第13話
「調べた情報によれば、既に奴らは下町のPK集団として何度も成功しているらしい。困ったもんだよ」
「チッ…俺らも安心してらんねぇって訳だな」
昼休み。俺とテツは今日の昼飯を調達しに、購買部へ向かってた。俺は弁当あるんだが、テツの奴…忘れてきたらしい。テツは学校から家が遠いから、気付いたところで引き返すことも出来ない。それに、学校の中に入ってしまえば放課後まで拘束される。まぁ当たり前だが…俺はまだ家が近くて良かったと思うよ。何か忘れても玄関にさえ入らなきゃ、引き返せる距離だ。
ちょうど昨日の話だ。俺はあの連中に襲われた後、商会の情報係であるエナに、奴らの情報収集を頼んだ。そして昨日やっと手に入れた情報で、下町で暗躍する複数人の集団で、決まって夜間の少人数を狙っているらしい。PKをして物資を横取りしたり、プレイヤーの落としたアイテムを拾うのが目的だろう。
「このゲームの運営は、PK行為を止めてはいない。PKをすれば前科が残るが、そんなの普段分かるような話でもない」
「まー…確かにな。現実もその人の資料見なきゃ分からんだろうし」
「それと同じってことさ。そしてエナの話では…PKをするためには、ターゲットをロックオンする必要があるみたいだ」
「ロックオン?」
つまり、標的を定めなきゃならんってことだ。実はあの時俺は気付かなかったが、俺の視界やシステムでは標的にされたというマーカーが写っていたらしい。流石に焦ってたし、そんなのには気付かんな。
「んで、標的にされたプレイヤーが相手を倒すなんてことがあれば、それは逆襲キルって扱いになるみたいだ」
「つまりそりゃ、攻撃された側はPKって前科にはならないってことか!」
「そういうことさ」
この話をエナから聞いた時、これを使わない手はないと思った。ゼウ商会の仕事上、輸送路が安全に保たれないのは正直よくない。常に危険と隣り合わせで物資輸送を続けると、神経も使うしな。前科としてシステムに記録されたプレイヤーが再度襲ってくるのなら、反撃しても構わない。勝算はないが、躊躇いなく撃っても良いということだ。
おかしなもんだな…PKに対しては否定的なのに、そういったことをする集団を排除しようって考えはやけに強い。
「んで、零治はどうすんだ?今後」
「出来ることなら、危ない道は避けたいね。だけど、放っておくとまた厄介なことになる。それは他の人たちも困るだろうな」
恐らく、同じようにして、PK集団の情報を集めているプレイヤーはいるだろう。運営を開始してから3週間が経った。沢山ある掲示板サイトでは、既にPKの話で盛り上がってるとこもある。下町に限った訳じゃない。コロッセオの全域でそういった危険があるってことだ。
それに、PKをしてもゲーム権利が溜まっていくってのが、やや問題点だろうな。ゲーム権利をあげて金も集まれば、より強力な武器や身の回りの装備を集められるんだ。PK集団が強力になっていけば、太刀打ちできない可能性だってある。
「奴らがどれほどの腕を持ってるかは分からない。だけど…出来れば排除しておきたいな」
「本気か!?」
「あぁ、まぁね。ただそれは、ゼウ商会の仕事が終わった、夜中の話になる…向こうが夜に活動をしているのなら、こちらも同じようにすれば良いってことさ」
ゼウ商会に限った話ではない。輸送中を襲撃されたらたまったもんじゃない。出来るだけ商会に影響のないところで…だが、俺がやられる可能性だって十分にある。なんとかして、腕をあげなきゃな。元々強くなりたいとは思ってたんだ。実力的に、弱く居続けるよりは、強くありたいと思う。ただまぁSFGはスキル機能が存在しない。銃撃も格闘もすべて自分の手足だ。もちろん、装備によっては動きが良くなったりもするけど…。
「お、じゃあさ零治。この間行ったあの射撃練習場行こうぜ!あそこなら、訓練にはもってこいだ!」
「でも、良いのか?テツまで巻き込んでしまって」
「いやいやなんの、俺もPKされるのはあんま好きじゃないしなー」
テツも協力してくれるみたいだ。テツが近くにいるのはありがたい。元々、あいつは俺と一緒の町でプレイしたいが為に、遠くから移動してきたんだ。これじゃ俺が酷使してる感じになってるが…でも、それでもテツがいるなら、これ以上のことは無い。
それから、今日の夜。
俺たちはリアルの夜8時にログインした。ゼウ商会の仕事や連絡が入ってないから、もう先に練習場に行ってしまおう、ということで連絡を取り、待ち合わせた。下町に雨が降る。
そういや…テツの装備、まだ初期のままか。俺がゼウ商会で商会としての稼ぎを得てる中、テツは一人単独で…いかんいかん、嫌なケースを考えるのは良くないな。
「こう…なんていうかな、ブラスターって反動が来るイメージは無かったが…」
「あぁ俺もなんだよ実は。そう思ってた。レーザーガンだろ?反動てなぁ…」
実は、俺やテツが持ってる…ここの限定依頼で手に入れた初期装備ブラスターには、微妙にエネルギー射出時の反動がある。排気したり、次弾装填でスライドしたりなんやらと…たぶんそういうのがあるから、反動があるんじゃないかと思うけど、仕組みは正直よく分からん。撃った瞬間にある反動なんだからな。エネルギーパックを入れれば良いだけだが、実際は色々と作業をしてるんだろうな。
「おいおい零治、意外と命中無いなーお前!」
「え?そっちこそないじゃん!」
「ケッ言うな言うなー現実銃なんて撃つ訳ねぇんだ!」
まぁ確かにそうだ。FPSゲームをオンラインで少しだけやったことあるが…マウスで敵に照準を合わすのにどれだけ時間が掛かったことか。この世界では実銃と同じ感覚で敵に向ける訳だが…20メートル先の相手に、体の中央に当てられない。たまに体さえ当たらない。無論射的で人相手じゃないが、やっぱり心配だな…。
「なんだろな?どこがわりぃんだ一体」
「んー…ブラスターかぁ。どこか悪いのか…?」
…いやホント、この間よくあの状況切り抜けられたよ。常に地の利を得ていたとはいっても。
俺らが練習していて、エネルギーパックを次のものに替えようとした時、突然誰だか分からない男に話しかけられた。
「いや、銃のせいじゃないな…!」
「…??」
俺らの位置からわずかに離れたところから、はっきりとした声がこちらに聞こえてきた。いきなりなんだ…?しかも、少し笑ってる。自信がありそうな感じだ。
「お前たち、銃を扱うことには慣れてないようだな?」
「初期装備のブラスターってんだ。もらったばっかりでよ」
ちょっとテツの当たりが強いようにも思えるが…なんてことないんだろうな。目の前にいる男にとっては。
「ブラスターなんて現実世界には無いから、無反動っていうイメージがある。が、このゲームは操作性に難易度を作ったみたいだな。銃もその一つだ。銃がどんな構造をしていようが、クラスや種類ごとに異なる反動効果がある。お前たちの持ってるやつは、比較的扱いやすい。すぐに慣れる」
そう自信強く話す男が、俺たちの隣のポジションに入った。初期装備ブラスターを手に持ち、構える。俺らからすれば、その構え方から既に学ぶものがあった。俺らは体を横に向けて片手で撃つ。が、この男は足のつま先をしっかりと的に向け、右手に銃を、左手は右手を添えるようにして構えている。
…すごい。一発で的の心臓部分を…!!
「単純な話だ。まずお前たちは、ダブルアクションで銃を撃ってる。素人がいきなり引き金を直で引けば、二発目以降は確実にぶれる。しっかり狙いたいんなら、シングルアクションをつかえ」
「シングルアクション…?」
「ブラスターの後部にハンマーがあるだろ。それを下せばいいんだ。その状態で引き金を引けば、少しは正確に狙える。やってみろ」
んーなるほど…どうやら俺たちの撃ち方はそうしている人がいても、素人向きではなさそうだな。そもそもブラスターそのものが…まぁいいか、そこは。
…そうだな、撃ってみた感じ、確かに的は絞れる。反動の制御はまた別として。これだと連射という訳にはいかないが、弾を無駄遣いしないためにもこのやり方は良いかもしれん。
「それから、反動が気になるんだったら、俺と同じ真似をすれば良い。利き腕が右なんだから、左の腕を下敷きにするんだ。そうすりゃ、シングルでなくても少しは安定できるぞ」
「よく、知っているんですね」
「プレイヤーとして、やっぱこの世界の醍醐味の一つは武器だと俺は思っている。数多くの戦争ゲームが出回ってるが、これは今までのとは訳が違う。だから俺も他の奴らも、熱中しちまうのさ」
…俺は、この男に思い切って話してみることにした。ここ最近、この下町でPK行為が横行している、と。自分たちは略奪を好まないしされたくないし逆に倒してやりたいなんて思い始めてるが、貴方はどう思うのか、と。
どうやらこの男はこの下町の人ではないらしい。上層から今日は様子を見に来てるそうだ。普段はいったい何を…だがそこまでは教えてくれなかった。
「そりゃこのゲームはPKが当たり前みたいなもんだ。戦争をやってるんだからな。まぁ確かに、人の物資を強奪することも可能だ。死んだ奴はその場に荷物を落とす。金も少し減る。武具の耐久度も減少するだろう。荷物を取られたうえにデスペナルティを課せられるんじゃ、萎えるだろうからな」
…やはりそうか。デスペナルティの話は噂でも耳にしているし、なんとなく想像はついていたが、やはりこの男の話からそれ相応のペナルティが与えられるらしいな。嫌なもんだ。
「だが、逆に言えばPK集団って称号のついた奴らを、お前たちは無条件で攻撃することが出来る。それに、そいつらが保安組織に追われてる奴らだったら、撃滅を申告してシステム情報を提示すりゃ報酬がもらえるって訳だ。PK集団…まぁつまり犯罪者になって捕まれば、デスペナルティなんて比じゃない罰則があるからな」
「そうだったのか…いやーしかしよく知ってるなぁあんた」
「まぁな。それじゃ、俺はこの辺で」
またその男は、少しの笑みを浮かべた。そしてブラスターを返却し、出口の方へ向かって行く。なんとも不思議な男だろうか。プレイヤーらしいが、なんというか…敵意は感じないし、初対面の俺たちにあんなによくしてくれるのか。ありがたい。
「…どうでしたか?」
「骨はあると思うぞ。だが、まだどれもひよこの行進だな」
3日後 コロッセオ夜間1時
「いくら巻き上げた?」
「獲物が金持ちだったらしいな。ほんのちょっとのドロップでも5万コロン頂いたぜっへっへへへ!」
コロッセオ下町郊外。この周辺は工業地帯やそれに類するものが比較的多く立ち並ぶ。他の地域へ移動するのにも使える長い道路があったりするが、人の往来は少ない。ましてこの時間だから、ほぼ誰もいないといっていいだろう。小さな建物や工場などが集まる中、そこに出来た舗装された道を歩き町へ向かって行く5人集団。
「じゃこれで夜遊びも出来るってもんだなー」
「馬鹿野郎自分を守る道具でも買いやがれ」
「いーんだよいんだよ、どーせ集団でかかれば負けねぇし!それに、俺らが今まで失敗したことなんて、たった一度だけだろ?なぁ?隊長」
隊長は無言で、だが頷き反応はした。チンピラと無言の圧力を放つ隊長と呼ばれる、このPK集団。この頃掲示板などで噂になり始めていたPK行為の第一線を行く集団である。今日も夜中獲物を借り、略奪を繰り返していた。成功を積み重ねれば、気持ちも昂る。次も行ける、そう思い込むのだ。しかし、そんな集団でも一度失敗したことがある。
「けどこの間の奴にぁやられたな」
「おい、あれはお前らが誘い込まれただけだろう。まぁ、中にはそういう奴もいる」
…この集団は、知る訳もない。情報を得て保安組織から通達を受けた個人依頼の相手と、これから対峙することを。そして、その相手が先日PKを初めて失敗した相手であることを。
「情報通りだな、零治」
「あぁ。エナと保安部に感謝しなきゃな」
アレン、零治はブラスターのハンマーを下ろす。
Space Fantasy Game
―ブラスターを、知ろう―




