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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第二章 本質の渦中へ
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第36話




 艦隊戦の結果は、共和国軍艦隊が優勢であった。ユラが指揮のもと、空戦部隊を効果的に運用し、制宙権も共和国艦隊が優位に獲得するという状況も作り出すことができた。数において不利な共和国軍艦隊ではあったが、長距離砲で接近戦に持ち込まなかったりするなど、全体としては優勢であったと、振り返ることができるだろう。

 しかし、最大の難点はやはり数による消耗戦に持ち込まれることであった。疲労が蓄積し、補給が捗らなくなれば、戦況はいつでも帝国軍側に傾くだろう。ユラとしても、戦闘が始まった当初からその考えはずっとあり、いずれにせよいつまでも戦闘を長引かせる訳にはいかなかった。無理に戦闘を続けるより、相手の出血を多くして進軍を鈍らせるなどして、一気に後退した方が良いのではないか、と。


 空戦部隊の撤退命令は、第八艦隊の司令官と短時間での話し合いの末、決定された。劣勢化の中、艦隊船、空戦ともに奮闘し、数に関係なく帝国軍相手に優勢を保つことができた、という結果が残った。それでも、味方艦や戦闘艇の損害は、これ以上増すと無視できないレベルに達しようとしていた。

 アレンもフューリーも、無事に帰還することができた。しかし、二人やそれ以外の空戦隊員も、すでに異常に気付いていた。普段命令を伝達するはずの、マルクスの声がない。そして今回声を出して自分たちに命令を下したのは、副隊長のブルネイだった。アレンの機体は傷が付くことはなかったが、ドッグファイト中に機体のすぐ横をエネルギー流が通過していき、その部分がやや黒焦げていた。ダメージというものではなかった。



 「良かったな、アレン。んで、何機だ?」

 「3機。フューリーは?」

 「俺も3だ。引き分けか!」

 「なら、俺は船を落としてるから、俺の勝ちだ」

 「船!?」



 アレンはこの戦闘で、戦闘艇で相手の巡洋戦艦を沈めるという、中々できないことをやってのけた。巡洋戦艦でも対空迎撃は非常に強力で、近づいても被弾して撃墜されるのがもっともなパターンであった。しかしアレンはその迎撃も避け、たった三回ボタンを押しただけで、相手を撃沈させるに至ったのだ。三発中、二発が戦艦後部、出力維持を行う要所に直撃したということもあり、被弾した時点で戦艦は瀕死状態に陥ったのだ。フューリーは右手で少し頭をかき、やれやれと言いながら戦闘艇デッキから別のルームへ向かおうとした。



 「いや、待ってフューリー。一つ確認しないと」



 アレンはそう言って、パストーレで整備を務めているNPCのところへいった。整備兵の中にプレイヤーもいるが、稀といって良いくらいのものである。



 「マルクス隊長のこと、何か知らないだろうか」

 「…」



 はじめ、その整備兵は口を開けなかった。理由を知っていて、ただ言葉にするのが重すぎたのだ。現実世界の人間と同じように作られているNPCだ。アレンは、無線にブルネイ副隊長が出てから、何か変だとは思っていた。同じように、フューリーにもそれは分かっていた。

 10秒ほど沈黙が続いただろうか。整備兵が口を開けて話した。



 「…隊長は、亡くなられました」

 「…なに?」

 「先程の戦闘で、亡くなったのです。艦砲射撃に直撃され…」



 ブルネイ副隊長が無線で呼びかけた、ということは、マルクス隊長に何かあったと考えるべきだ。もちろんそこまでアレンは考えていた。最悪のケースにならなければいい、と思っていたが、そこを突かれてしまった。整備兵はとても重々しく、その言葉の陰に霞んだ悲しみを浮かばせながら、アレンにそう言った。戦況が優位に進み、その状態で後退をし始めたという状況もあり、とても後味が悪い。



 「だけど、NPCならまた復活できるんだろう?時間は掛かったとしても」




 そうだろう。俺たちプレイヤーが死亡したら生き返れるように、マルクスさんだってまた帰ってくる。NPCであってもゲームをプレイしている人間のようなもんだ。デスペナルティはあるだろうが、戦闘中のことであれば、軽減される。何も気にする必要ない。死にたくないのは、分かるが。




 「…いいえ。NPCは、一度死亡したら、もう帰って来られません…」





 …何て、言った?




 「マルクス隊長は…下級兵士にも優しい、模範的なパイロットでした」

 「ち…ちょっと待てその話本当なのか?NPCが生き返らないって」

 「間違い、ありません」


 「なんだと…俺たちプレイヤーはデスペナルティでもなんでも受けて生き返るってのに、NPCにはなぜそれが適用されないんだ…!?」




 聞いたことがない。そんな情報どこにも流れていなかったはずだ。俺が聞き逃しただけか?いやしかし、NPCで戦闘に出ている人だっているはずだ。この戦いで何人も死んでいるが、結局は兵力補充を行えている。だったら、生き返っていると考えてもいいはずだ。

 …まさか、現実と…同じ…!?



 「ふ、フューリー!この話、知っていたのか!?」

 「いや、俺も知らない。初耳だ。恐らくこれはNPCにしか分からないことだ。そうだろう?」


 「戦争をしていれば、いずれは言わなくてはならない…我々NPCは、そう教わっていました。ただの動く人間ではない。ちゃんとした感情もあります。それが私も含めて、言うのを躊躇わせていたのです…共和国、帝国関係なく」





 これが、パストーレで聞いた衝撃の事実であった。今まで彼らは、名前を知っているNPCが死亡したという話を、聞いたことがなかった。誰だって死ぬのは怖い。しかし、このゲームでなら、何度死んでも生きて帰ってこられる。それがこのゲームの「常識」として、勝手に認識していた。しかし、このNPCの話が本当であるなら、もうマルクス隊長は二度と帰ってこない。あまりに突然すぎる訃報に、アレンもフューリーも驚かずにはいられなかった。



 「…NPCは、死ぬ…本当に…」





 《PKに対する恐怖心があって、おかしくないと思う。私だって怖いし…リアルのプレイヤーは、リアルで人を殺すことと変わらない行為を、このゲームで出来る。戦争でないところでも》



 それを聞いた彼は次の瞬間には、あらゆる記憶が頭の中で流れていた。回転が忙しすぎてすべてを把握しきれない中で、はっきりと手に掴み取った記憶。

 ここ最近、コロッセオの下町では、プレイヤーNPC問わず誘拐されるという事件が発生している。治安部隊の目を掻い潜り、悪事をひたすら続ける集団。PKよりもさらに過酷な手段で制圧し、プレイヤーであればログアウトさせないようにする。現実の人間たちに直接手を下さずに、犯罪をすることができる。


 そう。彼はチェーンのことを思い出した。テツからその情報を受け、システムを確認した彼だったが、NPCであるチェーンはLost表示になっていた。システムの電源が切られているか、それ以外の何かが理由とされる。普段はそのようなことは起こらない、と彼は思っている。ゼウ商会襲撃事件で、NPCであるゼウ、フェデル、そしてチェーンは重傷を負った。万全な状態であるとは言い切れない。



 「…アレン、大丈夫か?」

 「あ、あぁ。こちらこそ、取り乱してすまなかった」



 そう言うと、アレンは歩いて艦内の通路へ向かっていった。その場にいたフューリーは、彼の後ろを追いかけようとはせず、整備兵に少し指示を出してから、宇宙空間の見える窓際まで移動した。戦闘艇デッキ内に数ヶ所あるこのスペースは、たびたび休憩場所として使われる。しかし、フューリーが行っても今は誰もいなかった。



 「これでは、まるで俺たちが、NPCだな…」



 NPCは死亡すると生き返らない、というこの話が広めるまでには、この後更なる時間が必要だった。それを知ったプレイヤーも、わざわざ各所に情報を広めようとは考えなかった。特にゲームで戦争をしている人たちは、いくらゲームであっても、その情報を知ったときに「自分たちが人殺しをしている」と思う人が多く現れることになる。確かにゲームの世界で作られた人間なら、殺しても良いと、はじめはそう考える人が多かっただろう。しかし、このSFGでの特徴の一つに、NPCも本物の人間と同じように作られているため、NPCとの間に親近感も強く、確かに存在していた。その事実とNPCの存在が、プレイヤーたちにとっては大きな衝撃であり、それによって戦闘に参加しなくなる人も、当然現れるだろう、と考えられた。今はその情報が周知されることはなく、まだ知る人ぞ知る、といったレベルの話ではある。

 唯一の救いだったのが、あまりにリアルに再現された人間なので、誰がNPCで誰がプレイヤーなのか、というのが明確にはっきりとしない点にあった。だが、NPCは沢山いて、その人その人に性格が設定されている。アレンが今まで出会ってきたように、自分からNPCだと名乗る人も当然いる。



 ある意味、これは転機になり得るかもしれない。

 しかし、仮想空間として作られたものにしては、あまりに現実的であったかもしれない。




 Space Fantasy Game

 ―NPCは、死ぬ―




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