表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第三章 あの星へ戻るために
PR
38/150

第38話




 木星。

太陽系最大の惑星。人類発祥の地、地球からでも天体望遠鏡を使えば、容易に観察することができる。初めてその姿を目にしたのは、もう何十年も前の話。今の人々であれば、木星がどのような色の星であるか、すぐに頭の中で再現することができるだろう。

 その周辺には、衛星がある。環境が異なるものは幾つも存在しているが、総じていえば人が住めるような場所ではない。そもそも、現実世界では木星までの有人飛行が実現していないのだから。有人飛行といえば、人類は既に月への有人飛行を実現している。そして今、その手足を火星に向け、新たな発見を求めようとしている。



 だが、仮想世界ではどうか?

ゲームの中での発見が、現実と類似していると言い切れる保証は、どこにもない。なぜなら、ゲームの開発者自身がそれを経験したり、見たことがないからだ。全て、最初からあるものを参考にし、それを改編し、そして一つの物語として構成している。いわば妄想の塊であるが、その世界観に、何十万人かが酔い痴れている。だが、不思議なことにそれを疑問には思わない。人の頭の中には、一度見たものをイメージして、あたかもそれが当然であるかのように見てしまうというのもある。宇宙というイメージは、既に現実ではイメージではなく事実として存在している。あの大きな星がいずれ消滅することも、光にも時間があることも、すべて事実として認識することができる。

 だからこそ、この世界観は仮想であり現実とも言われる。もし、何百万年か後に人類が生きていれば、その欲求を宇宙で実現しているかもしれない。「宇宙戦争」と呼ばれる時代が到来し、映画や漫画の世界観が現実のものになるのかもしれない。



 ある意味、SFGはその最初であったかもしれない。




 8月初頭。

SFGのゲーム内では、帝国軍が衛星イオ、エウロパに基地建設を開始した。自立生産機能を設け、雇用者を雇い、都市の発展を行う。共和国がかつて同じことをしていたように、帝国も自分たちのカラーに塗り替えたうえで、帝国領として確立する。その作業が進み続けていた。


 「来たか。ギニアス、此度はご苦労だった」

 「いいえ」



 衛星エウロパ。地表から遥かに高い位置に高層ビル群があり、商業ビルや工業ビルが立ち並ぶ。都市建設の簡略化という、以前にアップデートされた機能によって、プレイヤーの構想次第で簡単に都市が建設できてしまう。帝国軍がこの衛星に入ってから、徐々に帝国カラーのもと、建設が進められている。この星には当然、共和国を信じて工業や商業を営んでいたプレイヤー、NPCがいる。今は彼らが支配される側となり、決して満足とは言えない状況の中で、毎日ゲームをしている。

 そのビル群の中にある、帝国軍前線総督府。この宙域が帝国のものであると象徴するかのようなこのビルは、当然木星が自分たちの手から外れるまでは、存在し続ける。



 「立案も終わり、迅速に事が進められることが出来たのも、グラーバク閣下の尽力あってこそです」


 「そう褒めるものでもない。だが、ギニアスの言う通り、その作戦が実行し成功すれば、我々の力は確固たるものとして見せつけることができるだろう」


 「敵の第一艦隊、第二艦隊の生産ラインが複数失われたことが痛手ですが、それでも推力に必要なエネルギーは確保できました」



 「うむ。これで補給も十分に行えるな。ギニアス、こちらは他の高級士官に任せて、お前はすぐに火星宙域に向かってくれ。戦闘が長期化するのを阻止してほしい」





 戦争は、続く。

 争いの種は花を咲かし、また種を植え付け、そしてまた咲く。





 …火星。

太陽系の惑星では、太陽に近い星から数えて4つ目にあたる。地球とそう距離が遠い訳でもない。表面が赤く見えることから、赤い惑星といわれることもある。その原因は酸化鉄が地表に多く含まれているのではないか、というものである。昔は地球に似た惑星であるとして、生命の可能性が騒がれたが、最近になってはその話も聞くことがあまりない。その昔、アメリカ大陸にUFOが落ちたという話があったが、その真相も結局は明らかとなっていない。様々な著書が出版されても、いずれも信憑性に欠けるものが多いといわれているのだ。

 SFGでは、人類が夢見た他惑星の生命の可能性を実現した。とはいっても、人間以外の生物が住み着いているという訳ではない。地表は幾つものシェルターによって外気からの汚染を免れていて、さらに地下都市構造を実現して巨大な有人惑星として実現することができた。天王星や海王星などと違い、地球に近いことから、定期的に地球と火星を結ぶ船が運行されている。1度のワープで十分なほど、簡単にいくことができる。



 「アレン、そいつだ撃て!!」

 「チッ…!」



 共和国軍第一、第二艦隊が消滅したことで、形成が一気に不利に展開しているSFGの戦争。既にネット上では「帝国、共和国を併合へ」などと言われ、その争いに終止符が打たれた後どうなるのだろうか、といった声があげられている。この掲示板などの書き込みは当然共和国陣営にいる人たちが見ている訳で、戦っている本人たちも気になりながら、自分たちを貶されているような書き込みに対して苛立ちを隠せない。アレンもその情報を知っている一人のプレイヤーであったが、彼がなんとかしたところで全体の優勢がこちらに転がり込んでくるはずもない。



 「早く!!」

 「今…行く!!」



 アレンが操縦桿についている武器管制の赤いボタンを一度押すと、試作型戦闘艇デルタアースのブラスター砲が発射され、一直線に光が貫く。暗く遠い星々の視界を前に、ブラスター砲が通過していき、やがてそれは帝国軍の機体に直撃した。一瞬で機体が爆散し、アレンの撃墜スコアとなった。味方の窮地を救ったアレンは褒められるべき立場であるが、助けられた方が動きが鈍いとアレンに忠告するのであった。そのプレイヤーはアレンの乗る期待に嫉妬していたが、それ以上のものをアレンに求め、ぶつけようとしていた。

 共和国軍艦隊は、既に残存する複数の艦隊を再編成することが決定されている。もはや組織的な抵抗、としか言われない共和国軍艦隊は弱小勢力として認識されている。それは共和国陣営のプレイヤーにとっては不名誉なことではあるが、その認識が逆に抵抗の力強さを生み出し、戦況を膠着させるに至っている。ここ、火星宙域の周辺もそのような状態で、戦闘の長期化が懸念されていた。



 「まだ来るのか…」

 「よし、次!!」



 味方プレイヤーが気持ちを高ぶらせて次の獲物を狙いに行く。もっとも獲物にされるのは本来自分たちの方だろう、とアレンは冷静に考えつつも、自分が鈍い動き方をしているという自覚がある。ある一件の認識が原因で。



 「んあ?こんなとこで戦争か!?」

 「おいおい、マジかよ…」

 「もっと近づいて見ようぜ!」

 「バカ言うな。旅客船が近づいてどうする!」



 火星と地球を結ぶ定期連絡船の航路。そのすぐ近くでこの戦闘は行われている。が、今回の戦闘の特徴は、一度に複数個所で戦闘が発生していることにあった。共和国軍はこれに対し、地球と月の艦隊を数多く動員し、何とかその場を凌いでいる。長持ちするとは思えなかった。

 アレン機は敵にロックオンされる度に、幾つもある推進装置を作動させて急旋回したり、上昇下降を繰り返した。そうしている間に敵の照準をずらしたり、自分自身が攻撃態勢に入るように工夫している。敵のブラスターをかわす、などもやってのけた。そうしている間に既に戦闘艇を5機撃墜している。それでもなお、自分たちが不利なことに変わりはなかった。

 やがて、死んだマルクスに代わり隊長となったブルネイが撤退命令を出す。味方艦隊が後退するのに合わせて、自分たちも母艦に帰投しようという判断であった。この戦いはどちらかが一方的にやられた、という訳ではなかったが、それでも被害は大きかった。



 「なぁ、アレン。何か悩みでもあるのか?」



 母艦パストーレに戻ってから、ブルネイ隊長にアレンは呼び出された。先ほどの戦闘のことで、味方の兵士から報告が入ったらしい。味方同士なのに余計なことをしてくれる、とアレンは一瞬思ったが、それによって発生した感情はすべて内に秘め、ブルネイの話を聞いた。



 「いえ、特には」

 「ならいいんだけどな」



 アレンは今回の戦闘でも活躍し、あっという間に少尉になるだろうと皆は予測していた。現実そうなったのだが。ブルネイは窓の方向を見て、ただ奥までずっと続き終わりの見えない星空を眺めた。大きく見える惑星もその視界に入っている。



 「俺には、悩みがある。このゲームの中でな。現実のことは、ここではあまり言いたくない。だがゲームの中だったら、話せることもある」


 「…」


 「できるだけ、俺も敵を撃ち落したくない。特に、NPCが乗ってるやつをな」




 その時、アレンは頭の中でこの言葉に驚愕した。表情を一切変えることはせず、微動だにしなかった。だが、ブルネイはNPCが一度死んだらもう復活しないことを知っていた。今その話をどれだけの人が知っているのか、アレンには分かっていない。だが、こんなにも目の前にそれを知っている人がいるとは、彼は思っていなかった。彼の動きが鈍いというのは、やはりそこから来ていた。本物の人間のように動くNPCが、本物の人間と同じように死に生き返らないという事実をもって、そこに躊躇いが生じているのであった。



 「だが俺たちは軍人だ。ゲームだから何をしても良いって、そういう訳にはいかん。それに、いくら仮想世界でも仮想通貨を給料としてもらってるんだから、それなりに働く必要もある。お前も、躊躇いがあるのなら、たまには自分を見直してみるのもいい」



 「…なるほど」



 「撃つ努力をしろとは言わないが、自分と、あるいは敵と向き合う努力は必要だろう、と俺は思う」



 そういうと、ブルネイは通路のほうへと向かっていった。まだ戦闘が終わってからそう時間が経っていない。ブルネイの言葉は確かにアレンに届き、そして考えさせられるきっかけにもなった。隊長としてではなく、一人のプレイヤーとしてアレンに気にかけていた。



 戦闘の中心が地球圏に移動していた時―




 「艦隊、先発する」



 別の作戦で動いている艦隊とは別に、地球圏の共和国軍を殲滅すべく、ギニアスと空戦部隊、そして帝国軍艦隊が木星宙域から出撃する…。




 Space Fantasy Game

 ―地球圏の、光―




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ