第22話
「…軍、に…?」
共和国軍第七艦隊に所属する、サイクスという男と、ケーンバークという男に俺は会った。…というよりは、連れてこられた。表向きには今回発生した事件の全貌を話すこと、だが裏では俺を軍に引き入れたい、というのが本心であり狙いだった。さすがに、びっくりしたもんだ。だが、俺が軍に入ったところで何のメリットが?
…いや、ここはそういう風に考える場ではないだろうな。向こうが求めてる人材に俺が合致してるっていうならまた別だが…自信なんて、あるわけがない。
「アレン君は、確かにこれからも制裁者として生きるかどうかを、選ぶことは出来ます。ですが、同時に憎しみや恨みを持った勢力から、追われることにもなります。ソロプレイヤーでは、ある時突然起こった出来事に対処できない場合がある…それがたとえ、貴方がどれだけ強かったとしても、です」
「そうだ。なおさら、君は放っておけないと俺は思ってる。別にアレン君を特別視したい訳じゃないが、デスペナルティが続くと当然ゲームプレイに支障が出るからな。もちろん、今すぐに決めて欲しい訳ではない。考える時間は欲しいだろうからな」
その優しさに甘えれば、俺はどんどんこのゲームの人生を変えられていくような気がする。いやそもそもそんなに深く考える必要なんてないのかもしれない。だけど、チェーンが言ってた言葉も…捨て置くわけにはいかんだろう、からな。
とりあえず、サイクスさんやケーンバークさんの言う通り、時間をもらうことにした。軍事施設の宿泊棟の一室を借りて、一晩考えてみることにした。一晩…で、結論が出せれば、ということにはなるが。そして一室とは言うが、それはただのセーブポイントであって、俺が実際に寝泊まりするといっても、中身の無いキャラクターがそこにいるだけになる。
「…ゼウ商会は、恐らく再起出来ない」
あんなことがあった後だ。俺自身…いや、それよりもゼウの意識が戻らなければ、統率することも何も…となれば、恐らくエナやエコーズも今後を考えてるだろう。それをどうするか。あの二人にも聞く必要があるだろうけど…。
彼は、その一室でセーブし、ログアウトを実行した。その後で分かったことだが、実は第七艦隊の駐留する軍施設は全体がセーブポイント化していることが判明した。どんなポイントボーナスがあったのか、彼は後々で考えることになった。
リアルでの、自室のベッドで目を覚ます。既に夜中。相当長い時間ゲームに居続けたことで、かなり疲労感を感じていた。体が、とにかく重い。そしてゲームで発生した有様が現実の頭の中で再生され、彼は頭を痛くする。
…全く興味が無かった、と言えば、恐らくそれは嘘になる。このゲームの本質を知りたい。誰もが思うことだ。そう信じたい。少なくとも、俺はあの時…ゲームに初めてログインした時、初めて外から地球を自分の目で見た、少なくとも、そんな気分にさせてくれた。あれは忘れられない。宇宙旅行をすれば、それもすぐに叶うんだろうが、そんなことをしていたら一体どれだけの時間がかかるか分かったもんじゃない。そういう楽しみ方もあるんだろうが…。
これはある意味で、転機といえる。無論ゼウ商会を捨てたいなんて、思ったことは一度も無い。だが、チェーンも言っていたように…試してみるか。もしやって続かない、ということがあれば、道をまた変えられると信じて、踏み込んでみるか…思い切った行動も必要だが、今回みたいにいきなり襲われると、それはそれで厄介だ。しかし、軍に所属していれば、味方は大量にいる。
《十万人からのプレイヤーがいるのなら、十万通りのゲームの仕方があって当然なものだ。しかし、このゲームの趣旨を忘れてはいけない》
彼が苦悩の末に出した決断は、共和国軍へ加担することであった。現実とゲームとの違いを理解したうえで、それを共有すべきもの、区別すべきものの大切さを、彼は更に理解しようとしていた。既にチェーンからはある程度の区別と共有が出来ていることを、評価されている。だが、本当の本質を知るためには、この状況はむしろ利用されるべきであった。宇宙へ行く。宇宙を回る。その目的、その目標が、軍という組織の中で成立する。だったら、その世界に足を踏み入れ、様子を見てみるのも悪くはない。彼は自分がどのような立場にこれからなるのかを不安に思いながら、今ある状況を新しい方面に取り入れてみよう、そう決断したのだ。
「よし、決まりだな。アレン君、正式に第七艦隊の兵士に採用する」
軍施設内の応接室。十数時間経って、俺はサイクス中佐、に決断を伝えた。サイクスさんもケーンバークさんも、少し嬉しそうな感じだな。実際、軍内部はどうなってるんだろうか。帝国軍が冥王星を攻めてるって話…それに、太陽系内にいるって事実があるんだったら、あまりいい気はしないだろうな。
「配属先はこちらで決めさせてもらうよ。ただ、そこではある程度の制約と自由は保障されるものだと、思っててくれ」
「は、はい」
「それと、君の友人は、軍には入らないのか?」
テツのことか。テツは恐らく俺が誘ったとしても、入らないだろうな。あいつはこっちに来てからもどこの商会に入る訳でもなく、淡々と稼ぎ続けてる。そう考えると、ソロプレイヤーとしての気質が強そうだから、恐らく集団生活には向かないだろう。
そのことを伝えると、少しがっかりした感じの表情だったが、まぁ納得した。テツも、結構強いやつだと思うんだ。この間一緒に制裁した時は、堂々と相手プレイヤーを倒してた。
「じゃぁ、決まりだな」
「よろしく、お願いします」
…こうして、俺は共和国軍の兵士になることになった。このゲームが始まって、一ヶ月。VRMMOという画期的な発明のもとに誕生した新たな要素の中で、まるで第二の人生を送るように、俺はゲームをやりこんだ。いやそこまで深いものかどうかは判断に任せるが、実際こんなゲームがあったら誰もが飛びつくだろう、という感じだ。そう表現したって、不思議なことはない、と思う。
共和国軍第七艦隊。
そこだけでなく、各艦隊や他の部隊も、今は帝国との戦いに必死になっている。その中に今、新たに一人のプレイヤーが加わった。プレイヤーが加わるのは日常茶飯事だ。彼らにとって不思議なことは何一つない。しかし、これまでと違うことは、彼が「特務軍人」という名目を受けて共和国軍に加入することになった、というところにあった。
これが、今後どのような道をもたらすのか。あの男が言ったように、ある力の光によって道が照らされる程度の可能性はあるのか。それさえ、誰も知るところではなかった。
Space Fantasy Game
第一章 ―キッカケが整うまで―




