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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第二章 本質の渦中へ
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第29話




 それからのことだ。俺たちは結局天王星を守れなかったことを、上層部の人たちから教えられた。元々基地を守るという任務は授かっていなかったが、軍人である以上自分たちの利用する場所くらい、守って当然なものだ。このゲームの本質上、どうしても危険が付きまとう。まして天王星が最前線の状態になり得るという状況だったのだから、万全の状態を尽くすべきだった。

 なのに、俺たちは結局何もできなかった。やったことと言えば、戦艦幾つかを沈めただけ。この暗い宇宙に2,3の戦艦が沈んだところで、帝国軍の優勢は変わりようもないって話さ。



 「…疲れたな。暑いし」



 落とした相手がNPCなのかプレイヤーなのか、あるいは本当に人が乗ってるのか。そんなこと、俺には分からないし出来れば知りたくない。ゲームの中では当たり前のように、PKが出来てしまう。いやむしろ、しなきゃ生きていけない。考えもんだな。こうもあっさり倒せる割に、俺たちは常に押され続けてる。

 まぁいい。今日はもう寝よう。明日はフィールドワーク演習もある…大変な一日になりそうだ…。



 …気になることもある。



 ヴァーチャルゲームのリアルな部分に触れていくごとに、彼には若干の迷いが生まれ始めていた。ゲームはゲームとしての認識を持つべきだと知っていながらも、彼の感性はゲームの枠を超えてリアルの枠の中に入り始めていた。ゲームとリアルを直視し続けることによって干渉される、お互いの世界観。そこに疑問よりも先に迷いが生まれ、ゲームの中でさえ自分のしていることがリアルでどれほどの深い重圧の意味を持つのか、と考え始めている。

 サービスが始まって約2ヶ月。人類史上最初のヴァーチャルゲームとなっている訳だが、このようにして、現実と仮想とを区別されているはずの世界観が混在している、という人は彼だけではない。そう信じたい、そう思う人がいるだろう、そう考えられていた。




 太陽系の中でも、2番目に大きいとされる巨大な惑星、土星。恐らく多くの人がこの星を想像するとき、星を取り囲んでいる環を思い出すだろう。一度は写真などで見たことがある、この特徴的な星も、当然このゲームは綺麗に映像再現することが出来ている。

 しかし、他の惑星の設定と異なる点が幾つもある。もっとも違う点は、本星に居住地区が全くないことにある。共和国領土最奥の冥王星にも、プレイヤーはログインすることが出来た。しかし、土星には初回ログインも出来なければ、セーブポイントも存在しない。ではこの周囲はどのようにゲーム構成されているのか。

 答えは、土星の周囲にある衛星にある。なぜインダストリアルヘブン社が土星そのものを居住スペースにしなかったのかは、運営が始まってから2ヶ月ほどが経過するが、その答えを正確に知る者は誰一人いない。周囲にある小さな衛星数十個のうち、約20個がゲーム構成により、初回ログイン地として設けられている。一番人口の多い衛星は、タイタンと呼ばれる星である。恐らく聞いたことある人の多いこの星だが、土星の衛星の中では最も大きいもので、それゆえにプレイヤーの住む星として設定されているのである。現実では当然人はおろか、物すら入れない。



 「こちら共和国軍第808衛星宙域巡視部隊、旗艦フェルテンである。接近中の艦隊、所属を明らかにせよ」


 「こちらは、共和国軍第七艦隊旗艦ダビーレ。残存する兵力を統合した。敗残兵だが、合流の許可を頂きたい」


 「了解した。旗艦ダビーレ…第七衛星アイガイオンの補給基地に着艦せよ」



 番号で振られた衛星までは現実と全く同じものではなく、ゲームでの架空のものとなっている。このようにして、数十個にもなる衛星一つひとつに、規模は違えど共和国軍の基地が設けられている。さらに、共和国政府は衛星タイタンに土星の統治機構の中枢を設けているが、すべての衛星をカバーするのは困難と判断しているため、それぞれの衛星に共和国理念のもと、自治を認めている。

 無線にもあったが、第七艦隊と第四艦隊の旗艦は、いわば敗残兵である。天王星を守れなかった敗者としての汚名が知れ渡る一方で、生者として持つ様々な情報をもたらす貴重な艦隊として知られるという、二種類の顔を持っている。


 「ジュイル総参謀長。ログインしていないプレイヤーも多いだろうから、メッセージを頼む」


 「はっ、閣下」




 実のところ、ゲームなのにもかかわらず、負け続きの共和国軍は士気が下降し続けている。階級の高い戦闘兵士でさえ、天王星から逃れた後しばらくログインしない、といったことも発生していた。もちろん、土星宙域に至るまではワープ航法を使っているが、何回も使える訳ではない。その間は、宇宙旅行ともいえない航海を楽しむしかないのだ。その時間を分かっているプレイヤーは、ログインしない傾向にある。艦外に出られるはずもなく、自由な行動が制限されているため、それを避けしばらく様子を見る人が多いのだ。

 そして、3日目。リアルでは夜の9時を過ぎたところだが、土星宙域で交信が出来、衛星アイガイオンへの着艦を指示されたのである。



 「ん?」



 巡洋戦艦パストーレの船員室。基本的に軍所属の艦はその全域がセーブポイントとなっているため、こうして航海している時間はログアウトしているプレイヤーが多いのだが、彼アレンはもう間もなくアイガイオンに着こうというところで、既にログインはしていた。そこへシステムからコールされる。



 「お、テツじゃないか。なんだかこっちじゃ久々だなあ」

 「へっ、いい気なもんだなーお前さんは!今日俺が昼飯学食でおごったってのによー!」



 それはまぁ、テツが負けたからな。つまりどういうことか、というと…3,4時間目の授業でスポーツがあった訳なのだが、バスケットボールの授業だったもんで、シュート練習をしてた。でもただボール投げてるだけじゃつまらないからって、テツが俺に3ポイントシュートを1分で何本入れられるかって、勝負を挑んできたんだ。んで、俺が3本、テツが1本だった。勝ったから、ということで昼飯をおごってもらったってことさ。


 「かあー!!おめえなんであんなに綺麗に入るんだよ経験者か!?」

 「んーいや俺はバスケは未経験だよ。中学まで野球やってただけ」



 …ということなのである。



 「んで、どうした?急に」

 「ああそうそう。そっちは無事か?地球にいないってこたぁ、無事にやってるんだろうけど」


 「あぁ、なんとかね。今土星の宙域だ」



 それを聞いた時、テツはめっちゃ驚いてたな。そりゃそうだろう。誰もが土星に行けるとしても、誰もがいつどのタイミングでもいけるって訳じゃない。初めて見る天体の感動を何ヶ月で味わえるか。そこも意外とこのゲームの楽しみだろうけど、こんなに早い段階でいろんな星を見れる俺は、結構楽しめてるんだろうな。他のプレイヤーに比べると。



 「まぁ、死んでこっちに来たら笑ってやるぜ」

 「いやー、嫌なもんだね性格見え見えだ」

 「いえいえそれほどでーも?」



 他愛ない話だが、その後でテツは本題に入ったようだ。テツにしては冷静に言うもんだから、何かと思ったけど…



 「ゼウ商会の面子、今でも連絡取ってるか?」

 「いや。そういえば、リストしばらく見てなかったな…」

 「今すぐ見てくれ」



 俺が軍人になる前に所属してた商会、ゼウ商会。ゼウは今もたぶん病院で治療中なんだろうが…恐らく俺が事に端を発して、ゼウ商会は事実上消滅した。NPCは全員生きてたが、あの時エナとエコーズは死亡してペナルティを受けた。一様、あの二人には俺の今後を伝えたけど、しばらく声は聞いてない。何かあったのか?ゼウ商会が復活したとかいうなら、嬉しいものだけど…どうやらそうではないらしいな。



 …チェーン?



 「…チェーンが、[Lost]表示…?」

 「やっぱりそうだったか。これで証明できたな」



 …いや、待て。テツ、一体何の話だ?



 「コロッセオの下町で、噂されてるんだ。最近あそこはPK集団の巣窟だからな。プレイヤーは当然逃げてる。ゲームったって、殺されるのが好かんのは当然だからな。NPCも逃げる奴は逃げるが、そうでない奴がいたって、何ら不思議じゃない。奴らは生きてる。んで、最近の噂ってのが…その集団がついに誘拐までやってるって話だ」


 「なんだって…!?」



 だけど、誘拐されたんなら、ログアウトすればセーブポイントに…いや、待て。感覚が変だ。戦艦みたいにどこでもログアウト出来る訳じゃない。セーブポイントから離れれば、なおさらだ。システムから強制終了をかけることが出来れば、デスペナルティは受けるがその場を切り抜けられる…



 「システムからなんとか出来ないのか?」

 「その、システムを操作出来ない状態にさせられたら、後はどうする?」



 …本当に拘束してるって訳か。なんてひどい話だ…!!

それでは現実世界のPCやその人自身が危うくなるまで、強制終了出来ないじゃないか!



 「ゲームさえ閉じることが出来ず、全く知らない他人の中に放り込まれる。こんなの、ゲームとは言えんだろ。だから、ヴァーチャルゲームは問題視されるんだ」


 「…しかも、プレイヤーが誘拐されれば、ログアウトが出来ない…外の人がサイコグラフィックスモニターの配線を抜けば何とかなるかもしれないが…」


 「ゲームを楽しんでいる我が子の邪魔をしたらどうなるか、んまぁ親次第だが出来ないって場合もあるだろう。それに、一人暮らしの人の場合は、異常が発生しない限り、誰にも止められないからな。これは非常に重大な問題だと思わんか?」




 …そうまでして、一体何をしたいって言うんだ…これは既に犯罪の域に達してる。俺たちの体はリアルでないヴァーチャルだけのものだったとしても、このゲームをすることでリアルの人間を害すことが出来る…ただのPKなら別に大した問題はない。恨みはあっても、相手の住所とか、そういうのは基本分からない。大事の喧嘩にさえならなければ…だが、この場合は、ヴァーチャルというもう一つの体を使って、リアルでは一切手を使わずに、相手を拘束することが出来る…。



 …そんなこと、絶対にあってはならん。まさかそこまで事態が進んでいたとは…しかも、俺がいないたった数日で、なのか…?



 「もしかして、チェーンもそれに巻き込まれ…あ」


 「そう、お前さんの思ってる通り、チェーンという女性はNPCだ。そいつが巻き込まれたかどうかは別として、その噂じゃあ、Lost表示は普段から表示されるもんじゃない。リアルで言うところの、電波の届かないところがこのゲーム内にあるか、あるいはシステムの電源が切られているか、だ。だけどまあ、NPCはリポップするだろうしな。情は絡むが、リアルほど大きな問題には発展しないだろう。そういうことだ」


 「なるほど…ところでこの噂、テツはどっから仕入れた?」

 「物好きな商会メンバーがいるもんでよ。俺あただダチってだけだが、自由商人はすごいもんだぜ」



 自由商人か。俺がゼウ商会以外で稼いでた人たちも、恐らくその部類に入るだろうな。自由組織って名前で売り出してたはずだが…なるほど。軍にいるとそういう、ゲームの日常は入って来ない。別に軍に隔離されてる訳じゃないが、ゲームの住民としては遠い位置にいることは確かだ。地球だけなのか…?そんなことが起きてるのは。確かに最も初回ログインが多い、プレイヤーが最多とはいっても…。

 Lost表示になったプレイヤー、NPC関わらずその人とは、通話もチャットもすることが出来ない。確認する手段といえば、本人を直接訪ねることくらいしかないだろう。



 「テツ、この話、どこまで知れ渡ってる?」

 「あんまりプレイヤーは信じてないみたいだぜ?確かに知ってる人はいるけどよ、『たかがゲームで』とかそんなのばっかりだ」


 「…分かった。これからテツはどうするつもりだ」

 「え、ああまぁ、そうだな…もう少し情報探ってみようとは思う」




 …十分に、気を付けてくれ。




 「…零治…、おう。分かったぜ」





 Space Fantasy Game

 ―仮想の、脅威―




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