表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎育ちの俺が王都に出てきたら、守りたい想いが強さになった  作者: 蒼月あおい
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/52

第48話 成れ果て

 朝の光が、柔らかく窓辺を照らしていた。

 昨日の「家具騒動」を経て、アルスたちはようやく落ち着いた新拠点での朝を迎えていた。


 テーブルには、ミリアが用意した朝食が並ぶ。

 焼きたてのパンに果実のジャム、温かなハーブティー。香り立つ湯気が、どこか安堵を誘っていた。


 全員で朝食を済ませた後、各自が準備を始める。

 今日から四層の攻略を再開するためだ。


 セレナは長い銀髪を後ろでまとめながら、弓弦の張りを慎重に確かめる。

 ミリアは薬瓶や包帯を丁寧に並べつつ、穏やかな笑みを浮かべる。

 アルスは剣の刃を静かに研ぎ、焦りはなく、確かな決意だけがその表情にあった。

 フィアナも傷を回復するポーションや魔力回復用のマナポーション、毒消し草などを大量に鞄に詰めながら尻尾を揺らす。少しの緊張と、それ以上の期待を胸に。


「……よし、行こうか」


 アルスの言葉に、三人が顔を上げる。

 セレナが軽く頷いた。


「今回は四層の続き……油断できないわ。前回みたいな“カース・ネスト”がいないとも限らない」

「大丈夫です、ポーション類はすべて補充済みですから」


 ミリアの声は柔らかく、それでいて頼もしさを感じさせる。


「わ、わたしも……ちゃんとやるから!」


 フィアナは小さく拳を握る。耳がピンと立ち、尻尾がくるりと揺れた。


 アルスは微笑み、剣を収めた。


「うん、頼りにしてる。……行こう、みんな」


 四人は静かに拠点を後にし、朝霧の街道を抜けてダンジョンへ向かった。


 洞窟の前に立つと、冷たい空気が肌を刺した。

 守衛に探索許可証を見せ、ギルド印の確認を終えると、四人は迷いなく奥へ進む。


 第一層――幾度も踏破したはずの場所。

 だが、今回は目的が違う。

 彼らはまっすぐに「転移の鍵」が反応した隠し通路へと向かった。


「……この辺りだ」


 アルスが足を止め、深い緑色の壁に手を当てる。岩でも金属でもない、冷たく滑らかな素材。かすかに魔力が脈打つように感じられる。

 腰のポーチから銀色の鍵を取り出すと、壁に近づけた瞬間、鍵が淡く光り、その輝きに応じて壁の紋が揺らめいた。


 フィアナが息を呑む。


「わ……! 動いた……!」


 壁が静かに割れ、奥に小部屋が現れる。


「前回、四層では苦戦したわ……まだ半分も探索しきれていないと思うから、気を付けていきましょう」


 セレナが低く呟き、アルスは頷いた。


 部屋の中央には、青白い紋章を描いた転移陣。

 アルスが鍵をかざすと、陣が共鳴するように輝きを放った。

 ミリアがそっと目を細める。


「反応しています……四層への転移可能です」

「……あの三層のカーミラ・ウィスプと戦わずに済むのはありがたい」


 アルスの言葉に、セレナがわずかに笑みを見せる。


「ええ。危険は少ない方がいいわ」


 光が強くなり、床の紋章が脈動を始める。


「行こう」


 アルスの声に三人が頷き、四人の身体は淡い光に包まれた。


 転移の光が収まると、空気が一変する。

 冷たく乾いた風が肌を撫で、壁を這う黒い苔がわずかに光を反射している。


「……前回と同じ場所だな。よし、ここから探索再開だ」


 アルスが息を呑むように呟いた。

 漂う空気には、どこか重たい気配がある。まるで“死”そのものが空間に染みついているようだった。


 前方には錆びついた鉄格子の扉。

 アルスが取っ手を握ると、ギィ……という不吉な音とともに扉が開く。


 前回、カース・ネストと戦った広間に出る。

 広間は浄化され、セーフゾーンとして維持されており、一行は安堵する。


 アルス達は更に先に進むが、次第に通路の様子が変わる。

 そこは、果ての見えない石造りの回廊だった。


 床一面に白い骨が散らばり、その合間には朽ちた革袋や、割れたポーション瓶、錆びついた短剣が埋もれている。

 壁際には、砕けた杖と、泥に汚れた金属札まで転がっていた。

 それが魔物の死骸ではなく、かつてここへ挑んだ“誰か”の残骸だと気づいた瞬間、アルスの喉がひやりと冷えた。


 カラン……カラン……


 どこかで骨が転がる音が響く。それはまるで、終われなかった者たちの足音のようだった。


 暗視のスキルを持つフィアナが即座に反応して声を上げる。


「剣を持ったスケルトン三体と……杖?を持ったスケルトンがいる!」


 フィアナは短剣を構え、耳を動かして気配を探る。


 暗闇から、ゆらりと白い影が浮かび上がった。

 スケルトン・ウォーリア――だが、その腰には朽ちた革袋がぶら下がり、片腕には割れた小盾の残骸が引っかかっている。

 続いて現れたスケルトン・メイジの胸骨には、ひび割れた金属札がぶら下がっていた。


 それはつい昨日まで自分たちが身につけていた装備と、あまりにもよく似ていた。


 セレナが矢を番え、鋭い声で告げる。


「……冒険者の成れの果てよ。油断しないで」


 アルスの背筋を、冷たいものがすっと走った。


(俺たちも……一歩間違えれば、こうして名も残らず“成れ果て”になるのか……)


 頭をかすめる恐怖と決意の狭間で、アルスは自然と剣を抜き、青白く霊気を帯びた刃先を握りしめた。


「まず俺が正面のウォーリアを引き付ける、セレナはメイジを狙って」

「わかったわ」


 セレナが即応する。

 ミリアは祈るように杖を握り、アルスの背後で準備を整える。

 フィアナは機敏に横道に回り込み、敵の動きを監視する。


「行くぞ!」


 アルスの掛け声で戦闘が始まる。

 ウォーリア三体が骨を擦らせながら近づき、メイジは杖を掲げ紫の炎を灯す。


 最初の一歩。ウォーリアの一体が斬りかかる。

 アルスは身体をひねり、ブロードソードで相手の剣を受け止める。

 火花が散り、反動を吸収しつつ一閃――肩の骨を打ち抜いた。


「アルスさん、左からもう一体!」


 フィアナが低く身をひそめ、短剣でウォーリアの脚を狙い動きを止める。

 骨がカランッと地面に転がる。


「よし、フィアナ! そのまま押さえて!」


 アルスが声を張ると、フィアナは脚を失って倒れたスケルトンウォーリアの側へ滑り込み、動こうとする腕を押さえつけた。

 無理に倒しきるのではなく、戦況を崩さないための判断だった。


 セレナは矢を放つ。


「ルミナスアロー!」


 光の矢が暗闇を切り裂き、スケルトンメイジの頭蓋を貫く。

 だが、スケルトンメイジは倒れる直前に杖を掲げ、紫の炎の球を生み出した。

 セレナの目が鋭く見開かれる。


「フレイムボール!」


 叫ぶのと同時に、セレナは瞬時に身をひねり、側方へ滑るように飛び退いた。

 次の瞬間、炎球が背後の壁で炸裂する。

 轟音とともに熱波が回廊を駆け抜け、焦げた風が銀髪の先をかすめた。


「危なかった……!」


 ミリアは杖を高く掲げて、浄化の祈りの詠唱が完成する。


「――聖光は降り注ぎ、穢れし骸を今こそ浄めん!」


 ミリアの祈りが結ばれた瞬間、淡金の光が回廊へと広がった。

 空気が震え、淀んでいた穢れがわずかに押し退けられる。

 その光を浴びたウォーリア二体は、支えを失ったように崩れ落ちた。


 骨が地面に散り、脚を失ったスケルトンウォーリアの近くでフィアナが軽やかに跳び上がる。


「わ!……崩れたっ!」


 フィアナは驚きつつも動けなくなったウォーリアに跨り、短剣で頭蓋を砕く。


「これで……終わりっ!」


 炎の残滓が消え、再び冷たい風が回廊を抜けた。まるで何事もなかったかのように、静寂だけが戻ってくる。


 アルスは剣を下ろし、汗を拭い振り返る。


「ふぅ……手応えがあったな、全員無事か?」

「ええ、大丈夫よ」


 セレナが静かに頷く。


「うん、わたしも平気! ちゃんと役に立てたでしょ!」


 フィアナが笑顔で答える。

 ミリアは微笑み、杖を胸元に戻す。


「全力で浄化を使わなくても、数体なら魔力を温存できそうです」


 その時、ミリアが地面の隅に何かを見つけた。


「……これは?」


 地面の隅に転がっていた革袋は、見た目のわりに妙に軽かった。

 ミリアが恐る恐る口を開くと、内側には不自然なほど深い空間が広がっている。


「……マジックバッグです。しかも、内部拡張式……!」


 ミリアの目が輝く。


「ふふっ、スケルトンメイジが持っていたのかも……幸先がいいわ。フィアナが持っていたほうがよさそうだけど、地上に戻ったら綺麗にしてもらいましょう」


 セレナの言葉を聞いたフィアナは嬉しそうに笑った。


「やったあ!」


 アルスはマジックバッグを見つめるフィアナに小さく頷き、それから回廊の奥へ視線を戻した。


「……ここからが本番だ。気を引き締めていこう」


 冷たく重い空気の向こうには、まだ見ぬ“成れ果て”たちの気配が潜んでいる。

 一歩間違えれば、自分たちもまたこの回廊に骨を晒すのだろう。

 それでも四人は足を止めなかった。

 静かな足音だけを響かせながら、闇の奥へと進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ