第14話
PKという犯罪集団の称号を持った者は、保安組織や治安部隊の追撃対象となる。また、一般人からの攻撃や有志による自由組織からの攻撃を受ける可能性もある。その際、PK集団を倒したものは犯罪者としては認定されず、犯罪者を倒した制裁者として記録される。
…正直、これを使わない手はないと、俺は踏んだ。PKに対して、このゲームじゃリアルと似たようなもので、怖がる奴も多いだろう。だが、そんなことに関わらず堂々とPKをして他人の利益を奪う奴もいる。デスペナルティが存在し、一定の経験値やコロンが失われるのは、俺も皆も避けたいはずだ。ならば、自衛手段だけは…と思ったが、この際試してみよう。
「予定通り、そっちの射撃後に俺が飛び出して殲滅するぜ」
「頼む。一発撃ったらすぐに合流する」
あの、名も知らない男からブラスターを教わって、3日。結局あれは誰だったんだろうか。けど、今は良い。自信はない。だがやってみる。一つの経験として…保安組織からの通達を受けている身として。
ハンマーは下した。目標も確認できる。こっちは奴らより高い位置にいる。気付くには時間がかかるだろう。だからこそ、一発で命中させる。
「…いくぞ」
コロッセオ下町 郊外付近 夜中1時
あまり人がいるとは思えないこの時間に、一発の発砲音と一線の光の刃が走り抜けた。光は一直線に空間上を綺麗に描き、その先の集団のうち、一人の首元に命中した。その一人は、一撃で四散する。
「な…なんだ!?」
「マークされている!散れ!!」
「へっ、遅いんだよ!!」
突如一人が一発のブラスターで死亡した。彼らの画面上には自分たちがプレイヤーかNPCによる攻撃の対象となったマークが表示されていて、間違いなく狙われていることが確認できていた。が、隊長が分散指示を出した時には、既に事は終わりを迎えつつあった。背後から近距離で現れたテツに反応が遅れ、ただ防御をする術もなく一方的に攻撃を受ける。一人、二人、三人…わずか5秒の間で四散した。
この集団の隊長が一番早く反応する。テツとの間合いを開けるために横っ飛びしながら、テツの銃撃を避けた。テツのブラスターの残弾が無くなったのと同時に、隊長も走りながら発砲する。連続した二発の直線は、一本だけテツの脇腹を掠めていき、HPバーを変動させる。しかし、なんてことはない。
「ふっ、どうやら終わったようだな」
「悪いね。保安組織令状により、代行として身柄を拘束させてもらう」
「…お前たち…!!」
テツがブラスターの再装填をする間には、既に別の位置から零治が間合いを詰めていた。隊長は、この男二人に誘い込まれたとしか、思えなくなった。障害物や空間を利用した攻撃。そして最後は一人を生かすために包囲する手段。たった一分で、壊滅させられたのだ。
結局その隊長は、俺らがその場で令状をもとに組織に報告したんで、すぐに駆けつけてくれた。現実で言うなら、現行犯逮捕というやつだ。もちろんこの後捕まったあの男は、保安組織からペナルティを受けて出所することになる。まぁ話によるとペナルティを避ける方法もあるようだが…ログイン停止は流石に選べないんだろうな。
『PK犯罪集団を制裁しました!-制裁者ボーナス-18.000コロン、初期装備近距離用レーザーナイフ』
「…終わったな。疲れた」
「あぁ、ホントさ。普段しないことしたもんで、俺も疲れたぜ…」
組織に身柄を引き渡してから、感謝状のメッセージが届いていたから、俺たちはそれを確認してその日はログアウトすることにした。近くのセーブポイントもちゃんと確認してたから、すぐに落ちることが出来た。疲れたな…そうそう、後から知った話だが、今日もらったレーザーナイフは、わりといろんな依頼で手に入る初期装備のものらしい。部位欠損させるほどに殺傷力あるものが初期装備ねぇ…もっと強い武器があってもおかしくないな。
表向きにはゼウ商会の一人として。裏では保安組織の令状を受け制裁をする者として。その初めての仕事が終わって、更に時間は経過する。ネット上の掲示板では、増え続けるPKに対して警察が動き出した、なんて書き込みが目立ち始めてる。もちろん警察ってのはゲーム内のことだが。
俺たちも、一度こういう立場を経験してからは、防具や銃器に少しお金を割くようになった。無論ブラスターの攻撃ダメージを無力化するなんて方法は一切ないが、被弾ダメージを軽減することは可能だ。ただ厄介なのは、そういう防具を買って身につければ、重くなるってことだ。Web倉庫機能を使えばいつでも管理は出来るが、引き出すのには町の中の特定した場所にいかなきゃならん。もし仕事を控えてるんだったら、そんなことしてる余裕はない。
ということで、軽めのやつを選んだ。ブラスターは初期のやつから、比較的扱いやすいと言われたやつに替えた。弾数は7発に減ったが、威力とコントロールがしやすいらしい。
「エコーズ、なんだそれ?」
「あぁ、これか。最近上に行くことが多くてな。この辺りで飛んでいる旅客船や軍用艦などの航路情報がこのナビで見れる」
「軍用艦って…」
「そうだ。この世界は戦争がメインだ。中立国は攻撃を受けないが、この都市の郊外には共和国軍の基地がある」
…なるほど。じゃぁやはりこの間俺がオートバイに乗ってる時に見たあれは、戦艦だったんだろう。にしちゃめちゃくちゃデカかったが…。けどエコーズ、そんなもの調べてどうする?
「あぁアレン、エコーズの趣味なんだよ。現実の方でも、自衛隊機撮影したりしてさ」
「あぁ、なるほど」
…ちょっと意外だったかもしれない。にやけちゃってるな俺。
そうやって俺らが会話をしていたら、ゼウが別室から出てきた。そして俺に言う。
「アレンすまんな、ちょっと頼まれてくれ。俺らの商会取引相手の重役が下町を移動するんだが、この時間PKを警戒したいから護衛を頼みたいって」
「分かりました。行きましょう」
内心少し焦った。もしかして、この間の一件がゼウ商会に知れ渡ってるんじゃないかって。あのことは、俺とテツ、そして組織の人たちだけの話にしてる。制裁者がプレイヤーだってことを知られたら、どうなることやら。
まぁ断る理由はない。選択受諾して、さっそく取引相手のとこへ移動する。移動距離が若干長いのと、車両の手配が出来なかったのが、俺を呼ぶ要因になったんだろう。長い距離移動する訳じゃないが、会社の重役が襲われて死んだりすると、機密漏洩とかなんとか…面倒だろうしな。
「わざわざすまない。こんなくだらない頼みをしてしまって」
「いえ。誰しもPKは怖いものです」
「流石…理解出来ているな。ゼウが選んだメンバーだけのことはある」
その後も、俺たちは話をしながら夜の下町を歩いた。最近天気が悪い。遠くで微妙に雷鳴が聞こえる。郊外からだろうか。俺たちは時間にして30分移動する距離を歩いた。
「もうすぐ、このゲームの運営開始から一ヶ月が経とうとしている。少しずつだが、周りの状況が変わってきたと私は思うよ」
「状況…?」
「君もぜひ、このゲーム内の新聞やニュースを見ると良い」
そういや、掲示板でいろいろと情報は確認してるけど、このゲーム内での報道とかは気にしたことが無かったな…周りを知るためにも見るべきか。
「…?」
…なんだ?何か、あの茂みで光ったぞ。狙われている…?
いや、この間とは違う。音は全くしない。敵意も感じない。だが…この感覚は何だ…?
…ざらついた、この感触は。
「ありがとう。おかげで無事ここまで来ることが出来たよ」
「いえ。また何かありましたら、連絡下さい」
重役との依頼を終え、ささやかな報酬を受け取った俺は、さっきの茂みのある場所へと戻った。あそこは確か…そうだな、俺が襲撃された時に反撃した緑地だったな。
「なんだ、この感じ…何か変だ」
体の異常か?
何か迫っているのか?
いや違う。そんなんじゃない。
なんだこれは。何かが…。
一瞬光ったと見えた、その場所に来た。確かこの辺り…
「…これは…?」
ただの、一冊の本。どこも光る要素など、ない。だが俺には光るようにして見えた。この本…でも他に物らしいやつは見当たらない。これ以外には。気になるな…とりあえず、確認してみるか。
「………!?」
一瞬、一瞬だけ目の前が真っ白になった。何か、何かに対して…この安心感はなんだろうか。分からない。言葉では説明しづらい。ただの本のはずだが。
中を見ると、所々文字が見えないページが幾つもあったが…これはリアルの英語と同じ文字だな。英語力に乏しい俺には何と書いてあるか分からない。そもそも本を沢山読んでいる訳でもない…ん、視界上に何かが表示されてる。システムからの連絡だろう。標的マーカーとは全く別の物だ。
『新たなクエストを発見しました!クエストに挑戦してみましょう!-内容:[謎の本]を持ち主へ返す-』
…これ、隠しクエスト類のやつか?
今まで約一ヵ月間いろんな依頼を完遂してきたが、こんな表示は初めてだ。しかも、掲示板を見る訳でもなく、誰かに頼まれた訳でもない。落ちている物を触った瞬間に発生したイベントみたいなもんだ。
まぁ受け取ったからにはやってみようとは思うけど…けどこれ、どうやって返すんだ?家の表記も無いから、どこに住んでいるのかも分からんし。
「…じゃぁ、本の著者は…」
エルンスト・フォン・ケスラー…って、言うのかな、これは。
Space Fantasy Game
―訪れた、わずかな変化




