第15話
…妙な安心感を感じる。分からない、俺にもこれが何だか。だが…
エルンスト・フォン・ケスラー。
一体何者なのか、分からない。だが、隠しクエストなんて今まで見たことがなかった。この間の射撃訓練場みたいに、限定クエストが一定時間存在してるのは何度か見たことあるし、やったこともある。だが…それもクエスト進行中に発見したようなケースは初めてだ。光った本…何なんだ、これは。
とにかくクエストは完了した。出来ればこのクエストは、昼間にやりたい。夜はいくら相手がNPCだとしても、訪問するのは気が引けるな…。
「本は、隠しておくか」
あまり、他の人に言わない方が良いかな。なんでか、俺はそう思った。そしてそれに従うことにした。流れのままに、ね。
その後すぐに商会に戻って、活動終了を報告した。今日はもう少し自由に稼いでから、落ちるとするか。
「そうだ、アレン。入ってからどのくらい稼いだ?」
別室から出てきてすぐのチェーンが、そう聞いてきた。実は、この面子にはまだ、俺が裏で制裁者として働いていることを伝えてない。別に隠す理由もないのかもしれん。ただ、この件で何か言われたり驚かれたりするのは、あまり好きじゃない。PK集団が身を隠すのなら、制裁者も出来るだけ知られたくない。
…向こうには、個人的な恨みが出るだろうからな。俺に無くても。
「んー、もうすぐ20万コロンってとこかな」
「結構稼いでるじゃん!商会終わってからも熱心なのねっ」
「金は、無いよりあった方が得だからな」
それはゲーム以外においても、変わらない。高校生の俺には、まだバイトなんて出来ない。金が減る一方だよ、ったく。
実際働いてることに変わりはない。制裁者としての報酬も合わせれば、もっと高額になる。ゲーム権利も、もうすぐ25に到達しそうだ。レベル=ゲーム権利、みたいな流れがSFGにはあるから、権利が高くなれば当然強くもなっていく。スキルシステムが無い以上、アシストを補助する武具に頼るしかないが。
…おかしなもんだ。本当に俺は、PK集団を倒すために、武器を揃えようなんて気になってる。最初はただのんびり、あの宇宙で見た光景を…
「まさか全部常備してる訳じゃないよね!?」
「まさか。そんなことをして襲われでもしたら、たまったもんじゃない」
制裁者としてPK集団を殺害しても、プレイヤーが落とした荷物や金銭は受け取れない。すべて保安組織に回収される。まぁだからこそ、報酬も結構なもんなんだ。制裁者としてのクエストもこれからやる人が増えてくだろうが、失敗すればPKされたと何ら変わらないペナルティを受ける。
…相手が強いと、なおさら厄介だ。
「適度に貯金してるさ」
「それでよし!安心したよ。アレン、結構頑張ってるみたいだからさっ」
「そうだね。ゼウも認めてる。立派な会員さ」
チェーンの後に、エコーズもそう言った。やめてくれ、ちょっと照れる。あまりこういうのは慣れてないんだ。
「じゃ、お疲れ様」
「お疲れ」
「お疲れーっ」
オフィスから、アレンがいなくなる。やや沈黙が生まれたが、その後すぐにチェーンが口を開けて音を発した。
「…ちょっと、頑張り過ぎかもね?」
「良い。目的があるんだろう、きっと」
…なんだろうね、その目的って。
週末。
今日は特に何の予定も入ってない。どうせ外は雨だ。買い出しは済ませてある。わざわざ外に出ることもないな。ということで、朝から入るかっ。シャワーを浴びて食事を済ませ、さっそくSFGにログインする。朝にログインすることは、まぁ珍しい訳じゃない。普段学校行ってる時は別にして、休日何も無かったりすると、朝からログインする訳だ。
「流石に誰もログインしてないな」
フレンドリストを確認したが、テツも入ってないようだ。エナもエコーズも。じゃあ、例のクエストを進めるか…。最終的には、この人がどこに住んでるのかが分からないといけない。クエストに有効期限は記されてないから、恐らく相手はNPCだろう。さて、どうしたもんかな…。
…下町地区の役所に行けば、なんとかなるか。そう思って、俺は役所を目指した。下町の暗い感じも、朝になれば少しは和らぐ。道もわかりやすくなるって感じだ。
「流石に、役所はデカイな」
いや、下町だからってしょぼいもんだって考えてたけど、初めて見た時は少し驚いたな。今もそう思ってることに変わりはないんだけど。流石にここに務めてる人は皆NPCのはずだ、クエスト情報は流しても問題ないだろう。悪意のあるNPCなんてのが、ここにいなければ。
「この落とし主を探してるんです。名前から、住所検索していただけますか?」
「よかったら、こちらで預かりましょうか?私たちでもお届けすることは可能です!」
「いえ、直接届けます。一様クエストなので」
そういうと、NPCも笑顔で納得した。ホント、相変わらず…いや何度もいうが、本当にNPCかと疑いたくなるね。俺がそういうと、女性はすぐにパソコンのキーボードを打ち始めた。名前で検索して該当すれば、この地区の周辺に住んでいる可能性がある…だろう。ここになきゃ、上層の人かもしれない。そうだと少し面倒になるな…。
「お待たせしました!エルンスト・フォン・ケスラー様は…郊外に住宅があるようですね。住所は…」
一緒に画面上の地図も見せてくれたが…な、なんだここ。周り建物ない。というか思いっきり大自然の中!しかも森とか川とか!こーれは、かなり大変そうだな…。
「大体距離にして、ここから40キロほど離れてますね。本当に、よろしいんですか?」
女性はそうやって気にしてくれたが、クエストのためだ、仕方ない。それに俺には、オートバイがある。何の気にすることもない。…と思う。とりあえず場所の地図だけもらって、その場を後にした。
どれどれ、少し長旅になるかもしれないな。オートバイに乗って、下町の上空まで出て郊外へ入ろうとした。下町も住宅地が伸びているが、更にその先はもう何もない。現実の世界だったら、色々あるんだろうけどな。
ん、なんだ。システムからか。
『注意!!-この先コロッセオ地区を離れます!セーブポイントの激減や補給所の減少が予想されます。想定外の出来事に対応できるよう万全の準備をしていきましょう!』
…今まで、郊外に来たことはあったが、こっから先は更に奥地になるのか。ありがたい注意文だ。気を付けないとな…万が一戻れなくなったら、恐らくセーブポイントで再スタートするしかないんだろう。そうなれば、何かしらのペナルティも考えられる。
空を飛んでる。そんなに高度は高くない。けど、実に綺麗だな。今後のアップデートで、この辺りも消えるのかもしれないが。
「そういえば、郊外に共和国軍の基地があるって言ってたな。こっち側…ではないか」
別に行ってもどうしようもないってのは、分かってるけど。少し気になるな。
しばらく飛んだ。これだけ長距離を飛んだのは初めてだ。意外と疲れるな…大したことじゃ無いんだろうけど。同じ姿勢を維持するのも疲れてきた。今日が晴れていてよかったな。雨の中移動だったら、今日クエストやらなかったかもしれない。
もう後ろを見ても、町は見えない。あんなに大きなコロッセオが、はるか遠くにある。これだけ簡単に移動が出来るんだったら、皆絶対免許は取るだろう。こうやって飛ぶのも良いな…周りを見ていれば、疲れも少し和らぐような気がする。
「…」
本当に、ただ自然な風景が広がるだけ。たまに建物っぽいのも見えるけど、人なんて住んでるんだろうか。意外とセーブポイントがあるかもしれない。運営が始まってからもうすぐ一ヶ月。こんなところまで来た人なんて、いるんだろうか。
やっと、着いた。音を出しながら人の家の敷地に勝手にオートバイを置くなんて、中々大胆なことしたもんだ。中の…ケスラーさんって人も、きっと驚くだろう。
「ん…?」
…まただ、この感じ。
本からか…いや、それともこの家から…?
その時。
「入りなさい。貴方がそれを携えてくるのを待っていた」
…これは…一体…。
Space Fantasy Game
―自然の中の、待人―




