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Space Fantasy Game  作者: うぃざーど。
第二章 本質の渦中へ
24/150

第24話




 「早く離脱しろ!」


 「無茶いうな!推力が低下してんだ!!」


 「各艦ともに通信できません!」


 「敵がすぐ後ろまで来てるぞ!修理急げ!!」



 恐らく、その艦内は地獄さながらの光景であっただろう。地球から各宙域までの通信が途絶えたとしても、音声記録によって状況を把握することが出来る。通信とは違い、時間が結構かかってしまうのが難点だが、それでもどのような事態が発生したのかを特定するには、十分だった。



 「恐らく、冥王星は落ちたでしょうな」

 「んー…」



 共和国軍第七艦隊基地内部 情報室

サイクスとケーンバーク、またそれ以外の十数名が音声記録を聞いていた。ある一人の男がそう言葉を発した時、全員が少量の声をもらした。本当ならそんなことあってほしくはない。この場にいる誰もがそう思うが、考えられる事態としてはそれ以外にはない。


 「海王星、天王星宙域との連絡も途絶えがちになっています。閣下、いかがなさいますか」


 「…ユラ准将?」


 「そうだな…やむを得ないか。他の艦隊とも協力して、戦力の一部を早急に海王星宙域へ振り向ける。ただちに、出撃の準備を」



 共和国軍第七艦隊は、基本的に地球周辺を防衛する大規模な艦隊である。行動範囲こそ狭いが、各艦の航続距離は相当に長い。この広い宇宙を移動する手段は、このゲームでは「ワープ」という鉄則がある。地道に移動していったのでは、ゲームとはいっても相当な時間が掛かる。漂流するとほぼ死亡判定と見られる。たまにプレイヤーの民間船が漂流したまま帰らないことがある。しかし、このゲームは漂流して帰還困難に陥った場合、デスペナルティを受けて最後のセーブポイントに戻ることが出来る。

 ワープ航法があれば基本あらゆる宙域へ飛ぶことが出来るのだが、もちろん制限があり、一度にワープする距離が船によって限られている。それも技術力やゲーム権利による高値の船であれば上下するのだが、中には地球から月程度の距離しか飛べなかったり、木星あたりまで平気で飛ぶ船もある。第七艦隊の保有する戦艦もその一種である。


 「准将。出撃が決まったなら、皆に伝達しませんと」

 「私が?いやそこは参謀長でもなんでも、やってくれるさ」

 「兵士の士気にかかわります!」

 「やれやれ…」



 第七艦隊は、まだ実戦配備の回数が極端に少ない。本来それが普通である。何故なら、彼らの防衛範囲は地球周辺であり、冥王星という遠く離れた星ではないからだ。第七艦隊の指揮官を務めるユラ准将は、温和な性格だがそれゆえに指揮能力を兵士たちから疑われている。そんな状態での出撃となるが、兵士たちの不安が募ることは避けられなかった。


 「すぐに、第四艦隊司令と、月面基地司令に連絡を」



 ということで、俺たちの出兵が予定よりも早く決まったって訳だ。嫌って訳じゃないが、これから戦いに行ってどうなることやら…まぁ、ゲームだからその辺も少し楽しめる要素があるだろう。とはいっても、上の人たちは必死だろうな。俺たち下っ端ならなんてことはないんだろうけど。

 サイクスさんは、俺にも今回の出兵に同行するよう言われた。俺が戦力として扱われるのかどうかは疑問でしかないけど、サイクスさんの言うとおり、数が物を言うんだったら、捨て駒にされてもその数として居続けないとね。…なんて考えるあたり、まだまだ気が楽ってもんか。



 ついこの間までは、ゼウ商会で稼ぎを得て、制裁者としての稼ぎを得るって感じの生活だった。けど、今は一様軍人として色々しなきゃいかん。それでも、楽しみなものはあるけどね。



 「サイクス。例のあの人は、同行させるのか?」

 「はい、閣下。巡洋戦艦パストーレで、戦闘艇パイロットとして、です」

 「分かった。戦闘デッキの主要メンバーが全員ログインし終えたら、すぐに指示を出してくれ。彼を含めてね」


 現実の体とゲームの体とでは、当然区別される。今日が平日である以上、主要メンバーの中には乗艦出来ない人も大勢いる。そのために、戦力の形成としてNPCが多数存在しているのだ。ゲームの運営が進んでいくと、意思を持ったNPCは軍に志願したりする。戦力が常に一定に保たれることは一切ないが、そういった「人間としての動き」は、彼らも同様なのだ。

 基地内部に出撃準備を知らせる放送が入り、全員が艦艇デッキへと向かう。第七艦隊から出撃する艦艇は、戦艦ダビーレ、巡洋戦艦パストーレ、カヴール、モンテカルロの4隻である。

 アレンは、パストーレのパイロットたちのもとへ合流して、一緒に戦闘艇を巡洋戦艦に搬入する作業をする。ほぼすべてが機械での運搬だが、それを操作するのはNPCやプレイヤーであった。ゲームだから、という理由かどうか彼には分からなかったが、当然簡略化されている。時間もそんなにかからない。しかし、やってることはまるで現実のものと同じように、感じられた。



 「ジュイル総参謀長」

 「はっ。全艦出撃準備整いました」

 「よし。全艦発進。出力50%、大気圏離脱後、ただちにワープ航法に入る」


 「発進するぞー!何か物に掴まれー!!」



 いよいよ、か。俺は戦闘デッキのキャットウォークにいて、その場の手すりに掴まった。数十秒経った頃だと思うが、いきなり後ろから押し出されるような強い刺激を受けた。痛くはないんだけど。


 「飛ぶ、のか…このでかいのが…」



 どうも俺には信じがたい、けど飛んでくれないと困るからな。巡洋艦たって、大きさはすごいもんだ。俺がこの間オートバイで見たあれくらいに、大きい。そんな黒いデカブツの中に、人がこんなに沢山いたとはね。さ…動いたぞ…って、物凄い上昇してないか!?


 「よお新入り。どうだ乗り心地は!」

 「まだ動いてから1分しか経ってません」

 「へっ、中々言うなーお前さん!このパストーレは結構揺れるらしいからな、船酔いには気を付けろよー?」



 そもそも、この空を飛ぶものが船だ、という認識がしづらい。空を飛ぶなら飛行機で良いものを…でもなんか、昔のアニメかなにかにも確かあったよな。宇宙を海に例えるやつ。たぶん、そういったいろんな作品のものを参考にしてるんだろう。前々から思ってたけど…どうしても、先に一つの作品が出来ていれば、他の制作者もその世界観に引き込まれていくんだよな。

 プレイヤーと同じように。毎晩10万人以上のアクティブログインがあるんだから、人気ゲームといって間違いないだろう。



 今回の出兵の指揮を執る戦艦ダビーレの後に、巡洋戦艦パストーレが続く。全艦基地を離陸し、急上昇を始める。巨体を支える大きな推進装置から遠くまで響く音が鳴る。轟音にも似たその音が、恐らくコロッセオの方まで行き届いているだろう。パストーレは、これから地球の大気圏を離脱していくため、艦部両舷からデルタ翼と呼ばれるものを展開させ、艦を安定させる。ゆっくり進んでいるように見えて、かなりの速度が出ている。

 アレンは、大気圏を間もなく離脱するという艦内放送を聞き、すぐに近くにあった強化ガラス製の窓に行った。



 「…あの時と同じだ」



 球体を覆う蒼い膜の向こう、白い雲や青い海、そして染め上げられた大地の色が彼の視界に入ってくる。自分たちがさっきまでいたコロッセオの場所がもうどこにあるか分からないくらいに、遠く離れた位置にいる。見る者を魅了する美しい光景。まるで台風のような大きな渦を巻いた雲もある。ただ広く、ただ綺麗な海もある。少し白く映る大地は、雪でもあるのだろうか。ゲームでの再現で、これほど綺麗な光景を、彼は今まで見てこなかった。それは、まるで自分が今宇宙遊泳をしているかのような気分になったのだ。現実で見ているものと一緒に捉えられるこの光景を、彼は覚えていた。そう、初めてログインをした時、彼が乗っていた旅客船は、ちょうどここから地球へ降りるところだったのだから。



 「重力加速制限宙域、離脱。これよりワープ航法に入る。総員シートに座り、ベルト固定をするように」



 …すごいな、ホントに綺麗だ。地球もそうだし、こっから見える月も…更に奥には星も見える。宇宙に来ても、星はまだ遠いな。どれくらいの距離があるんだろう?



 「おーい新入り!こっちだー!」

 「あ、はい!」



 彼は、ただ飽くことのない景色を眺め、それを綺麗に思いながら、そしてもう一つ、身に覚えのあるあの感覚、あの光を見つけた時の気持ちを思い出しながら、内部の座席へと向かって行く。

 今回出征が決定したのは、第四艦隊の3隻と、月面艦隊の2隻、そして第七艦隊の4隻だった。果たしてこの数でどれほどの敵と対するのか。音声の記録から判断された数だが、想定外の事態が発生すれば、共和国軍は撤退しなくてはならない。それを頭の中に入れて、今回はユラ准将が全体指揮を執ることになっていた。


 「もう少しで、ワープするからな。そういや、俺の名前言ったか?」

 「いえ、聞いてません」

 「あーすまんかったな!俺はマルクスだ。NPCだが、お前さんと同じ、パイロットだよ」



 なるほど。でも一つ言わせていただくと、俺はパイロット志望ではなかった。けどまぁ、こんな世界観ならこの道は絶対潜らないと駄目だろうな。だったら、その分も楽しむしかないね。

 自分からNPCだ、と名乗るNPCも数少ないだろう…。



 「ワープ開始まで残り10秒」


 「まぁ、基本ワープは失敗しないから、安心してくれ。1分ほど、何も見えなくなるだろうけどな?」


 「は、はい…」








 …本当に、何も見えなくなる?



 確かに目の前は真っ暗になった。今恐らくワープが行われてる頃だろう。だけど…いや、俺には何かが…星?天体?なんだろう、これは。



 …海?波?どうして宇宙に水の波があるんだ。



 どっかで見たことあるような場所だ。俺が知ってる、どこかの。



 長い。もう1分経ってるはずなのに、長い。真っ暗と言われたはずの視界に、何かが写り込んでる。



 でも何かこう、懐かしい感じもする。



 もしかして、この光景…この演出はあの“光”が…。








 『箱が開かれれば、幾つもの道が切り拓かれる。しかしそれは同時に、作り出された道を埋めるための、箱でもあるのだ。プレイヤーは、自分の選択肢から自分の道を拡げていける。それが、このゲームの特徴でもある』



 「では、どうして戦争という世界観を…」



 『…君にも、じきに分かる。現実の中での仮想世界は、本来区別され続けてきた。それが、何を意味するのかを…』









 Space Fantasy Game

 ―開かれた、星々(うみ)の世界―




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