第21話
正直な話、自分でもあの時何が起こっていたのか、よくわからなかった。瓦礫に燃え盛る炎の中、目の前にいた集団全員に斬りかかっていったことは、覚えてる。だが、その行動の意図は、よく分からない。
それでも、俺はあのセーバーを出してしまった。あれで多くの人を殺した。もちろん、俺は逆襲者としての殺人扱いとなった。だが、それはいい。そんなことより…。
「…すまなかった。痛かっただろう?」
「ううん、大丈夫。むしろ…助けてくれてありがとう」
その日の夜中。瀕死の重傷を負ったゼウ、フェデル、チェーンの三人は、あの集団を撃退した後で、すぐに病院に搬送された。俺もそのとき、救急車両で一緒に病院に来たんだが…特にゼウの傷が重く、回復までに相当な時間がかかるだろう、と医者には言われた。幸いにしてフェデルとチェーンは大事には至らないが、それでもフェデルは意識を取り戻さない。今、俺はチェーンの目の前にいるんだ。
「よく、アレンも無事で、いれたね…」
「…ああ、なんとか、な」
「すごいね、アレンは…」
…チェーン、ごめん。俺は決して自分が強くないと思ってる。だけど俺は、ゼウ商会に隠れて、強くもないのに、PK集団を制裁するという、保安組織の任務を得て稼いでたんだ。ある程度相手を選べば、誰にでもできる仕事ではある。だが、ほかの仕事より報酬の桁が違う。だがそんなことは、どうでもいい。俺が許せないのは、戦争でもないこの下町で、弱者がいじめられ殺されていく、という状況があることだったんだ。だから、俺は制裁者としての道を歩き続けていた。
集団の心理を考えれば、殺られれば当然反感、恨みは発生する。それを俺自身分かっていたはずなのに…いつの間にか、俺はそんなことも考えられないような状態になっていた。一度も死んだことがない。一度も失敗したことがない。俺はできるやつなんだ、と自惚れて…その結果がこれだ。俺は、仲間を巻き込んでしまった。全く関係ないはずの、仲間を…。
「…いいのよ、アレン。あなたはプレイヤーなんだから」
「…え…?」
「私は、このゲームに生まれた機械。あなたと違って、あなたの世界で生きることはできない。でもアレン、あなたは二つの世界で生きることができる。現実と仮想と区別されても、そこで共有されるべきものを、アレンは知っている。だから、この世界で命を懸けて、私たちを守ってくれた。それだけで、十分なんだから…私は、絶対に死にたくない、と思ってた。だけど、今回はもう駄目だろうって、そんな気持ちにもなってた。でも昔、諦めたらそこで何もかも終わりだって、教えてくれた人がいる…どうして、だろうね?」
私は、ただの機械人形なのに。どうして私には、過去があるんだろうね…?
「アレンが助けてくれて、本当によかった。私だってPKは許せない…できるならこの手で排除したいって思うくらい…でも、それは今の私にはできない…」
「そんなこと、しなくていい。俺みたいに汚れる役を選ぶ必要などない」
「でも、アレン。それはあなたが選んだ道…だとすれば、あなた自身はせめてそれが正しかったといえるように、頑張らないと駄目よ。あなたが頑張る一方で、あなたのせいで傷つく人がいる。このゲームは、それが当たり前なんだから。この世界の戦争だって、同じよ」
「…」
唯一意識のある商会のチェーンは言った。ゼウの意識が回復してもしなくても、しばらくゼウ商会は活動ができない、と。このような事件があった後では、すぐに再起することもできないだろう、と俺に話してくれた。企業側も、俺たちを考慮してほかの企業、商会と手を結ぶはず。その期間をチャンスだと思って、大事に使う必要があるだろう。
だけどチェーンは、こうも言った。
「アレンの、好きなように動いてみなよ」
…なんだろうな、昨日今日と、こんなことばっかりで疲れた。でもどうしてか、ログアウトしようって気に、なれないんだよな。まだ、この空間にい続けたい。執着とかそういうのじゃなく…なんだろうな、本当に。
ケスラーさんは、どう思うだろうな。
「ちょっとお前!」
…誰だいきなり。でも、別に怒られたって感じではなかったな。地上車両で俺の目の前に止まり、窓から声をかけてきた。あれ、この人見たことあるな…。
「君は確か、ゼウ商会の一人だったな?」
「どこで、それを?」
…あ!
思い出した。この人あれだ、俺とテツがブラスターの練習してる時の…!
「実は、俺はこういう者だ。口には出さないで欲しい」
窓から顔を出して話すその男、サイクスは、実は前にアレンとテツにブラスターの使い方を教えた人であった。彼らとしては、親切丁寧に教えてくれたあの男がいったい何者なのか、知りたいとは思っていても、あれから一度も会っていなかったために、いつの間にか頭の片隅にあの時の記憶が追いやられていたのだ。アレンがここで会ったことで、また前面に記憶が押し出されてきた。そして、その男はアレンに自分の身分を明かす。とてもしっかりとした身分証明書。それを見て、アレンは口に出さず驚愕すると同時に、あの時自分たちに銃を教えてくれたときに思った、どうしてこんなに詳しいのか、という疑問を一瞬で納得させるに至った。
「先ほどの事件、詳しい話が聞きたいんだ。ちょっとついてきて欲しい」
そういわれた俺は、とりあえずその人の車両に乗り、下町の郊外まで移動させられた。車内でも少し話したが、詳しい話はある場所で、ということで、俺とその人、それから運転手はそこで車を降りた。そしたらなんと驚き、目の前に結構大きな輸送機が現れるじゃないですか。だけど、俺はそのときはもう驚かなかった。その人の身分を見れば、大体検討がつく。
そう。俺がやってきた場所は、[共和国軍第七艦隊所属コロッセオ海軍基地]。いきなり話のスケールが大きくなって、すまないと思う。だけど事実なんだ。俺の目の前に現れたあの銃に詳しい男の人が、まさか共和国軍の兵士だとは、さすがに予想しなかっただろう。この話、テツも驚くだろうな。
「そういえば、この間の男の子は、今はいないのか?」
「はい。彼とは別行動中です」
「そうか。つまりゼウ商会の人でもないってことだな」
「ええ」
多くのプレイヤーが気になりつつも、あまり足を踏み入れられたことがない、この巨大な施設。コロッセオの郊外、街から約20キロほど離れた位置にある。コロッセオは中立都市だが、この海軍基地はそこに属さないため、帝国軍の攻撃目標として設定することができる。無論、地球上の中立都市でないところは、すべて標的にすることができるのだが。ここには、文字通り共和国軍の第七艦隊と呼ばれる潜函の集団が停泊しており、戦争の状態に合わせて戦線投入されている。先日、彼自身がオートバイで見たときの巨大な船も、この第七艦隊に所属する「戦艦」となる。
彼はその基地内部の応接室に案内され、そこで待っているように言われた。これから何を話さなければならないのか、と考えると気が重たくなる。さらに、彼はそれから20分ほど待たされた。彼にとっては、その時間こそが気の重たい内容であった。既に夜中。ログアウトするつもりが無かったにしても、余計に疲れが募るものであった。
「すまんな、待たせて。こちらが、第七艦隊所属の情報員、ケーンバーク中尉だ。あ、そうだ。ちなみに私はプレイヤーで、ケンもプレイヤーだからな」
あぁ、なるほど。ケーンバーク中尉だから、ケンか。分かりやすいな。
それにしても、この人たちはいったいどういう経緯があって、軍人になったんだ?まだサービス開始から一ヶ月しか経ってないのに。はじめから決めてたのかな?
「先ほどの事件は、聞きましたよ。よく無事で生き残れましたね」
「…、どうも」
それから、俺はゼウ商会のオフィスで起きた事件を一から話すように言われた。なんで軍人にそんなことを話す必要があるのか、と俺が言うと、この事件は軍の治安維持部隊が本格的に導入される可能性があるから、情報を得ておきたいということみたいだ。まだ事件が発生してから数時間しか経ってない。事実だとすれば、相当早い判断だ。
だけど、本当の狙いは別にあるって…いったいなんのことだ?
「治安部隊が本格的に調査に乗り出せば、当然PK集団の存在が判明してくる。そこで彼らは、根こそぎ捕まえて豚箱に放り込むつもりなんですよ。多大なペナルティつきでね」
「それだったら、別に自由組織の奴らでも…」
「軍の権力を波及させるには、もってこいの事件ですからね」
なんだか、これだと俺たちの事件が利用されたようで、あまりいい気はしないな。まぁ、俺に代わって軍が制裁者となるなら、一気に集団は減るんだろうけど。俺の仕事は無くなるから、どうしたものかな。
…でも、さっきからこの、えーっと…ケーンバーク少尉?の言うことには、なんか違うんだよな。なんかこう、同じ味方同士なのに、何か違う…もしかして?
「ですが、ケーンバーク少尉の言い分だと、何かこう…治安部隊をあまり良いように思っていなさそうですね」
「中尉、です。実はその通りなんです。我々海軍の兵士は、陸軍管轄である治安維持を担当できません。だから彼らはここを拠点にして、コロッセオ全体の治安維持を目指そうとしている。果たしてそこまで軍が介入すればどうなるか、いろいろ分かりますよね」
「…まぁ、確かに」
「アレン君、実は君を確保しようと思ったのは、治安部隊に君が確保される恐れがあったからだ」
…確保される恐れ?
確かに俺は十人も殺害したが…それが何か関係してるんだろうか。
「治安部隊が台頭すれば、君のように保安組織から依頼をもらって制裁を加えるような人はいなくなる。君の職務を奪うとか、そういう話ではないが…治安部隊に君は渡したくない、そう思ってすぐに駆けつけようと思ったんだ。幸いにして部隊はまだ腰を動かしてない。だから、ここへつれて我々が確保しようと思った、ということだ」
確かに、そうしてくれるのはありがたいけど、確保したって俺からは何も出ないぞ…?まぁ目的があってのことらしいが、どうやらこいつはあまり単純な話ではないらしい。軍の内部が奇妙に揺れ動いてるって、感じだろうな。んで、何をしようと思ったんだろうか、この人たちは。
サイクスがそのまま話を続ける。
「正直、今の現役プレイヤーで、10人を一度に倒してしまうような人は、そう多くは無いと思っている。それだけ、アレン君が強いということの証明にもなるが…君自身も、強い、が事実であることに抵抗は無いだろう?」
「…ま、まぁ確かにそうかもしれませんが…でも、この事件のせいで、俺は多くの仲間に迷惑をかけました。制裁も、ちょっとうんざりしてきたな、という感じです」
「だったら、その力を、我々共和国軍に貸して欲しい!」
Space Fantasy Game
―事実と、現状と―




