第28話
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スコラクス氷山…ね。これか。どこ見ても雪景色って感じだな。
自動操縦で動かしてくれるタクシーをシステムで手配した彼は、十数分ほど雪景色の中を移動され、そしてあっという間に山の麓まで辿り着いた。先程の店の人が言うように、スコラクス氷山は切り立った崖のような景色の続く、標高の高い山で綺麗な光景の見える山である。もしこの状態で晴れていれば、思わず現実の彼はカメラを取り出して撮影していただろう。このゲーム内ではシステムを通じて、スクリーンショットを撮影することが可能だ。時に有効な手段として使うことが出来る。
彼はタクシーから降り、麓の小屋へ入った。このような山でも登山する人はいるらしく、そのためにある程度の道も確保されているらしい。彼は登山しようなどと考えてはいなかったが、周辺を散歩するような感じで、のんびりと過ごそうと思っていたのである。
「兄さん、これから山登り?」
「いえ、ただ散歩に来ただけです。綺麗ですね、この景色」
「そうだねー、もうちょっと晴れていれば、山頂付近も見えたんだろうけどね。ちなみに夜中雲の上に出れば、良い天体観測のスポットになるんだ」
そういや、これくらいの山だったら、俺が乗ってたオートバイでだって、飛行機でも来れる気がするな。まぁ着陸するスペースが無いから皆乗って来ないんだろうけど…。
ちなみにこの人の話では、夜中天気が良い時の頂上では、この星を囲む環が見れるらしい。あれか、土星の周りにあるやつみたいなもんか。星の外からは見えたが、中から見るっていうのも中々面白いもんだな。あと、時期によっては地球も見えるかもしれないって。
「寒いけど、いい気分転換になる」
そう、寒いの一言ばかりだが、でもたまにはいいんじゃないかな。たまにはね。こんな寒さ毎日味わうのはちょっとごめんだ。北国の人たちは大変だよな…でもまあ、向こうには向こうなりに適用した生き方ってものがあるだろうから、大して関係ないか。
…ん?
「なんだ…!」
一瞬、強い頭痛のような衝撃を体の中で感じ取った。アレンはその瞬間に後ろを振り返り、山とは反対側の、開けた空を見上げた。ざらついた感覚の向こう、突然流れ星のようなものが、ゆっくりと見えた。光を放ち、落下していくように見えるそれは、何か不自然さを醸し出すものであった。雪原の空、雪降り続く中に落ちた光は、その後時間差を生じて爆発音に似た音を辺りに響かせる。
「…流れ星なんかじゃない!!」
あるいは、それが隕石であったとしたら、こんなに彼が驚くことも無かったかもしれない。それはゲームという世界観を忘れてはいなかったからだ。しかし、この時彼の耳に届いた異様な大きさの爆発音と、何か張り裂けるような強い危機感を募らせた思いは、それが流れ星でないことを自分で決定づける一つの要素となった。
次の瞬間。再び大きな爆発音が響き渡り、更に次の瞬間には小刻みに大地が揺れるのをその身で感じ取っていた。
「ん、システムか!」
アレンはシステムのコールに応答する。相手は同じ空戦部隊所属で上司にあたるマルクスだった。電話に出た瞬間には、マルクスが何を言い出すのかは大体見当がついていた。
「敵襲だ!すぐに戻って来い!」
「了解です!!」
信じたくないがやはりそうなのか…っ!
まさかな。昨日の今日だというのに奴ら…いったいどれほどの戦力を持ってるっていうんだ!?
俺はすぐにタクシーを呼び出して、基地まで戻る。まだ俺たちの基地が攻撃された訳ではないが、他の基地は既に被害に遭ってるって話だ。俺たちが被弾しちまえば、軍としては地球から再出撃しなくてはならなくなる。しかも、戦艦を失えば新しいのを作ってくる必要があるはずだ。
そうなってはいけない!ここで少しでも…!!
「アレン、聞いたか!敵の艦隊が軌道上に展開してるらしいぞ!!」
「上空にか…!?」
俺はすぐ戦艦ドッグの方に向かったが、その途中で同じく走ってるフューリーに出会った。フューリーはどうやら地下都市で時間を潰そうとしてたらしいな。しかし…もしかしてこのタイミング、狙ってたのか?って疑いたくなるくらいだ。もう時間的には0時を過ぎている。リアルでは皆ログアウトしようというところだろう。
プレイヤーが少ない時間帯に攻撃をする、それが当たり前のようになったら…。
「とにかく出撃命令が出ている。補給は終わってるだろうから、すぐコックピットに行こう!」
チタニア共和国軍基地 作戦司令本部
「基地司令官、敵艦隊が惑星外面で展開しております。このままですと、広範囲に攻撃が…」
「…バカめ、なぜ補足できなかったのだ!各砲台対空防御用意!対空ミサイル発射用意も急がせろ!」
「はっ!」
本来であれば、各基地の機能に、レーダーがあって当然である。しかし、今回の帝国軍の展開はあまりに早く、レーダーで艦隊を捉えた時には、既に惑星外面、至近に差し掛かろうというところであったのだ。基地司令官はどのような状況で艦隊に取りつかれたのか、そこまで考え付かず、すぐに対空防衛をするように司令を出した。このままでは、チタニア基地も他の基地同様に爆撃のようなものを受ける。それだけは避けたいし、出来れば死にたくない。基地司令とて、その思い、一般兵士が持つような不安は持っていた。
「司令官。政治首脳部の方々から連絡が届いていますが…」
「今はそれどころではない!どうせ政治家はあてにならん。構うな!!」
一方。ユラ准将は既に旗艦に搭乗し、発進準備を指示していた。敵は自分たちの都合には合わせてこない。冷静に物事を対処する彼でさえ、今回の攻勢は「奇襲」と思いたいくらい、予想外のものであったのだ。
「ケーンバーク中尉、各艦に通達。直ちにこの惑星を離脱する」
「で、ですがそれでは地下都市でログアウトしたプレイヤーが…」
「仕方ない。待っていればこちらが手遅れになる。軍直属の情報網ですべての滞在兵士に、システムから軍としての身分を隠すように伝達してくれ」
彼としては、当然すべての兵士に搭乗してもらってから、出撃をしたいところだった。しかしそれを待っていれば、朝には占領されているだろう。ユラは、この天王星の兵力を持ってしても敵軍には勝てないだろう、その予測がついていたのだ。惑星の外面で待機を命じ、出てきたところを叩く。そのような効果的な方法をすぐに思いつくプレイヤーが他に何人もいたら、帝国との差はそこだけ見てもハッキリとする。多くのプレイヤーは、上空に飛来して占領しに地上戦に持ち込むだろう。
第七艦隊は補給を受けても万全の状態で出撃、という訳にはいかなかった。特に傷ついた巡洋戦艦の修理は間に合わないという状況であった。
「敵艦接近!有効射程圏内…あと52秒!」
「主砲副砲エネルギー充填。機銃は対空警戒を。射程圏内で斉射1分の後、戦闘艇部隊を出撃させる」
「閣下。まさかこの数の差で戦うつもりですか…!?」
「無理に決まってる。当然逃げるさ。だけど、何もせずに逃げられる訳がない。幸い、敵はこの広すぎる天王星を全包囲するつもりで、艦隊を展開している。だが、当然すべてに対応するなら防御陣は薄くなる。数がそれに見合ってないからね。そこに、我々の活路がある」
しかし、もし意地の悪い、あるいは面倒なプレイヤーがいたとすれば、このユラの行動を敵前逃亡だと訴えるだろう。ユラ自身その考えはない訳ではなかった。しかし、彼の考えには貴重な戦力を失う訳にはいかないということ、状況をいち早く別の基地に報告する必要があるということ、プレイヤーにデスペナルティを与えないようにするということ、幾つもの理由があって、この行動に至っている。
「なるほど…!」
「斉射開始」
ユラは、この時点で既に今回の戦いにおける敵軍の弱点を知り得ていた。大軍である脅威とは別に、すべての陣形において同等の防御力は存在しえない。まして、この星を包囲しつつ攻撃を加えるものであれば、一度に多数の基地を攻撃、地上攻撃に布陣するメリットはあったとしても、防御面に関しては数の差を曝け出すことになる。
第四艦隊は接近してくる帝国軍艦隊3隻に向かって、総攻撃を開始した。わずか1分のブラスター砲撃。エネルギー流が束となって一つの潮流を作り出し、高速を維持しながら敵艦隊を光と共に射抜く。1分の攻撃だったが、敵艦1隻が撃沈。2隻がほぼ大破という、驚異的な短時間戦闘による戦果を挙げた。さらにユラは、ここに戦闘艇を出撃させて、一気に轟沈させようとした。
「おー?本部はもう、天王星維持する気はないのか?」
「最善は尽くすだろう。だが、基地攻撃されてこうも囲まれては、敵の方が有利だと言わざるを得んだろう」
「けっ。また星を移動すんのかよ。冥王星から流れてばっかりだな」
「言うな言うな。帝国に捕まって、大金払って共和国領に戻るよりはマシだろう。もっとも、そんなことしなくても逃げ出す奴はいるんだろうけど」
ほー…そうなのか。もう何回も戦ってる人も合流してるんだな。たぶん、この星の基地所属の人だろう。ご苦労なことだな…何回も戦い、何回も撤退を繰り返して今また、か。
この先撤退を繰り返すようなことが無ければいいが、どうなるかは俺にも分からない。今は目の前の敵を倒すだけだが―
「第三カタパルト装着完了。いいかー出すぞー!!」
後々、そういうことも気にするんだろうな。上の人たちは、この状況どうするつもりなんだろうか。流石に負け続きだと対策するだろう。プレイヤーが主導するとしても、いつまでも撤退続きだったら、気持ち的にも晴れないだろうしな。この辺りで一戦勝っておくべきだ。
この間の俺たちの戦いは、勝ったとは言えない。確かに現場で戦闘は起こった。だが、結局海王星の状況を調べる前に、敵が攻めてきた。となれば、間違いなく海王星も同じ状況にあるとみて良いだろう。帝国はいったい、どんなプレイヤーが集まってるんだ?戦力差をここまでつけるぐらいなら…
「聞こえたか!?アレン出すぞ!!」
「…、了解です。どうぞ!」
…あれが、役立つ時は来ないのだろうか。
帝国軍第1202分艦隊 巡洋戦艦シュトゥーテット
「敵機急速接近!」
「味方との連絡は取れないのか!?」
この分艦隊は、現在ユラやアレンが所属する第七艦隊と交戦を開始したばかりである。が、たった1分で全滅の危機に瀕している。まだ呼吸を続ける生き物であったとしても、もはやそれは辛うじて水面から頭を出す、足元の不安定な生き物である。
「…ったく。作戦そのものには成功しそうだが、俺たちはデスペナルティ行きだな」
「まーいいじゃないか。結局失った分は政府のお力で返って来るんだからよ。やるだけのことはやろう」
「いーまに見てろ。すぐ撃沈されるぞ。まったく、俺たちのことは何も考えずに出撃させやがって」
「まあ、『大を活かすために小を犠牲にする』ってところだな」
その後、殆ど組織的な抵抗が出来ず、彼らは爆発四散した。この時シュトゥーテットの艦橋音声はすべて切断されていたため、この会話を帝国軍が知ることも、当然共和国軍が知ることも無かった。
第七艦隊、および第四艦隊旗艦は、無事ワープへ突入し、現宙域を離脱することに成功した。
Space Fantasy Game
―敗れ、流れる者―




