第17話
ルーナの力。
このゲームの世界に流れていると言われる、力の源。未知なるもので可視化することも普段は出来ない、レアなものだと言う。限られた者にしかその全容を把握することが出来ず、その力を操ることも出来ない。誰にでも扱えるという簡単なものではなく、その人の素質によって、力は左右されていく。鍛えればある程度は使えるようになるが、どこまで役に立つのか。このルーナの力を教えた当本人のエルンスト・フォン・ケスラーは、それ以降はその人のセンス次第だという。
ルーナセーバーも、その一種にあたる。
「弟子…!?」
「そうだ。ルーナの力は、すぐに扱えるものじゃない。最低でも一週間は必要だ」
突然すぎる話だった。確かにルーナの力には、興味がある。話によると、誰にでも扱えるようなものじゃなく、限られているらしい。だとすれば、これを利用しない手はない。しかし、俺にはゼウ商会がある。それを休んでまで、こちらを優先させるとなったら、他のメンバーが何て言うかな…許してもらえるだろうか。
「実戦で経験出来ない以上、シュミレーションで行うしかない。ならばなおのこと、時間は必要だ」
「即決は出来ません。どうしても、商会のことがありますので…」
「私も、すぐに決めろとは一言も言っていない。NPC用の連絡帳に、私を追加しておくがいい。答えが出たら、教えてほしい」
プレイヤーとの通信は、フレンド欄から一対一の通話やチャット形式で連絡を取ることが出来る。しかしこの世界、NPCだってプレイヤー同様だ。連絡を取りたい時が山ほどある。そこでシステムは、NPC用の連絡手段も構築していた。ありがたいものだね。
さてどうしたものか…とにかく、この人からルーナという力を教わるにはこの人のそばで修行することが条件のようだ。厄介なことになったな。まさかこんな力を手に入れたなんて、言える訳がない。何せ誰にでも扱えるものでもなく、ネット上で噂になってるって話だ。
ネットゲーマーは妬み深いと、よく聞く。鵜呑みにしている訳ではないが、やはり一部の人しか扱えない力があるのなら、それを手に入れたいと思う人は多いだろう。俺だって、扱えるもんならぜひ…
「今日は、ありがとうございました」
「いいや、気にすることはない。返事を期待しているよ」
偉そうに、いやホントそう見えてしまうが、何かこう威厳のある人に思えた。ただの老人って訳ではない。まさかあんな人が…。
意図的に落とした、と言ったな。あれは人を試していたのか。もし俺以外の人がたまたまそれを拾って、その人にルーナの力が無ければ、ただ受け取っただけかもしれない。あるいは、あの本に触った時ランダムに…
「…考えすぎか」
俺はもう一度、セーバーの持ち手部分に触れた。ただ、冷たいだけ。だが、ケスラーさんの言うように…何か不思議な、言葉で表せない何かがルーナの力だとすれば…セーバーはそれに反応してくれる。そして、俺はあの人の前で剣を出すことが出来た。
「ルーナセーバー…光る剣…」
…何が由来で、そんな変な名前になったんだろうな。
その後は…というと、朝から入ったもんで、まだ誰もログインしてなかった。ここまでの流れで2時間以上は使ってるが、それでも現実はまだ昼飯時だ。俺はオートバイで行く宛も無く、街に戻るのも何かつまらないからって、あえてコロッセオではない方へ向かった。逆って訳でもないが…北側の方だ。
別に何がある訳でもない。ただ、広大な土地は宇宙を舞台にしたこのゲームには、似合わない…という訳でもない。とにかく現実と同じ自然を見ているようで、綺麗に見える。たまに空に飛行機雲が浮かんでる。あれかな、テツがきゃんべるなんちゃらって街から来た時に使った飛行機が飛んでたりするのかな。
途中、何か建物を見つけたから、そこへ近づいてみれば、そこは郊外のレストランっぽいところだった。ちょうどいいとこにあった、という感じで、こっちの空腹を満たすことにした。
「珍しいね、こんなところに客なんて」
「え、えぇまぁ」
…テレビ、か。そういや、こっちではあまり見てなかったな。なんでかっていえば、テレビ見てる時間がもったいないっていう、単純そのものな理由だ。だがいつだかに言われた、テレビや新聞は見るべきだというアドバイス…。
『こちら冥王宙域からリアル映像を送っております。こちら冥王宙…』
「あれは…?」
「あんた、知らんのかい?プレイヤーだろう?」
「はい」
少し渋そうな顔をして、キセルを取り出したそのおじさんは、俺に中身を吸いながら説明し始めた。あのテレビに出ている冥王ってのは、現実の冥王星と同じ扱いだそうだ。SFGは、宇宙での戦争を舞台としている。まぁ当然のことだが…。
「確か太陽系は、共和国領では…」
…まさか…!!
「その通り。攻めてきているのは帝国軍だ。お隣のアルファ星系辺りはもう激戦宙域でな、帝国軍が今は一歩も二歩もリードしとるってことだ」
「既に太陽系内に、敵軍が来ている…」
「どうだ。こういう話を聞くと、少しこのゲームらしくなってきただろう。まだ運営開始から一ヶ月近くしか経ってないってのに、あれだ。プレイヤーが混ざれば、状況が変わってくる」
「そんなに、NPCとプレイヤーとの戦闘では、状況が変わってくるんですか?」
俺は、恐らくこの人もNPCだろうが、思い切って聞いてみた。この世界では、NPCもプレイヤーも殆ど似た者同士だ。プレイヤーと同じような生活を彼らはするし、プレイヤーに出来ないこともする。
そのおじさんは言った。戦争を主導するのはプレイヤーと決まっている、と。NPCの数に上限は無いが、プレイヤーには上限がある。誰もが戦争に加担している訳でもない。
「ちなみに、プレイヤーの戦力比は今6:4で帝国が上だ。この違いは、戦場ではかなり左右される。戦争はただ戦えばいいってもんじゃない。わしらはこうして飯を作って客さんに提供するが、同じようにプレイヤーの飯を作るプレイヤーもNPCもいる。武器を作る人もいるだろう。すべてがかみ合わないと、その場で勝つことは出来ない」
「…なるほど」
「まぁもっとも、異常な戦闘能力を持った人間が現れれば、状況は変わるかもしれないがね。この世界にはスキルアシストは無い分、実力で何とかするしかない。そこがシュミレーション世界じゃ、楽しいとこだ」
あくまで、戦争の主体は人間同士…いや、プレイヤー同士であって、NPCといった作られた存在ではない。NPCを軽視する訳じゃないが、理に適ってはいる。このゲームという本質には。しかし、既に太陽系内に敵が侵攻してきているというのが、容易ならざる状況だろうな。もちろん冥王星で初回ログインを迎えた奴だっているだろうし、それを考えれば俺は地球で良かったのか。
…月、地球、火星、水星…冥王星からは遠いが、あまりいい気はしない。
「またいつか来てくれな。ここいらは人の通りが少なくてやることがない」
「そうさせてもらいます。美味しい料理、ありがとうございました」
最後そのおじさんは、この辺りは天体観測をするととても良い光景だと俺に教えてくれた。ちょっと、気になる。天体観測なんて、現実じゃそうそう出来ない。特に望遠鏡を使った類のものは。あれは高くてな…でもこの世界だったら、簡単に出来る。そういう楽しみ方もありだな。
…時間は経った。ゼウも夕方頃からログインしたし…言うか。決心はついてる。ただ、別にゼウ商会を抜ける訳じゃない。ここにはこの一ヵ月間とても世話になってる。だからこそ、こういう交渉も、たまには必要だと思うんだ。
「何、休暇を?」
「はい。お願い、出来ますか?」
「んー…」
ゼウはいつもの渋い顔に少し迷った顔を浮かべた、ように俺は見えた。流石にいきなりそう言われたんじゃ、無理もない。今日の仕事だって任せたいと思ってただろう。そういう可能性があるから、俺はゼウ商会の活動時間外に、ゼウに話を持ちかけた。具体的な話はまだしてない。ただ、時間が欲しい、と。
「…ん、分かった。良いぞ。そのかわり、必ず戻ってくるんだぞ」
「あ、ありがとうございます!」
意外と、あっさり了承してくれた、のかな。ゼウも恐らく話は気になるだろうが、特に目的を聞いてくることはなかった。商会のメンバーであっても、強制はしてない。そのつもりなんだろうか。
「他の奴らには、俺から説明しとく」
「お願いします」
「仕事が溜まるからな、帰ったら覚悟しておけよ?」
そう笑顔でゼウが言うのを見て、俺は部屋を離れオフィスを出た。次に戻るのは、一週間から10日後になるだろう。その短期間で、果たしてあのルーナの力とやら、身に着けることが出来るだろうか…。さて、話は決まったことだ、ケスラーさんに…。
「…圏外!?」
…いやいやいや、そこまで現実的にしなくても!仕方ないなこれはオートバイで現地へ向かうしかないか…。
「これでもし、あえてそれを狙っていたとすれば、ただじゃおかないぞ」
とはいっても、何もできないのが現状だが。とにかく向かうか、あまり夜飛びたくはないんだけれど。周りがよく見えなくなるからな…。それからまた、しばらく飛び続けた。時々、空を見ながら。そうか、今は冥王星の近くで…あの星々のどこかも、もしかしたら戦争してるかもしれん。何かこう、なんというべきか…。
テレビの中の出来事だとは、思えない。
「…」
「…結論を、お伝えに参りました」
目的が無くても、目標にはなる。
「待っていたぞ」
「…一週間ほど、お願いします」
だったら、俺は…!
Space Fantasy Game
―ルーナを、この手に―




