手段を手に入れることが出来れば、あるいはこういった事態に対処できる可能性も十分にあるだろう。
誰の意志にも刃向うことなく、小惑星は北米大陸の中央部に落下した。大気圏を超えて地表へ近づいた時、その質量は元々より減少はしたが、それでも都市などを破壊するには十分だった。小規模ではあるが地殻津波が発生し、ほぼ何も知らされていない状況であった、NPCやプレイヤーたちを死に追いやった。この小惑星が地球に落下したことで、幾つか判明したこともあった。小惑星は、帝国軍の人の手によって落とされた。このゲームの性質上、各地方にある中立都市は、外部からの攻撃を受けない。だが、小惑星は中立都市そのものを破壊したのだ。つまり、本来は外部からの攻撃となるはずだが、この場合においては一種の自然現象という風に、ゲームでは捉えられたのである。
この情報については、軍が主体となって調査した。その結果明らかになったものである。プレイヤーやNPCたちは、この情報を帝国軍に渡す訳にはいかない、と情報ごと密閉した。帝国軍がこの情報を知り得れば、再度隕石を落とす可能性もある。自然現象の中であれば、気候環境なども変化していく。そうなれば、地球そのものに影響が出る。
第七艦隊旗艦ダビーレは、一度本格的な補給と修理を受けるために、基地へ帰投することになった。コロッセオのすぐ近くにある基地だ。アレンは、艦橋から久しく見るコロッセオの姿を眺めた。このゲームは都市開発が政府やそれを担当する者たちによって、簡単に進めることが出来る、という。コロッセオもログイン人数の多い都市だが、そこに表裏があるのは明白であった。彼はそのどちらも経験している。
「このような形で帰って来るとはな…」
サイクスが、嘆くようにして呟く。彼とて負け続きの状態を良いとは思っていない。どうしても打開策が必要であった。今の共和国軍は、正面から帝国軍と戦っても勝てる訳がない。その状況は兵士の誰もが理解していただろうし、そう思っていただろう。しかし、状況を有利に進める方法が見当たらない。誰もがその状態に至っていたら、本当に共和国軍は殲滅されるばかりだったかもしれない。
「一度ログアウトするか?アレン」
「いえ、コロッセオに行って確認したいことがありますので…」
「分かった。もうこんな時間だ、店なんてやってないしプレイヤーもあまりいないだろうが…とりあえず、NPCにはそのまま警戒態勢を維持してもらうことにする」
帝国軍は、一度火星宙域まで後退している。常勝しているとはいっても、彼らも補給や休息無しに戦闘を続ける訳にもいかない。サイクスやユラなどの予想した通り、その日はもう戦闘は起こらなかった。アレンもログアウトすれば良かったのだが、彼は待ち合わせている人がいた。戦闘が終わり、敗残兵として地球に降りる前、システムから連絡を取ったプレイヤーだ。
彼は、久しく使っていなかったが自分のバイクを使って、コロッセオの街の中心部まで飛行した。東街にある自然公園広場。
「…やあ、アレン。久しぶりだね」
「…なんだか、前と様子が変わったな」
「…久しぶり。エナ、エコーズ」
この二人は、かつて彼がゼウ商会に所属していた時の仲間。彼が一番最初に、このゲームで知り合ったプレイヤーでもある。共に仕事をこなし、稼ぎを得て、次第にゼウ商会の名前は広がり、仕事の量も増えた。だがある時、ゼウ商会の事務所はPK集団によって襲撃された。NPCは全員重傷、すぐに病院へ送られたが一命を取り留めた。その時は、彼も他のプレイヤーも、NPCが死亡したら生き返らない、などという話を知らなかった。エナとエコーズに関しては、今も知らない。だが、この二人にも、今の街の異常は分かっている。
アレンは、この二人からも事情を聞いた。前にテツから聞いたものと重複する内容も多々あったが、確認のためには必要なことであった。
「アレン。軍の力では、何とかならないかな?」
「無理だろうな…軍は一庶民の生活を気にしている余裕は、無いはずだ」
「やっぱり、そうか…」
「あれ以来、ずっとチェーンは姿を見せていない。ゼウとフェデルは、回復したけどな。だが、商会を復活させようとは思ってないだろう」
元々の原因を作ったのがアレンである、とは言わなかった。が、アレン自身はそれを十分に自覚していた。彼が保安組織からの司令でPK集団を討伐していなければ、ゼウ商会に彼の存在を見出すことなど、無かったのだから。前にチェーンに話したように、この二人にも、アレンの身の上の話は済ませている。それが原因であることも、彼は伝えている。しかし、二人やゼウたちは、アレンが原因などとは一切認めなかった。それは、彼に向けた彼ららしい配慮であったかもしれない。
「俺としては、とにかく二人が無事で良かった」
「ねぇ、アレン。また商会をやろう、とは言わない。けれど、この件に関して、出来れば協力してほしいんだ」
エナは自分たちの置かれた状況がどういうものか、理解していた。アレンの立場も分かったうえで、ここでは無理を言ってそう頼んだ。返ってくる回答は既に決まっていたようなものだが、それでもエナとしてはわずかな希望があるなら、それに頼ってみたい。そんな気分になっていた。
アレンの回答は、予想通りNoだった。彼は自分で認めた訳ではないが、自分が軍の階級上高い位置にいるため、離れることができない。今後どうなるかは彼にも分からないし、ほかの人にもまだ分からないことではある。
「…すまない」
「ううん、いいんだ。無理を言ってのこと」
「世界情勢に関しては、アレンの方が詳しいだろう。実際のところ、どうなんだ」
「正直、この地球がいつまで持つか、分からない状況だ。必死に戦っても、いつも負ける。最善の方法をとっているはずが、いつの間にか敵のペースに乗せられてる。よくある話だけど」
既に、地球から離脱するプレイヤーも多くいる。帝国軍が間近に迫っているということ、また帝国軍が小惑星を落下させるという驚異的な作戦を実行したという事実は、共和国に住むプレイヤーにとっては、驚愕するのに十分すぎるほどの話であった。ゲームであっても財産などは貴重なものである。既に何ヶ月とプレイし、今まで蓄えていたものを、一度に失うことができる作戦。そんなのが二度も三度も続けば、人々はすぐに逃げ出そうとする。無理もない話だった。
彼としては、本当はエナたちの協力もしたいと思っていた。チェーンのことが気になり、時に戦闘に集中できない時もあった。ただ、無事でいれば良いと願う日々だった。彼女がNPCだとしても、今まで彼女とは商会の様々な面で世話になっていた。
見過ごす訳にはいかない。彼は、思い切って次の言葉を発する。
「この件に関して、実は俺の友達に調査をしている人がいるんだ」
既に日付は変わっていたが、その日の夕方から夜にかけて。アレンは帝国軍の侵攻を気にしつつも、ある男を彼らに紹介した。アレンがチェーンの情報を聞いた時、その情報を真っ先に運んできたのが、リアルでも親しみのあるテツだった。テツは組織や商会といった類のものには入らず、この件に関しては安全面を確保しつつ、独自に調査を進めていた。その数々の調査結果は、アレンにとっては良い判断材料ともなった。
エナもエコーズも、できるだけこの事件を早く解決したい、そう思っていた。しかし、この件に関わるということは、同時に自分たちも攻撃の対象となり得ることに繋がる。自衛手段が必須であった。都市郊外に家を持つテツのところに、二人を案内したのだ。
「初めまして。俺がテツだ!」
「エコーズです。話はアレンから聞いています」
「エナです、よろしく」
「俺も色々と話は聞かせてもらってたよ。ゼウ商会にはいいやつが沢山いるってな」
「テツ…」
拳が彼の腹部を圧迫する一つ直前で、アレンは思い留まった。この場でアレンは、テツに協力を要請した。本当は自分がこの件を担当するべきだ、という思いがありつつも、彼にはやることが沢山あった。テツも、エナも、エコーズも、彼が今どういう立場にいて、何をしなければならないのか、分かっていた。そして期待もしていた。この状況を打破してくれる、鍵となる存在として。
「よし、いいぜ。俺からこの二人には、俺の持つ情報を共有させることにしよう。ちゃーんと報酬は頂くからなぁアレン?」
「今まで一度もあげたことない」
そして、アレンも自分自身がこれからどうするべきなのか。状況に流されつつあるが、それを見出し確率するために、彼もまた戦場に出なくてはならない。最低限、この地球は何とかして守りたい。その思いは強かった。
「それじゃ、テツ頼んだ」
「お、基地に戻るんか?頑張ってくれよな!」
「また今度会おう、アレン」
「頑張ってな」
三人の言葉を受け、彼はそれに笑顔で答えた。そして手を振り、テツの家から離れる。外ですぐにオートバイを起動させ、浮き上がろうとする。
「…」
当然、知るはずもない。これが彼にとって大きな負担であり、そして彼の存在を知る者が多くなるにつれ、その声が広まり始めていることに対し、彼が許容する重量を超えた重荷がのしかかっていることを。
共和国海軍第七艦隊所属の彼。第七艦隊は初めに小規模の増援を太陽系のほぼ外側近くにまで派遣した。そこから今日、地球に帰ってくるまで戦い続け、旗艦ダビーレは撃沈されず生き残って帰ってきた。ついこの間までは「所詮、敗残兵」という評価をもらっていたが、木星宙域での敗戦以後、敗残兵ではなく、逆にどんなに厳しい状況下でも生き残る、奇跡の艦隊とまで言われるようになった。苦しい状況に立たされた人々は、その状況下で希望の光を見出し、それを強く逞しく、誇らしげに讃えることを覚えた。負け続けているという、せめてもの気晴らしに。
共和国海軍再編成計画。そのような評価の上に実現しようとしている計画は、ユラを全軍の総司令官にし、艦隊編成を小さくして進みつつあった。アレンは第一艦隊、しかも旗艦ダビーレでの勤務が決定している。それに伴い、階級も少尉から中尉へ、そして近いうちに大尉にまで上がることが決定されている。彼のゲーム権利数は、既に階級が大佐になれるほどまで上昇している。
軍人でいると、システムの恩恵やゲーム権利の上昇具合が桁違いであった。宇宙での戦争をメインに扱うゲームならでは、なのかもしれない。
「アレンさん、おかえりなさい」
「どうも。少佐は十分に休まれましたか?」
「ええ。ゲームばかりしていると、妻に怒られるんですけどね」
アレンが初めてケーンバーク情報士官に出会ったとき、彼は中尉であった。が、今は参謀勤務を兼ねる情報士官として、少佐の任を受けている。第一艦隊の中心人物となり得る人だ。アレンが艦橋に辿り着くと、そばにあった現実世界でいうスポーツドリンクを彼に渡して、アレンはそれを飲み始める。
アレンは、艦橋で話をしているユラとサイクスに合流した。
「皆、アレンは出世頭の筆頭だって、思っているよ」
「ホントさ。お前さんまさか軍人になって、艦橋でプレイするとは思わなかっただろう?」
確かに事実だ。サイクスさんから誘われて軍人になり、今までこう何度も戦ってきた。こういう言い方はあまり良くないが、パストーレが撃沈したことで、俺はダビーレに回された。機会を与えられたようなものだ。おかげで階級も上がって、面倒なことは増えたんだが。
もう、コロンの使い道が思いつかない。
「そうだアレン。今後の防衛戦略だ。…もっとも、防衛というより、今度はこちらから仕掛けることになりそうだが」
「…?」
近日中に、俺たちは二ヵ所で同時に蜂起する。
Space Fantasy Game
―願いを、託す―




