第39話
…知っている人がいる、とは思っていたが、見抜かれてたんだろうか。まぁ無理もないよな。俺も、隊長見てそう思ったかもしれないし。今回は相手がそう言ってくれたから、分かるタイミングもあったもんじゃなかったが。
地球圏での攻防。運営が開始してから約三ヶ月ほど。インダストリアルヘブン社の人たちも、ここまで早い段階でどちらかの優勢がハッキリわかれるとは、思っていなかっただろう。ゲームをするプレイヤーたちの意見は、幾つにも分かれた。帝国軍は最終的な目標を、恐らく地球と定めている。その先にある金星や水星は、どうなるだろうか。
実際、地球に住むものが地球を求めるという流れを、帝国のプレイヤーはどのようにして思っているのだろうか。初めてのログインを帝国で迎えた人も、共和国で迎え最初の決断で帝国に行った者も、その目で自分たちの星を見たい、と願っただろうか。心理的要因は蜘蛛の巣のように存在する。
嫌ってくらい暑いな。これならゲームに入ってた方が涼しくて良い。雨降ってなくてもジメジメしてる感じも、もううんざりだ。
「はぁ…」
一息ついたところで、彼は起き上がり、テレビの電源を入れた。暗い空間にモニターのハッキリとした明るい色が、自分の体に写る明暗を更に濃くする。サスペンスドラマの流れていたチャンネルから変え、ニュースを見始めた。国際ニュースの時間帯のようで、急激に広がりつつある武装集団の鎮圧についての国際会議が行われた、と報じていた。
「武装蜂起するのか」
ゲームでのことを考えれば、目指すものを実現するために、戦ってるってもんだよな。この人たちも、この集団としての共通した目的のために、戦おうとしているのかもしれないな。
…だけど、この人たちは国じゃないぞ?当然ながら、俺たちと置かれた状況が異なる。だから何だって話だろうけど、俺たちは生まれた国で育ち、そして死ぬだろう。この人たちは、寄せ集めといったら表現悪いが、多国籍集団に違いない。反抗勢力としては厄介な存在だろうが、学ぶべきことは意外と彼らにもあるんじゃないか?
「…なるほど、第三の勢力ね」
思えば、零治が「共和国にも帝国にも属さない、もう一つの集団」に興味を持ったのは、このニュースがキッカケだったのかもしれない。
ログアウトしたは良いが、何かご飯を食べるような時間でもなく、かといって別の作業するほど明かりが開けているといった時間でもなかったため、そのまま彼はしばらくテレビを見続け、そしていつの間にか眠りにつくのであった。
時間は過ぎ、明け方。心地の悪いソファーの上で寝たせいか、十分に睡眠を解消することもなく、零治は目が覚めた。既に外は明るい状態だったが、体全身にのしかかる疲れは、一日や二日では取れそうにもない。今が夏休みだという現実が、彼にとっては幸せそのものだった。誰しも休みは欲しいと思うだろう。そんな休みだが、まだ夏らしいことも、先日学校で話したお出かけも、実行されてはいない。いつになるんだろう、という疑問を持ちながらも、彼が声をかけることはしなかった。どちらかと言うと、そういったお誘いはいつもテツがしてくれるから、今回もそうだろう、と彼は勝手に認識していた。
しばらく、テツとはゲーム内で会っていない。今もコロッセオにいることは確認しているが、たまに通話で連絡するくらいだった。
「地球に戻る機会があるんだったら、あの真実を確かめたいところだな…」
結局、その後も彼は眠れず、しばらく外を出歩いた。朝方の小さな町に、人は殆どいない。日中暑いこの地方も、朝方はやや涼しい。その気温が少しの癒しになった。
その日の夕方。彼はいつもと同じようにして、ゲームへログインする。
「…ん?」
…慌ただしいな。何かあったのか?この警報…
「いや、これは…!!」
アレン、はすぐに気付いた。この警報は接近警報であることを。そしてその相手が当然帝国軍であるということを。彼はすぐにログアウトした巡洋戦艦パストーレ内部の自室から、戦闘艇デッキへ向かおうとした。その瞬間、いつもとは違う感覚に戸惑う。
「…重力制御が壊れてる…!?」
宇宙空間は、本来無重力である。物を投げれば何かにぶつかるまでどこまでも浮き続ける、といえば簡単だろうか。現実世界、宇宙ステーションで何ヶ月も勤務をした人が地球へ戻ってくると、少しの間は地上で歩けず、車いすを頼りにするといった話もある。巡洋戦艦パストーレに限らず、多くの船では重力制御装置を艦内で起動させ、地球と同じ重力のまま艦内を移動することが出来る。無論無い船もあるが、それが壊れているということは、原因が幾つか考えられた。
接近警報。敵となるものが接近し、重力制御が破壊された。となれば、可能性は限定されてくる。
「あ、アレン少尉!急いで出撃して下さい!!」
「どうしたんだ!」
「敵の攻撃に遭っています。ブルネイ隊長はもう出ました!!」
ちくしょう…なんでこんな時間に攻撃を仕掛けられるんだ。現実の時間たってまだ夕方ぐらいだろうに…夏休みだから皆もしかして学生相手か?
「デルタアース、出せます!」
「すまないすぐに出る!」
…やれるのか?この俺に。
だがこんなとこで迷ってもいられない。放っておけば、皆やられてしまう。だったら、やるしかないのか。軍人とは本当に損な役回りだ…SFGに軍人以上に報酬やゲーム権利が得られる職業があれば、皆そっちを気にするだろうよ…!!
「デルタアース、出ます!」
「ロック解除!射出!!」
勢いのまま、彼は無重力空間へ飛び出した。デルタアースはパストーレからの離脱後すぐに上昇し、周辺を飛んでいる敵戦闘艇の迎撃を始める。その時、彼から見てパストーレの後方右側面が大きく損傷しているのが見えた。間違いなく敵の攻撃に遭ったという証拠だった。それも、かなり酷い抉られ方をされており、艦砲射撃を食らったのではないか、と彼はすぐに思った。
離脱して早々、敵の戦闘艇3機編隊と遭遇する。決して完璧とはいえないそのトライアングルの形は、おそらく1機を3機で撃墜しようという作戦であった。アレンはすぐに見抜き、急上昇をする。もちろん敵も陣形を維持したまま、アレン機の動きに合わせようとする。敵が熟練なパイロットであれば、こんな上昇角に苦労することは無かっただろう。だが、3機編隊は同じ行動を取ろうとし、お互いの間隔を大きく広げてしまった。デルタアースの推進装置を最大限に利用し、上昇から一気に速度を低下させ、姿勢を変えて逆に編隊の方へ向かっていく。ややコースを外れた1機に対してブラスター砲を二度撃ち放ち、二発目が命中した。機体は完全消滅とまでは至らなかったが、速度を鈍らせるほどの痛手を負わせることは出来た。すぐに標的を切り替え、攻撃を続行する。
「逃がすな!追え!!」
SFGのゲーム機能、というよりは空中戦での特徴の一つに、無線にオープン回線というものが設定されている。無線妨害などの布設物がない限り、お互いのコックピットの音声などが敵味方関係なしに聞き取ることが出来る。戦艦からの連絡は当然軍の管制下にある回線を利用するが、意外とこのオープン回線を利用して会話をしたり、あるいは怒号をぶつけ合ったりする人がいるのだ。時にそれが情報を得る機会にもなるが、普通はそのようなことは起こらない。
彼もまた、たまに音声を聞く側になって、戦闘をしていた。相手がどのようなプレイヤーなのか、意識することもある。しかし、彼から話しかけることはいまだ一度も無かった。
…追いかけられるのは好きじゃないからな。
結局その編隊も難なく撃墜してしまったアレン。まだ離脱してから5分しか経っていない。5分足らずで3機の撃墜は、彼自身初めてのことであった。もしかしたら後でシステムに何か連絡があるかもしれない、と彼はやや期待感を持ちつつも、不利な状況にある戦況をミニマップで確認し、次なるターゲットを定める。
が、その時ブルネイから連絡が入る。
「アレン、上がったようだな。見ての通り、既に戦闘は激化している。前線が押し上げられない状況だ」
「何が起こっているんです?」
「奇襲であることに間違いはない。敵はワープによる急速接近で、俺たちの側面を攻撃しようとした。気付いたのが早かったから何とかなったが…状況はあまりよろしくない」
だろうね…パストーレも被弾しているし、このまま押され続けると、今度は火星までも手放すことになる。とすれば、もうこれ以上防げる手はないだろう…少数精鋭?そんなこと、現実には中々起こらないものだ。
「総数はこの間の木星宙域での戦闘と似…」
…何…!?
「隊長!?」
突如無線に響いた、まるでアナログ時代のテレビで見られた砂嵐の音。耳いっぱいに聞こえその音があまりに大きく表情を歪ませるほどであった。そして5秒後には無線の音が消え、ブルネイ機からの通信が完全に途絶えた。アレンはすぐにパストーレに連絡して、状況を聞いた。だが返答があったのはパストーレではなく、旗艦ダビーレであった。
「ケーンバークです。気を付けて下さい!6時方向からの迎撃!」
ろ、6時って言っても…何も見えないぞ?ただ遠くにある星だけだ。
アレンがそう頭の中で声を発した矢先、その方角から突如自身の視界全体を遮るような眩い光が一瞬開けた。その瞬間彼の機体右側面をぎりぎり掠めるか掠めないかというところを、ブラスター砲のようなものが通過していくのがはっきりと見えた。轟音に似た音と振動がコックピット内にも伝わり、驚愕する。その一矢は後方で戦闘中であった味方の機体に直撃し、一撃で大破する。
「狙撃された…どこからだ!?」
「光の方角は6時方向から!!」
ブルネイ隊長の機体は、既に爆散していた。アレンは今の攻撃を見て、ブルネイが撃墜された原因が今のものであると、確信した。そして6時方向に姿勢を向け、推力を上げる。
「敵機確認…黒の機体が1機!」
Space Fantasy Game
―光を放つ、闇―




