第二話「魔術とは殴り合いである」④
ルヴィケスが碧雲隊の仮眠室の扉を勢いよく押し開いた。
「トドイ! 起きてください!」
「ねっ、寝てませんフォフォ隊長!」
トドイは寝台から飛び起き、気を付けの姿勢を取りつつ、入ってきたのがルヴィケスだと認識して大きくため息を吐いた。髪がぼさぼさだとか衣服が乱れているだとか、そういうことは気にならないらしい。再びもぞもぞと寝台に潜ろうとする。
ルヴィケスはそんなトドイをひょいと担ぎ上げると、トドイの手甲を勝手に取って歩き出す。
「わ、ちょっ、なんですか先輩。なになになに?」
「大捕り物が始まります。見逃すのは損です。寝てる暇はあまりせん。朱顎隊が【仮面闘士】を捕縛しに行くらしいです。急ぎましょう」
「……えっと、要するに野次馬っすか? その【仮面闘士】ってのは、確かこの前見てた手配書にあった、要注意人物っすよね」
「ええ。わくわくしませんか?」
「正直、眠たいっす。って言っても、無駄なんですよね……」
背中から聞こえるトドイの抗議を無視し、ルヴィケスはそのまま宿舎を飛び出した。
雲一つない晴天とはいえ、真夜中であり、月の輝きは半分程度。視界十分とは言えない暗い街中を二人は静かに駆け抜ける。
トドイは渡された手甲を嵌めつつ、横を駆けるルヴィケスの方を見る。
「それにしても、他の隊の動きも確認してるんですね。先輩はあんまりそういうの気にしない方かと」
「他小隊の動向は重要ですよ、トドイ。何が不足しているかが分かれば、どのような戦士を求めているかもわかる。その傾向さえわかれば、どこに所属するどの人物を狙うかもわかる。有望な戦士の数は限られています。可能な限り狙いは被らないようにしなければね」
「せ、先輩がなんか【鐵の篩】っぽいこと言ってる!」
「見直して敬ってください。私ほど勤勉な【鐵の篩】はいないんですから」
軽口を叩きながら走っていると、二人は目的地に着いた。ルヴィケスはトドイを民家の屋根の上に誘導し、伏せるように手で示すと、手慣れた様子で二人は横に並んで伏せた。
二人が三角屋根の頂点から僅かに顔を出して一点を凝視する。その視線の先には、小奇麗な集合住宅の一室がある。
「あそこっすか? 普通の民家っすね。本当にここにいるんですか?」
「ええ。見てください。あちらの時計塔に狙撃者と観測者、部屋の前には追跡者と破壊者。朱顎隊第五分隊の面々です。もうじき仕掛けますよ」
ルヴィケスの指を追ってみれば、確かに立ち姿から一流と分かる戦士が四人、構えている。頭巾の下に真っ赤な面皰をしていることからも、朱顎隊ということは確定。少なくとも、【独立命撰特務】の分隊が出張るだけの相手がいることは間違いない。
だが、第五、という点にトドイは少しがっかりした。各小隊に一から六まで分隊はあるが、基本的に番号が若いほど強い分隊となるのが常。つまり、第五は若手か怪我人か、とにかく相対的に実力の低い人員が編成されている。なので、軍団長級の戦士の殴り合いが見れる可能性は低い。
「第五っすかぁ」
「しっ。傾聴」
ルヴィケスは鋭く息を吐き、両手を耳元に当てて目を閉じた。トドイも意識を視覚と聴覚に集中させる。
窓かけの隙間から、油灯に照らされた部屋の中が僅かに見える。中には一人の黒髪の男性がいる。その男性は肩に掛けていた荷物を床に置くと、寝台の上に何かを投げた。仮面だ。
その直後、玄関の呼び鈴が鳴り、男性は面倒くさそうに扉を開けた。
「誰? 何時だと思ってんの?」
呼び鈴を鳴らした主、朱顎隊の追跡者は短剣を男性の喉元に押し付け、その横をすり抜けて破壊者が部屋に押し入る。そして見つける寝台の上の仮面。
「な、なになになに。強盗? 金なんてねぇよ」
「黙れ。朱顎隊だ。お前を捕縛する。抵抗するな」
「えっ、ちょっ、なんで。何の罪? 何もしてねぇよ俺は」
「しらばっくれるのか、【仮面闘士】」
「いや、まじで知らねぇから。その仮面はさっき郵便受けに……」
「尋問は隊舎で行う。言い分があればそこで聞く。黙ってついてこい」
そう言って追跡者は男性の手を後ろに回させた。男性は腕の痛みに呻きつつ、抵抗の素振りは見せない。言葉真摯に伝えればわかってくれるはず。そう言わんばかりに、丁寧に訴えかける。
「なんでいきなりっ、こんな、人違いですって!」
「分隊長、奥に様々な薬学用の器具が。弾丸もたくさんあります」
「証拠品として押収しろ。残らず全部だ」
「それは、違うんですよ! ただ錬金鋼の物性を調べるための検体でっ! 業務上必要なんです!」
「こんなに大量の検体を? 十発や二十発じゃない、最低でも三桁だぞ。それも、どれも最近作られたものばかり」
部屋の棚という棚がひっくり返され、中身が床にぶちまけられる。整然と並んでいた種々の金属は纏めて机から叩き落とされ、片っ端からごみのように袋に詰められていく。
整っていた部屋はあっという間に盗人が入ったかのような有様になった。そして、じきに夜逃げの後の様な有様になるのは火を見るよりも明らかだ。
破壊者の手が日付の張られた大量の金属球に伸びた時、男性の目は一際大きく開かれた。
「だからそれはっ!」
しかし、追跡者は男性の髪を掴んで威圧した。
「何度も言わせるな。言い分は後で聞く。黙ってついこい」
その圧力に、男性は黙って俯いた。そして、何かを呟く。それはトドイには聞こえなかったが、より聴覚に集中していたルヴィケスの耳にははっきりと聞こえた。
――どいつもこいつ好き勝手しやがってよぉ。
その呟きに困っているのは、憤怒。見栄と建前が作っていた殻に亀裂が入り、日々の鬱憤がぷしゅっと噴き出た音。
男性は俯いたまま、今度はトドイにも聞こえる声で呟く。
「そうかよ。そりゃこんなに権力振り回せるなら気持ちいいんだろぉなぁ」
「何か言ったか?」
「ただよぉ、一個気になるのがよぉ」
そう言って男性――メディエ゠ナイチャンクは眦を吊り上げて叫んだ。
「そんな特権に見合うほど、てめぇらはちゃぁんと強ぇんだろうなぁ!」
豹変とも言わんばかりの、怒気の発露。
それに追跡者が身構えた直後、渦巻くような魔力がその部屋の中で爆発した。
轟音と共に、部屋を埋め尽くすように突き出る石柱。追跡者と破壊者がそれを躱せたのは、ひとえに【独立命撰特務】としての実力のお陰。ただ、その魔術の発露の前兆があまりにもなかったことに、追跡者と破壊者は混乱して距離を取る。
土埃の中、金属製の義足が床を踏む硬質な音が響く。そして、姿を現したのは、三白眼をぎらぎらと輝かせ、鋭い犬歯を剥き出しにした、怒りの形相のメディエだった。
大規模な戦闘が始まりそうな気配に動き出そうとするトドイをルヴィケスは押しとどめる。
「まあまあ落ち着いてください。ここからが良いところなんですから」
「えっでも……流石に傍観は。逃げられちゃったら大変ですし、私たちも連携した方が。……あの? 先輩?」
ルヴィケスが楽しそうにメディエの方を見ていることから、嫌な想像をするトドイ。しかし、時すでに遅し。それを問い質す間もなく、目の前の戦闘は始まろうとしている。
ほどなくして、爆発的な波動が響き渡り、戦闘の始まりが周囲の全員に伝えられた。
先制は狙撃者の一撃。魔力により槍状に固められた四本の白い炎が矢のような速度でメディエに向かって飛翔する。周囲への被害を影響を考慮してか規模は小さいが、人体に当たれば一瞬で肉が炭になるほどの威力。そして、狙撃者の正確な一撃は逸れることなくメディエの四肢に向かって飛ぶ。
それに対し、メディエは練り上げていた魔力で周囲の金属を一瞬で集めると、それに正対する四つの盾を作り出した。炎の槍はそれに衝突すると盾の色を白く染め上げたが、貫通するまでは至らず、その場で弾ける。
「無傷。防がれた」
「うっそ」
観測者の言葉に狙撃者は思わず呟く。あの大きさの鐵であれば貫通する程度の熱量は込めたはずなのに、と。完璧に防がれたことが信じられなかった。
しかし、メディエにそれに慢心する余裕はなかった。初弾に合わせて追跡者と破壊者が接敵してきているのを理解していたからだ。
メディエは流れるように金属を自身の周囲に漂わせ、選別し、混ぜ合わせ、瞬きをする間に八本の円錐を作り出す。そして、その先端を四つずつ追跡者と破壊者に向けると、ほんの僅かに魔力を震わせた。
直後、がん、と金属が破断する音が響く。すると、追跡者と破壊者は吹き飛んだ。
破壊者は両腕の痺れに呻きつつ、状況を把握しようとする。何かが飛んできて咄嗟に剣を構えたが、何が飛んできたかはわからなかった。その予兆も理解できなかった。
(んだ、あれ! あんな僅かな魔力の動きでこんな勢いで物飛ばせるわけないだろうが!)
破壊者が横目で見る追跡者は左肩から先をもぎ取られた状態で向かいの建物の壁に叩きつけられていた。死にはしていないが、瀕死。それだけの威力のものを八発同時。破壊者は戦慄しつつ、剣を構えなおす。
一方、メディエは愉快そうに笑いつつ、体の周囲に集めた金属を更に変形させていく。
「やっぱ戦士って変態だよなぁ! 音速超える弾丸を見切ってんじゃねぇぞ! 化け物が!」
そう言うメディエの周囲には、様々な色の六角形の金属塊が無数に浮かび、更にそれと同数程度の円錐が全方位にその先端を向けている。八発どころではない、致死の弾丸。それを想像し、破壊者は更に気を引き締める。
メディエが歯を剥き出しにして、その円錐の先端を操作しようとした瞬間、メディエの視界が暗くなる。頭上を見ると、天を覆うほどの津波がメディエに向かって襲い掛かってきていた。
勿論、ここは陸上。近くに川があるわけでもない。相手の魔術だということをメディエは理解しつつ、金属製の義足を魔力で操って空を翔けた。
水しぶきが建物を叩き、道路を氾濫する。跳ねる水流は空を滑るメディエを追いかけるが、メディエは獰猛に笑いながらそれをすり抜けた。メディエの身体能力だけでは避けきることできなかっただろうが、メディエの魔力操作ならば簡単に避けきれる。メディエは少しだけ自身の義足に感謝しつつ、そのまま夜の街を翔けぬける。
濁流の届かない高空で一息ついたメディエは、眼下で出しっぱなしの洗濯物がびしょびしょになっているのを見てため息を吐いた。
同時に、後方から響く金属同士がぶつかり合う音。
「どっちが化け物だよ」
「魔術も使わずに当たり前みたいに空中を走ってるお前ら。ってーかなんで腕生えてんだよ。蛸かよ」
メディエの金属の盾に剣を叩きつけたのが、先ほど腕を撃ち抜いた追跡者だということに気づいたメディエは、気持ち悪そうに顔を歪めつつ吐き捨てる。追跡者はそれに少しだけむっとしつつも、そのまま虚空を蹴って地面へと降りていく。
一連のやり取りを見ていたルヴィケスは横で呆けた顔をしているトドイに話しかけた。
「どうです?」
「いやー、派手にやってるっすねー。相手の子、魔術師っすよね? ちゃぁんと現代魔術師してて、戦士とも接近戦できててすごいなぁって思いました」
「それだけですか?」
「んまあ自分魔術詳しくないんであれですけど、あとは、なんか相手の子の魔力、予兆が少なすぎません? 鐵の盾も無駄に硬い気がするし。何か種あるんですかね?」
「素晴らしい。そこに気付かなかったらあなたの馘を隊長に進言するところでした」
「さらっと恐ろしいこと言わないでくださいよ……」
メディエが立て続けにはなった弾丸を、破壊者はすべて弾きながらじりじりと前進していく。メディエに四方から飛んでくる炎の槍は、メディエがその盾で受けてかき消す。
その射撃戦を楽しそうに眺めつつ、ルヴィケスは続ける。
「まず一つあなたの認識には間違いがあります。彼が使っているのはただの鐵の盾ではありません。他の金属との合金鋼です。いえ、正確にはより高度な錬金鋼ですね」
「あー、だから色がついてるんすね」
「そうです。そして彼はその硬度、靭性、耐熱性を考慮し、相手の攻撃に合わせて使い分けています。炎相手には耐熱性の高い金属を、斬撃相手には硬度の高い金属を、とね。なので、想定より硬い盾だと相手は感じていることでしょう」
「賢い!」
トドイの反応に、細かい数値的な話をしても無駄だと判断したルヴィケスは、そこで一度話を切る。要は、高度なことをしていると伝わればいいと、そこまでで留めおくことにした。
身を隠して移動しつつ、時間差で魔術を発動することにより、的を絞らせないようにしていた狙撃者が、メディエの一撃に腹部を貫かれ、地面に倒れる。それを指さしつつ、トドイが首を傾げる。
「じゃああれはなんすか? 正直、あれっぽっちの前兆で撃たれたら避けられる気がしないんすけど。なんでしたっけ、魔力隠蔽っすか?」
「隠蔽もしています。それこそ、最初の岩の槍とかはそれです。ですが、後の弾丸は違います。彼はただ、金属の物性を利用しているだけです」
「物性?」
「要は、これです。これ」
そう言ってルヴィケスは指を弾いて見せた。
トドイは全く理解してないようで、首を傾げる。
破壊者の剣が銃弾に耐え切れず、砕け散った。続く弾丸が破壊者の足を貫き、破壊者は地面に崩れ落ちる。
「簡単に言えば、あの円錐は弩です。金属製の弩」
「弓っすか? じゃあ弦はどこに?」
「内部にあります。小さく分厚い金属製の弦が」
「そんなに小さくて威力が出るんすか?」
「大きい弓が威力が高いのは、強い力を長く矢に与えることができるからです。逆に言えば、十分な力を弾丸に与えられるなら、小さくても十分に威力が出る」
再び濁流が渦巻くが、メディエの足止めには不十分だった。メディエは義足を操って自在に空を飛び、その攻撃を易々と躱し、反撃の弾丸を観測者に叩きこむ。両腕を撃ち抜かれた観測者が悲鳴を上げる。
「そりゃそうなのかもしれないっすけど、難しそうな話っすね。そんなに威力ができるほど瞬発力があるんですかね」
「いいえ。彼に瞬発力はありません。なので、あの円錐の中には複雑な機構が詰まっています。射出力の根源部である高強度金属ばねは棒歯車か曲柄機構を利用して加圧。小さな力で加圧できるよう大型歯車による減速もしているでしょう。射出時の音は破断式の使い捨て弁を利用している可能性が高いです。いずれも成形が僅かにでも狂えば、精度が少しでもでなければがらくたとなりかねないですが、弾詰まりを起こしている筒は一つもない。外部から見て装填状態が分からないようにすることで戦士を牽制。再装填の時間は複数台の筒を並べることで補う。弾の素材は足りなければ筒から補充ですか。なんとも合理的な芸術です」
「小難しい単語を使うのはやめてください。今勉強する気分じゃないんです」
トドイは両手で耳を塞いで拒否を示した。ルヴィケスは苦笑しつつ、四肢をもがれた状態で脳天に円錐を押し付けられている追跡者を見て首を振った。
「以前、休憩室でした会話を憶えていますか? なぜこの世界では銃が発展しなかったのか」
トドイは得意げな笑みを返す。
「ふふん。それは簡単な話っすよ。この世界が発展しなかったわけではなく、第五異界だけが異様に発展しただけっす。だから逆っすね。なぜ第五異界だけが銃――機械技術が発展したのか。本題はそこっすよ」
口ぶりから、ムーベフあたりに答えを聞いたのだと察しつつも、ルヴィケスは追及せずに頷く。
「その通り。そして、その理由は簡単です。第五異界では、物質の性質が常に一定で変化しないからです。一度計測した強度は未来永劫変化せず、同じ組成の火薬は常に同じ条件で爆発する。するとどうなるか? 作り置きができるんです。銃や弾丸を。量産ができるんです。だから機械技術が発展した」
「あぁー……第五異界ってそんな感じなんすか。こっちは転変があるから、比較的強度の変わりにくい鐵を扱うので精一杯ですもんね!」
トドイはしたり顔で腕を組む。だが、この話が目の前の戦闘とどう結びつくのかは検討もつかないらしく、その頭上には疑問符が浮かんでいる。
「逆に言えば、この世界でも銃、機械技術というのは十分に有用なんです。日夜変動する物性を把握し、強度計算し、その場で設計し、寸法通りに作成し、運用することさえできるのであれば」
勝負がついたことを理解し、ルヴィケスは立ち上がり、メディエの方に歩き始める。それに慌ててついていくトドイは嫌そうな顔をしてルヴィケスを見上げる。
「朱顎隊の敗因は、最初に距離を取ったことですね。きちんとした現代魔術師相手に近接戦闘員が自ら距離を取るなど、愚の骨頂。あの間がなければ魔力を溜めさせることもなかったでしょうに」
「あのー、薄々感じてましたけど、やっぱり先輩、あっちの子と知り合いなんですよね?」
「ええ。スンダッギさんが推薦する予定の子です」
「ってことは、これ仕組んだの先輩なんですか?」
ルヴィケスはきょとんとした顔でトドイの方を振り向いた。
「仕組んだ? 何を言ってるんですか。人聞きの悪い」
「違うんですか? 違うんですよね!? 流石に先輩でもそこまではしないっすよね!?」
「私はただ投書しただけですよ。あそこの家に怪しい人が住んでるって」
「仕組んでんじゃないっすか!」
トドイはルヴィケスの胸倉を掴んで揺する。しかし、ルヴィケスはこれっぽっちも悪びれなく答える。
「落ち着いてください。我らが碧雲隊ならこんなうさん臭い情報に騙されません。可哀そうな隊員が隊長に怒られることもありません」
「騙す!? 今騙すって言いました!?」
「失敬。間違えました。冷静によく考えてみてください。私が彼につき纏って【独立命撰特務】に対する悪印象を与えたこと。【仮面闘士】という存在しない悪人をでっちあげたこと。偽情報を投書したこと。いずれも単体で見れば大した罪にはなりません。ばれたところで減俸程度。ばれない自身もあります」
「うおおおおお聞きたくなあああい!」
トドイはルヴィケスの腹を殴り、それ以上しゃべれないようにした。下手したら共犯扱いされかねないのだ。保身のための拳。トドイはそう自分に言い聞かせて痛む良心を黙らせる。
そして、どうしようかと頭を抱えるトドイ。その背後に、誰かが立った。
振り向いたトドイを見下ろしていたのは、獰猛な笑みを浮かべたメディエだった。
「おねーさん、俺、そのおじさんと顔見知りなんだけど。ちょっとあっちで詳しい話聞かせてもらえる?」
「……はい」
トドイは黙って頷き、白目を向くルヴィケスを担いでメディエの後に付き従った。




